LNCrawler

第121話〜第140話

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第121話〜第140話

## 第121話 勝利の翌日

翌日。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

快晴。

グラウンドには朝から選手たちが集まっていた。

昨日の7―0の大勝とは対照的に、クラブハウスは落ち着いた空気が流れている。

浮かれている選手は、一人もいなかった。

---

マルコ・ベッルーニ監督が全員を集める。

「昨日はよく戦った。」

選手たちが静かに耳を傾ける。

「だが。」

「昨日の勝利は昨日で終わりだ。」

「次は北海道フェニックスFC。」

「首位との試合になる。」

「今日から切り替える。」

「はい!」

全員の声がグラウンドに響いた。

---

練習はすぐに二組へ分けられた。

昨日先発したメンバー。

そして、それ以外のメンバー。

---

先発組。

GK・玉縄幸三。

右SB・毛利良一。

CB・長谷川智樹。

CB・橋本翔。

左SB・高山俊樹。

DMF・戸塚彩加。

DMF・エミリオ・アルバレス。

右SH・川崎大志。

左SH・森川佑。

OMF・ダニエル・ロドリゲス。

CF・鈴木太郎。

---

ベッルーニ監督が声を掛ける。

「先発組はリカバリー。」

「無理はしない。」

「コンディションを整えることを最優先にする。」

「はい。」

---

先発組は軽いジョギングから始める。

ゆっくりとグラウンドを一周。

その後はストレッチ。

トレーナーの指示を受けながら、疲労を抜くためのメニューを消化していく。

---

鈴木はジョギングをしながら笑う。

「昨日は久しぶりに走ったなぁ。」

隣の森川が笑う。

「二ゴール二アシストだもんな。」

「そりゃ疲れる。」

川崎も苦笑する。

「俺も足パンパンです。」

---

少し前では、エミリオと戸塚が軽くボールを蹴り合っていた。

ワンタッチ。

ツータッチ。

強度は上げない。

あくまで感覚を維持する程度だった。

---

ダニエルはトレーナーと話しながらストレッチを続ける。

「問題ない?」

トレーナーが尋ねる。

「はい。」

「少し張りはありますが、大丈夫です。」

「無理だけはしないで。」

「分かっています。」

---

一方。

ベンチ組と控え組は、別メニュー。

ボール回し。

ポゼッション。

ミニゲーム。

北海道戦を見据えた実戦形式の練習が始まっていた。

---

その様子を少し離れた場所から見つめる比企谷八幡。

手にはタブレット。

昨日の試合映像ではない。

画面にはすでに、

**北海道フェニックスFC**

の試合映像が映し出されていた。

八幡は静かに映像を止める。

「……。」

視線は首位チームへ向いている。

仙台戦のことは、もう頭にはない。

その隣で佐藤智成が小さく笑った。

「もう北海道か。」

八幡は短く答える。

「はい。」

「昨日は終わりました。」

「次の相手の方が、何倍も難しいですから。」

佐藤は満足そうに頷いた。

「その切り替えの早さが、お前の強さだな。」

グラウンドでは先発組が無理なく体を動かし、疲労回復に努める。

一方で、首脳陣と八幡の視線は、すでに次節――**首位・北海道フェニックスFC**だけを見据えていた。

## 第122話 首位・北海道フェニックスFC

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

分析室。

大型スクリーンには、北海道フェニックスFCの試合映像が映し出されていた。

室内には、

マルコ・ベッルーニ監督。

ヘッドコーチ・中村敏三郎。

GKコーチ・田島雍也。

フィジカルコーチ・ルイス・マルティネス。

セットプレーコーチ・山本恭三郎。

GM・竹内正樹。

強化部長・佐藤智成。

そして、

比企谷八幡。

全員が席に着く。

部屋の照明が少し落とされた。

八幡がリモコンを操作する。

スクリーンに一人の選手が映し出された。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手①

### 神谷直人

* 年齢:28歳

* 誕生日:10月10日

* 背番号:10

* ポジション:OMF

* 利き足:左足

---

画面には神谷のプレー集が流れる。

狭いスペースでのターン。

ワンタッチパス。

スルーパス。

ミドルシュート。

どれも一級品だった。

---

八幡が説明を始める。

「北海道フェニックスFCの心臓です。」

「攻撃のほぼ全てが、この選手を経由します。」

映像が切り替わる。

神谷が中盤でボールを受ける。

左足一本で試合を組み立てる。

「確かなテクニック。」

「正確なパス。」

「そして。」

「試合を落ち着かせる能力。」

「J2では頭一つ抜けています。」

---

竹内GMが腕を組む。

「現役日本代表だったな。」

八幡は頷く。

「はい。」

「日本代表では背番号8。」

「スタメンは多くありません。」

「ですが。」

「途中出場は非常に多いです。」

「流れを変える役割として高く評価されています。」

---

映像が日本代表戦へ切り替わる。

神谷が途中出場。

ボールを受ける。

テンポを変える。

味方を動かす。

八幡が説明を続ける。

「派手な選手ではありません。」

「ですが。」

「入った瞬間。」

「試合のリズムが変わります。」

---

森川のプレー映像も横に映る。

八幡が続ける。

「森川さんと同世代です。」

「そして。」

「元U-23日本代表。」

「当時の背番号は7番。」

佐藤が頷く。

「年代を代表する司令塔か。」

「はい。」

---

映像には北海道の攻撃。

神谷が一度ボールを受ける。

右へ。

左へ。

縦へ。

味方が次々と動き出す。

「特徴は。」

「自分が目立つタイプではありません。」

「味方を動かします。」

---

ベッルーニ監督が質問する。

「得点より。」

「アシスト型か?」

「そうですね。」

八幡はリモコンを操作する。

数字が表示された。

「ラストパス。」

「起点。」

「三つ前のパス。」

「この三つが非常に多い選手です。」

「ゴールだけ見ていると。」

「怖さは分かりません。」

「ですが。」

「映像を見ると。」

「この選手がいるだけで。」

「北海道の攻撃速度が変わります。」

---

ルイスが興味深そうに聞く。

「守備は?」

八幡は次の映像へ切り替えた。

神谷がすぐにプレスへ行く。

奪い返す。

攻撃へ。

「守備もサボりません。」

「運動量も豊富です。」

「九十分。」

「ほぼ落ちません。」

---

中村ヘッドコーチが苦笑する。

「嫌な選手だな。」

「はい。」

八幡は即答した。

「J2で一番止めなければいけない選手です。」

部屋が静まり返る。

スクリーンには、

左足で正確なスルーパスを通す神谷直人の姿が映っていた。

八幡は映像を止める。

「まず最初に。」

「北海道フェニックスFCを倒すには。」

「この神谷直人を理解すること。」

「そこから始まります。」

誰も口を挟まない。

首位・北海道フェニックスFC。

その最大の司令塔の分析が、静かに始まった。

## 第123話 首位・北海道フェニックスFC分析②

分析室。

スクリーンが切り替わる。

神谷直人の映像が消え、

次に映し出されたのは、一人のストライカーだった。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手②

### 佐々木俊郎

* 年齢:30歳

* 誕生日:11月20日

* 背番号:9

* ポジション:CF

---

映像には、

ゴール前で泥臭く押し込むシーン。

GKが弾いたボールへ飛び込むシーン。

DFともつれながら決めるシーン。

華麗なゴールは少ない。

しかし。

気付けばゴールネットが揺れている。

---

八幡が口を開く。

「北海道一筋。」

「クラブの象徴です。」

画面には成績が表示された。

**第16節終了時点**

**14ゴール**

部屋が静まり返る。

竹内GMが小さく息を吐く。

「……十四点か。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「現在。」

「J2得点ランキングトップです。」

---

映像が流れる。

クロス。

競り合い。

こぼれ球。

佐々木が滑り込む。

ゴール。

次の映像。

CK。

混戦。

身体を投げ出して押し込む。

ゴール。

さらに。

味方のシュートがポスト。

跳ね返り。

誰よりも早く反応。

ゴール。

---

八幡はリモコンを置いた。

「この選手。」

「派手なドリブルはありません。」

「特別速いわけでもありません。」

「ですが。」

「一番危険な場所にいます。」

---

田島GKコーチが映像を見ながら言う。

「GKからすると。」

「嫌なタイプだ。」

八幡も頷く。

「はい。」

