第101話〜第120話
第101話〜第120話
## 第101話 修正への答え
後半二分。
仙台アステルFCがボールを保持する。
前半より慎重だった。
無理に前へ蹴らない。
最終ラインで回しながら、エストレヤ千葉の出方をうかがう。
「落ち着け!」
「焦るな!」
仙台GKが声を飛ばす。
---
戸塚彩加が静かにスライドする。
エミリオ・アルバレスも一歩ずつ距離を詰めた。
前線では鈴木太郎が一人でプレスを掛ける。
激しく追うわけではない。
相手CBへコースだけを限定する。
「右!」
ダニエルが声を出す。
川崎も連動する。
仙台は結局、右サイドへ展開した。
---
「行け!」
森川が一気に距離を詰める。
相手SBは慌てて縦へ蹴った。
しかし。
「俺のだ。」
橋本翔が一歩前へ出る。
一九八センチの長身を生かし、ヘディングで跳ね返した。
ボールは戸塚の足元へ。
「エミリオ!」
ワンタッチ。
エミリオが前を向く。
---
その瞬間だった。
仙台守備陣が一斉に叫ぶ。
「鈴木見ろ!」
「三枚!」
「寄せろ!」
前半とは明らかに違う。
センターバックだけではない。
ボランチまで鈴木へ意識を向けていた。
---
エミリオは、その様子を見て小さく笑った。
「なるほど。」
右足を振る。
全員が、
「鈴木だ!」
そう思った。
だが。
パスは出ない。
エミリオは逆サイドへ展開した。
「森川!」
フリー。
仙台右サイドバックが慌てて飛び出す。
森川はワンタッチで高山へ落とした。
高山は無理に仕掛けない。
八幡に言われた通りだった。
一度後ろへ戻す。
「長谷川!」
ボールを失わない。
攻め急がない。
---
ベンチ。
佐藤智成が口元を緩める。
「鈴木を見るだけで。」
「逆が空く。」
八幡は静かに頷く。
「仙台は修正しました。」
「ですが。」
「修正したことで。」
「別の穴ができています。」
マルコも笑った。
「鈴木が。」
「囮になってるな。」
「はい。」
「本人は意識していませんが。」
---
ピッチでは鈴木が首を傾げていた。
「何で三人も見てるんだ?」
ダニエルが笑いをこらえる。
「分かりませんか?」
「分からん。」
「今日、一番人気ですよ。」
「嬉しくねぇな……。」
---
後半五分。
再びエストレヤ千葉の攻撃。
長谷川。
戸塚。
エミリオ。
仙台の守備陣は、一斉に鈴木へ視線を向ける。
その瞬間。
八幡はベンチから静かに呟いた。
「もう。」
「鈴木選手を使う必要すらありません。」
エストレヤ千葉は、戦術の中心である鈴木太郎を使って相手を迷わせるだけでなく、
**鈴木を見させること自体を武器**に変え始めていた。
## 第102話 揺さぶり
後半七分。
エストレヤ千葉が再びボールを握る。
橋本翔。
長谷川智樹。
戸塚彩加。
最終ラインから落ち着いてつないでいく。
仙台は五バックに変更したことで中央は固くなった。
しかし――。
「ダニエル!」
戸塚から鋭い縦パス。
ダニエルがワンタッチで前を向く。
その瞬間。
「鈴木!」
「見ろ!」
仙台のセンターバック三人が一斉に鈴木太郎へ意識を向けた。
鈴木は二メートルの体を生かし、ゴール前へゆっくりと入っていく。
三人とも目を離せない。
「クロス警戒!」
「身体を付けろ!」
怒号が飛ぶ。
その様子を見たダニエルは、無理に縦へ出さなかった。
右へ展開する。
「大志!」
川崎大志がフリーで受ける。
仙台左ウイングバックが慌てて飛び出す。
大志は得意のフィジカルで身体を入れ替え、中へ切り込んだ。
「まだ!」
シュートコースはない。
そこで後ろへ落とす。
エミリオが走り込む。
ダイレクトで左へ展開。
「森川!」
森川がエリア手前で受ける。
仙台DFが慌てて寄せる。
しかし、森川は打たない。
横へ流す。
「高山!」
高山俊樹だった。
前半とは違い、無理なオーバーラップではない。
安全な位置まで上がってきただけ。
八幡の指示どおりだった。
高山はトラップすると、一度周囲を確認する。
無理にクロスは上げない。
守備を崩さない位置から、再び森川へ返した。
「ナイス!」
森川が受け直す。
仙台守備陣は左右へ大きく振られる。
それでも中央には三人。
全員が鈴木を見ていた。
ベンチで八幡が静かに呟く。
「そうです。」
「そのままで。」
マルコが隣で笑う。
「鈴木がボールに触らなくても、相手は振り回されているな。」
「はい。」
「鈴木選手は。」
「立っているだけで仕事をしています。」
その時だった。
森川が左足で柔らかいクロスを送る。
「来た!」
仙台センターバック三人が同時に鈴木へ飛ぶ。
鈴木も跳ぶ。
四人が競り合う。
ボールはわずかに頭を越え、ファーサイドへ流れた。
「クリア!」
仙台DFがようやく外へ逃げる。
**ピィーッ!**
エストレヤ千葉のコーナーキック。
ホームスタンドから大きな拍手が湧き上がる。
得点にはならなかった。
それでも仙台守備陣は肩で息をしていた。
たった一人の鈴木太郎を止めるために、三人が動く。
その間に、森川、ダニエル、川崎、エミリオが自由を得る。
仙台は失点こそしていない。
しかし、後半に入ってもなお――
試合の主導権は、完全にエストレヤ千葉が握っていた。
### 第103話 セカンドボール
後半十二分。
エストレヤ千葉。
右コーナーキック。
キッカーは、**エミリオ・アルバレス**。
ボールをコーナーアークへ置く。
大きく息を吐いた。
ゴール前には、
長谷川智樹。
橋本翔。
そして鈴木太郎。
高さのある三人が並ぶ。
仙台守備陣も必死に声を飛ばす。
「鈴木を見ろ!」
「橋本も離すな!」
「長谷川も競れ!」
三人のセンターバックに加え、ボランチまでゴール前へ戻る。
完全に中央を固めた。
---
主審の笛。
エミリオが右足を振り抜く。
鋭く曲がるインスイング。
ニアへ向かう。
「行け!」
鈴木が跳ぶ。
長谷川も飛ぶ。
橋本も競る。
仙台DFも全員が身体をぶつける。
ゴール前は大混戦になった。
ボールは鈴木の頭の上をかすめ、
相手DFの頭に当たる。
さらに橋本の肩にも当たり、
大きくペナルティエリア手前へこぼれた。
---
「クリア!」
仙台ボランチが前へ飛び出す。
しかし――
「遅い。」
戸塚彩加だった。
誰よりも早く落下地点へ入る。
右足を思い切り振り抜いた。
**ドゴォォッ!!**
強烈なダイレクトシュート。
低く伸びた弾道は、
密集する選手の足元をすり抜ける。
GKが反応する。
飛ぶ。
しかし届かない。
**ズバァン!!**
ゴールネットへ突き刺さった。
**ゴール!!**
**4―0。**
---
「うおおおおお!!」
エストレヤスタジアムが揺れる。
戸塚は拳を握り締める。
「よし!」
森川が真っ先に飛びついた。
「ナイス!」
ダニエルも満面の笑みで駆け寄る。
「彩加さん!」
「最高です!」
エミリオはコーナーフラッグ付近から拍手を送りながら笑う。
「狙いどおりだ。」
---
鈴木はゴール前で頭をかきながら苦笑した。
「俺。」
「また触ってねぇな。」
長谷川が笑う。
「十分だ。」
橋本も頷いた。
「三人引き付けてくれましたから。」
---
ベンチ。
マルコ・ベッルーニ監督が大きく拍手を送る。
「素晴らしい!」
中村敏三郎も興奮を隠せない。
「セカンドボールだ!」
佐藤智成は八幡へ視線を向ける。
「中央ばかり見ていたな。」
八幡は静かに頷く。
「はい。」
「鈴木選手。」
「橋本選手。」
「長谷川選手。」
「高さのある三人へ意識が集中しました。」
「だから。」
「セカンドボールは戸塚さんです。」
---
大型ビジョンには、
**GOAL 18 戸塚彩加**
の文字。
スコアは**4―0**。
仙台は高さを警戒して中央へ人数を集めた。
しかし、その一瞬の隙を突いたのは――
ゴール前ではなく、
**ペナルティエリア手前で待ち構えていた戸塚彩加だった。**
## 第104話 止まらない混乱
後半十三分。
**エストレヤ千葉 4―0 仙台アステルFC。**
再びセンターサークルへ選手たちが集まる。
仙台の選手たちの表情からは、焦りが隠せなかった。
---
「おい……。」
