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第181話〜第200話

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第181話〜第200話

## 第181話 同じ匂い

夕日がゆっくりと沈み始める。

オランダのグラウンドには、静かな風だけが吹いていた。

八幡はボールを拾い上げる。

「今日はありがとうございました。」

塩川も立ち上がり、軽く頭を下げた。

「こちらこそ。」

「久しぶりに本気で一対一ができました。」

「すごく楽しかったです。」

八幡は少し笑う。

「それなら良かった。」

すると塩川が、少し照れくさそうに笑った。

「正直。」

「比企谷さんの話を聞いて。」

「少し親近感が湧きました。」

八幡が首を傾げる。

「親近感?」

「はい。」

塩川は遠くのゴールを見つめながら話し始めた。

「俺も。」

「高校までは誰にも期待されませんでした。」

「プロなんて無理だって。」

「何度も言われました。」

「だから卒業して。」

「オランダへ行くって言った時も。」

『絶対無理だ。』

『帰ってくるだけだ。』

『時間と金の無駄だ。』

「散々言われました。」

苦笑する。

「でも。」

「どうしても諦められなかった。」

八幡は静かに聞いていた。

「だから。」

「トライアルを受け続けました。」

「何回落ちても。」

「また次。」

「また次。」

「それしか考えてなかったです。」

少し笑う。

「今思えば。」

「無謀でしたけど。」

八幡も小さく笑った。

「無謀だからこそ。」

「ここまで来られたんじゃないですか。」

塩川は驚いたように八幡を見る。

「そうかもしれません。」

「普通なら。」

「途中で帰国してますから。」

しばらく沈黙が流れる。

ペーターは二人のやり取りを少し離れた場所で見守っていた。

(似ている。)

そう思った。

歩んだ道は違う。

一人は日本でようやく才能を見出された男。

もう一人は日本で見向きもされず、自ら海を渡った男。

それでも。

二人には共通するものがあった。

**誰にも期待されなくても、自分だけは諦めなかったこと。**

ペーターは静かに微笑む。

(だから比企谷は。)

(この選手が気になったのか。)

能力だけではない。

数字だけでもない。

自分と同じように、逆境の中で這い上がってきた人間だから。

八幡は腕時計を見る。

「そろそろ失礼します。」

塩川も頷いた。

「はい。」

「今日はありがとうございました。」

二人は握手を交わす。

「また。」

塩川が言う。

「どこかで会えるといいですね。」

八幡は少しだけ笑った。

「そうですね。」

「縁があれば。」

短い言葉だった。

しかし、その言葉には含みがあった。

エストレヤ千葉へ来る可能性。

それとも、別の舞台で再会する可能性。

今は誰にも分からない。

八幡はペーターとともにグラウンドを後にする。

歩きながら、一度だけ振り返った。

そこには。

誰もいなくなったグラウンドで、再びボールを蹴り始める塩川康文の姿があった。

「……。」

八幡は何も言わない。

ただ静かに、その姿を見つめる。

そして心の中で、一つだけ呟いた。

(やっぱり。)

(最後までボールを蹴るか。)