「シュート一本で終わりません。」

「弾いた後。」

「こぼれ球。」

「そこまで狙っています。」

---

画面が止まる。

ゴール前。

DF三人。

GK。

その隙間。

佐々木だけが動いている。

八幡が指差した。

「ここです。」

「ボールではありません。」

「GKを見ています。」

「弾く方向を予測しています。」

中村ヘッドコーチが驚く。

「ここまで見るのか。」

「はい。」

「だから。」

「十四ゴール。」

---

映像が切り替わる。

日本代表戦。

途中。

ワールドカップの試合映像。

佐々木が途中出場する場面。

八幡が説明する。

「日本代表として。」

「ワールドカップ出場経験があります。」

「世界を経験している選手です。」

「経験値だけでも。」

「J2トップクラスです。」

---

ベッルーニ監督が腕を組む。

「得点の形は。」

「決まっているか。」

「あります。」

八幡が映像を早送りする。

一本。

二本。

三本。

四本。

ゴールシーンが続く。

「共通点は。」

「全部。」

「ゴール前五メートル以内。」

ルイスが頷く。

「離れた位置では。」

「ほとんど打たない。」

「はい。」

「自分が一番決められる場所を知っています。」

---

佐藤強化部長が静かに言う。

「泥臭いな。」

八幡は少し笑った。

「泥臭い。」

「ですが。」

「それが一番止めにくい。」

---

再び映像。

DFがクリアしたと思った瞬間。

佐々木が足を伸ばす。

ゴール。

「諦めません。」

「九十分。」

「ゴールだけを狙い続けます。」

「だから。」

「こちらが。」

「一秒でも集中を切らしたら終わりです。」

---

長谷川の守備映像と並べて表示される。

八幡は首脳陣へ視線を向けた。

「長谷川さん。」

「橋本。」

「そして戸塚さん。」

「この三人が。」

「九十分。」

「集中を切らさないこと。」

「それが。」

「佐々木俊郎対策の第一歩になります。」

部屋の空気がさらに引き締まる。

神谷直人が攻撃を組み立てる。

そして最後に待っているのが、

**14ゴールを積み重ねてきた生粋のストライカー・佐々木俊郎。**

首位・北海道フェニックスFCは、

J2最高クラスの司令塔と、

J2最高クラスの点取り屋を擁するチームだった。

## 第124話 首位・北海道フェニックスFC分析③

分析室。

八幡はリモコンを操作する。

スクリーンに二人の若い選手が並んで映し出された。

写真も顔立ちもそっくりだった。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手③

### 林達也

* 年齢:21歳

* 誕生日:9月28日

* 背番号:19

* ポジション:右WG

### 林卓也

* 年齢:21歳

* 誕生日:9月28日

* 背番号:21

* ポジション:左WG

---

八幡が静かに説明を始める。

「珍しい。」

「双子のウイングプレイヤーです。」

竹内GMが写真を見比べる。

「本当にそっくりだな。」

「はい。」

八幡は頷く。

「ですが。」

「プレースタイルは極端に違います。」

---

スクリーン左側。

林達也の映像。

右サイドでボールを受ける。

一気に縦へ。

相手SBを置き去りにする。

そのままゴール前へ侵入。

右足一閃。

ゴール。

次の映像。

カウンター。

五十メートル近い独走。

シュート。

ゴール。

---

八幡がデータを表示した。

**林達也**

**第16節終了時点**

**8ゴール・3アシスト**

「達也は。」

「スピード。」

「縦への突破。」

「そして。」

「自分でゴールを奪うタイプです。」

「右サイドからでも。」

「迷わずゴールへ向かいます。」

ベッルーニ監督が頷く。

「ウイングというより。」

「ストライカーだな。」

「その認識で問題ありません。」

---

映像が切り替わる。

今度は林卓也。

左サイドでボールを受ける。

無理に仕掛けない。

神谷へ預ける。

ワンツー。

中央へスルーパス。

佐々木俊郎が抜け出す。

ゴール。

さらに別の映像。

左サイド深くまで運び、

マイナスのクロス。

神谷。

シュート。

ゴール。

---

八幡が再びデータを映す。

**林卓也**

**第16節終了時点**

**3ゴール・11アシスト**

中村ヘッドコーチが目を細めた。

「十一アシストか。」

「はい。」

八幡は頷く。

「卓也は。」

「味方との連携。」

「チャンスメイク。」

「ラストパス。」

「そこが最大の武器です。」

---

スクリーンには二人のプレーが並べて映し出される。

右では達也。

一直線にゴールへ向かう。

左では卓也。

周囲を見ながら味方を使う。

八幡が二人を比較する。

「達也は。」

「自分で決める。」

「卓也は。」

「味方に決めさせる。」

「同じウイングでも。」

「役割は全く違います。」

---

佐藤強化部長が腕を組む。

「だから。」

「対策も変わる。」

「はい。」

八幡は即答した。

「達也には。」

「縦へ行かせない守備。」

「卓也には。」

「周囲との連携を切る守備。」

「同じ対応では止まりません。」

---

田島GKコーチが尋ねる。

「神谷ともよく絡むな。」

映像が流れる。

神谷。

卓也。

神谷。

卓也。

ワンタッチで崩していく。

「北海道左サイドは。」

「神谷と卓也。」

「この二人でゲームを作ります。」

「逆に右サイドは。」

「達也が。」

「一気に試合を壊します。」

---

ベッルーニ監督は映像を見つめたまま言った。

「攻撃のバランスがいい。」

「はい。」

八幡も頷く。

「右は突破。」

「左は組み立て。」

「そして中央には。」

「神谷。」

「最後に。」

「佐々木。」

「役割分担が非常に明確です。」

---

最後にスクリーンには四人の顔写真が並ぶ。

**神谷直人。**

**佐々木俊郎。**

**林達也。**

**林卓也。**

八幡は静かに締めくくった。

「北海道フェニックスFCが首位にいる理由は。」

「一人のスター選手ではありません。」

「役割の違う四人が、それぞれの長所を最大限に発揮している。」

「それが。」

「北海道フェニックスFC最大の強さです。」

分析室の空気はさらに引き締まる。

首位との決戦へ向けた分析は、まだ続いていく。

## 第125話 首位・北海道フェニックスFC分析④

分析室。

スクリーンが切り替わる。

映し出されたのは、北海道フェニックスFCの最終ライン。

その中央に立つ若きブラジル人CBだった。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手⑤

### カストロ

* 年齢:20歳

* 誕生日:8月15日

* 背番号:5

* ポジション:CB

* 国籍:ブラジル

---

映像が流れ始める。

相手FWが裏へ抜け出す。

カストロは慌てない。

一気に加速。

あっという間に追い付き、身体を入れる。

ボールだけを奪い切る。

そのまま落ち着いて縦パス。

一瞬で北海道の攻撃へ切り替わった。

---

八幡が説明を始める。

「今シーズン加入したブラジル人センターバックです。」

「ブラジル各年代別代表の常連。」

「まだ二十歳ですが。」

「完成度は非常に高いです。」

---

画面に能力が表示される。

**カストロ**

・対人守備

・空中戦

・スピード

・ビルドアップ

・予測能力

すべて高水準。

---

竹内GMが感心したように呟く。

「二十歳とは思えないな。」

八幡は頷く。

「はい。」

「対人では。」

「簡単に負けません。」

---

映像が切り替わる。

一対一。

相手FWが細かくフェイントを入れる。

しかしカストロは飛び込まない。

距離を保つ。

相手が少しだけボールを離した瞬間。

右足を伸ばし、ボールだけを奪う。

ファウルにならない。

そのまま味方へ繋ぐ。

---

中村ヘッドコーチが腕を組む。

「落ち着いている。」

「はい。」

八幡が続ける。

「無理に飛び込みません。」

「相手の重心を見ています。」

「予測能力が非常に高い選手です。」

---

映像は再び変わる。

ロングボール。

カストロが競り勝つ。

セカンドボールも北海道が回収。

さらに前線へ鋭い縦パス。

一気に決定機。

---

ベッルーニ監督が映像を見ながら言う。

「ビルドアップも得意か。」

「はい。」

八幡は即答した。

「左右どちらの足でも繋げます。」

「無理に蹴り出しません。」

「自分で前進できます。」

---

田島GKコーチが尋ねる。

「空中戦は?」

映像が流れる。

CK。

二メートル近いFWと競り合う。

競り勝つ。

完全に跳ね返す。

「非常に強いです。」

「高さ。」

「タイミング。」

「身体の使い方。」

「どれも高いレベルにあります。」

---

ルイスが苦笑する。

「欠点が見当たらないな。」

八幡は静かに頷いた。

「能力面では。」