センターバックが息を切らしながら周囲を見る。
「今度は何だよ。」
ボランチも首を振る。
「鈴木を止めた。」
「高さも消した。」
「それなのに……。」
誰も答えられない。
---
GKが両手を広げた。
「何で戸塚がフリーなんだ!」
ボランチが苦しそうに答える。
「違う!」
「フリーじゃない!」
「鈴木を見るしかなかったんだ!」
「……。」
「橋本も。」
「長谷川も。」
「三人とも中にいた!」
---
左センターバックが悔しそうに芝を叩く。
「結局!」
「中央へ集められた!」
「その外を撃たれた!」
誰も否定できない。
---
仙台ベンチ。
監督は立ったまま腕を組んでいた。
コーチが慌てて話しかける。
「監督。」
「どうします。」
監督はすぐに答えられなかった。
「……。」
「CKまで。」
「対策しないといけないのか。」
苦笑にもならない声だった。
---
別のコーチがホワイトボードを見つめる。
「鈴木。」
「橋本。」
「長谷川。」
「三人を警戒。」
「戸塚。」
「ゴール。」
「次は。」
「誰を見るんですか。」
部屋が静まり返る。
---
ピッチでは。
仙台のキャプテンが仲間を集める。
「落ち着け!」
「まだ時間はある!」
だが、その声にも焦りが混じっていた。
右サイドバックが苦笑する。
「落ち着けって言われても。」
「何を警戒すればいいんだ。」
---
センターバックが鈴木を見る。
「鈴木。」
ボランチが戸塚を見る。
「戸塚。」
右サイドバックはダニエルを見る。
「ダニエル。」
左サイドバックは森川を見る。
「森川。」
そして全員が同じことに気付いた。
「……足りない。」
守るべき相手が、多すぎる。
---
エストレヤ千葉ベンチ。
中村敏三郎が静かに呟いた。
「完全に。」
「相手が迷ってるな。」
八幡はピッチを見つめたまま答える。
「はい。」
「誰を見るか。」
「決められなくなっています。」
マルコ・ベッルーニは微笑んだ。
「サッカーは。」
「迷った方が負ける。」
八幡も小さく頷く。
「だから。」
「まだ攻めます。」
4点を失った仙台アステルFC。
最も苦しめられていたのは失点ではない。
**"次は誰を止めればいいのか分からない"。**
その混乱こそが、エストレヤ千葉の新戦術が生み出した最大の武器だった。
## 第105話 司令塔の悪戯
後半十五分。
スコアは**4―0**。
それでもエストレヤ千葉は攻撃の手を緩めなかった。
ボールは長谷川から戸塚へ。
戸塚はワンタッチでエミリオ・アルバレスへ預ける。
「エミリオ!」
ダニエルが前へ動く。
森川が左へ開く。
川崎が右へ走る。
鈴木はセンターライン付近からゆっくり前線へ上がっていく。
---
エミリオはボールを持ったまま顔を上げた。
まず見るのは――
鈴木。
「……。」
その視線だけで、仙台守備陣が反応した。
「鈴木だ!」
「寄せろ!」
センターバック三人が一斉に中央へ絞る。
ボランチも一歩下がる。
鈴木も自然と身体を作った。
「来る。」
そう思った。
だが。
「違う。」
エミリオは右足を止めた。
パスを出さない。
仙台DFが一瞬止まる。
その隙を逃さない。
「森川!」
左サイドへ鋭いパス。
森川はフリーで受ける。
「またか!」
仙台右ウイングバックが慌てて飛び出した。
---
森川はワンタッチで中へ戻す。
ダニエル。
さらにエミリオ。
ボールはテンポ良く動く。
仙台の守備だけが振り回されていた。
---
「落ち着け!」
仙台キャプテンが叫ぶ。
しかし。
次の瞬間。
エミリオは再び顔を上げる。
今度も真っ先に見るのは鈴木。
「また鈴木だ!」
センターバックが身体を寄せる。
ボランチも中央へ絞る。
鈴木も収める準備をする。
だが。
また出さない。
左へ。
ダニエル。
「くっ!」
仙台の守備が横へ走る。
---
ベンチ。
中村敏三郎が思わず笑う。
「見てるだけだ。」
「出さない。」
マルコも口元を緩めた。
「完全に遊んでるな。」
八幡は首を横に振る。
「遊んでません。」
「相手の視線を動かしています。」
---
ピッチ。
三度目。
エミリオがボールを持つ。
今度も鈴木を見る。
「鈴木!」
仙台守備陣が反応する。
そして――
**ズバッ!**
今度は本当に出した。
鋭く。
速く。
足元へ。
「来た!」
鈴木が収めようとする。
トラップは大きく流れる。
「奪え!」
仙台センターバックが飛び込む。
その瞬間。
「今!」
ダニエルがセカンドボールへ。
川崎も内側へ。
森川もゴール前へ走る。
仙台守備陣は再び大混乱となる。
---
佐藤智成がベンチで唸った。
「なるほど……。」
「出す。」
「出さない。」
「その判断まで読ませないのか。」
八幡は静かに頷く。
「はい。」
「基本は鈴木選手へ出します。」
「だから相手は寄せる。」
「でも。」
「時々出さない。」
「そうすると。」
「次に本当に出る時の判断が一歩遅れます。」
---
エミリオはゆっくりと前を見渡した。
司令塔の視線。
たったそれだけで。
仙台の守備は中央へ集まり、
横へ揺さぶられ、
また中央へ引き戻される。
**ボールだけではない。**
**視線までも支配する。**
それが元アルゼンチン代表、エミリオ・アルバレスのゲームメイクだった。
## 第106話 全員が司令塔
後半十八分。
エストレヤ千葉がボールを回す。
仙台守備陣の視線は、自然とエミリオ・アルバレスへ集まっていた。
「エミリオだ!」
「鈴木を見るぞ!」
誰もがそう思う。
前半から何度も見せられた光景。
司令塔が鈴木を見て、縦へ刺す。
その繰り返しだった。
---
だが。
戸塚彩加がボールを受けた。
エミリオへは戻さない。
「彩加!」
ダニエルが呼ぶ。
戸塚は首を振った。
そして。
右足を振り抜く。
**ズバッ!**
一直線。
鈴木の足元へ。
「何っ!」
仙台センターバックが慌てる。
「エミリオじゃない!」
鈴木はいつも通り収めようとする。
ボールは足元から大きく離れた。
「奪え!」
センターバックが飛び込む。
その瞬間。
ダニエルがセカンドボールへ。
森川も中央へ。
川崎も一気に絞る。
「またか!」
仙台ボランチが必死に戻る。
---
辛うじてクリア。
しかし。
ボールは毛利良一へ。
毛利は無理をしない。
エミリオへ預ける。
---
その数十秒後。
今度は左サイド。
森川が受ける。
「森川!」
仙台右サイドバックが寄せる。
森川は一度だけ中央を見る。
エミリオが空いている。
誰もが、
「戻す。」
そう思った。
しかし。
森川は戻さない。
右足で鋭い縦パス。
「鈴木!」
また足元だった。
「来た!」
鈴木が身体を入れる。
収めようとする。
弾く。
「拾え!」
今度は川崎大志が飛び込む。
こぼれ球を確保。
そのまま右足を振り抜く。
シュートは惜しくもゴール右へ外れた。
「くそっ!」
川崎が頭を抱える。
---
仙台ベンチ。
コーチが慌てて監督へ言う。
「監督!」
「エミリオだけじゃありません!」
監督も苦い表情を浮かべる。
「分かってる。」
「全員が。」
「鈴木へ入れてくる。」
---
後半二十一分。
今度は右サイド。
川崎がボールを持つ。
ダニエルが中央へ顔を出す。
エミリオも後方で受けられる位置にいる。
それでも。
川崎は迷わなかった。
「鈴木さん!」
右足で縦へ突き刺す。
「まただ!」
仙台センターバックが叫ぶ。
鈴木はいつもどおり。
止めようとする。
そして。
ロスト。
「今!」
戸塚が飛び込む。
ダニエルも走る。
森川もゴール前へ。
仙台守備陣は全員が後手に回る。
---
ベンチ。
中村敏三郎が思わず笑った。
「エミリオだけじゃない。」
「全員できるようになったな。」
八幡は静かに頷く。
「はい。」
「エミリオさんだけが判断すると。」
「守備も慣れます。」
「だから。」
「森川さんも。」
「戸塚さんも。」
「川崎さんも。」
「自分で判断して。」
「鈴木選手へ入れます。」
マルコ・ベッルーニが満足そうに頷く。
「誰が出すか。」
「読めない。」
「それが一番厄介だ。」
エストレヤ千葉の攻撃は、もはや一人の司令塔だけではなかった。