その姿に、かつて公園で日が暮れるまで一人ボールを追い続けた、自分自身の面影が重なって見えた。

## 第182話 部下からの報告

オランダ。

ホテルへ戻る途中。

夕暮れの街並みを歩いていた八幡のスマートフォンが震えた。

画面を見る。

**エストレヤ千葉 国内スカウト部**

部下からの国際電話だった。

八幡はすぐに通話ボタンを押す。

「比企谷です。」

『お疲れ様です。』

『今、お時間大丈夫でしょうか。』

「大丈夫です。」

「何か分かりましたか。」

電話の向こうで一呼吸置く。

『はい。』

『塩川康文選手についてです。』

八幡は歩みを止めた。

「お願いします。」

---

『幼少期の医療記録までは確認できませんでした。』

『ただ、ご家族や当時を知る関係者から話を聞けました。』

「……。」

『塩川選手は幼い頃、病気を患っています。』

八幡は静かに聞き続ける。

『命に関わる病気ではありません。』

『現在も日常生活に大きな支障はありません。』

『もちろん、プロサッカー選手としてプレーできる程度まで回復しています。』

「……そうですか。」

『ですが。』

部下の声色が少し変わる。

『後遺症が一つだけ残ったそうです。』

八幡の表情が引き締まる。

「何ですか。」

『視野です。』

『一般的な人より、視野が狭いそうです。』

ホテルへ向かう足が止まる。

八幡は静かに目を閉じた。

「やっぱり……。」

『お気付きでしたか?』

「試合映像で違和感がありました。」

「逆サイドへの展開。」

「外側から入ってくる味方への反応。」

「視界の端の情報だけ、処理が遅れていました。」

『それで現地へ行かれたんですね。』

「はい。」

八幡は昼間の練習を思い出す。

誰よりも首を振る。

誰よりも周囲を確認する。

ボールを受ける前に、何度も情報を集めていた。

「あれは。」

「癖じゃなかった。」

「弱点を補うための努力だったんですね。」

『関係者の方も同じことを話していました。』

『塩川選手は子どもの頃から、自分の視野の狭さを理解していて。』

『プロになってからも、首を振る回数を人一倍増やしたり、プレー前の確認を徹底しているそうです。』

八幡は静かに頷く。

「納得しました。」

「今日の練習でも。」

「ボールが来る前の確認回数だけ、他の選手より明らかに多かった。」

---

『あともう一点あります。』

「何でしょう。」

『日本では、この後遺症を理由に獲得を見送ったクラブもあったそうです。』

八幡は少しだけ目を伏せた。

「……そうですか。」

『ですが。』

『本人はそのことを一度も言い訳にしたことはないそうです。』

『"見えないなら、見えるように工夫するだけです。"』

『そう話していた、と。』

電話の向こうが静かになる。

八幡も何も言わなかった。

しばらくして、小さく口を開く。

「ありがとうございます。」

「十分です。」

『今後も追加で分かったことがあれば、ご報告します。』

「お願いします。」

通話が切れる。

ホテルの前。

八幡は立ち止まり、オランダの夕空を見上げた。

「見えないことを。」

「努力で補ってきたか……。」

昼間、一人で黙々とドリブル練習を続けていた塩川の姿が頭に浮かぶ。

誰もいなくなっても練習を続ける。

誰よりも首を振る。

誰よりも準備をする。

八幡は静かに呟いた。

「能力じゃない。」

「積み重ねてきた努力が、今の塩川康文を作ったんだな。」

そう言うと、ホテルの自動ドアをくぐり、翌日の視察に向けて再び資料を開くのだった。

第183話 二日目の視察

翌朝。

オランダ。

午前九時。

ホテルを出た八幡は、ペーターの車に乗り込み、塩川の所属クラブへ向かっていた。

車内は静かだった。

助手席に座る八幡は、タブレットで昨日まとめた分析資料を見返している。

---

**塩川康文**

26歳。

左サイドハーフ。

右利き。

---

**長所**

・高い基礎技術

・運動量

・守備意識

・右足でのカットイン

・クロス精度

・精神力

---

**課題**

・視野に制約あり

・逆サイドへの展開判断

・視界外からのプレス対応

---

その一番下には、新しく一文が追加されていた。

**『弱点を理解し、自ら工夫して補っている。』**

---

ペーターが運転しながら話しかける。

「今日は何を見ます?」

八幡は資料を閉じた。

「昨日は。」

「個人を見ました。」

「今日は。」

「チームの中での塩川を見ます。」

「なるほど。」

「仲間との関係。」

「監督からの指示。」

「味方が塩川をどう使っているか。」

「そこを確認したいです。」

ペーターは感心したように笑う。

「普通のスカウトなら。」

「ドリブルやゴールだけ見て終わります。」

八幡は首を横に振る。

「サッカーは一人でやる競技じゃありません。」

「周りとの関係性も能力の一つです。」

---

三十分後。

クラブのトレーニング施設へ到着する。

昨日と同じグラウンド。

しかし。

今日は少し早く着いたため、選手はまだ数人しか来ていなかった。

その中に。

一人。

もう汗を流している選手がいた。

八幡は自然と目を細める。

「……いた。」

塩川康文だった。

正式な練習開始までは、まだ二十分以上ある。

それでも一人でランニングを終え、ボールを使った基礎練習を始めている。

インサイド。

アウトサイド。

トラップ。

ターン。

左右の切り返し。

どれも派手ではない。

だが、一つ一つが非常に丁寧だった。

ペーターが時計を見る。

「いつもですよ。」

「彼は誰よりも早く来ます。」

八幡は黙ったまま、その姿を見つめる。

昨日の夜。

国内スカウトから聞いた言葉が頭をよぎる。

**『視野が、一般的な人より狭い。』**

だからこそ。

誰よりも準備する。

誰よりも確認する。

誰よりも練習する。

その積み重ねが、今の塩川康文を作っている。

---

やがて選手たちが集まり始める。

塩川は自主練を止めると、笑顔でチームメイトへ声を掛けた。

オランダ語で冗談を言う。

周囲から笑いが起こる。

八幡はその様子も静かに観察していた。

「……。」

ペーターが小さく笑う。

「昨日より静かですね。」

「今日は。」

八幡は視線を外さず答えた。

「プレー以外も見たいので。」

「どんな選手か。」

「じゃなく。」

「どんな人間か。」

その言葉に、ペーターは納得したように頷いた。

間もなく監督の笛が鳴る。

二日目の視察が、静かに始まった。

第184話 スポンサーという現実

練習が始まった。

八幡は昨日と同じように、グラウンド脇から塩川康文だけを追い続ける。

ボールを持った時。

持っていない時。

味方への声掛け。

監督の指示への反応。

一つも見逃さない。

その横でペーターが静かに立っていた。

---

しばらくすると、一人のクラブスタッフが近付いてきた。

「こんにちは。」

ペーターが紹介する。

「クラブのフロントスタッフです。」

八幡は握手を交わした。

「エストレヤ千葉の比企谷です。」

「本日はありがとうございます。」

「こちらこそ。」

スタッフは笑顔で応じた。

---

八幡はグラウンドでプレーする塩川を見ながら、静かに尋ねる。

「一つ、お聞きしたいことがあります。」

「はい。」

「塩川選手とは契約更新されないんですか。」

スタッフの笑顔が少しだけ曇った。

「……ご存じでしたか。」

「契約が今季までだったことは。」

八幡は頷く。

「はい。」

「ただ。」

「半年残っているという認識でした。」

スタッフは首を横に振る。

「日本とは少し違います。」

「こちらは夏前にリーグが終わります。」

「今はシーズンオフです。」

「つまり。」

「塩川との契約は、もう終了しています。」

八幡は静かに頷いた。

「ということは。」

「今は。」

「施設を使わせてもらっている立場ですね。」

スタッフは少し驚いた表情を見せる。

「その通りです。」

「契約はありません。」

「ですが。」

「本人が身体を維持できるよう、クラブとして練習施設だけは開放しています。」

---

八幡は再び塩川を見る。

汗を流しながら、誰よりも走っている。

もう契約選手ではない。

それでも。

誰よりも真剣だった。

---

「更新しなかった理由を伺っても?」

八幡が聞く。

スタッフは少し考えてから話し始めた。

「実は。」

「今シーズンから。」

「新しいメインスポンサーが入りました。」

「スポンサーの意向です。」

八幡は黙って聞く。

「スポンサーとしては。」

「地元オランダ人選手を、もっと起用してほしい。」

「そう強く求められました。」

「……。」

「外国籍選手の整理も、その一環です。」

---

ペーターも小さくため息をつく。

「経営判断ですね。」

「はい。」

スタッフは苦笑した。

「塩川は日本人です。」

「プレーに不満があったわけではありません。」

「素行も問題ありません。」

「監督からの評価も高かった。」

「ですが。」

「スポンサーには勝てませんでした。」

---

八幡は静かに尋ねる。

「クラブとしては。」

「残したかった?」

スタッフは迷わず答えた。

「もちろんです。」

「このクラブの人間で。」

「塩川に残ってほしくないと思っている人はいません。」

「監督も。」

「コーチも。」

「選手も。」

「フロントも。」

「全員です。」

少しだけ笑う。

「でも。」

「スポンサーはクラブの命綱です。」

「経営が成り立たなければ。」

「チームそのものが存在できません。」

---

八幡は何も言わなかった。

ただ。