「ほとんどありません。」

一度間を置いて続ける。

「ただ。」

「日本語はまだまだです。」

画面には試合中の映像。

カストロが味方へ何かを伝えている。

しかし細かいニュアンスまでは伝わっていない様子だった。

「本来なら。」

「ラインコントロール。」

「マークの受け渡し。」

「守備全体への指示。」

「そこまでできる選手です。」

「ですが。」

「日本語が十分ではないため。」

「細かなコミュニケーションには課題があります。」

---

佐藤強化部長が静かに呟く。

「逆に言えば。」

「日本語まで覚えたら。」

八幡は小さく頷いた。

「J2では止められないセンターバックになる可能性があります。」

分析室は静まり返る。

二十歳。

ブラジル各年代別代表。

高い守備能力とビルドアップ能力を兼ね備えた大型CB。

八幡は映像を止め、首脳陣へ向き直った。

「北海道フェニックスFCの守備がリーグ最少失点なのは。」

「このカストロの存在が非常に大きいです。」

## 第126話 首位・北海道フェニックスFC分析⑤

分析室。

スクリーンが再び切り替わる。

今度映し出されたのは、一人のGKだった。

キャプテンマークを巻き、

ゴール前で味方へ指示を送り続ける姿。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手⑥

### 石原一成

* 年齢:38歳

* 誕生日:6月10日

* 背番号:1

* ポジション:GK

* キャプテン

---

映像が流れ始める。

CK。

石原が右手を上げる。

DFが一斉に動く。

カストロも同じタイミングでラインを上げる。

オフサイド。

相手FWは思わず頭を抱えた。

---

八幡が説明を始める。

「北海道一筋の大ベテランです。」

「そして。」

「現役時代、日本代表として。」

「ワールドカップ二大会連続出場。」

部屋が静まり返る。

田島GKコーチが静かに頷く。

「経験なら。」

「J2随一だな。」

「はい。」

八幡も頷いた。

「三十八歳になった現在でも。」

「北海道の正GK。」

「そしてキャプテンです。」

---

映像が切り替わる。

相手のクロス。

石原は飛び出さない。

ラインを保つ。

CBへ指示。

カストロが競り勝つ。

そのままクリア。

「……。」

ベッルーニ監督が映像を見つめる。

「自分で止める前に。」

「守備を動かしている。」

「その通りです。」

八幡は答えた。

「石原選手は。」

「GKというより。」

「守備の司令塔です。」

---

画面にはデータが表示される。

**話せる言語**

・日本語

・英語

・ポルトガル語

・イタリア語

---

竹内GMが驚いた表情を見せる。

「四か国語か。」

「はい。」

八幡は映像を止めた。

「そして。」

「北海道守備陣最大の強みが。」

「ここです。」

---

映像がスローで流れる。

カストロが相手FWを見る。

その直後。

石原がポルトガル語で声を掛ける。

カストロがすぐ反応。

ラインを上げる。

もう一人のCBも連動する。

攻撃はそこで終わった。

---

八幡がスクリーンを指差す。

「カストロは。」

「本来。」

「ラインコントロール。」

「マークの受け渡し。」

「守備全体への指示。」

「そこまでできる選手です。」

「ですが。」

「日本語はまだ十分ではありません。」

「その問題を。」

「石原選手が。」

「ポルトガル語で直接指示を出すことで解消しています。」

---

中村ヘッドコーチが感心したように呟く。

「だから。」

「守備が乱れないのか。」

「はい。」

「言葉の壁が。」

「ほとんどありません。」

---

田島GKコーチが映像を見ながら笑う。

「GKが。」

「通訳も兼ねてるようなものだな。」

分析室に小さな笑いが起こる。

八幡も少しだけ笑みを浮かべた。

「その表現が一番近いかもしれません。」

「石原選手がいるからこそ。」

「カストロは能力を最大限発揮できます。」

---

映像はさらに続く。

石原が英語で外国籍選手へ声を掛ける。

続いて日本語でボランチへ指示。

再びポルトガル語でカストロへラインの修正を伝える。

数秒の間に、

三つの言語を自然に使い分けていた。

---

佐藤強化部長が腕を組む。

「三十八歳でも。」

「試合に出続ける理由が分かるな。」

「はい。」

八幡は静かに答えた。

「セービングだけなら。」

「若いGKにもできるでしょう。」

「ですが。」

「守備全体を統率できるGKは。」

「そう多くありません。」

---

最後にスクリーンには、

石原一成とカストロが並んで守備陣へ指示を送る映像が映し出される。

八幡は締めくくった。

「北海道フェニックスFCの最少失点は。」

「カストロ一人の力ではありません。」

「経験豊富な石原選手が。」

「守備全体を統率し、言語の壁まで埋めている。」

「この二人の存在が。」

「北海道フェニックスFC守備陣最大の強みです。」

## 第127話 首位・北海道フェニックスFC分析⑥

分析室。

スクリーンが切り替わる。

映し出されたのは、中盤の底で何度もボールに触れる一人の外国人選手だった。

---

# 北海道フェニックスFC

## 注目選手⑧

### カサーツノ

* 年齢:26歳

* 誕生日:12月11日

* 背番号:6

* ポジション:DMF

* 国籍:イタリア

* 利き足:右足

---

映像が流れる。

カストロからパスを受ける。

ワンタッチで神谷直人へ。

神谷から戻される。

今度は左サイドの林卓也へ展開。

再び受け直し、前線の佐々木俊郎へ鋭い縦パス。

テンポよくボールが動いていく。

---

八幡が説明を始めた。

「今シーズン加入したイタリア人ボランチです。」

「元イタリア代表。」

「代表では二試合出場しています。」

竹内GMが頷く。

「即戦力として獲得したわけか。」

「はい。」

八幡も頷いた。

「加入してすぐ。」

「北海道の中心になりました。」

---

映像が切り替わる。

最終ラインからボールを引き出す。

前を向く。

神谷へ。

逆サイドへ。

再び受ける。

ボールが止まらない。

八幡がスクリーンを指差す。

「この選手は。」

「攻撃陣と守備陣をつなぐ。」

「リンクマンです。」

---

ベッルーニ監督が腕を組む。

「派手なプレーは少ないな。」

「はい。」

「ですが。」

「この選手がいなくなると。」

「北海道の攻撃は一気に停滞します。」

---

映像は続く。

守備へ切り替わる。

危険なスペースを埋める。

ボールを奪う。

そのまま前線へ素早く展開。

攻守の切り替えが非常に速い。

ルイスが感心する。

「走れるな。」

「はい。」

「運動量も豊富です。」

「九十分。」

「攻守を行き来できます。」

---

中村ヘッドコーチが映像を見つめる。

「判断も速い。」

「ワンタッチ。」

「ツータッチ。」

「無駄なプレーがありません。」

八幡は静かに頷いた。

「シンプルですが。」

「北海道のリズムは。」

「この選手が作っています。」

---

田島GKコーチが尋ねる。

「日本語はどうなんだ?」

八幡は首を横に振った。

「まだ話せません。」

「イタリア語だけです。」

---

映像が止まる。

ゴール前。

石原一成が何かを叫ぶ。

カサーツノがすぐに反応する。

立ち位置を修正。

守備全体が連動した。

八幡が説明を続ける。

「石原選手が。」

「イタリア語で直接指示を出しています。」

「そのため。」

「言語の問題は試合中ほとんどありません。」

---

竹内GMが苦笑する。

「石原は本当に何役もこなしているな。」

「その通りです。」

八幡も小さく笑う。

「石原選手がいるからこそ。」

「カサーツノも。」

「加入一年目から能力を最大限発揮できています。」

---

映像は最後に、

カストロからカサーツノ。

カサーツノから神谷。

神谷から林卓也。

そして佐々木俊郎へ。

北海道らしい美しい攻撃が完成する。

八幡はスクリーンを見つめながら締めくくった。

「北海道フェニックスFCは。」

「神谷が攻撃を組み立てる前に。」

「まず。」

「カサーツノが攻守をつないでいます。」

「この選手を自由にすると。」

「北海道は九十分。」

「自分たちのテンポで試合を進めてきます。」

## 第128話 首位の厚み

分析室。

スクリーンには北海道フェニックスFCのメンバー表が映し出されていた。

八幡はリモコンを机に置く。

部屋を見回し、静かに口を開いた。

---

「以上です。」

誰もすぐには話さなかった。

神谷直人。

佐々木俊郎。

林達也。

林卓也。

カストロ。

石原一成。

カサーツノ。

ここまでの映像だけでも、首位を走る理由は十分伝わっていた。

---

佐藤強化部長が息を吐く。

「……改めて見ると。」

「本当に戦力が揃ってるな。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「北海道フェニックスFCは。」