**森川。**
**戸塚。**
**川崎。**
**エミリオ。**
誰もが同じ狙いを共有し、
誰もが自分の判断で鈴木太郎へボールを送り込む。
そのたびに、
仙台の守備は再び揺さぶられていった。
## 第107話 終わらない守備
後半二十二分。
スコアは**4―0**。
時計だけを見れば、まだ二十二分。
だが――
仙台アステルFCの選手たちには、残り二十分以上あるとは思えなかった。
---
「はぁ……。」
「はぁ……。」
一番苦しんでいたのは、
センターバックではない。
サイドバックでもない。
**ダブルボランチだった。**
---
「戻れ!」
「右!」
「いや中央!」
声を出しながら走る。
ダニエルを見る。
次の瞬間には森川。
さらに川崎。
そして戸塚。
エミリオ。
最後は鈴木。
休む暇がない。
---
右ボランチが肩で息をする。
「何回……。」
「走らせるんだよ……。」
ユニフォームは汗で完全に張り付いていた。
---
左ボランチも苦しい表情を浮かべる。
「まだ……。」
「二十二分か……。」
時計を見る。
思わず目を疑った。
「嘘だろ……。」
「もう三十五分くらい守ってる気分だ……。」
---
仙台の攻撃時間はほとんどない。
ボールを奪っても、
すぐに戸塚が潰す。
エミリオが回収する。
橋本が跳ね返す。
また千葉の攻撃になる。
その繰り返しだった。
---
「前!」
「前に蹴れ!」
GKが叫ぶ。
ロングボール。
しかし。
橋本が跳ね返す。
「エミリオ!」
「戸塚!」
ワンタッチ。
ダニエル。
また千葉。
「またかよ……。」
右ボランチが膝へ手をつく。
---
仙台ベンチ。
コーチが心配そうに言う。
「監督。」
「ボランチが限界です。」
監督も気付いていた。
「分かっている。」
「だが。」
「代えると。」
「もっと崩れる。」
---
ピッチ。
エミリオがゆっくりボールを持つ。
顔を上げる。
それだけで。
右ボランチは身体が勝手に中央へ寄る。
「鈴木……。」
視線が動く。
しかし。
出ない。
森川へ。
慌てて左へ走る。
「くっ!」
森川から戸塚。
戸塚から川崎。
川崎はワンタッチで鈴木へ。
「今度は本当に来た!」
右ボランチは必死に戻る。
鈴木が収めようとする。
ロスト。
ダニエル。
また前へ走る。
「まだ終わらないのか!」
---
ベンチで八幡が静かに試合を見つめる。
マルコが口を開いた。
「仙台のボランチ。」
「もう足が止まり始めている。」
八幡は頷く。
「はい。」
「一番運動量が必要なポジションです。」
「鈴木選手へ寄る。」
「セカンドボールを拾う。」
「ダニエルさんを見る。」
「森川さんを見る。」
「川崎さんを見る。」
「攻撃に出たら戻る。」
「全部。」
「ボランチの仕事です。」
中村も納得したように頷く。
「攻撃され続ければ。」
「一番先に限界が来る。」
「はい。」
八幡は仙台のダブルボランチへ視線を向けた。
「今。」
「一番苦しいのは。」
「センターバックではありません。」
「ボランチです。」
---
仙台のダブルボランチは、肩で大きく息をする。
まだ後半二十二分。
それなのに。
二人の足は、すでに鉛のように重くなっていた。
エストレヤ千葉は、得点だけではない。
**絶え間ない攻撃で、相手の体力までも削り続けていた。**
## 第108話 受け入れられない現実
後半二十三分。
仙台アステルFC。
右サイドハーフ。
**背番号10。**
チームキャプテン。
彼は自陣へ全力で戻りながら、大きく肩で息をしていた。
「はぁ……。」
視線の先には、
エストレヤ千葉の**左サイド**。
森川佑。
そして後方には高山俊樹。
さらに中央にはダニエル・ロドリゲス。
何度も見た光景だった。
---
「キャプテン!」
仙台の右ウイングバックが叫ぶ。
「森川です!」
「分かってる!」
キャプテンは森川へ寄せる。
森川は仕掛けない。
ダニエルへ預ける。
ダニエルはワンタッチ。
エミリオ。
そして。
エミリオは一度だけ鈴木を見る。
「鈴木!」
仙台守備陣が中央へ絞る。
キャプテンも無意識に中央へ一歩寄った。
だが。
出さない。
ボールは再び左へ。
「森川!」
「またか!」
キャプテンは急いで左サイドへ戻る。
---
森川は今度は高山へ落とす。
高山は無理に上がらない。
すぐ森川へ返す。
「行くぞ!」
森川が仕掛ける。
キャプテンは身体を当てる。
何とか外へ追い出した。
「よし!」
そう思った瞬間。
森川はヒールでダニエルへ。
「まだ終わらない!」
ダニエルは中央へ運び、
再びエミリオ。
攻撃が切れない。
---
キャプテンは歯を食いしばった。
「何回だ……。」
「何回走らせる。」
前半からずっと。
森川。
ダニエル。
高山。
そして時折エミリオ。
左サイドだけで何度も揺さぶられていた。
---
「戻れ!」
仙台ベンチから声が飛ぶ。
戻る。
また森川。
またダニエル。
また左サイド。
「くそっ!」
足が重い。
それでも止まれない。
---
キャプテンは一瞬だけベンチを見る。
比企谷八幡が腕を組んで試合を見つめていた。
「……。」
「まさか。」
「あの左サイドまで。」
「計算してるのか。」
高山は無理に攻めない。
だから森川は自由に動ける。
森川へ寄ればダニエル。
ダニエルへ寄れば森川。
さらに中央では鈴木が相変わらず三人を引き付けている。
「何なんだ……。」
「このチーム。」
---
キャプテンはもう一度左サイドを見る。
そこでは森川がまたボールを受けようとしていた。
「まだ来るのか……。」
後半二十三分。
仙台のキャプテンは、
**千葉の左サイドだけで何度も何度も走らされ続ける現実**を、まだ受け入れ切ることができなかった。
## 第109話 エースストライカー
後半二十七分。
エストレヤ千葉は攻撃の手を緩めない。
橋本翔。
長谷川智樹。
戸塚彩加。
ボールは落ち着いて最終ラインを回る。
仙台は全員が自陣へ戻る。
五バック。
ダブルボランチ。
右サイドハーフのキャプテンまで深く下がる。
それでも苦しかった。
---
戸塚がエミリオへ預ける。
エミリオはゆっくり前を向いた。
まず見るのは鈴木。
仙台守備陣が反応する。
「鈴木だ!」
「寄せろ!」
センターバック三人が中央へ寄る。
しかし今回は出さない。
右へ。
川崎大志。
「大志!」
川崎はワンタッチでダニエルへ。
ダニエルも止めない。
再びエミリオ。
仙台守備は横へ大きく揺れる。
---
エミリオはもう一度顔を上げた。
今度も鈴木を見る。
「また鈴木!」
仙台守備陣が中央へ絞る。
「まだ出さない!」
そう思った次の瞬間だった。
**ズバッ!!**
強烈な縦パス。
足元。
速い。
鋭い。
考える時間を与えない。
---
「来た!」
鈴木はいつも通り収めようとする。
右足を出す。
ボールは少し浮いた。
「奪え!」
センターバックが身体をぶつける。
鈴木は体勢を崩した。
それでも。
ボールは完全には奪われない。
身体で相手を押さえ込みながら、
右足をもう一度伸ばす。
ボールが前へ転がる。
「まだだ!」
鈴木は倒れ込みながらも立ち上がる。
センターバックも食らいつく。
二人が競走になる。
---
「鈴木さん!」
ダニエルが中央へ走る。
森川も左から中へ。
川崎も逆サイドから飛び込む。
仙台守備陣は三人へ意識が散る。
その一瞬。
鈴木が先にボールへ触れた。
「抜けた!」
GKが飛び出す。
鈴木は慌てない。
右足を振り抜く。
**ドンッ!!**
低く速いシュート。
GKの股を抜ける。
ボールはそのままゴールラインを越えた。
**ゴール!!**
**5―0。**
---
「うおおおおおお!!」
エストレヤスタジアムが今日一番の歓声に包まれる。
鈴木は拳を握り締める。
「しゃあああ!!」
両腕を大きく広げた。
真っ先に駆け寄ったのはダニエルだった。
「鈴木さん!」
森川も笑顔で抱きつく。
「二点目!」
川崎も背中を叩く。
「最高です!」
---
ベンチ。
マルコ・ベッルーニは思わず立ち上がった。
「素晴らしい!」
中村敏三郎も笑顔になる。
「今日は完全に鈴木の日だ!」