その言葉を静かに受け止める。

サッカーはピッチの上だけではない。

経営。

スポンサー。

地域。

様々な事情が絡み合っている。

それは日本でも、海外でも変わらない。

---

スタッフはグラウンドを見つめながら、小さく呟いた。

「だからこそ。」

「もし。」

「彼を必要としてくれるクラブがあるなら。」

「私たちは心から応援します。」

八幡はゆっくりと頷く。

「……そうですか。」

その視線の先では。

塩川康文が何事もなかったかのように、仲間たちと汗を流し続けていた。

彼はまだ知らない。

自分の未来を見つめるため、日本から来た一人の分析官が、今日もそのプレーを静かに見つめていることを。

## 第185話 現地スカウトの評価

クラブスタッフがその場を離れる。

練習はまだ続いていた。

塩川康文は何事もなかったように左サイドを走り続けている。

八幡はしばらく無言でその姿を見つめていた。

やがて、隣に立つペーターへ視線を向ける。

「一つ。」

「聞いてもいいですか。」

ペーターは頷いた。

「もちろんです。」

八幡は率直に尋ねた。

「あなたなら。」

「塩川康文をどう評価しますか。」

「現地で何年も見てきた意見を聞きたいです。」

ペーターはすぐには答えなかった。

グラウンドでプレーする塩川を見つめながら、ゆっくり口を開く。

「まず。」

「人間性は申し分ありません。」

「時間に遅れたことは一度もありません。」

「誰よりも早く来る。」

「誰よりも遅く帰る。」

「練習を嫌がったこともない。」

「監督の指示に文句を言うこともない。」

「若手にも慕われています。」

八幡はメモを取る。

「性格面は問題なし。」

「はい。」

ペーターは続けた。

「技術もあります。」

「ボールを失わない。」

「クロスも正確。」

「守備も怠らない。」

「九十分間走り続けられる。」

「監督からすれば。」

「非常に計算しやすい選手です。」

八幡は静かに頷いた。

そこまでは、自分の分析と一致している。

「ですが。」

ペーターの表情が少しだけ変わる。

「スターではありません。」

「……。」

「試合を一人で決めるタイプではない。」

「毎試合ゴールを決めるわけでもない。」

「観客を熱狂させるドリブラーでもない。」

「ですが。」

「監督は。」

「こういう選手を好みます。」

八幡は興味深そうに聞いていた。

「なぜですか。」

「計算できるからです。」

ペーターは即答した。

「良い意味でも。」

「悪い意味でも。」

「毎試合、同じくらいの力を出せます。」

「大きく崩れません。」

「だから。」

「シーズンを通して考えると。」

「非常に価値があります。」

八幡は静かにメモを書き加えた。

**『試合ごとのパフォーマンスが安定している』**

ペーターはさらに続ける。

「ただ。」

「私なら。」

「左サイドハーフだけでは使いません。」

八幡が顔を上げる。

「と言いますと?」

「右利きです。」

「中へ入るのが得意です。」

「なら。」

「試合によってはインサイドハーフ。」

「あるいは攻撃的なボランチでも試したい。」

八幡は少し驚いた。

「ボランチですか。」

「ええ。」

「守備をサボりません。」

「パスも出せます。」

「運動量もある。」

「視野の問題はあります。」

「ですが。」

「役割を整理すれば。」

「十分可能性はあります。」

八幡はしばらく考え込む。

自分は左サイドハーフとしてしか見ていなかった。

しかし。

現地で何年も見続けてきたスカウトは、別の可能性を見ていた。

「なるほど……。」

ペーターは笑った。

「もちろん。」

「万能ではありません。」

「弱点はあります。」

「でも。」

「弱点を理解して。」

「工夫しながら八年間戦ってきた。」

「そういう選手は。」

「新しい役割も受け入れることが多いんです。」

八幡は塩川を見る。

その姿は、今日も黙々と走り続けていた。

「最後に一つ。」

八幡が尋ねる。

「あなたがJ2クラブのスカウトなら。」

「獲得しますか。」

ペーターは迷わなかった。

「します。」

短い答えだった。

「J2なら。」

「十分に戦力になります。」

「派手ではありません。」

「ですが。」

「一年を通して。」

「必ずチームの力になる選手です。」

八幡は静かに頷く。

「ありがとうございます。」

その一言だけ返し、再びグラウンドへ目を向けた。

塩川康文。

評価は少しずつ固まり始めていた。

だが、比企谷八幡はまだ結論を出さない。

最後まで見て。

最後まで話して。

それから決める。

それが、彼のスカウトとしての信念だった。

## 第186話 結論

練習が終わった。

塩川はチームメイトやスタッフ一人ひとりと笑顔で話しながらクラブハウスへ戻っていく。

その背中を、八幡は静かに見送っていた。

---

「……どうですか。」

ペーターが隣へ立つ。

八幡はすぐには答えない。

昨日。

今日。

試合映像。

三部時代。

二部昇格後。

今シーズン。

一対一。

練習。

クラブスタッフ。

本人。

そして国内スカウトからの調査報告。

頭の中で、すべてを整理する。

---

数十秒後。

八幡は静かに口を開いた。

「結論は出ました。」

ペーターは八幡を見る。

「聞かせてもらえますか。」

八幡はグラウンドを見つめたまま話し始めた。

「技術。」

「十分です。」

「運動量。」

「十分。」

「守備意識。」

「高い。」

「人間性。」

「問題なし。」

「精神力。」

「非常に高い。」

「視野には制約があります。」

「ですが。」

「本人は、それを理解し。」

「八年間。」

「努力と工夫で補い続けてきました。」

---

ペーターは静かに頷く。

「同感です。」

---

八幡は続ける。

「俺の評価では。」

「J2の戦力。」

「ではありません。」

ペーターが少し驚く。

「……。」

「J1でも通用します。」

短く。

しかし迷いのない言葉だった。

---

「派手な選手ではありません。」

「ゴールを量産するタイプでもない。」

「ですが。」

「監督が求める役割を理解し。」

「九十分間。」

「走り続ける。」

「攻守をサボらない。」

「こういう選手は。」

「カテゴリーが上がっても価値は落ちません。」

---

ペーターは小さく笑った。

「そこまで評価しますか。」

「はい。」

八幡は即答する。

「むしろ。」

「J1の組織的なサッカーの方が。」

「力を発揮できる可能性があります。」

---

「なるほど。」

ペーターは腕を組む。

「役割が明確になるほど。」

「彼の長所が生きる。」

「その通りです。」

---

八幡は最後にもう一度、練習場を見渡した。

「獲得したい。」

その一言には迷いがなかった。

「エストレヤ千葉に必要な選手です。」

---

ペーターが微笑む。

「では。」

「帰国後すぐに交渉ですか。」

八幡は首を横に振る。

「まだです。」

「まず。」

「首脳陣へ報告します。」

「映像。」

「分析。」

「現地視察。」

「調査結果。」

「全部説明した上で。」

「最終判断を仰ぎます。」

---

ペーターは納得したように頷いた。

「比企谷らしいですね。」

「自分一人で決めない。」

八幡は小さく笑う。

「補強は。」

「クラブ全体の仕事ですから。」

---

その日の夕方。

ホテルへ戻った八幡はノートパソコンを開く。

新しい報告書を作成する。

件名。

**『オランダ視察報告書 塩川康文』**

評価欄には、これまでで最も高い判定が入力された。

---

**総合評価:A**

**獲得推奨**

---

その下には、一文だけ。

**『J2トップクラスの即戦力。将来的にはJ1でも十分通用する能力を有する。獲得を強く推奨する。』**

八幡はファイルを保存した。

あとは、日本へ帰り、エストレヤ千葉首脳陣へこの報告書を提出するだけだった。

## 第187話 視野を広く

オランダ。

スキポール空港。

出発ロビー。

搭乗時刻まであと三十分。

八幡は搭乗口近くの椅子へ座り、最後に報告書を見直していた。

内容に誤りはない。

現地視察。

試合映像。

練習。

本人との会話。

クラブスタッフ。

ペーターの評価。

国内スカウトの調査。

すべて整理されている。

その時だった。

「ヒキガヤ。」

ペーターがコーヒーを二つ持って戻ってきた。

「ありがとうございます。」

八幡は一つ受け取る。

しばらく二人は無言でコーヒーを飲んでいた。

やがてペーターが笑う。

「今回は。」

「収穫はありましたか?」

八幡は頷く。

「十分ありました。」

「塩川だけじゃありません。」

「オランダの育成。」

「クラブ運営。」

「全部勉強になりました。」

ペーターは満足そうに笑う。

「それは良かった。」

八幡はコーヒーを置き、静かに口を開いた。

「でも。」

「一つだけ。」

「お願いがあります。」

「何でしょう?」

八幡は真っ直ぐペーターを見る。

「オランダだけを見ないでください。」

「……。」

「ベルギー。」

「ドイツ。」

「デンマーク。」

「スウェーデン。」

「ノルウェー。」

「フィンランド。」

「周辺国にも。」

「目を向けてください。」

ペーターは苦笑した。

「仕事が増えますね。」

「増えます。」

八幡も笑う。

「でも。」

「良い選手は。」

「リーグを選びません。」

「国も選びません。」

「俺は。」

「そう思っています。」

ペーターは肩をすくめる。

「君らしい。」

「普通なら。」

「担当国だけ見れば十分だと言う。」