「首位になるだけの戦力があります。」

---

竹内GMが尋ねる。

「他の選手はどうだ?」

八幡はスクリーンを次のページへ切り替える。

北海道フェニックスFCの登録メンバーが一覧で表示された。

「もちろん。」

「他の選手もレベルは高いです。」

「油断していい選手は、一人もいません。」

部屋の全員が真剣な表情で聞いている。

---

「ですが。」

八幡は画面の中央を指した。

「試合の流れを変える選手。」

「勝敗を左右する選手。」

「そこまで考えると。」

「やはり。」

神谷。

佐々木。

林達也。

林卓也。

カストロ。

石原。

カサーツノ。

七人の名前が赤く表示される。

「この七人が中心です。」

---

ベッルーニ監督が静かに頷いた。

「つまり。」

「他を捨てるわけではない。」

「はい。」

八幡は即答した。

「全員を警戒します。」

「ですが。」

「警戒の強弱はあります。」

---

中村ヘッドコーチが腕を組む。

「試合中も。」

「この七人を基準に見るか。」

「そうです。」

八幡は答えた。

「例えば。」

「神谷が下がれば。」

「北海道の組み立ては変わります。」

「佐々木が消えれば。」

「ゴール前の怖さは減ります。」

「林達也が止まれば。」

「右サイドの突破力は落ちます。」

「林卓也を自由にしなければ。」

「左からの崩しは減ります。」

「カストロを動かせれば。」

「最終ラインに隙ができます。」

「石原の指示を乱せれば。」

「守備組織は揺らぎます。」

「カサーツノを消せれば。」

「攻守のつながりが切れます。」

---

分析室は静まり返る。

八幡は一人ひとりの顔を見ながら続けた。

「もちろん。」

「他の選手が決める可能性もあります。」

「だから。」

「誰一人。」

「気を抜いてはいけません。」

「ですが。」

「北海道というチームを倒すなら。」

「まず、この七人を抑えること。」

「そこが勝負になります。」

---

ベッルーニ監督は静かに立ち上がった。

「よく分かった。」

「北海道は。」

「個の能力も高い。」

「だが。」

「その個を生かす中心選手は明確だ。」

八幡は小さく頷く。

「はい。」

「試合中も。」

「この七人の動きは私が追います。」

「変化があれば。」

「すぐに共有します。」

---

監督は首脳陣を見回した。

「各コーチは今日の分析を基に練習メニューを組む。」

「北海道は。」

「今季一番の相手だ。」

「だが。」

「恐れる必要はない。」

「準備した方が勝つ。」

「そのために。」

「今日から一週間。」

「徹底的に準備する。」

「はい!」

首脳陣の声が分析室に響いた。

スクリーンには、首位・北海道フェニックスFCのチームエンブレム。

その前に立つ八幡の視線は、すでに試合当日の九十分だけを見据えていた。

## 第129話 首位決戦への布陣

分析室。

北海道フェニックスFCの分析が終わる。

大型スクリーンの映像が消え、部屋には静かな緊張感だけが残っていた。

ベッルーニ監督は立ち上がる。

ホワイトボードの前へ歩き、マーカーを手にした。

「では。」

「北海道戦のスタメンを決める。」

その言葉に、首脳陣全員がホワイトボードへ視線を向ける。

---

最初に書かれた名前は――

**GK No.21 玉縄幸三**

ベッルーニ監督は迷わなかった。

「ゴールキーパーは。」

「玉縄。」

田島GKコーチが静かに頷く。

「郷田は第十五節の脳震盪。」

「リーグのプロトコルにより、二試合出場できません。」

「仙台戦に続き。」

「北海道戦も欠場です。」

竹内GMも腕を組みながら頷いた。

「となれば。」

「玉縄になるな。」

---

佐藤強化部長が確認する。

「村上はどうだ。」

田島GKコーチは首を横に振った。

「まだ十九歳です。」

「能力や将来性はあります。」

「ですが。」

「プレーに安定感がありません。」

「首位との大一番を任せるのは酷です。」

部屋の誰も反論しなかった。

---

ベッルーニ監督が続ける。

「背番号27は。」

今度は八幡が答えた。

「あの選手は。」

「現時点では村上より実力が下です。」

「北海道戦で起用できるレベルにはありません。」

短い一言だった。

だが、その評価は全員一致だった。

---

分析室は静かになる。

ベッルーニ監督が玉縄の名前を見つめる。

「消去法ではない。」

その一言に、八幡が頷く。

「はい。」

「玉縄さんは。」

「前節の仙台戦でも。」

「落ち着いた判断を見せてくれました。」

「ビルドアップ。」

「コーチング。」

「危険な場面での飛び出し。」

「どれも安定していました。」

「北海道は前線から強くプレッシャーを掛けてきます。」

「だからこそ。」

「今、一番安心して任せられるのは玉縄さんです。」

---

田島GKコーチも笑みを浮かべる。

「前節で。」

「自信も付いたはずです。」

ベッルーニ監督はホワイトボードの名前に大きく丸を付けた。

**GK No.21 玉縄幸三**

「北海道戦。」

「ゴールは玉縄でいく。」

誰も異論はなかった。

首位・北海道フェニックスFCとの大一番。

エストレヤ千葉の最後尾は、玉縄幸三に託されることが正式に決まった。

## 第130話 首位決戦への布陣②

分析室。

ベッルーニ監督はホワイトボードの前に立つ。

最初に決まったのはゴールキーパー。

**GK No.21 玉縄幸三**

その名前の下へ、今度は四本の線を引いた。

「次。」

「ディフェンスラインだ。」

室内にいるのは首脳陣だけ。

八幡。

佐藤強化部長。

竹内GM。

中村ヘッドコーチ。

田島GKコーチ。

ルイス。

山本。

全員がホワイトボードへ視線を向ける。

---

ベッルーニ監督は迷いなく四人の名前を書いた。

**RSB No.6 毛利良一**

**CB No.5 宇津木健太**

**CB No.26 長谷川智樹**

**LSB No.24 高山俊樹**

---

竹内GMが静かに口を開く。

「宇津木を戻すか。」

ベッルーニ監督は頷く。

「戻す。」

八幡も資料を見ながら説明を始めた。

「北海道には佐々木俊郎がいます。」

「ゴール前で身体を張るタイプです。」

「高さ。」

「対人。」

「競り合い。」

「この三つを考えれば。」

「宇津木さんは外せません。」

中村ヘッドコーチも同意する。

「長谷川と宇津木。」

「現状では。」

「一番計算できるセンターバックだ。」

---

続いて長谷川の名前を見る。

佐藤強化部長が言う。

「長谷川は文句なしだな。」

「はい。」

八幡も即答する。

「ラインコントロール。」

「経験。」

「一対一。」

「全て高いレベルです。」

「北海道戦では。」

「絶対に必要な存在です。」

---

右サイド。

毛利の名前へ視線が移る。

ベッルーニ監督が言った。

「右は毛利。」

八幡は北海道の映像を表示する。

「左サイドには林卓也。」

「味方との連携。」

「チャンスメイク。」

「そこを止めるには。」

「運動量と守備範囲。」

「毛利さんが最適です。」

竹内GMも頷いた。

「若いが。」

「守備は安定してきた。」

---

最後は左サイド。

高山俊樹。

ベッルーニ監督は名前を丸で囲む。

「高山。」

八幡が続ける。

「北海道の右には林達也。」

「突破力はJ2屈指です。」

「だから。」

「今回は。」

「攻撃参加より守備。」

「葉山さんではなく。」

「高山さんを起用します。」

中村ヘッドコーチが笑う。

「前にも言ったな。」

「上がるだけなら。」

「葉山。」

「守るなら。」

「高山。」

「その通りです。」

八幡は短く答えた。

---

竹内GMが資料をめくる。

「葉山はどうだ。」

八幡は首を横に振る。

「現在。」

「調子を落としています。」

「しかも。」

「今回の相手は北海道です。」

「現状では。」

「先発起用は難しいです。」

---

佐藤強化部長が次の名前を見る。

「橋本。」

八幡は少し考えてから答えた。

「成長は著しいです。」

「試合ごとに良くなっています。」

「ですが。」

「まだ経験不足です。」

「北海道戦のような試合を九十分任せるには。」

「少し早いと判断しました。」

ベッルーニ監督も頷く。

「将来性は十分。」

「だが。」

「今回は経験を優先する。」

---

続いて黒崎。

中村ヘッドコーチが苦笑した。

「能力だけなら。」

「面白い。」

八幡も同意する。

「資質は非常に高いです。」

「ですが。」

「プレーがまだ軽い。」

「一つの判断ミスが。」

「失点につながる相手です。」

「今回はリスクを取れません。」

---

背番号29。

背番号30。

その二人については短かった。

八幡が資料を閉じる。

「現状では。」

「能力不足。」

「あるいは。」

「プレーが荒く。」

「計算できません。」

「北海道戦では起用できません。」

誰も反論しなかった。

---

最後に佐藤強化部長が口を開く。

「鬼塚。」

分析室の空気が少し変わる。

鬼塚純一郎。

三十六歳。

元日本代表。

長く負傷離脱していたベテラン。

八幡が答える。

「この試合から復帰可能です。」

「ただ。」

「実戦感覚はまだ戻っていません。」

ベッルーニ監督は静かに頷く。

「ベンチスタート。」

「必要な場面で経験を借りる。」

「無理はさせない。」

その判断に首脳陣全員が同意した。

---

ホワイトボードには四人の名前が並ぶ。

**RSB 毛利良一**

**CB 宇津木健太**

**CB 長谷川智樹**

**LSB 高山俊樹**

首位・北海道フェニックスFCとの決戦。

千葉は経験、守備力、そして対人能力を最優先にした4バックで挑むことが正式に決まった。

## 第131話 首位決戦への布陣③

分析室。

ホワイトボードには、守備陣までの名前が並んでいた。

---

**GK**

玉縄幸三

**DF**

毛利良一

宇津木健太

長谷川智樹

高山俊樹

---

ベッルーニ監督がマーカーを持ち直す。

「次。」

「中盤だ。」

誰も口を挟まない。

今回の試合。

勝敗を左右するのは中盤だと、全員が理解していた。

北海道フェニックスFC。

神谷直人。

カサーツノ。

林卓也。

この三人を中心にボールが動く。

中盤で負ければ、試合全体を支配される。

---