佐藤智成が八幡を見る。
「ロスト前提。」
「それでも。」
「最後は決めるか。」
八幡は静かに頷いた。
「はい。」
「鈴木選手は。」
「ゴール前だけは。」
「誰よりも頼りになります。」
---
鈴木はゴール裏へ向かって拳を突き上げる。
ホームサポーターも総立ちだった。
「鈴木!」
「鈴木!」
「鈴木!」
今季初先発。
**2ゴール1アシスト。**
これまで出場機会のなかった大型FWが、
エストレヤ千葉の新戦術の中心として、
ついにその真価を証明してみせた。
## 第110話 崩れた計算
後半二十八分。
**エストレヤ千葉 5―0 仙台アステルFC。**
仙台ベンチ。
ゴールが決まった瞬間、誰も言葉を発しなかった。
大型ビジョンには、
**GOAL No.9 鈴木太郎**
その文字だけが静かに映し出されている。
監督は腕を組んだまま、ピッチを見つめていた。
---
コーチが重い口を開く。
「……監督。」
「ああ。」
「もう。」
「どう修正すれば……。」
監督はすぐには答えなかった。
---
数秒後。
静かに口を開く。
「前半。」
「鈴木対策で。」
「フォワードを一枚下げた。」
コーチが頷く。
「はい。」
「センターバックを一枚増やしました。」
「その結果。」
「五バックにはなった。」
「ですが。」
「中盤は。」
「最初からダブルボランチです。」
「変えていません。」
監督はホワイトボードを見る。
「それでも。」
「ダブルボランチが。」
「完全に消耗している。」
---
コーチが映像を巻き戻す。
「見てください。」
戸塚。
エミリオ。
ダニエル。
森川。
川崎。
鈴木。
ボールが何度も動く。
ダブルボランチは、そのたびに横へ、前へ、後ろへ走らされていた。
「攻撃になれば。」
「前へ出る。」
「奪われれば。」
「戻る。」
「鈴木へ入れば。」
「セカンド。」
「森川へ出れば。」
「スライド。」
「ダニエルへ入れば。」
「寄せる。」
「……。」
監督は静かに頷いた。
「休める時間がない。」
---
別のコーチが苦しそうに言う。
「フォーメーションは。」
「変えました。」
「でも。」
「役割は。」
「変わっていません。」
「だから。」
「ボランチだけ。」
「ずっと走っています。」
---
監督はベンチ前へ出る。
ピッチを見る。
右ボランチ。
左ボランチ。
二人とも肩で大きく息をしていた。
まだ後半二十八分。
それなのに、九十分戦い切ったような表情だった。
---
監督は小さく息を吐く。
「千葉は。」
「攻撃しているだけじゃない。」
「相手を。」
「走らせている。」
誰も否定しなかった。
---
再びピッチへ目を向ける。
鈴木が笑っている。
ダニエルも笑っている。
その後ろではエミリオが静かに味方へ指示を出していた。
監督は苦笑する。
「鈴木だけ見ても。」
「駄目。」
「エミリオだけ見ても。」
「駄目。」
「ダニエルだけ見ても。」
「駄目。」
「……。」
「全員が。」
「つながっている。」
仙台ベンチには重い沈黙が流れた。
戦術を修正しても、
守備の人数を増やしても、
ダブルボランチをそのまま残しても、
エストレヤ千葉の連動は止まらない。
仙台アステルFCは今、
**一つの選手ではなく、一つの完成された攻撃システム**と戦っていた。
## 第111話 さらに鋭く
後半三十分。
**5―0。**
試合は完全にエストレヤ千葉の流れだった。
しかし。
比企谷八幡は満足していなかった。
ベンチ前まで歩く。
両手を口に当て、大きく叫ぶ。
「エミリオさん!」
エミリオが振り向く。
「はい!」
「まだ遅いです!」
「……!」
「もっと鋭く!」
「もっと速く!」
「考える時間を与えないでください!」
エミリオはすぐに右手を挙げた。
「了解!」
---
八幡は続けて叫ぶ。
「森川さん!」
「はい!」
「受けてから考えない!」
「見えたらすぐ!」
「鈴木さんへ!」
「分かった!」
---
「大志!」
「はい!」
「ワンタッチでもいい!」
「相手が寄る前に!」
「縦!」
「了解!」
---
「戸塚さん!」
「はい!」
「止める時間が長いです!」
「もっと速く!」
「はい!」
---
マルコ・ベッルーニが横で笑う。
「まだ求めるのか。」
八幡はピッチから目を離さない。
「仙台は。」
「もう疲れています。」
「だからこそ。」
「考える時間を与えたら。」
「回復します。」
「……。」
「今は。」
「休ませてはいけません。」
---
プレー再開。
橋本から戸塚。
戸塚はトラップしない。
ダイレクトでエミリオ。
エミリオもワンタッチ。
「鈴木!」
鋭い縦パス。
「速い!」
鈴木は収めようとする。
弾く。
「今!」
ダニエルが飛び込む。
仙台ボランチも反応する。
しかし。
半歩遅い。
「森川!」
ダニエルが左へ流す。
森川がクロス。
惜しくもGKがパンチングで逃れる。
---
八幡は拍手した。
「それです!」
「今のテンポです!」
「止めない!」
「考えない!」
「動き続けてください!」
---
仙台の右ボランチが膝に手をつく。
「はぁ……。」
「速すぎる……。」
左ボランチも苦しそうに息を吐く。
「もう……。」
「追いつけない……。」
---
八幡はもう一度声を張る。
「一本!」
「一本をもっと速く!」
「相手が考える前に!」
「次!」
「次!」
「次です!」
エストレヤ千葉の攻撃は、なおも加速する。
八幡が求めたのは、新しい戦術ではない。
**一つひとつのプレー速度をさらに上げ、疲労した仙台に考える時間すら与えないことだった。**
## 第112話 歓喜のホイッスル
後半三十五分。
仙台アステルFCは、最後まで諦めなかった。
しかし、エストレヤ千葉の勢いは止まらない。
---
エミリオ・アルバレスが中央でボールを持つ。
一度だけ鈴木太郎を見る。
「鈴木!」
仙台守備陣が中央へ寄る。
その瞬間だった。
「大志!」
右へ鋭いパス。
川崎大志が抜け出す。
ダイレクトで右足を振り抜く。
**ズドン!!**
ゴール左隅へ突き刺さった。
**6―0。**
---
「よっしゃあ!」
川崎が拳を突き上げる。
鈴木が真っ先に駆け寄った。
「ナイス!」
川崎は笑いながら答える。
「鈴木さんのおかげです!」
---
そして後半四十二分。
エストレヤ千葉は最後まで攻撃の姿勢を崩さなかった。
長谷川から戸塚。
戸塚からエミリオ。
エミリオは迷わず縦へ。
鈴木の足元。
鈴木は身体を張る。
センターバック二人を背負いながら踏ん張った。
ボールは完全には収まらない。
だが、
右足で無理やり前へ落とす。
「ダニエル!」
ダニエル・ロドリゲスが猛然と飛び込む。
GKと一対一。
落ち着いて右足を振り抜く。
**ゴール!!**
**7―0。**
---
ダニエルは両拳を握る。
「シーッ!」
スタンドへ向かって叫ぶ。
鈴木も笑顔でハイタッチを交わした。
「今日二つ目のアシストだな。」
「全部鈴木さんが引き寄せてくれました。」
「俺は最後に蹴っただけです。」
---
ホームゴール裏はお祭り騒ぎだった。
「千葉!」
「千葉!」
「エストレヤ!」
チャントは最後まで鳴り止まない。
---
後半アディショナルタイム。
**ピーーーッ!!**
試合終了。
**エストレヤ千葉 7―0 仙台アステルFC**
---
選手たちはその場で拳を握り、互いに抱き合った。
鈴木は両手を腰に当て、大きく息を吐く。
「疲れた……。」
森川が笑う。
「でも。」
「二ゴール二アシスト。」
「十分すぎるだろ。」
鈴木は照れくさそうに頭をかいた。
「みんなが走ってくれたからだ。」
---
ダニエルは八幡を見つけると、真っ直ぐベンチへ駆け寄った。
「八幡さん!」
満面の笑みで右手を差し出す。
八幡も静かにその手を握った。
「お疲れ。」
「完璧でした。」
「選手がよく応えてくれました。」
エミリオも笑顔で近付く。
「面白い戦術でした。」
戸塚が続く。
「相手は最後まで混乱してましたね。」
八幡は小さく頷いた。
「皆さんが実行してくれたからです。」
---
大型ビジョンには試合結果が映し出される。