「君は違う。」

八幡は少し笑う。

「スカウトは。」

「視野が狭くなったら終わりです。」

「選手を見る前に。」

「自分たちが視野を広く持たないと。」

その言葉に。

ペーターは思わず笑ってしまった。

「ははは。」

「昨日。」

「塩川の視野の話をしていたばかりなのに。」

「今度は私の視野か。」

八幡も少しだけ笑う。

「そういうことです。」

「分かりました。」

ペーターは頷く。

「ベルギーにも。」

「ドイツにも。」

「顔を出してみます。」

「お願いします。」

「君が言うなら。」

「何か見つかる気がします。」

搭乗案内が流れ始める。

日本行きの便だった。

八幡は立ち上がる。

「では。」

「今回はありがとうございました。」

ペーターも手を差し出した。

「こちらこそ。」

「また。」

「面白い選手を見つけたら連絡します。」

八幡はその手をしっかり握る。

「期待しています。」

「エストレヤ千葉は。」

「世界中がスカウトエリアですから。」

ペーターは笑いながら首を振る。

「本当に。」

「君は欲張りな分析官だ。」

「褒め言葉として受け取ります。」

二人は最後に笑い合った。

八幡は搭乗口へ向かう。

パスポートを提示し、機内へ入る。

窓際の席へ座ると、小さく息を吐いた。

機体がゆっくりと滑走路へ向かう。

窓の外には、オランダの街並みが広がっていた。

「……次は。」

八幡はノートパソコンを開く。

画面には一つの予定。

**『エストレヤ千葉 補強会議』**

その横には。

**塩川康文 獲得推奨**

という文字が並んでいる。

「あとは。」

「みんなを説得するだけだ。」

飛行機はゆっくりと加速する。

そして大空へ舞い上がった。

比企谷八幡は、新たな戦力候補という大きな成果を胸に、日本への帰路についた。

## 第188話 視察報告会議

翌日。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

午後一時。

八幡は空港からそのままクラブへ戻ってきた。

荷物を分析室へ置くと、スーツを整え、そのまま会議室へ向かう。

時差の疲れは残っている。

しかし、その表情に疲労は見せなかった。

---

会議室。

すでに全員が揃っている。

社長・鈴木一朗太。

強化部長・佐藤智成。

GM・竹内正樹。

監督・マルコ・ベッルーニ。

ヘッドコーチ・中村敏三郎。

GKコーチ・田島雍也。

フィジカルコーチ・ルイス・マルティネス。

セットプレーコーチ・山本恭三郎。

八幡が席へ座る。

佐藤が口を開いた。

「お帰り。」

「早速だが。」

「報告を頼む。」

「はい。」

---

部屋の照明が少し落ちる。

大型モニターが点灯した。

表紙には大きく。

**オランダ視察報告書**

その下に。

**対象選手 塩川康文**

と表示される。

---

八幡は静かに話し始めた。

「今回。」

「オランダで三日間視察を行いました。」

「試合映像だけではなく。」

「練習。」

「本人。」

「クラブスタッフ。」

「現地担当スカウト。」

「すべて確認しました。」

---

マルコが頷く。

「結論から聞こう。」

八幡は迷わず答えた。

「獲得を推奨します。」

部屋が静まり返る。

---

竹内GMが腕を組む。

「そこまで評価する理由は?」

八幡はリモコンを操作した。

モニターにはプレー映像が流れる。

左サイド。

右足で中へ切れ込む。

味方とのワンツー。

クロス。

守備への切り替え。

九十分間走り続ける姿。

一本ずつ映像を止めながら説明する。

「派手な選手ではありません。」

「一人で試合を決めるタイプでもありません。」

「ですが。」

「九十分。」

「役割を遂行できます。」

---

「攻撃。」

「守備。」

「切り替え。」

「運動量。」

「どれも高い水準です。」

---

続いてホワイトボードへ評価を書いていく。

---

**技術 A**

**守備 A**

**運動量 S**

**人間性 S**

**戦術理解度 A**

**精神力 S**

---

竹内が頷く。

「かなり高評価だな。」

「はい。」

---

佐藤が尋ねる。

「弱点は?」

八幡はすぐ答えた。

「あります。」

モニターが切り替わる。

視野の説明だった。

「幼少期の病気による後遺症で。」

「一般的な選手より視野が狭いです。」

部屋が静かになる。

田島GKコーチも驚いた表情を見せた。

「プロとして問題になるレベルか?」

「いいえ。」

八幡は首を横に振る。

「オランダ二部でレギュラーとして戦えています。」

「本人も。」

「その弱点を理解しています。」

「首を振る回数。」

「プレー前の確認。」

「すべて人一倍です。」

---

マルコが静かに聞く。

「つまり。」

「努力で補っている。」

「はい。」

八幡は頷く。

「八年間。」

「オランダで。」

「努力し続けています。」

---

竹内が口を開いた。

「カテゴリーはどう見る?」

八幡は迷わなかった。

「J2ではありません。」

部屋の空気が変わる。

「俺の評価では。」

「J1でも十分通用する能力があります。」

その一言に、全員の視線が八幡へ集まる。

---

マルコは静かに笑った。

「そこまで言うか。」

「はい。」

「能力だけなら。」

「J1クラブが獲得しても不思議ではありません。」

「今回。」

「契約満了となった理由は。」

「実力ではありません。」

「スポンサーの意向です。」

「クラブ関係者も。」

「全員。」

「残ってほしかったと言っていました。」

---

佐藤は資料を閉じた。

「つまり。」

「実力で放出された選手ではない。」

「そういうことだな。」

「はい。」

---

八幡は最後のスライドを映す。

そこには一行だけ。

---

**総合評価 A**

**獲得推奨**

---

「以上です。」

「現時点では。」

「獲得を強く推奨します。」

説明を終えた八幡は静かに席へ座った。

会議室には沈黙が流れる。

首脳陣は全員、資料を見つめながら、それぞれの考えを巡らせていた。

塩川康文。

その名前が、エストレヤ千葉の補強候補として、本格的に議論される時が始まろうとしていた。

## 第189話 満場一致

八幡の説明が終わる。

会議室は静まり返っていた。

大型モニターには、最後のスライドだけが映っている。

**総合評価 A**

**獲得推奨**

---

最初に口を開いたのは、マルコ・ベッルーニ監督だった。

「私は。」

一呼吸置く。

「欲しい。」

迷いのない一言だった。

---

「森川は。」

「今の左サイドに欠かせない存在だ。」

「だが。」

「シーズンは長い。」

「連戦もある。」

「代表招集もある。」

「コンディションを考えれば。」

「休ませる試合は必ず必要になる。」

監督はモニターに映る塩川の映像を見つめる。

「塩川なら。」

「森川とは違う形で左サイドを任せられる。」

「相手によって使い分けられる。」

---

八幡は静かに頷いた。

「はい。」

「タイプが違います。」

「だからこそ。」

「戦術の幅が広がります。」

---

マルコはホワイトボードへ歩く。

左サイドを書きながら説明した。

「葉山。」

「高山。」

「左SBは二人。」

「そして。」

「森川。」

「塩川。」

「左SHも二人。」

四人の名前を書き込む。

「これだけで。」

「組み合わせは四通りになる。」

---

「葉山と森川。」

「攻撃的。」

「押し込む試合向き。」

---

「葉山と塩川。」

「葉山が幅を取り。」

「塩川が中へ入る。」

「崩し方が増える。」

---

「高山と森川。」

「守備の安定感を残しつつ。」

「森川を自由に動かせる。」

---

「高山と塩川。」

「守備を固めながら。」

「カウンターにも対応できる。」

---

マルコはペンを置いた。

「一人加入するだけで。」

「戦術がここまで増える。」

「私は。」

「非常に魅力的だと思う。」

---

中村ヘッドコーチも頷く。

「賛成です。」

「森川への負担も減らせる。」

「後半戦は連戦になる。」

「競争も生まれる。」

---

フィジカルコーチのルイスも口を開いた。

「森川の運動量は多い。」

「疲労管理の面でも。」

「ローテーションできる選手は必要だ。」

---

セットプレーコーチ山本も頷く。

「左利きではないが。」

「右足のキック精度は高い。」

「セットプレーでも選択肢になる。」

---

田島GKコーチは笑った。

「GKじゃないから専門外だが。」

「こういう真面目な選手は。」

「チームに良い影響を与える。」

「反対する理由はない。」

---

竹内GMが腕を組む。

「社長。」

「私は賛成です。」

「契約満了。」

「移籍金も発生しない。」

「条件としても悪くない。」

---

佐藤強化部長も資料を閉じた。

「私も同じ意見です。」

「八幡が。」

「ここまで高く評価する外国組の選手は珍しい。」

「信頼していいだろう。」

---

最後に。

全員の視線が社長・鈴木一朗太へ集まる。

鈴木はゆっくりと頷いた。

「反対意見はないな。」

誰一人として口を開かなかった。

「よし。」

「満場一致だ。」

「塩川康文。」

「獲得交渉を開始する。」

会議室の空気が変わる。

八幡は静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。」

鈴木は穏やかに笑う。

「礼はまだ早い。」

「交渉はこれからだ。」