ベッルーニ監督は五人の名前を書いた。

**DMF No.18 戸塚彩加**

**DMF No.7 エミリオ・アルバレス**

**RSH No.19 川崎大志**

**LSH No.10 森川佑**

**OMF No.14 ダニエル・ロドリゲス**

---

竹内GMが頷く。

「ここは。」

「ほぼ決まりだったな。」

「はい。」

八幡も答える。

「北海道戦で一番重要なのは。」

「中盤の主導権です。」

「この五人が。」

「現時点で最も完成されています。」

---

佐藤強化部長がホワイトボードを見る。

「ダブルボランチは。」

「戸塚とエミリオ。」

「固定か。」

「はい。」

八幡が説明する。

「神谷。」

「カサーツノ。」

「この二人へ自由を与えないためです。」

「戸塚さんの守備力。」

「エミリオのゲームコントロール。」

「この組み合わせが最も安定します。」

中村ヘッドコーチも頷いた。

「攻守のバランスが一番いい。」

---

次に右サイド。

川崎大志。

ベッルーニ監督が静かに言う。

「運動量。」

「守備。」

「フィジカル。」

「北海道相手には必要だ。」

八幡も同意する。

「攻撃だけではありません。」

「守備への切り替えも速い。」

「九十分。」

「走り続けられます。」

---

左サイド。

森川佑。

佐藤強化部長が笑う。

「経験では一番だな。」

「はい。」

八幡は頷く。

「こういう大一番ほど。」

「森川さんの経験は大きいです。」

「試合の流れを読む力。」

「落ち着かせる力。」

「北海道戦では欠かせません。」

---

最後はトップ下。

ダニエル・ロドリゲス。

竹内GMが言う。

「ここは迷わない。」

八幡も即答した。

「今、一番違いを作れる選手です。」

「神谷に対抗できる創造性。」

「得点力。」

「運動量。」

「全て必要になります。」

---

ホワイトボードには、先発五人が並ぶ。

その下には控えMFの名前が書かれていた。

戸部翔。

佐久間浩二。

中田正和。

万条富隆。

背番号2。

背番号8。

---

中村ヘッドコーチが最初に戸部の名前を見る。

「戸部。」

八幡が答える。

「悪くありません。」

「FKもあります。」

「パスも一級品です。」

「ですが。」

「まだ走力が戻っていません。」

「北海道は運動量の多いチームです。」

「狙われる可能性があります。」

「先発では使えません。」

ベッルーニ監督も頷いた。

「スーパーサブ。」

「その役割が一番生きる。」

---

続いて佐久間浩二。

竹内GMが資料を見る。

「経験は十分だ。」

「はい。」

八幡も認める。

「ですが。」

「スタミナ面に課題があります。」

「北海道相手に。」

「九十分は厳しい。」

「途中から流れを変える役割になります。」

---

中田正和。

佐藤強化部長が一言。

「中田も同じだな。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「経験はあります。」

「ですが。」

「スタミナ面を考えると。」

「先発は難しいです。」

---

次は万条富隆。

分析室の空気が少し変わる。

八幡は静かに資料を見つめた。

「能力だけなら。」

「今でも高いです。」

「ボールも持てます。」

「技術もあります。」

「ですが。」

「今の先発組とは。」

「連携面で差があります。」

「現時点では。」

「スタメン起用はできません。」

部屋は静まり返る。

竹内GMが小さく呟く。

「皮肉だな。」

「能力はある。」

「それでも。」

「チームとしては先発になれない。」

八幡は短く答えた。

「はい。」

そして、一拍置いて続ける。

「なお。」

「今回の北海道戦が。」

「万条富隆にとって。」

「エストレヤ千葉で戦う最後の試合になります。」

誰も言葉を返さなかった。

その事実は、この場にいる全員が知っていた。

---

最後に背番号2と背番号8。

八幡は資料を閉じる。

「二人とも。」

「現時点では能力不足です。」

「北海道戦で起用するのは難しいと判断しました。」

ベッルーニ監督は静かに頷く。

---

ホワイトボードには中盤五人の名前が並ぶ。

**DMF 戸塚彩加**

**DMF エミリオ・アルバレス**

**RSH 川崎大志**

**LSH 森川佑**

**OMF ダニエル・ロドリゲス**

首位・北海道フェニックスFCとの決戦。

中盤は、攻守のバランスと運動量を最優先した五人で挑むことが正式に決定した。

## 第132話 首位決戦への布陣④

分析室。

ホワイトボードには、ここまで決まった十人の名前が並んでいた。

---

**GK**

玉縄幸三

**DF**

毛利良一

宇津木健太

長谷川智樹

高山俊樹

**MF**

戸塚彩加

エミリオ・アルバレス

川崎大志

森川佑

ダニエル・ロドリゲス

---

残るポジションは、一つ。

センターフォワード。

ベッルーニ監督はマーカーを持ち直した。

「最後だ。」

「センターフォワード。」

分析室に静寂が流れる。

---

監督はゆっくりと名前を書いた。

**CF No.11 材木座義輝**

誰もすぐには口を開かなかった。

佐藤強化部長が静かに尋ねる。

「コンディションは。」

八幡が資料を確認する。

「まだ。」

「疲労は完全には抜け切っていません。」

「ベストコンディションではありません。」

竹内GMが腕を組む。

「それでも。」

「材木座か。」

「はい。」

八幡は迷いなく答えた。

「現状。」

「先発は材木座さんが最適です。」

---

ベッルーニ監督も頷く。

「北海道のセンターバック。」

「カストロ。」

「相当強い。」

「だからこそ。」

「前線で収められる選手が必要だ。」

八幡が続ける。

「材木座さんは。」

「得点数だけを見れば多くありません。」

「ですが。」

「ポストプレー。」

「前線で時間を作る能力。」

「味方を押し上げる能力。」

「この試合では。」

「そこが重要になります。」

---

中村ヘッドコーチが北海道の映像を見ながら言う。

「カストロ相手に。」

「裏へ蹴るだけでは回収される。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「だから。」

「一度前線で収める必要があります。」

「その役割は。」

「材木座さんが一番適しています。」

---

佐藤強化部長は控えFWの資料を開く。

「他は。」

八幡が一人ずつ説明していく。

---

「小林庄雅。」

「能力はあります。」

「ですが。」

「現状では起用できません。」

短く、それだけだった。

---

「背番号28。」

「能力不足です。」

---

「背番号13。」

「スピードは認めます。」

「ですが。」

「それ以外の能力が足りません。」

「北海道相手では厳しいです。」

---

「背番号15。」

八幡は少し間を置いた。

「今でも。」

「若い頃のプレーを追い続けています。」

「現在の自分を把握できていません。」

「現状では。」

「先発は難しいです。」

---

「栗林宰三。」

竹内GMが資料を見る。

「能力は悪くない。」

「はい。」

八幡は頷く。

「技術もあります。」

「ですが。」

「経験不足が目立ちます。」

「北海道との試合で先発を任せる段階ではありません。」

---

「背番号23。」

中村ヘッドコーチが苦笑した。

「特殊な選手だな。」

「はい。」

八幡も苦笑する。

「前線からの守備能力は。」

「チームトップクラスです。」

「ただ。」

「攻撃力は。」

「FWでは一番低い。」

「逆に。」

「DMFなど後ろで使うと。」

「守備力は落ちますが。」

「攻撃性能は上がる。」

「非常に扱いが難しい選手です。」

分析室の首脳陣も苦笑した。

これほど特徴が極端な選手は珍しかった。

---

佐藤強化部長が最後の二人へ目を向ける。

「元原。」

八幡は答える。

「経験は申し分ありません。」

「ですが。」

「現状のコンディションでは。」

「スタメンは難しいです。」

ベッルーニ監督も静かに頷く。

「切り札だな。」

---

最後に。

竹内GMが資料を閉じる。

「鈴木太郎。」

分析室が静かになる。

前節。

二ゴール二アシスト。

圧巻の活躍を見せた大型FW。

だが――

八幡は迷いなく答えた。

「北海道相手なら。」

「後半投入の方が効果的です。」

ベッルーニ監督も同じ考えだった。

「相手のセンターバック。」

「特にカストロは。」

「試合開始直後が一番集中している。」

「疲労が見え始める後半。」

「そこで鈴木を入れる。」

八幡が続ける。

「二メートルの高さ。」

「フィジカル。」

「空中戦。」

「後半なら。」

「より脅威になります。」

竹内GMは静かに頷いた。

「なるほど。」

「ジョーカーとして使うか。」

「はい。」

八幡は資料を閉じる。

「それと。」

「鈴木さんにとっても。」

「この北海道戦が。」

「エストレヤ千葉で戦う最後の試合になります。」

部屋は静まり返った。

夏の移籍でドイツへ旅立つ鈴木太郎。

その千葉でのラストゲームは、

先発ではなく、

**試合を決める切り札**として託されることになった。

ベッルーニ監督はホワイトボードの最後の一枠に丸を付ける。

**CF No.11 材木座義輝**

これで――

首位・北海道フェニックスFCとの決戦に挑む十一人が、正式に決定した。

第133話 静かな食卓

その日の夜。

葉山家。

リビングには静かな空気が流れていた。

テレビはついている。

しかし、音だけが部屋に響いている。

葉山隼人はソファへ腰掛けたまま、ぼんやりと画面を見つめていた。

試合の映像は流れている。

だが、頭には入っていない。

北海道戦。

ベンチスタート。

その現実だけが頭の中を巡っていた。

---

キッチンでは雪乃が夕食の後片付けをしている。

夫婦。

そう呼ばれる関係ではある。

しかし。

二人は互いに必要以上の干渉をしない。

家でも一定の距離を保つ。

それが、この夫婦の日常だった。

---

食器を片付け終えた雪乃は、リビングへ戻る。

隼人を一瞥する。

いつもなら新聞やスマートフォンを見ている時間。

今日は何もしていない。

ただ座っているだけだった。

---

雪乃は少しだけ眉をひそめる。

(……珍しい。)