**FULL TIME**
**エストレヤ千葉 7**
**仙台アステルFC 0**
**得点**
* 鈴木太郎 ×2
* 森川佑
* ダニエル・ロドリゲス ×2
* 戸塚彩加
* 川崎大志
**アシスト**
* 鈴木太郎 ×2(川崎・ダニエル)
* 鈴木太郎 ×1(森川)
* エミリオ・アルバレス
* ダニエル・ロドリゲス
開幕から最下位に沈んでいたエストレヤ千葉。
だが、この日のエストレヤスタジアムで見せたサッカーは、誰もが目を奪われる圧巻の内容だった。
**7得点、無失点。**
そして、新たな武器となった鈴木太郎を軸とする戦術は、J2リーグへ強烈な衝撃を与える一戦となった。
## 第113話 敗れてなお
試合終了後。
仙台アステルFCの選手たちは、その場でしばらく動けなかった。
大型ビジョンには無情にも結果が映し出されている。
**エストレヤ千葉 7―0 仙台アステルFC**
七失点。
完敗だった。
---
主将である右サイドハーフ、背番号10がゆっくり顔を上げる。
「……行こう。」
その一言で、選手たちは静かに歩き出した。
向かう先は、アウェーゴール裏。
遠く仙台から駆け付けてくれたサポーターが待っている場所だった。
---
監督とコーチ陣も後ろから続く。
誰一人として笑顔はいない。
監督は何度も深く頭を下げた。
選手たちも一列に並ぶ。
そして。
全員で深々と頭を下げた。
---
アウェーゴール裏は静かだった。
ブーイングはない。
拍手もない。
重苦しい空気だけが流れていた。
---
主将は顔を上げる。
サポーター一人ひとりの表情を見る。
悔しさ。
怒り。
悲しさ。
様々な感情が入り混じっていた。
---
その時、一人のサポーターが声を張り上げた。
「下向くな!」
選手たちが顔を上げる。
「今日は負けた!」
「でも次、勝て!」
別の場所からも声が飛ぶ。
「俺たちは応援をやめない!」
「しっかり立て直せ!」
少しずつ拍手が広がっていく。
責めるためではない。
背中を押す拍手だった。
---
主将の目が少し潤む。
もう一度、深く頭を下げる。
「ありがとうございました!」
その声はスタンドまで届いた。
選手全員が続く。
「ありがとうございました!」
監督も帽子を取り、深々と一礼した。
「申し訳ありませんでした。」
「次は必ず立て直します。」
コーチ陣も頭を下げる。
---
再び拍手が響く。
敗れたチームへの拍手。
それは勝者へのものとは違う。
もう一度立ち上がれという、期待を込めた拍手だった。
---
主将は最後にもう一度だけピッチを振り返る。
ホームゴール裏では、エストレヤ千葉の選手たちが勝利を喜んでいる。
「……完敗だ。」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
「でも。」
「このままじゃ終われない。」
その言葉を胸に刻みながら、仙台アステルFCの選手たちは静かにピッチを後にした。
## 第114話 歓喜の帰り道
試合終了から三十分後。
エストレヤスタジアム。
ホームゴール裏。
勝利の余韻は、まだ冷めていなかった。
サポーターたちはスタジアムグルメを片手に、あちこちで今日の試合を振り返っていた。
---
「いやぁ!」
「最高だったな!」
カレーを食べながら、男性サポーターが笑う。
「七点なんて、いつ以来だよ。」
隣の友人も笑顔で頷く。
「しかも無失点。」
「完璧だった。」
---
なめろう丼を食べる親子。
父親が笑いながら言う。
「鈴木。」
「今日は文句なしのMVPだな。」
息子も大きく頷く。
「二ゴール二アシスト!」
「でもさ。」
「ゴールだけじゃないよね。」
「ああ。」
「鈴木がいるだけで。」
「相手三人引き付けてた。」
---
少し離れたテーブル。
ぬれ煎餅を食べながら話す年配サポーター。
「最初は。」
「鈴木で本当に大丈夫かって思った。」
周りも苦笑する。
「俺も。」
「ロスト多いし。」
「でも。」
「今日見て分かった。」
「ロストすることまで。」
「戦術だったんだな。」
全員が静かに頷いた。
---
若いサポーターが興奮気味に話す。
「エミリオも凄かった!」
「一回鈴木見るじゃん?」
「あれだけで相手動くんだよ!」
「そうそう!」
「出すと思わせて出さない。」
「でも次は本当に出す。」
「あれ守る方は嫌だわ。」
笑いが起きる。
---
別のグループでは女性サポーターが話していた。
「私は戸塚かな。」
「セカンドボール。」
「反応速すぎ。」
「ダニエルも相変わらず上手かった。」
「森川も。」
「川崎も決めたし。」
「今日は誰がMVPでもおかしくないね。」
---
年配の男性が腕を組む。
「でも。」
「今日一番驚いたのは。」
全員が耳を傾ける。
「高山。」
「え?」
「上がらなかっただろ。」
「ああ。」
「葉山ならどんどん上がる。」
「でも今日は。」
「守備を最優先。」
「相手にカウンターを打たせなかった。」
若いサポーターも納得したように頷く。
「確かに。」
「派手じゃないけど。」
「かなり効いてた。」
---
そこへ別の男性が加わる。
「全部。」
「八幡だろ。」
その一言で全員が静かになる。
「補強したのも。」
「ダニエル。」
「戦術考えたのも。」
「今日の鈴木の使い方も。」
「全部。」
「比企谷さん。」
「すごい分析官来たな。」
「開幕の頃と。」
「別チームじゃん。」
---
最後に年配サポーターがビールを掲げた。
「まだシーズンは終わってない。」
「でも。」
「今日の試合は。」
「優勝狙えるって。」
「本気で思わせてくれた。」
全員が笑顔になる。
「乾杯!」
「乾杯!」
エストレヤスタジアムには、勝利を喜ぶ笑い声が響き続けていた。
七得点。
無失点。
そして何より――。
ホームのサポーターは、**エストレヤ千葉が本当に変わり始めた**ことを、この一戦ではっきりと実感していた。
## 第115話 ネット掲示板、大騒ぎ
試合終了から約一時間後。
サッカー掲示板。
SNS。
動画サイト。
話題は一つだった。
**『エストレヤ千葉 7―0 仙台アステルFC』**
その中でも、一番語られていたのは――
**新戦術。**
---
### 【J2総合】第16節 千葉7-0仙台★18
**1 名無しのサポーター**
千葉どうしたwwwww
---
**2 名無しのサポーター**
7-0って何事?
---
**3 名無しのサポーター**
ハイライト見たけど意味分からん戦術だった。
---
**4 名無しのサポーター**
鈴木太郎やばすぎ。
二ゴール二アシスト。
---
**5 名無しのサポーター**
いや。
数字だけじゃない。
---
**6 名無しのサポーター**
そうなんだよ。
数字以上に意味分からん。
---
**7 名無しのサポーター**
ロストしまくるのに止められない。
---
**8 名無しのサポーター**
普通ロスト多かったら攻撃終わるよな?
---
**9 名無しのサポーター**
終わらない。
---
**10 名無しのサポーター**
そこが怖い。
---
**11 名無しのサポーター**
鈴木がロストする。
↓
セカンド回収。
↓
また攻撃。
↓
鈴木へ。
↓
ロスト。
↓
また回収。
これ何回やった?
---
**12 名無しのサポーター**
仙台のボランチ死んでた。
---
**13 名無しのサポーター**
後半20分くらいでもう動けてなかった。
---
**14 名無しのサポーター**
そりゃそうだろ。
ずっと守備だぞ。
---
**15 名無しのサポーター**
これボランチ泣くわ。
---
### 【分析班】
**28 名無しの分析好き**
今日の千葉。
実は鈴木中心じゃない。
---
**29 名無しの分析好き**
いや鈴木中心だろ。
---
**30 名無しの分析好き**
違う。
エミリオ中心。
---
**31 名無しの分析好き**
いや。
エミリオだけでもない。
---
**32 名無しの分析好き**
あれ見て気付かなかった?
---
**33 名無しの分析好き**
何が?