「契約を結んで初めて補強は成功と言える。」

八幡も小さく笑った。

「その通りです。」

「では。」

「今日中に代理人へ連絡します。」

「まずは交渉の席を作ります。」

その言葉に首脳陣全員が頷いた。

オランダで見つけた一人の日本人選手。

その獲得へ向けて、エストレヤ千葉は正式に動き始めた。

## 第190話 次の候補

塩川康文の獲得方針が決まり、会議室の空気が少し和らぐ。

竹内GMが資料を閉じようとした、その時だった。

佐藤強化部長が八幡を見る。

「比企谷。」

「次は国内組だったな。」

八幡は頷いた。

「はい。」

「一人、国内スカウトが面白い選手を見つけています。」

リモコンを操作する。

モニターが切り替わった。

---

**国内スカウト推薦選手**

**カテゴリー:J1**

**年齢:20歳**

**日本人**

---

マルコが少し身を乗り出す。

「若いな。」

「はい。」

「まだ二十歳です。」

---

さらに資料が切り替わる。

**主戦場 DMF**

**対応可能ポジション**

・右サイドハーフ

・左サイドハーフ

・右サイドバック

・左サイドバック

---

ルイスが思わず口を開く。

「五ポジション?」

「はい。」

「全部公式戦で経験があります。」

八幡は映像を流し始めた。

---

J1の試合。

ボランチで先発。

中盤の底からテンポよくボールを散らす。

危険な場所へ顔を出し。

相手のパスコースを切る。

派手なプレーはない。

しかし。

ボールが落ち着く。

「……。」

マルコは黙って見ていた。

---

映像が切り替わる。

今度は右サイドハーフ。

縦へ突破するわけではない。

味方を使い。

自分も動く。

攻撃のリズムを作る。

---

さらに別の試合。

左サイドバック。

一対一を冷静に対応する。

無理に飛び込まない。

簡単に奪う。

---

田島が腕を組む。

「器用だな。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「万能型です。」

「ただ。」

「何でもできる。」

「というより。」

「何をやらせても平均以上です。」

---

マルコが映像を見ながら呟く。

「バランサーか。」

「その通りです。」

八幡は少し笑った。

「派手な選手ではありません。」

「試合の流れを整えるタイプです。」

---

「今の千葉には。」

八幡はホワイトボードへ名前を書いた。

戸塚。

エミリオ。

森川。

川崎。

「攻撃に特徴のある選手はいます。」

「ですが。」

「こういう。」

「全体のバランスを取れる万能型は少ない。」

---

中村ヘッドコーチも頷く。

「確かに。」

「サイドへ回しても。」

「ボランチへ戻しても使える。」

---

竹内GMが資料をめくる。

そこで手が止まった。

「……ん?」

「比企谷。」

「これ。」

「本当か?」

八幡は静かに頷く。

「俺も最初。」

「見間違いかと思いました。」

---

モニターに一行だけ映る。

**契約解除金(バイアウト)**

**非常に低額**

---

会議室がざわついた。

佐藤が思わず身を乗り出す。

「J1の二十歳で。」

「この金額?」

「はい。」

「異常に安いです。」

---

マルコが眉をひそめる。

「何か理由がある。」

「俺もそう考えました。」

八幡は資料を切り替える。

「国内スカウトに。」

「徹底的に調査させました。」

---

結果。

怪我歴。

大きな問題なし。

素行。

問題なし。

練習態度。

非常に真面目。

チームメイトからの評価。

高い。

監督からの評価。

悪くない。

---

「礼儀も正しい。」

「素行も問題なし。」

「トラブル歴もありません。」

「じゃあ。」

竹内が腕を組む。

「なぜ安い。」

---

八幡は静かに答えた。

「理由は一つです。」

モニターが切り替わる。

---

**契約締結時**

**低額バイアウト条項付き**

---

部屋が静まり返る。

「契約更新前。」

「若い頃に結んだ契約です。」

「当時は。」

「ここまで成長すると思われていなかった。」

「そのため。」

「低い金額でバイアウト条項が設定されました。」

---

佐藤が思わず息を吐く。

「なるほど……。」

「完全に。」

「契約の穴だな。」

「はい。」

八幡は頷いた。

「今となっては。」

「クラブ側も後悔しているでしょう。」

「ですが。」

「契約は契約です。」

---

マルコは再び映像を見る。

ボランチ。

右サイド。

左サイド。

左右SB。

どこへ入っても、大きく崩れない。

「……面白い。」

監督が静かに呟く。

「塩川とは。」

「また違うタイプだ。」

八幡は頷く。

「はい。」

「だからこそ。」

「次は、この選手を詳しく分析したいと思います。」

会議室の全員が、再びモニターへ視線を向けた。

次の補強候補。

J1で静かに評価を高めている、20歳の万能型プレーヤー。

その本格的な分析が、ここから始まろうとしていた。

第191話 最初に手を差し伸べたクラブ

一週間後。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

会議室。

八幡のスマートフォンが震えた。

画面には代理人の名前。

八幡はすぐに電話へ出る。

「比企谷です。」

『お世話になっております。』

『ご報告があります。』

八幡は静かに立ち上がり、窓際へ歩く。

「お願いします。」

代理人の声が聞こえた。

『契約条件。』

『本人との話し合い。』

『所属クラブとの最終確認。』

『すべてまとまりました。』

一拍。

『笹森正義選手。』

『エストレヤ千葉への完全移籍で合意しました。』

八幡は静かに目を閉じた。

「ありがとうございます。」

『正式発表の準備へ入ります。』

「よろしくお願いします。」

通話が終わる。

その直後。

八幡は会議室へ戻った。

全員が八幡を見る。

竹内GMが口を開く。

「決まったか?」

八幡は静かに頷く。

「はい。」

「笹森正義。」

「完全移籍で加入します。」

会議室に拍手が響いた。

---

数時間後。

クラブ公式サイト。

SNS。

一斉に発表された。

---

## エストレヤ千葉 新加入のお知らせ

**笹森 正義(ささもり まさよし)**

**年齢**

20歳

**誕生日**

5月30日

**利き足**

両足

**ポジション**

DMF

※右SH・左SH・右SB・左SBでもプレー可能

---

加入会見。

ユニフォームを手にした笹森が笑顔で写真撮影を終える。

記者から質問が飛ぶ。

「複数クラブから興味を示されていたと聞いています。」

「なぜエストレヤ千葉だったのでしょうか。」

笹森は迷わず答えた。

「一番最初に声を掛けてくれたクラブだったからです。」

会場が静かになる。

笹森は続けた。

「昨年、契約を更新した時は。」

「ここまで自分が成長できるとは、自分自身も思っていませんでした。」

「その時に設定した契約解除金も。」

「今となっては低すぎる金額になってしまいました。」

少し苦笑する。

「クラブには感謝しています。」

「でも。」

「自分はもっと成長したい。」

「もっと上を目指したいと思っていました。」

記者が尋ねる。

「移籍は以前から考えていた?」

笹森は素直に頷いた。

「はい。」

「もし移籍するなら。」

「最初に本気で評価してくれたクラブへ行こう。」

「そう決めていました。」

「その最初のクラブが。」

「エストレヤ千葉でした。」

---

記者席。

八幡は会見の様子を静かに見守っていた。

竹内GMが小さく笑う。

「比企谷。」

「最初に動いた価値があったな。」

八幡も静かに頷く。

「選手は。」

「評価されたことを忘れません。」

「早く動いて正解でした。」

マルコ監督は新しい背番号入りのユニフォームを見る。

「これで。」

「中盤の選択肢がまた増えた。」

八幡はホワイトボードへ新たな名前を書き加える。

**DMF**

* 戸塚彩加

* エミリオ・アルバレス

* 中田正和

* **笹森正義**

その名前を見つめながら、小さく呟いた。

「ようこそ。」

「エストレヤ千葉へ。」

新たな戦力が加わり、後半戦へ向けたエストレヤ千葉の戦力は、さらに厚みを増していくのだった。

## 第192話 受け継ぐ背番号

加入会見が終わった後。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

会議室。

笹森正義も席に着いていた。

テーブルにはユニフォームが数枚並べられている。

社長の鈴木一朗太が口を開いた。

「笹森君。」

「最後に。」

「背番号を決めよう。」

笹森は姿勢を正した。

「よろしくお願いします。」

---

竹内GMが資料を開く。

「現在、空いている番号はいくつかある。」

「希望はあるか?」

笹森は少し考えてから首を横に振った。

「特にありません。」

「クラブにお任せします。」

その返答に佐藤強化部長が笑う。

「礼儀正しいな。」

笹森は少し照れくさそうに頭を下げた。

---

マルコ監督が八幡を見る。

「比企谷。」

「君はどう思う?」

八幡はホワイトボードへ歩き、現在の背番号一覧を眺めた。

そして、一つの番号を指差す。

「三番です。」

部屋の視線が集まる。

竹内GMが頷く。

「万条が付けていた番号か。」

「はい。」

八幡は静かに続けた。

「空いたままにする理由はありません。」

「笹森なら。」