仮面夫婦。

お互いの私生活には深入りしない。

それが暗黙の了解だった。

だから普段なら、何も聞かない。

聞く必要もない。

---

それでも。

今日の隼人は違った。

明らかに落ち込んでいる。

外で見せる爽やかな笑顔はない。

肩も落ちている。

視線にも力がない。

---

雪乃は少しだけ迷った。

そして。

静かに口を開く。

「……何かあったの?」

隼人は少し驚いたように顔を上げる。

「いや。」

「別に。」

いつもの返事だった。

---

雪乃はそれ以上追及しない。

追及する関係でもない。

ただ。

もう一度だけ隼人を見る。

やはり様子がおかしい。

---

「そう。」

その一言だけ残し、自分の部屋へ向かおうとする。

だが。

足が止まった。

振り返る。

「……無理だけはしないで。」

短い一言。

それだけ言うと、今度こそ部屋へ戻っていった。

---

隼人は閉まったドアを見つめる。

小さく苦笑した。

「心配……されたのか。」

普段なら交わすことのない会話。

仮面夫婦だからこそ。

その一言には、いつも以上の重みがあった。

---

リビングには再び静寂が戻る。

隼人はソファへ深く座り直し、小さく息を吐いた。

「……戻らないとな。」

誰に言うでもない独り言。

北海道戦。

自分はベンチスタート。

その現実は変わらない。

それでも。

葉山隼人は静かに前を向こうとしていた。

第134話 材木座家

同じ頃。

材木座家。

リビングにはテレビが流れていた。

スポーツニュースでは、北海道フェニックスFCの特集。

「次節は首位・北海道フェニックスFCと、エストレヤ千葉の注目の一戦です。」

そんなナレーションが流れる。

しかし。

テレビを見ている材木座義輝の表情は晴れない。

ソファに深く腰掛け、ぼんやりと画面を見つめていた。

---

キッチンから夕食を運んできた材木座優美子が、その様子を見る。

「ご飯できたよ。」

「ああ。」

返事はする。

だが、どこか上の空だった。

優美子は何も言わず、料理を並べていく。

二人は向かい合って席に着いた。

---

しばらくは箸の音だけが響く。

やがて優美子が口を開いた。

「……北海道戦。」

材木座の箸が止まる。

「先発なんでしょ?」

「多分な。」

短い返事。

「まだ正式には言われてないけど。」

「今日の練習を見る限り、多分そうだ。」

---

優美子は小さく頷く。

「無理しないでね。」

材木座は苦笑した。

「無理しないで勝てる相手じゃない。」

「首位だからな。」

---

再び沈黙。

優美子は材木座の顔を見つめる。

「まだ疲れ、残ってる?」

図星だった。

材木座は少しだけ笑う。

「完全には抜けてない。」

「正直な。」

「身体は重い。」

---

優美子は静かに湯飲みを置く。

「それでも。」

「監督は材木座を選んだ。」

「それには理由があるんじゃない?」

材木座は目を伏せる。

「八幡だろ。」

「きっと。」

「北海道相手なら。」

「俺のポストプレーが必要だって判断した。」

---

優美子は微笑んだ。

「だったら。」

「期待に応えなきゃね。」

材木座は照れくさそうに頭をかく。

「……簡単に言う。」

「簡単じゃないのは知ってる。」

「でも。」

「私は信じてる。」

「あなたが前で収めれば。」

「森川さんも。」

「ダニエルも。」

「川崎君も。」

「もっと生きる。」

---

材木座は少し驚いた表情になる。

「詳しくなったな。」

「毎試合見てるもの。」

優美子は少しだけ胸を張った。

「それに。」

「あなたのプレーくらい分かる。」

---

その言葉に、材木座は自然と笑みを浮かべた。

「ありがとう。」

「……よし。」

深く息を吸う。

「北海道戦。」

「絶対に勝つ。」

優美子は静かに頷いた。

「うん。」

「勝って帰ってきて。」

「みんなで笑おう。」

---

隣の部屋から、小さな子どもの笑い声が聞こえる。

二人は自然とそちらへ目を向けた。

材木座は立ち上がり、優しく笑う。

「そのためにも。」

「父ちゃん、頑張らないとな。」

首位との決戦まで、あと数日。

材木座義輝は、家族の笑顔を胸に、大一番へ向けて静かに闘志を燃やしていた。

第135話 二つの家族

その頃。

千葉市内。

一軒の和食店。

夕食時ということもあり、店内は家族連れで賑わっていた。

その一角。

戸塚家と川崎家が同じテーブルを囲んでいた。

---

「いただきます。」

全員が手を合わせる。

戸塚彩加。

妻・川崎沙希。

そして二人の子ども。

向かいには、

川崎大志。

妻・海老名姫菜。

そしてこちらも子どもを連れている。

休日ではない。

それでも北海道戦前ということで、久しぶりに6人で食事をすることになった。

---

海老名姫菜が笑う。

「やっぱり外で食べると楽だね。」

沙希も珍しく柔らかく笑った。

「たまには。」

「こういう日があってもいい。」

「毎日献立考えるのも大変だし。」

「それは分かる。」

姫菜も苦笑する。

---

店員が料理を運んできた。

焼き魚定食。

天ぷら御膳。

刺身定食。

子ども用のお子様ランチ。

「わぁ!」

子どもたちは目を輝かせる。

その様子を見て、大人たちも自然と笑顔になった。

---

川崎大志が箸を持ちながら口を開く。

「北海道戦。」

「いよいよですね。」

戸塚は味噌汁を一口飲み、頷く。

「うん。」

「たぶん。」

「今季一番大変な試合。」

---

姫菜が首を傾げる。

「やっぱりそんなに強いの?」

川崎は苦笑した。

「強いなんてもんじゃない。」

「首位には理由がある。」

---

戸塚も続ける。

「神谷さん。」

「佐々木さん。」

「林兄弟。」

「それだけでも十分すごい。」

「そこへ外国籍選手もいる。」

「本当に隙が少ないチームだよ。」

---

沙希は静かに二人の話を聞いていた。

「でも。」

「八幡なら。」

「ちゃんと準備してるんでしょ。」

戸塚は自然と笑った。

「もちろん。」

「今日も分析室にずっといた。」

「相手の映像を何時間も見てたよ。」

川崎も頷く。

「八幡さんが。」

「『ここを突ける』って言うなら。」

「俺たちは信じて走るだけです。」

---

姫菜が微笑む。

「みんな。」

「八幡君のこと、本当に信頼してるんだね。」

戸塚は即答した。

「うん。」

「試合前に。」

「あそこまで細かく相手を分析してくれる人はいない。」

川崎も笑う。

「相手より。」

「俺たちのこと知ってるんじゃないかって思う時もあるくらい。」

その一言に、テーブルから笑いがこぼれた。

---

食事はゆっくり進んでいく。

子どもたちは楽しそうに話しながら食べている。

その笑顔を見つめながら、戸塚はふと呟いた。

「勝ちたいな。」

川崎も箸を止める。

「ああ。」

「この子たちに。」

「また勝ったよって言いたい。」

沙希と姫菜は何も言わなかった。

ただ、小さく頷く。

選手たちが戦う理由は、一つではない。

クラブのため。

サポーターのため。

そして――。

家族の笑顔を守るためでもあった。

首位・北海道フェニックスFCとの決戦まで、あとわずか。

穏やかな夕食の時間は、それぞれの心に静かな力を与えていた。