---
**34 名無しの分析好き**
戸塚も。
森川も。
川崎も。
全員鈴木へ縦パス入れてた。
---
**35 名無しの分析好き**
確かに。
エミリオだけじゃなかった。
---
**36 名無しの分析好き**
だから守備が読めない。
---
**37 名無しの分析好き**
普通なら司令塔だけ警戒すればいい。
---
**38 名無しの分析好き**
今日は全員司令塔だった。
---
**39 名無しの分析好き**
怖すぎる。
---
### 【鈴木太郎】
**61 名無しのサポーター**
鈴木再評価来る?
---
**62 名無しのサポーター**
今日だけだろ。
---
**63 名無しのサポーター**
いや。
あれは戦術。
---
**64 名無しのサポーター**
今日もロスト多かったぞ。
---
**65 名無しのサポーター**
でも。
そのロスト込みで完成してる。
---
**66 名無しのサポーター**
ロストが悪いんじゃない。
ロスト後の設計がおかしい。
---
**67 名無しのサポーター**
ロスト前提とか初めて聞いた。
---
**68 名無しのサポーター**
サッカーでそんな考えある?
---
**69 名無しのサポーター**
普通は無い。
---
**70 名無しのサポーター**
でも今日あった。
---
### 【比企谷八幡】
**91 名無しのサポーター**
誰考えた?
---
**92 名無しのサポーター**
比企谷八幡。
---
**93 名無しのサポーター**
またあいつ?
---
**94 名無しのサポーター**
ダニエル連れてきた人?
---
**95 名無しのサポーター**
そう。
外国人補強担当。
分析官。
---
**96 名無しのサポーター**
今日ベンチ映ってた。
めっちゃ指示出してた。
---
**97 名無しのサポーター**
監督より叫んでた気がする。
---
**98 名無しのサポーター**
途中、
「もっと速く!」
って何回も言ってたな。
---
**99 名無しのサポーター**
あれでさらにテンポ上がってた。
---
**100 名無しのサポーター**
試合中に修正できる分析官って何者?
---
**101 名無しのサポーター**
海外からオファー来てるらしい。
---
**102 名無しのサポーター**
納得。
---
### 【J2他クラブ】
**145 名無しのサポーター**
次に千葉と当たるクラブ。
嫌だろ。
---
**146 名無しのサポーター**
鈴木止める?
---
**147 名無しのサポーター**
止めても他が来る。
---
**148 名無しのサポーター**
放置すると鈴木が決める。
---
**149 名無しのサポーター**
答えなくて草。
---
**150 名無しのサポーター**
今日の仙台も途中で分からなくなってた。
---
**151 名無しのサポーター**
五バックにしても七失点。
---
**152 名無しのサポーター**
しかも無失点で負け。
---
**153 名無しのサポーター**
今日の試合。
J2全クラブ絶対チェックするな。
---
**154 名無しのサポーター**
分析班徹夜だろ。
---
**155 名無しのサポーター**
千葉。
本当に開幕最下位だったチームか?
---
**156 名無しのサポーター**
別チーム。
---
**157 名無しのサポーター**
いや。
監督だけじゃない。
---
**158 名無しのサポーター**
比企谷八幡が来てから、
補強も、
分析も、
戦術も、
全部変わった。
---
**159 名無しのサポーター**
今日の7-0は、
ただの大勝じゃない。
J2全クラブに、
「エストレヤ千葉はもう開幕最下位のチームではない」
と知らしめた試合だった。
## 第116話 ネット掲示板、大騒ぎ②
試合終了から約二時間。
Jリーグ総合掲示板。
千葉関連スレは勢いランキング一位となっていた。
だが、話題は「7-0」だけでは終わらない。
次々と新しい話題が書き込まれていく。
---
### 【J2総合】第16節 千葉7-0仙台★19
**1 名無しのサポーター**
千葉強すぎ。
---
**2 名無しのサポーター**
今日一番の衝撃は戦術。
---
**3 名無しのサポーター**
いや、もっと衝撃ある。
---
**4 名無しのサポーター**
何?
---
**5 名無しのサポーター**
次節。
---
**6 名無しのサポーター**
あ。
---
**7 名無しのサポーター**
北海道フェニックスFCじゃん。
---
**8 名無しのサポーター**
現在首位。
---
**9 名無しのサポーター**
勝点差何点?
---
**10 名無しのサポーター**
千葉が勝って縮まった。
---
**11 名無しのサポーター**
しかも北海道は今季最少失点。
---
**12 名無しのサポーター**
一番守備固いチーム。
---
**13 名無しのサポーター**
だから余計楽しみ。
---
### 【北海道サポ】
**35 名無しのサポーター**
正直。
仙台と北海道は違う。
---
**36 名無しのサポーター**
うちはあんな混乱しない。
---
**37 名無しのサポーター**
神谷直人いるし。
---
**38 名無しのサポーター**
中盤支配されない。
---
**39 名無しのサポーター**
守備もJ2トップ。
---
**40 名無しのサポーター**
7点なんて取られない。
---
### 【千葉サポ】
**52 名無しのサポーター**
いや。
俺もそう思ってた。
---
**53 名無しのサポーター**
今日の試合見るまでは。
---
**54 名無しのサポーター**
今の千葉。
何するか分からん。
---
**55 名無しのサポーター**
鈴木太郎をここまで活かす監督いる?
---
**56 名無しのサポーター**
監督というより比企谷。
---
**57 名無しのサポーター**
また比企谷か。
---
**58 名無しのサポーター**
今日の試合見たら名前出るわ。
---
### 【戦術】
**89 名無しの分析好き**
北海道なら。
神谷直人が鍵。
---
**90 名無しのサポーター**
日本代表OMF。
---
**91 名無しの分析好き**
神谷がボール持てば北海道。
---
**92 名無しの分析好き**
持てなければ千葉。
---
**93 名無しのサポーター**
エミリオVS神谷か。
---
**94 名無しのサポーター**
そこ熱い。
---
**95 名無しのサポーター**
ダニエルもいるぞ。
---
**96 名無しのサポーター**
鈴木も。
---
### 【優勝争い】
**131 名無しのサポーター**
これ。
次節。
実質首位決戦じゃね?
---
**132 名無しのサポーター**
まだシーズン途中だけど。
---
**133 名無しのサポーター**
千葉勝ったら本物。
---
**134 名無しのサポーター**
北海道勝ったら独走。
---
**135 名無しのサポーター**
J2で一番楽しみなカードになった。
---
### 【北海道フェニックス】
**171 名無しのサポーター**
神谷直人。
今どんな気持ちなんだろ。
---
**172 名無しのサポーター**
絶対映像見る。
---
**173 名無しのサポーター**
分析班徹夜だろ。
---
**174 名無しのサポーター**
鈴木どう止める?