「十分に背負えると思います。」

---

マルコも微笑む。

「私も賛成だ。」

「三番は。」

「DMFだけでなく。」

「サイドバックでもプレーできる君には似合う。」

「万能型という意味でもな。」

---

佐藤も頷いた。

「異論なし。」

「社長。」

鈴木は笹森へ視線を向ける。

「笹森君。」

「背番号3。」

「受け取ってくれるか?」

笹森は一瞬驚いた表情を見せた。

すぐに立ち上がる。

「はい。」

「よろしくお願いいたします。」

深く頭を下げた。

---

数分後。

スタッフが新しいユニフォームを運んでくる。

背中には大きく。

**3**

そして。

**SASAMORI**

の文字。

笹森は両手でユニフォームを受け取り、静かに見つめた。

「……。」

少しだけ笑みがこぼれる。

「大事にします。」

「この番号に恥じない選手になります。」

---

マルコが立ち上がる。

「期待している。」

「君は。」

「便利屋として獲ったわけじゃない。」

「チームを支える中心選手になってもらうために獲得した。」

笹森は真っ直ぐ監督を見る。

「はい。」

「必ず期待に応えます。」

---

その様子を見ていた八幡は、小さく頷いた。

万条富隆が去り、空席となっていた背番号3。

その番号は今日、新たな使命とともに笹森正義へ受け継がれた。

エストレヤ千葉の新しい戦力が、静かに第一歩を踏み出した。

## 第193話 オランダからの新戦力

二日後。

午前十時。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

分析室。

八幡の机の上に置かれたスマートフォンが鳴った。

画面には見慣れた名前。

**ペーター・ファン・デル・メール**

八幡はすぐに通話へ出た。

「比企谷です。」

『おはようございます。』

『すべて終わりました。』

八幡は静かに立ち上がる。

「ということは。」

『はい。』

『塩川康文選手。』

『エストレヤ千葉への完全移籍で合意しました。』

八幡は小さく息を吐いた。

「ありがとうございます。」

『本人も喜んでいます。』

『日本へ戻る準備を始めるそうです。』

「よろしくお願いします。」

通話が終わる。

八幡はすぐに竹内GMと佐藤強化部長へ連絡を入れた。

「決まりました。」

「塩川康文。」

「完全移籍です。」

---

その日の午後。

クラブは正式に発表した。

---

## エストレヤ千葉 新加入のお知らせ

**塩川 康文(しおかわ やすふみ)**

**年齢**

26歳

**ポジション**

左SH

**利き足**

右足

オランダ2部クラブより完全移籍加入。

---

クラブハウス。

塩川は新しいユニフォームを受け取る。

スタッフが静かに差し出したその背中には、大きく数字が刻まれていた。

**8**

塩川は少し驚いた表情を浮かべる。

「八番……。」

佐藤強化部長が微笑む。

「前の持ち主が移籍して空いた番号だ。」

「クラブとして。」

「期待を込めて渡したい。」

塩川は両手でユニフォームを受け取り、ゆっくりと背番号を見つめた。

「ありがとうございます。」

「責任のある番号ですね。」

「はい。」

「この番号に恥じないプレーをします。」

深く頭を下げる。

---

その様子を見ていたマルコ監督が口を開く。

「君には。」

「森川と競争してもらう。」

「試合によっては共存も考えている。」

「右利きの左サイド。」

「君だからできる役割がある。」

塩川は真っ直ぐ監督を見た。

「はい。」

「どの役割でも。」

「チームのために全力を尽くします。」

---

少し離れた場所で見守っていた八幡は、小さく頷く。

オランダで見つけた、一人の日本人選手。

映像だけでは分からなかった努力。

異国で八年間積み重ねてきた覚悟。

そのすべてを知った上で獲得した選手だった。

「ようこそ。」

八幡は静かに呟く。

「エストレヤ千葉へ。」

こうして、背番号**8**を背負う塩川康文が、新たな仲間としてエストレヤ千葉に加わった。

後半戦へ向けたチームは、さらに厚みを増していくのだった。

## 第194話 新戦力、その実力

八月。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

代表ウィーク。

ピッチには全選手が集まっていた。

今日は、新加入四人を含めた初めての紅白戦。

首脳陣全員がタッチラインから見守る。

マルコが笛を鳴らした。

「始めよう。」

---

最初に存在感を見せたのは。

**笹森正義。**

ボランチに入ると、リズムが変わる。

ボールを受ける。

慌てない。

左右へ散らす。

縦が空けば刺す。

危険なら無理をしない。

シンプル。

だが、正確。

エミリオが笑う。

「やりやすいな。」

戸塚も頷く。

「判断が速い。」

マルコは腕を組む。

「まさにバランサーだ。」

八幡も静かにメモを取った。

---

一方。

左サイドでは。

**森川佑**と**塩川康文**が、それぞれ別チームの左サイドハーフとして対峙する。

森川は一対一を仕掛ける。

スピードと個人技で局面を打開する。

対する塩川は。

味方を使う。

ダニエルとのワンツー。

葉山のオーバーラップを使う。

組織で崩す。

同じポジション。

しかし。

サッカーは全く違った。

竹内GMが頷く。

「これは使い分けられる。」

八幡も答える。

「はい。」

「森川は個。」

「塩川は組織です。」

---

今度は守備。

毛利良一が塩川へ縦パスを入れようとする。

笹森が一歩寄せる。

コースだけを切る。

無理に奪わない。

相手は横へ逃がすしかない。

その瞬間。

戸塚がボールを奪った。

佐藤が感心する。

「派手じゃない。」

「でも効いてる。」

---

その頃。

白チームゴール前。

新加入GK。

**古賀悠斗。**

川崎大志のミドルシュート。

正面とはいえ威力は十分。

古賀は身体をぶらさず、しっかりとキャッチ。

こぼさない。

すぐ前を見る。

「葉山!」

左サイドへ素早くスロー。

攻撃が始まる。

田島GKコーチが思わず笑う。

「いい。」

「キャッチングが安定してる。」

次の場面。

ダニエルのスルーパス。

材木座が抜け出す。

古賀は飛び出すタイミングを一切迷わない。

一歩。

二歩。

足元へ滑り込み、ボールだけを奪う。

「ナイス!」

宇津木が声を掛ける。

古賀は軽く右手を上げるだけだった。

田島は満足そうに頷いた。

「試合を落ち着かせるGKだ。」

---

さらに。

守備陣では。

**坂本湊。**

新加入の21歳CB。

材木座とマッチアップする。

材木座が身体を預ける。

普通なら食いつく。

しかし坂本は飛び込まない。

距離を保つ。

材木座が反転した瞬間だけ足を出す。

ボールだけを奪った。

「おお。」

長谷川智樹が思わず声を漏らす。

「今の読みはいい。」

次の場面。

ダニエルがドリブルで仕掛ける。

坂本は慌てない。

コースを限定する。

外へ追い込む。

最後は宇津木がカバー。

「ありがとう。」

宇津木が声を掛ける。

坂本は短く返す。

「はい。」

その後も。

ビルドアップでは落ち着いて縦パスを通し。

危険なら無理をせず郷田へ戻す。

判断に迷いがない。

マルコは小さく笑った。

「J1で育った理由が分かる。」

八幡も頷く。

「読み。」

「ポジショニング。」

「映像以上でした。」

---

笛が鳴る。

紅白戦終了。

選手たちが集まる。

マルコは全員を見渡した。

「今日の収穫は大きい。」

そして、新加入四人へ視線を向ける。

「古賀。」

「安定感は期待通りだ。」

「坂本。」

「落ち着いていた。」

「笹森。」

「中盤が締まる。」

「塩川。」

「組織の中で非常によく機能していた。」

四人は同時に頭を下げる。

「ありがとうございます。」

タッチラインから見守っていた八幡は、小さく頷いた。

夏の補強で迎えた四人。

それぞれが違う武器を持ち、それぞれがチームに新たな選択肢をもたらしていた。

後半戦へ向けたエストレヤ千葉は、確実に戦力を積み上げていた。

## 第195話 最後の補強ポイント

紅白戦終了後。

首脳陣はそのまま会議室へ集まった。

ホワイトボードには現在の選手一覧が映し出されている。

マルコ・ベッルーニ監督が全体を見渡した。

「GK。」

「古賀が入ったことで安心できる。」

田島GKコーチが頷く。

「郷田が復帰するまで十分戦える。」

---

「DF。」

坂本の名前が加わる。

長谷川。

宇津木。

坂本。

橋本。

黒崎。

「センターバックも競争が激しくなった。」

---

「中盤。」

笹森。

塩川。

二人の加入により、ボランチと左サイドの層は厚くなった。

佐藤が笑う。

「ここはかなり充実したな。」

「はい。」

八幡も頷く。

「想定していた補強はできました。」

---

マルコはホワイトボードを見つめる。

そして。

一番上に書かれた文字へ目を向けた。

**CF**

「……ここだ。」

部屋の空気が変わる。

八幡も同じ場所を見ていた。

「俺もそう思います。」

---

現在のセンターフォワード。

材木座義輝。

小林庄雅。

栗林宰三。

23番。

元原太陽。

マルコは腕を組む。

「人数だけ見れば足りている。」

「だが。」

「実際は違う。」

---

八幡が説明を始める。

「材木座。」

「今の千葉の攻撃は。」

「彼のポストプレーを軸に組み立てています。」

「攻撃の起点。」