第136話 アルバレス家

その頃。

アルバレス家。

リビングには穏やかな音楽が流れていた。

ソファでは南・アルバレスがゆっくりと身体を預けている。

大きくなったお腹に、そっと手を添えていた。

予定日は来月。

もういつ生まれてもおかしくない時期に入っている。

---

キッチンからエミリオ・アルバレスが二つのコップを持ってくる。

「はい。」

「ありがとう。」

南は微笑みながら受け取った。

エミリオは南の隣へ腰を下ろす。

自然と視線はお腹へ向かった。

「今日も。」

「よく動いてる?」

南は優しく笑う。

「うん。」

「さっきもすごかったよ。」

「蹴ってるのかな。」

「多分、サッカー好きになるかもね。」

その言葉に、エミリオは思わず笑った。

「父親がサッカー選手だから?」

「それもあるかも。」

二人の笑い声が部屋に響く。

---

少しして。

南がお腹を押さえた。

「ほら。」

「今。」

エミリオは驚きながら手を伸ばす。

「触っていい?」

「もちろん。」

恐る恐る手を添える。

その瞬間。

トン。

小さな衝撃が手のひらへ伝わった。

「……!」

エミリオの目が大きく開く。

「動いた。」

「でしょ?」

南は嬉しそうに笑う。

「最近は毎日こんな感じ。」

---

エミリオは何度もお腹を見つめた。

試合では冷静な司令塔。

だが今は、一人の父親になる男だった。

「早く。」

「会いたいな。」

その一言は自然と口からこぼれた。

南も静かに頷く。

「私も。」

「どんな子なんだろうね。」

「元気なら。」

「それだけで十分。」

エミリオは優しく微笑んだ。

---

少し沈黙が流れる。

南がエミリオを見る。

「北海道戦。」

「頑張ってね。」

「もちろん。」

エミリオは迷わず答えた。

「勝って。」

「そのまま。」

「元気な姿で。」

「赤ちゃんを迎えたい。」

南の瞳が優しく細くなる。

「きっと。」

「勝てるよ。」

「八幡さんもいるし。」

エミリオは笑った。

「ああ。」

「俺たちは。」

「信じて戦うだけだ。」

---

エミリオは立ち上がる。

そして南の前へ歩く。

「無理だけはしないで。」

「うん。」

「約束。」

南が微笑む。

エミリオも優しく微笑み返した。

そして。

そっと南の額へキスをした。

南は少し照れたように笑う。

「急にどうしたの?」

「いや。」

「したくなった。」

その一言に、南は嬉しそうに目を細める。

静かな夜。

もうすぐ家族が一人増える。

その幸せを噛みしめながら、二人は寄り添って笑い合っていた。

## 第137話 戸部家

その頃。

戸部家。

夕食を終えた二人は、リビングでゆっくりとくつろいでいた。

テレビでは今日のニュースが流れている。

その中には、エストレヤスタジアムで開催されたイベントの映像もあった。

多くのサポーター。

B級グルメ。

子どもたちで賑わう工事体験会。

笑顔で歩くクラブマスコット。

画面いっぱいに、試合以外のスタジアムの魅力が映し出されていた。

---

戸部翔がテレビを見ながら笑う。

「すごい人だったんだな。」

戸部陽乃も頷いた。

「雪乃ちゃんから連絡が来てたわ。」

「イベント、大成功だったって。」

翔は少し驚く。

「雪乃さんから?」

「うん。」

陽乃はスマートフォンを見せながら笑う。

「『予想以上の来場者数でした。大きなトラブルもなく終われました』って。」

「営業部長補佐としては大成功ね。」

翔は画面の工事体験会を見る。

「雪ノ下建設も人気だったみたいだな。」

「子どもたちが楽しそうだったって。」

「雪乃ちゃんも、珍しく少し嬉しそうだった。」

陽乃は妹を思い浮かべ、小さく微笑んだ。

---

少し沈黙が流れる。

テレビでは今度は北海道フェニックスFCの特集が始まる。

翔は自然と画面へ目を向けた。

「……北海道か。」

その一言に、陽乃も表情を引き締める。

「大変な試合になりそうね。」

「間違いない。」

翔は静かに頷いた。

「今季で一番強い相手だと思う。」

---

陽乃は翔の隣へ少しだけ身体を寄せる。

「でも、頑張ってね。」

翔は陽乃を見る。

「うん。」

「ベンチでも。」

「出番が来たら全力で行く。」

「それで十分。」

陽乃は優しく微笑んだ。

「あなたらしく戦ってきて。」

「それだけでいい。」

翔は自然と笑みを浮かべる。

「ありがとう。」

---

静かな時間が流れる。

テレビの音だけが小さく部屋に響いていた。

翔はそっと陽乃の手を握る。

陽乃もその手を握り返す。

目が合う。

どちらからともなく距離が縮まる。

そして。

二人の唇が静かに重なった。

短く。

優しく。

言葉はいらなかった。

互いの想いだけが伝わる時間だった。

やがて二人は微笑み合う。

陽乃がリモコンへ手を伸ばした。

部屋の照明がゆっくりと消える。

静かな夜が、戸部家を包み込んでいった。

## 第138話 万条家

その頃。

万条家。

部屋には酒の香りが広がっていた。

テーブルの上には高級そうな酒と、簡単なつまみ。

万条富隆は上機嫌だった。

グラスを揺らしながら、ソファに深く腰掛ける。

「やっとだな。」

独り言のように呟く。

「千葉も終わりか。」

その口調には、どこか解放感が混じっていた。

---

万条こころはその様子を静かに見ている。

「そんなに嬉しいの?」

「当たり前だろ。」

万条は笑う。

「こんな場所、長くいるところじゃねぇ。」

言葉は荒い。

だが、どこか楽しそうだった。

---

万条はグラスをテーブルに置く。

「こころ。」

「はい。」

「酒、注げ。」

命令口調だった。

こころは少しだけ目を伏せる。

だが、何も言わずに立ち上がる。

ボトルを手に取り、グラスへ酒を注ぐ。

静かな音が部屋に響く。

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万条はその様子をじっと見ていた。

「もっと近く来い。」

こころは一歩、距離を詰める。

万条は腕を伸ばし、彼女を引き寄せた。

こころの身体がわずかに揺れる。

「……緊張してんのか?」

「別に。」

こころは小さく答える。

その声は、どこか落ち着いていた。

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万条は笑う。

「最後の試合だ。」

「千葉でのな。」

「ちゃんと見とけよ。」

「はい。」

こころは頷く。

「見てます。」

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グラスを一気に飲み干す。

万条はそのままこころを引き寄せた。

距離が一気に縮まる。

互いの呼吸が重なる。

言葉はない。

だが、空気だけが濃くなる。

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「……行くぞ。」

低く呟く。

こころは抵抗しない。

ただ、静かに万条を見つめていた。

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やがて。

二人の距離は完全に消える。

身体が重なり合う。