---
**175 名無しのサポーター**
止めてもダニエル。
---
**176 名無しのサポーター**
ダニエル止めても森川。
---
**177 名無しのサポーター**
森川止めても川崎。
---
**178 名無しのサポーター**
全部止めるしかない。
---
### 【締め】
**250 名無しのサポーター**
次節。
北海道フェニックスFC。
現在首位。
---
**251 名無しのサポーター**
千葉にとって。
今季最大の試合。
---
**252 名無しのサポーター**
ここ勝ったら。
優勝争い面白くなる。
---
**253 名無しのサポーター**
J2全クラブ。
来週は北海道対千葉を見るだろ。
---
**254 名無しのサポーター**
首位北海道。
勢いに乗る千葉。
楽しみすぎる。
---
その夜。
掲示板の話題は、仙台戦の圧勝から自然と次節へ移っていった。
**首位・北海道フェニックスFC。**
ここを倒せるかどうか。
それが、エストレヤ千葉が本当に優勝候補になったのかを占う、大一番として全国のサポーターから注目され始めていた。
## 第117話 全国へ――
その日の深夜。
午後十一時五十五分。
全国ネットで放送されるサッカー専門番組。
**『FOOTBALL NIGHT』**
オープニング映像が流れる。
J1、J2、海外リーグのゴールシーンが次々と映し出される。
そして最後。
エストレヤ千葉のゴールラッシュ。
番組MCが驚いた表情で口を開いた。
「今日、一番衝撃だった試合はこちらです。」
大型モニターに映る。
**J2 第16節**
**エストレヤ千葉 7-0 仙台アステルFC**
スタジオからどよめきが起きた。
---
MCが笑う。
「いや……。」
「七点ですよ。」
「J2ですよ?」
隣の元日本代表FWも苦笑する。
「まさか。」
「ここまで一方的になるとは思いませんでした。」
---
画面には前半からのハイライト。
鈴木太郎の先制点。
ダニエルの追加点。
森川。
戸塚。
そして後半。
鈴木の二点目。
川崎。
ダニエル。
七ゴールすべてが流れる。
---
女性キャスターが驚いたように言う。
「鈴木選手。」
「二ゴール二アシストです。」
元日本代表MFが首を横に振る。
「数字だけ見ちゃ駄目です。」
「今日の鈴木は。」
「ゴール以上の仕事をしています。」
---
画面が止まる。
鈴木が中央でボールを受ける場面。
相手センターバック三人。
ボランチ一人。
四人が鈴木を見ている。
「ここ。」
解説者がペンで丸を付けた。
「鈴木に四人。」
「だから。」
「森川が空く。」
映像が動く。
森川へパス。
チャンスになる。
「これが今日。」
「何回もありました。」
---
次の映像。
エミリオがボールを持つ。
一度だけ鈴木を見る。
仙台守備が中央へ寄る。
しかし。
森川へパス。
「この視線。」
「面白いですね。」
元日本代表MFが笑う。
「パスじゃない。」
「視線で守備を動かしています。」
スタジオ全員が頷く。
---
続いて。
戸塚のゴール。
CKの場面。
エミリオのキック。
中央には、
長谷川。
橋本。
鈴木。
高さのある三人。
「当然。」
「仙台は中央へ集まります。」
映像が進む。
こぼれ球。
戸塚。
ダイレクトシュート。
ゴール。
「完全に。」
「狙っています。」
「偶然ではありません。」
---
MCが感心する。
「戦術なんですね。」
「はい。」
「しかも。」
「試合中。」
「さらに修正しています。」
---
映像が切り替わる。
ベンチ。
比企谷八幡。
何度も立ち上がり、
選手へ指示を送る姿。
音声も流れる。
> 「もっと速く!」
> 「考える時間を与えないでください!」
> 「止めない!」
> 「次!」
スタジオが静かになる。
---
元日本代表DFが口を開く。
「普通。」
「分析官は。」
「試合前までです。」
「ですが。」
「この人。」
「試合中も分析して。」
「修正しています。」
---
MCも驚く。
「監督ではなく。」
「分析官が。」
「ここまで細かく?」
「珍しいですね。」
「かなり珍しいです。」
---
画面には、
**比企谷八幡**
**エストレヤ千葉 強化部 国際スカウト兼分析官**
と表示される。
元日本代表MFが続けた。
「補強だけではありません。」
「戦術。」
「試合中の修正。」
「外国人とのコミュニケーション。」
「全部やっています。」
「正直。」
「J2には。」
「もったいない人材ですね。」
---
MCが頷く。
「海外クラブから。」
「オファーがあるという話もありますね。」
「ええ。」
「納得です。」
---
画面は再び試合映像へ。
最後に映し出されたのは、
ホームサポーターの大歓声。
そして。
スコアボード。
**エストレヤ千葉 7-0 仙台アステルFC**
---
MCが締めくくる。
「そして。」
「来週。」
画面が切り替わる。
**次節**
**北海道フェニックスFC(1位)**
**VS**
**エストレヤ千葉**
スタジオの空気が変わる。
元日本代表FWが笑った。
「これは。」
「J2ファンだけじゃなく。」
「サッカーファン全員が見る試合になります。」
元日本代表MFも静かに頷く。
「首位・北海道。」
「勢いに乗る千葉。」
「今の千葉が本物かどうか。」
「その答えが出る九十分になります。」
番組最後の映像には、エストレヤ千葉の選手たちが勝利を喜ぶ姿が映し出される。
全国のサッカーファンの視線は、次第に一つのクラブへ集まり始めていた。
**エストレヤ千葉。**
開幕最下位だったクラブは、この一夜で全国区の注目を集める存在となった。
## 第118話 専門家が見た「エストレヤ千葉」
深夜。
全国ネットのサッカー専門番組。
『FOOTBALL NIGHT』
CMが明ける。
MCが笑顔でカメラへ向いた。
「ここからは、今節最も話題となったエストレヤ千葉をさらに深掘りします。」
「今回は、この戦術を分析するために三人の元日本代表に来ていただきました。」
拍手が響く。
スタジオへ三人が映る。
元日本代表FW。
元日本代表MF。
元日本代表DF。
三人ともモニターへ映る試合映像を見つめていた。
---
MCが口を開く。
「まず率直な感想からお願いします。」
元日本代表FWが笑った。
「最初。」
「鈴木選手を見た時は。」
「昔ながらの大型FWだと思いました。」
「高さ。」
「強さ。」
「そこを使うんだろうと。」
「でも。」
「全然違いました。」
---
元日本代表MFも頷く。
「普通。」
「大型FWは。」
「収めることが仕事です。」
「でも鈴木選手は。」
「収まらない。」
スタジオに笑いが起きる。
「それなのに。」
「攻撃が終わらない。」
「これが衝撃でした。」
---
元日本代表DFも腕を組む。
「守る側として言います。」
「嫌です。」
スタジオが笑う。
「本当に嫌。」
「どこへ行っても。」
「鈴木。」
「鈴木。」
「鈴木。」
「頭の中が鈴木になります。」
---
画面が止まる。
エミリオがボールを持つ。
鈴木を見る。
守備が中央へ寄る。
森川へ展開。
「ここです。」
元日本代表MFが映像を指差した。
「皆さん。」
「ボールじゃなく。」
「エミリオの目線を見てください。」
映像がスローになる。
「見ましたね。」
「鈴木を。」
「その瞬間。」
仙台守備陣全員が中央へ寄る。
「でも。」
「出さない。」
「これだけで。」
「守備ラインが動いてしまう。」
---
MCも感心する。
「視線だけで。」
「守備を動かしている。」
「そうです。」
「これは。」
「エミリオだからできる技術です。」
---
元日本代表DFが口を開く。
「でも。」
「もっと怖いのがあります。」
「何でしょう。」
「エミリオだけじゃない。」
映像が切り替わる。
戸塚から鈴木。
森川から鈴木。
川崎から鈴木。
「全員やる。」
「これなんです。」
---
元日本代表FWが頷いた。
「司令塔が一人なら。」
「そこを消せばいい。」
「でも。」
「今日は。」
「森川も。」
「戸塚も。」
「川崎も。」
「全員が同じ判断をする。」
「だから。」
「守備側は。」
「誰を消せばいいか分からない。」
---
MCが質問する。
「鈴木選手。」
「今日は二ゴール二アシストでした。」
「数字以上に評価できますか。」
元日本代表FWは即答した。
「できます。」
「むしろ。」
「数字以上です。」
---
画面には鈴木へ三人が寄る場面。
「ここ。」
「三人付いています。」
「普通なら。」
「勝ちです。」
「守備の。」
「でも。」
「千葉は。」
「そこから始まる。」
---
元日本代表DFが苦笑する。
「DFとしては。」
「勝ったと思った瞬間に。」
「また攻撃が始まる。」
「精神的に削られます。」
---
続いて。
戸塚のゴール。
CK。
エミリオ。
中央へクロス。
競り合い。
こぼれ球。
戸塚。
ゴール。
「これも。」
「完全に狙っています。」
元日本代表MFが言う。
「偶然ではありません。」
「中央へ。」
「長谷川。」
「橋本。」
「鈴木。」
高さのある三人を置く。
「当然。」
「守備は中央へ集まる。」
「そこで。」
「セカンド。」
「戸塚。」
「教科書にはありません。」
「でも。」
「理にかなっています。」
---
MCが笑う。
「今日一番驚いた選手は?」