「前線で時間を作る能力。」

「代えが利きません。」

---

竹内GMが頷く。

「問題は。」

「その次だな。」

「はい。」

八幡は資料をめくる。

「小林庄雅。」

「能力は十分あります。」

「ただ。」

「現在は、ある事情により試合へ出場できません。」

「戦力として計算はできない状況です。」

会議室の全員が静かに頷く。

その事情は首脳陣全員が把握していた。

---

「栗林。」

「能力はあります。」

「ですが。」

「まだJ2で試合を変えるほどではありません。」

---

「23番。」

「十八歳。」

「将来性はあります。」

「ですが。」

「まだ育成段階です。」

---

「元原。」

「経験は誰より豊富です。」

「ただ。」

「コンディションが整う試合が少ない。」

---

八幡はホワイトボードへ歩く。

材木座の名前を丸で囲んだ。

「結局。」

「今。」

「計算できるCFは。」

「材木座だけです。」

部屋が静かになる。

---

マルコが頷いた。

「その通り。」

「材木座に何かあれば。」

「今のサッカーは難しくなる。」

「だから。」

「もう一枚必要だ。」

---

佐藤が尋ねる。

「タイプは?」

八幡は少し考えてから答えた。

「材木座とは違うタイプでも構いません。」

「ただ。」

「試合を決められる選手。」

「途中出場でも流れを変えられる選手。」

「そういうCFが欲しい。」

---

竹内GMが資料を見る。

「予算は多くない。」

「はい。」

八幡も理解していた。

「だから。」

「条件があります。」

全員が八幡を見る。

「移籍金が安い。」

「契約満了。」

「もしくは。」

「まだ他クラブが本当の価値に気付いていない選手。」

マルコが笑う。

「また比企谷らしい答えだ。」

八幡も少しだけ笑った。

「高い選手は。」

「誰でも見つけられます。」

「俺たちが探すべきなのは。」

「まだ評価され切っていない選手です。」

社長の鈴木一朗太がゆっくり頷く。

「よし。」

「最後の補強はCF。」

「比企谷。」

「頼んだ。」

八幡は静かに立ち上がる。

「はい。」

「必ず見つけます。」

夏の補強は、いよいよ最後の一手へ。

エストレヤ千葉は、後半戦を戦い抜くための最後のピースを探し始めた。

## 第196話 最後の一人を探して

数日後。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

今日はクラブが設けた特別練習日だった。

目的は一つ。

**無所属選手のテスト。**

八幡たちスカウト部が全国から情報を集め、その中から数名を招待していた。

---

タッチライン。

マルコ。

佐藤。

竹内。

そして八幡。

全員が静かに見守る。

「始めます。」

笛が鳴った。

---

最初の選手。

三十歳。

センターフォワード。

地域リーグで得点を重ねていた大型FW。

クロスが上がる。

競り勝つ。

高さはある。

しかし。

長谷川との競り合いになると何もできない。

ボールも収まらない。

マルコは腕を組んだ。

「厳しいな。」

八幡も短く答える。

「J2では難しいです。」

---

二人目。

二十四歳。

元J3。

スピードタイプ。

裏抜けは速い。

しかし。

オフサイドが多い。

判断も遅い。

決定機を三度外した。

竹内がため息をつく。

「決定力が足りない。」

「はい。」

八幡も評価表へ×を書いた。

---

三人目。

二十七歳。

海外挑戦経験あり。

期待は大きかった。

だが。

運動量が少ない。

守備もしない。

材木座と比較すると。

前線からのプレスがまるで違った。

マルコは首を横へ振る。

「うちのサッカーには合わない。」

---

午後。

さらに二人。

一人はフィジカルこそ強いが、技術が足りない。

もう一人は技術はある。

しかし。

九十分戦える体力がなかった。

---

すべて終わった。

選手たちは緊張した表情で結果を待つ。

八幡は一人ひとりに頭を下げた。

「今日はありがとうございました。」

「皆さんの努力は伝わりました。」

「ですが。」

「今回は契約には至りません。」

選手たちは悔しそうな表情を浮かべる。

それでも。

「ありがとうございました。」

そう言ってクラブハウスを後にしていった。

---

夕方。

会議室。

佐藤が資料を閉じる。

「全員。」

「見送りだな。」

「はい。」

八幡は静かに答えた。

「今のチームを強くできるとは判断できませんでした。」

---

マルコも頷く。

「人数合わせなら簡単だ。」

「だが。」

「それでは意味がない。」

「戦力にならなければ。」

「獲る理由はない。」

---

竹内GMが苦笑する。

「最後の一人は。」

「簡単には見つからないな。」

八幡はモニターへ全国のリーグ一覧を映した。

J1。

J2。

J3。

JFL。

地域リーグ。

そして海外。

「まだ探します。」

「国内だけではありません。」

「海外も含めて。」

「必ず。」

「このチームに必要なCFを見つけます。」

誰も反対しなかった。

妥協の補強はしない。

それが今のエストレヤ千葉の方針だった。

会議室の照明が静かに落ちる。

最後のピースを探すスカウトたちの仕事は、まだ終わらない。

## 第197話 ネット掲示板

夏の移籍市場。

エストレヤ千葉は積極的に動いた。

---

### 加入

GK 古賀悠斗(28)

CB 坂本湊(21)

DMF 笹森正義(20)

左SH 塩川康文(26)

---

### 退団

万条グループ所属選手を中心に複数名が完全移籍。

育成型期限付き移籍1名。

---

その日の夜。

サッカーファンが集まる大型掲示板。

話題は当然――。

**エストレヤ千葉の夏補強。**

---

**1:名無しさん**

千葉の補強どう思う?

---

**2:名無しさん**

地味。

---

**3:名無しさん**

いや、めちゃくちゃ良くないか?

---

**4:名無しさん**

スター選手はいないけど、必要なところ全部補強してる。

---

**5:名無しさん**

GK補強は正解。

郷田怪我してたし。

---

**6:名無しさん**

古賀ってJ3でめちゃくちゃ安定してたGKだぞ。

派手じゃないけど失点減るタイプ。

---

**7:名無しさん**

坂本取れたのデカい。

J1で試合出れてなかっただけで能力高い。

---

**8:名無しさん**

しかも21歳。

将来性ある。

---

**9:名無しさん**

一番意味分からんの笹森。

---

**10:名無しさん**

バイアウト安すぎる。

あれJ1クラブやらかしただろ。

---

**11:名無しさん**

20歳であの万能性。

普通もっと争奪戦になる。

---

**12:名無しさん**

千葉が一番最初に動いたらしい。

---

**13:名無しさん**

比企谷案件か。

---

**14:名無しさん**

また比企谷かよ(笑)

---

**15:名無しさん**

最近全部比企谷じゃね?

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**16:名無しさん**

ダニエル。

火神。

笹森。

塩川。

全部比企谷案件。

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**17:名無しさん**

塩川知らなかった。

---

**18:名無しさん**

俺も。

オランダ2部見てる奴ほぼいない。

---

**19:名無しさん**

高校無名。

代表歴なし。

Jクラブから声なし。

そこからオランダ3部。

2部まで這い上がるとか漫画だろ。

---

**20:名無しさん**

しかも視野狭い後遺症あるんだろ?

それでプロやってるのすごすぎ。

---

**21:名無しさん**

努力の塊。

応援したくなる。

---

**22:名無しさん**

派手じゃないけど監督好み。

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**23:名無しさん**

森川とタイプ違うのいい。

---

**24:名無しさん**

使い分けできる。

---

**25:名無しさん**

今年の千葉。

補強に無駄がない。

---

**26:名無しさん**

去年までだったら絶対取ってないタイプばっか。

---

**27:名無しさん**

去年までならベテランだけ集めて終わり。

---

**28:名無しさん**

万条グループ消えたのデカい。

---

**29:名無しさん**

クラブの空気変わったよな。

---

**30:名無しさん**

八幡来てから補強全部意味ある。

---

**31:名無しさん**

名前じゃなく能力で取ってる。

---

**32:名無しさん**

年齢構成もいい。

20歳。

21歳。

26歳。

28歳。

若返り成功。

---

**33:名無しさん**

問題はCF。

---

**34:名無しさん**

そこだけだな。

---

**35:名無しさん**

材木座しか計算できない。

---

**36:名無しさん**

でも無理して変なの取るよりマシ。

---

**37:名無しさん**

千葉って今そういうクラブになった。

---

**38:名無しさん**

補強ありきじゃない。

必要な選手しか取らない。

---

**39:名無しさん**

夏の補強評価なら?