言葉の代わりに、触れ合いが続く。

静かな部屋の中で、

二人の時間だけがゆっくりと流れていった。

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千葉での最後の夜。

万条富隆は、自分の終わりと次を感じながら、

静かにその時間に身を委ねていた。

## 第139話 比企谷家

その頃。

比企谷家。

リビングには穏やかな空気が流れていた。

食卓には夕食の名残が残っている。

三人の子どもたちはすでに寝室へ向かい、家の中は静かだった。

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八幡はソファに腰掛け、ノートパソコンを開いている。

画面には北海道フェニックスFCの試合映像。

神谷直人。

佐々木俊郎。

林兄弟。

何度も再生と停止を繰り返していた。

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キッチンからソフィアが温かいコーヒーを持ってくる。

「はい。」

八幡は画面から目を離し、

「ありがとう。」

と短く答えた。

ソフィアは八幡の隣へ座る。

画面を見つめ、小さく笑う。

「まだ見てるの?」

「もう何十回目だ。」

八幡も苦笑した。

「でも。」

「あと少し気になるところがある。」

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ソフィアは画面を見る。

「北海道。」

「そんなに強いの?」

「ああ。」

八幡は頷いた。

「今季で一番強い。」

「分析しても。」

「隙が少ない。」

「だから面白い。」

その言葉に、ソフィアは笑った。

「あなたらしい。」

「普通なら。」

「嫌だって言う試合なのに。」

「強い相手ほど燃える。」

「それが八幡だもの。」

---

八幡は少し照れくさそうに頭をかいた。

「否定はしない。」

ソフィアは微笑む。

「でも。」

「無理はしないでね。」

「試合に出るのは選手でも。」

「あなたも毎日寝不足でしょう?」

八幡は画面を閉じた。

「今日はここまで。」

「珍しい。」

「明日でも間に合う。」

ソフィアは安心したように微笑んだ。

---

八幡は立ち上がる。

寝室へ向かう前に、子ども部屋のドアを少しだけ開けた。

レオン。

ユウ。

ルナ。

三人とも気持ちよさそうに眠っている。

八幡は静かにドアを閉めた。

「起きなかった?」

ソフィアが小声で聞く。

「ああ。」

「全員ぐっすりだ。」

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ソフィアは八幡の腕にそっと自分の腕を絡める。

「北海道戦。」

「勝てる?」

八幡は少しだけ考えた。

そして笑う。

「勝つために準備してる。」

「それなら大丈夫。」

ソフィアは迷いなく答えた。

「あなたがそこまで準備した試合。」

「私は負ける気がしない。」

---

八幡は苦笑しながら肩をすくめた。

「期待が重いな。」

「それくらい信じてるもの。」

ソフィアはそう言って笑う。

八幡も自然と笑みを浮かべた。

「じゃあ。」

「その期待に応えないとな。」

静かな夜。

家族が眠る家の中で。

比企谷八幡はもう一度だけ北海道戦への決意を胸に刻み、ソフィアと並んでゆっくりと寝室へ向かっていった。

## 第140話 北の決戦

試合当日。

北海道。

澄み切った青空が広がっていた。

夏とは思えないほど涼しい風が吹き抜ける。

その中心にそびえ立つのが――

**グランベルスタジアム。**

北海道フェニックスFCのホームスタジアム。

リーグ屈指の熱気を誇るスタジアムには、朝から多くのサポーターが集まっていた。

---

開門二時間前。

すでに入場ゲートには長蛇の列。

北海道フェニックスFCのユニフォームを着たサポーターが続々と集まる。

「今日も勝って無敗だ!」

「神谷、頼むぞ!」

「佐々木、ゴール期待してる!」

「林兄弟、今日も暴れてくれ!」

首位チームらしい期待と自信に満ちた声が飛び交う。

---

一方。

アウェーゴール裏。

エストレヤ千葉のサポーターも北海道まで駆け付けていた。

青と金のユニフォーム。

大きなクラブフラッグ。

太鼓の音が響く。

「北海道まで来たぞ!」

「首位を倒そう!」

「連勝を伸ばすぞ!」

「八幡さん、頼みます!」

「ダニエル!」

「エミリオ!」

「材木座!」

ホームに負けないほどの熱気がアウェースタンドにも広がっていた。

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スタジアムの大型ビジョンが点灯する。

画面には順位表が映し出された。

**J2リーグ順位表(第16節終了)**

**1位 北海道フェニックスFC 勝ち点44(14勝2分0敗)**

**2位 岡山セルフィオFC 勝ち点31(9勝4分3敗)**

**3位 エストレヤ千葉 勝ち点29(8勝5分3敗)**

その下にも順位が続いていく。

実況アナウンサーが説明する。

「ご覧のように、北海道フェニックスFCは開幕から無敗のまま首位を独走しています!」

「対するエストレヤ千葉は第5節終了時点では最下位でしたが、そこから驚異的な巻き返しを見せ、一気に3位まで浮上しました!」

解説者も頷く。

「この順位だけを見ると勝ち点差は15あります。」

「ですが、現在の勢いだけなら千葉はリーグ屈指。」

「北海道にとっても決して楽な相手ではありません。」

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大型ビジョンには今日の対戦カードが映し出される。

**明治J2リーグ 第17節**

**北海道フェニックスFC vs エストレヤ千葉**

場内から大きな拍手が起こる。

無敗首位。

対するは、リーグで最も勢いに乗る3位。

誰もが好ゲームを期待していた。

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放送席。

実況アナウンサーが声を弾ませる。

「さあ、第17節注目の一戦です!」

「無敗で首位を走る北海道フェニックスFC!」

「そして、第5節終了時点では最下位だったにもかかわらず、驚異的な追い上げで3位まで浮上したエストレヤ千葉!」

「まさに今節最大の注目カードです!」

解説者も力強く頷く。

「北海道は完成された組織力。」

「対する千葉は比企谷八幡を中心とした徹底した分析力と戦術。」

「スタイルの異なる両チームが、どんな試合を見せるのか非常に楽しみですね。」

---

やがて、北海道フェニックスFCのチームバスがスタジアムへ到着する。

ホームサポーターから大歓声。

続いてエストレヤ千葉のチームバスも姿を現した。

アウェーゴール裏から割れんばかりの拍手が響く。

「千葉!」

「千葉!」

「千葉!」

北の空に、両クラブの応援が交錯する。

---

バスの窓から外を眺める比企谷八幡。

その視線の先には、グランベルスタジアム。

無敗首位・北海道フェニックスFC。

勢いに乗る3位・エストレヤ千葉。

J2全体が注目する九十分が、いよいよ幕を開けようとしていた。