元日本代表FW。
「鈴木。」
元日本代表MF。
「エミリオ。」
元日本代表DF。
少し考えて答えた。
「比企谷八幡。」
スタジオが静まり返る。
---
MCが聞き返す。
「選手ではなく。」
「分析官ですか。」
「はい。」
「この戦術。」
「一試合で完成するものではありません。」
「練習。」
「分析。」
「選手への落とし込み。」
「全部必要です。」
「しかも。」
「試合中。」
「さらに修正していました。」
---
映像には、
ベンチ前で指示を飛ばす八幡。
> 「もっと鋭く!」
> 「考える時間を与えない!」
> 「止めない!」
元日本代表DFが続ける。
「試合中に。」
「プレー速度まで修正する。」
「これ。」
「分析官の仕事を超えています。」
---
元日本代表MFも頷いた。
「今日の千葉は。」
「選手が凄かった。」
「でも。」
「その選手たちを。」
「同じ考えで動かした人がいる。」
「それが。」
「比企谷八幡さんです。」
---
最後にMCが締める。
「そして。」
「次節。」
画面には大きく表示される。
**J2首位**
**北海道フェニックスFC**
**VS**
**エストレヤ千葉**
元日本代表FWが笑った。
「北海道が首位を守るのか。」
元日本代表MF。
「千葉が本物だと証明するのか。」
元日本代表DF。
「全国の指導者。」
「J1クラブ。」
「海外のスカウト。」
「全員見る試合になります。」
スタジオ全員が頷いた。
次節。
**首位・北海道フェニックスFC。**
エストレヤ千葉の真価が、全国の注目の中で試されようとしていた。
## 第119話 J2各クラブ、眠れない夜
エストレヤ千葉が仙台アステルFCを**7―0**で下した夜。
J2各クラブのクラブハウスでは、まだ照明が消えていなかった。
どのクラブも共通していた。
机の上にはノート。
大型モニター。
そして、
何度も繰り返し再生される千葉対仙台の映像。
---
## 岡山セルフィオFC
監督室。
監督とヘッドコーチ、分析担当が映像を見つめる。
監督が口を開く。
「普通なら。」
「鈴木が収められない時点で終わる。」
分析担当が首を横に振る。
「終わらないんです。」
映像を止める。
鈴木がロスト。
戸塚が回収。
再び攻撃。
「ここ。」
「もう設計されています。」
ヘッドコーチがため息をついた。
「ロストまで。」
「戦術か……。」
---
## 愛媛サザンクロスFC
監督が腕を組む。
「嫌なのは。」
「攻撃じゃない。」
分析担当が頷く。
「守備時間です。」
「九十分。」
「ずっと守らされます。」
「うちのボランチなら。」
「持たないな。」
---
## 福岡レガーロ
堅守速攻が武器の福岡。
監督は映像を止めた。
「仙台は悪くない。」
守備コーチも頷く。
「対応しています。」
「ですが。」
「千葉が。」
「さらに上でした。」
監督が静かに言う。
「七失点でも。」
「仙台を責められない。」
---
## 青森ブランシェFC
分析室。
「ここ見てください。」
映像にはエミリオ。
鈴木を見る。
仙台守備が中央へ寄る。
森川へ展開。
分析担当が苦笑する。
「視線だけで。」
「守備動かしてます。」
監督も笑うしかなかった。
「反則だな。」
---
## 富山ベイウインズ
監督。
「エミリオだけじゃない。」
映像が切り替わる。
戸塚。
森川。
川崎。
全員が鈴木へ縦パス。
「誰でも出す。」
ヘッドコーチ。
「司令塔が。」
「四人いるようなものです。」
---
## 鹿児島レヴァンテFC
監督はホワイトボードへ書く。
**鈴木**
↓
**セカンド**
↓
**ダニエル**
↓
**森川**
↓
**川崎**
何度書き直しても答えが出ない。
「……。」
「消せない。」
---
## 相模原マンスリーFC
開幕戦で千葉を破ったクラブ。
監督が苦笑する。
「これ俺等が勝ったチームだったか?」
ヘッドコーチ。
「別チームですね。」
分析担当。
「勝った時の映像。」
「もう参考になりません。」
---
## 熊本アスフィーダ
監督が映像を見ながら言う。
「一番怖い選手。」
コーチが答える。
「鈴木ですか?」
「違う。」
「比企谷八幡。」
部屋が静まり返った。
---
## CS栃木
守備コーチ。
「鈴木。」
「ロストします。」
監督。
「でも。」
「終わらない。」
分析担当。
「普通のサッカーじゃありません。」
---
## 山形ブリッツFC
監督が笑う。
「ボランチ。」
「試合後歩けるか?」
コーチ。
「今日の仙台。」
「限界でした。」
「ずっと。」
「走らされていました。」
---
## 横浜マンゲールFC
監督室。
映像にはベンチの八幡。
「もっと速く!」
「考える時間を与えるな!」
その指示が流れる。
監督は腕を組む。
「試合中。」
「プレースピードまで修正するか。」
コーチも頷く。
「監督が。」
「完全に任せています。」
---
## 伊勢シーガルズ
分析担当。
「CKも。」
「偶然じゃありません。」
戸塚のゴールが流れる。
「高さへ集めて。」
「セカンド。」
監督。
「練習量が分かる。」
---
## 信州アルプスFC
監督。
「ダニエル。」
「森川。」
「川崎。」
「鈴木。」
「誰を消す?」
誰も答えられなかった。
---
## 秋田ノルディアFC
守備コーチ。
「うちはマンツーマン気味だけど。」
監督。
「やめた方がいい。」
「今日の千葉には。」
「逆効果だ。」
---
## 駿河ユナイテッドFC
監督が映像を止める。
「これ。」
「J2でやるサッカーじゃない。」
分析担当。
「海外みたいですね。」
「ポジションじゃなく。」
「全員が同じ考えで動いています。」
---
## J2各クラブの共通認識
夜は更けても、
どのクラブも映像を止めることはなかった。
鈴木。
エミリオ。
ダニエル。
森川。
戸塚。
川崎。
何度見ても、
答えは見つからない。
最後に、各クラブの監督たちは同じ言葉を残した。
「今、一番当たりたくない相手は。」
「エストレヤ千葉だ。」
7-0という結果以上に、
J2各クラブへ衝撃を与えたのは、
**"どう守ればいいのか分からない戦術"**
その存在だった。
## 第120話 異例の一面
翌朝。
七月二十一日。
駅の売店。
コンビニ。
新聞販売店。
スポーツ新聞がずらりと並ぶ。
その前で、一人の男性が思わず立ち止まった。
「……え?」
一面を見て、目を疑う。
---
**『エストレヤ千葉 7発! 仙台粉砕』**
---
別のスポーツ紙。
---
**『J2で何が起きた!? 千葉7-0』**
---
さらに別のスポーツ紙。
---
**『鈴木2発2アシスト 衝撃の7得点』**
---
通勤途中のサラリーマンが新聞を手に取る。
「J2が一面?」
隣にいた男性も驚く。
「珍しいどころじゃない。」
「初めて見たかもしれない。」
---
普段。
スポーツ新聞でJ2が扱われることは少ない。
載ったとしても、
紙面の片隅に、
試合結果。
得点者。
順位表。
その程度だった。
一面を飾ることなど、ほとんどない。
だからこそ。
この日の新聞は異例だった。
---
### スポーツニッポン
一面には、
ゴール後に右拳を突き上げる鈴木太郎。
その大きな写真。
見出し。
**『千葉7発! J2震撼』**
記事には書かれていた。
> エストレヤ千葉が仙台アステルFCを7-0で撃破。
>
> J2では近年まれに見る大差での勝利となった。
>
> 試合内容も圧倒的で、首位争いへ名乗りを上げる一戦となった。
---
### 日刊スポーツ
見出し。
**『鈴木太郎 2発2アシスト 千葉ゴールショー』**
記事では鈴木の活躍だけではなく、
チーム全体の連動性にも触れていた。
> 「大型FWを中心としながらも、一人に依存しない攻撃。」
>
> 「J2各クラブが対策に頭を悩ませることになりそうだ。」
---
### スポーツ報知
見出し。
**『7-0の衝撃 エストレヤ千葉が見せた新たな攻撃』**
記事には、
試合中もベンチから細かな修正を加え続けた首脳陣にも触れられていた。
> 「試合の流れに応じて攻撃のテンポをさらに速めた千葉。」
>
> 「最後まで攻撃の手を緩めなかった姿勢が、7得点という結果につながった。」
---
### デイリースポーツ
見出し。
**『J2で歴史的大勝 千葉止まらず7発』**
記事の最後には、こう締めくくられていた。
> 「普段、J2は試合結果と順位表のみの掲載となることが多い。」
>
> 「しかし今回は、その枠を超えるインパクトがあった。」
---
朝。
エストレヤ千葉クラブハウス。
選手たちも食堂で新聞を手に取る。
川崎大志が目を丸くした。
「一面だ……。」
森川も苦笑する。
「J2で一面なんて。」
「聞いたことないぞ。」
戸塚が新聞をめくりながら言う。
「それだけ。」
「昨日の試合が衝撃だったんだね。」
鈴木は照れくさそうに頭をかいた。
「こんなの……落ち着かねぇな。」
その隣でエミリオが笑う。
「でも。」
「昨日は、それだけの試合だった。」
食堂のテーブルに並ぶスポーツ新聞。
どの紙面にも大きく載る、
**『エストレヤ千葉』**
普段なら結果だけで終わるJ2が、この日だけは違った。
**7-0という衝撃は、スポーツ新聞の一面を動かすほどの出来事となっていた。**