---

**40:名無しさん**

俺は90点。

---

**41:名無しさん**

85点。

CF取れたら100点。

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**42:名無しさん**

俺も同じ。

最後のCF次第。

---

**43:名無しさん**

後半戦。

北海道倒した勢いそのまま行けそう。

---

**44:名無しさん**

今年の千葉。

普通に昇格争いするわ。

---

掲示板は深夜になっても伸び続けた。

かつては補強のたびに批判が集まっていたエストレヤ千葉。

しかし今年の夏は違う。

派手さよりも、必要な戦力を的確に補強するクラブへ――。

その変化を、多くのサポーターやサッカーファンが感じ始めていた。

## 第198話 新たな候補

翌日。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

分析室。

八幡の前には国内リーグ、海外リーグの試合映像が並んでいた。

CF。

最後の一枚。

まだ妥協する気はない。

その時。

分析室の扉がノックされた。

「失礼します。」

入ってきたのは国内スカウトの一人だった。

「比企谷さん。」

「一人、面白い選手がいます。」

八幡は椅子を回す。

「見せてください。」

---

映像が流れる。

J3リーグ。

赤いユニフォームのFW。

年齢。

**30歳。**

最初のプレー。

味方ボランチがボールを持つ。

FWが裏へ飛び出す。

完全に抜けた。

しかし。

パスは出ない。

八幡の眉が動く。

次。

また裏へ。

DFラインのギリギリを狙う。

やはり出ない。

次。

今度は逆サイド。

タイミングは完璧。

それでも出ない。

「……。」

八幡は巻き戻した。

「もう一回。」

同じ場面。

やはり。

出ない。

---

「得点数は?」

八幡が聞く。

「J3では十分残しています。」

「決定力もあります。」

「裏抜けも速いです。」

「シュートも上手い。」

国内スカウトは資料を差し出した。

「ただ。」

「クラブでは評価されていません。」

「理由は?」

「パサーがいないんです。」

八幡は顔を上げる。

「どういうことです。」

「裏へ出せる選手がいません。」

「そのため。」

「受け手であるこの選手が動いても。」

「ボールが来ない。」

「結果。」

「消えている。」

「そう評価されています。」

---

八幡はもう一度映像を見る。

何度も。

何度も。

裏へ走る。

しかし。

誰も見ていない。

誰も出せない。

「……。」

八幡は静かに呟く。

「受け手の問題じゃない。」

国内スカウトも頷く。

「俺もそう思います。」

「出し手側です。」

---

さらに資料をめくる。

「本人は。」

「移籍を希望している情報があります。」

「移籍金も。」

「かなり安いです。」

八幡は即答した。

「追跡してください。」

「はい。」

「練習。」

「人間性。」

「生活態度。」

「全部です。」

「分かりました。」

国内スカウトは力強く頷いた。

---

国内スカウトが部屋を出る。

八幡はそのまま海外リーグの映像へ切り替える。

アルゼンチン二部。

「……。」

偶然だった。

次の試合を流しただけ。

その中で。

一人のFWが目に留まる。

二十三歳。

相手CBへ身体をぶつける。

ポストプレー。

悪くはない。

だが。

材木座ほどではない。

「ここは負ける。」

八幡は正直に評価する。

しかし。

次の瞬間だった。

味方のスルーパス。

一気に裏へ抜ける。

速い。

CBが追いつけない。

GKと一対一。

右足。

ゴール右隅。

ネットが揺れる。

「……。」

八幡は映像を止めた。

もう一度。

今度は別の試合。

同じように裏へ。

シュート。

ゴール。

また別の試合。

カウンター。

一人で持ち込み。

左足。

ゴール。

「左右蹴れるのか。」

さらに映像を進める。

決定機。

外さない。

シュート精度が高い。

スピードもある。

ゴール前の落ち着きもある。

八幡は自然と前のめりになっていた。

「材木座とは。」

「全然違う。」

ポストプレーでは劣る。

だが。

**決定力。**

**シュート精度。**

**スピード。**

この三つは。

材木座を上回る。

「面白い。」

八幡は資料を開いた。

年齢。

**23歳。**

契約。

そして。

移籍金。

「……。」

思わず見直した。

「何だこれ。」

八幡は画面を凝視する。

「安すぎる。」

これだけの能力を持つ選手とは思えない金額だった。

「何かある。」

怪我か。

契約問題か。

クラブ事情か。

代理人か。

理由があるはずだった。

八幡はすぐに国際スカウト部へメールを送る。

**『対象選手を至急調査。移籍金が低い理由、人間性、契約内容、クラブ事情を最優先で確認』**

送信。

画面には。

国内。

海外。

二人の候補が並んでいた。

一人は、正しく評価されていないJ3のストライカー。

もう一人は、アルゼンチン二部で異彩を放つ23歳の点取り屋。

エストレヤ千葉、夏最後の補強。

その最後の一人を巡る戦いは、新たな局面へ入ろうとしていた。

## 第199話 調査報告

二日後。

エストレヤ千葉トレーニングセンター。

分析室。

朝九時。

八幡はコーヒーを片手に試合映像を確認していた。

その時だった。

コンコン。

「失礼します。」

扉が開く。

入ってきたのは二人。

国内スカウト主任。

そして国際スカウト主任だった。

二人とも分厚い資料を持っている。

八幡はパソコンを閉じた。

「揃いましたか。」

「はい。」

国内スカウトが頷く。

「まずJ3の選手から報告します。」

---

資料が机へ置かれる。

八幡は目を通す。

「三十歳。」

「大きな怪我歴なし。」

「生活態度。」

「問題なし。」

「練習態度。」

「非常に真面目。」

国内スカウトが説明を続ける。

「監督。」

「コーチ。」

「チームメイト。」

「全員から真面目という評価です。」

「遅刻。」

「トラブル。」

「女性問題。」

「一切ありません。」

八幡は静かに頷く。

「プレー面は?」

国内スカウトは映像を流した。

「やはり。」

「受け手ではなく。」

「出し手側の問題です。」

映像。

FWが裏へ飛び出す。

出ない。

また飛び出す。

出ない。

さらに。

完全に抜ける。

それでも出ない。

「……。」

八幡は何も言わず最後まで見る。

「別試合です。」

今度は違う相手。

結果は同じだった。

「出せる選手が。」

「クラブにほとんどいません。」

「本人も。」

「何度も要求しています。」

「ですが。」

「改善されない。」

国内スカウトは資料を一枚めくる。

「本人は。」

「環境を変えたいと周囲へ話しています。」

「代理人も。」

「移籍には前向きです。」

「移籍金も。」

「かなり低額で設定されています。」

八幡は資料へメモを書く。

**『映像評価と一致』**

**『獲得候補継続』**

---

続いて。

国際スカウト主任が前へ出る。

「アルゼンチン二部の選手です。」

八幡は姿勢を正した。

「お願いします。」

資料が開かれる。

「年齢。」

「二十三歳。」

「怪我歴。」

「軽傷のみ。」

「人間性。」

「問題ありません。」

「監督。」

「チームメイト。」

「非常に真面目との評価です。」

ここまでは予想通りだった。

八幡は本題を聞く。

「移籍金。」

「なぜ安い。」

国際スカウト主任は苦笑した。

「理由が分かりました。」

「クラブの経営です。」

部屋が静かになる。

「経営?」

「はい。」

「クラブは現在。」

「深刻な財政難です。」

「主力選手を。」

「数名売却しなければ経営が厳しい状況です。」

八幡の表情は変わらない。

「つまり。」

「能力とは関係ない。」

「その通りです。」

国際スカウトは頷いた。

「市場価値より。」

「現金化を優先しています。」

「そのため。」

「移籍金を低く設定しています。」

竹内GMなら飛び付きそうな案件だ。

八幡はさらに聞く。

「本人は?」

「代理人経由ですが。」

「海外移籍。」

「特に日本には興味があります。」

「日本?」

「はい。」

「規律があり。」

「戦術レベルも高い。」

「以前から。」

「Jリーグでプレーしたい。」

「そう話していたそうです。」

八幡は腕を組んだ。

「語学は?」

「スペイン語のみ。」

その瞬間。

国際スカウトが少し笑った。

「ですが。」

「ダニエル。」

「エミリオ。」

「そして。」

「比企谷さん。」

「クラブ内にスペイン語話者がいます。」

「生活面の心配は少ないでしょう。」

八幡も小さく笑った。

「確かに。」

国際スカウトは最後のページを開く。

「現地評価です。」

「決定力。」

「非常に高い。」

「シュート精度。」

「リーグトップクラス。」

「スピード。」

「二部でも武器。」

「ポストプレーは。」

「平均以上。」

「ただし。」

「材木座ほどではありません。」

「映像と一致です。」

八幡は静かに頷く。

机の上には。

二つの資料。

一人は。

J3で正当に評価されていない三十歳のストライカー。

もう一人は。

アルゼンチン二部で埋もれかけている二十三歳の点取り屋。

八幡は二冊の資料を見比べながら、小さく呟いた。

「……面白くなってきた。」

エストレヤ千葉、最後の補強。

その候補は、ついに二人へ絞られた。

## 第200話 他クラブの評価

分析室。

机の上には二冊の資料。

J3の30歳FW。

そして。

アルゼンチン2部の23歳FW。

八幡は資料を閉じると、国際スカウトと国内スカウトを見た。

「もう一つ。」

「聞きたいことがあります。」

二人が姿勢を正す。

「はい。」

---

八幡はペンを置いた。

「他クラブの評価です。」

「この二人を。」

「他クラブはどう見ていますか。」

部屋が静かになる。

まず。

国内スカウトが口を開いた。

---

「J3の選手ですが。」

「J2クラブ数チームがリストアップしています。」

「ただ。」

「優先順位は高くありません。」

「理由は?」

八幡が聞く。

「年齢です。」

「三十歳。」

「伸びしろが少ない。」

「そう判断されています。」

八幡は黙って聞いていた。

国内スカウトは続ける。

「さらに。」

「得点数だけを見るスカウトが多いです。」

「裏へ抜けても。」

「ボールが来ていない。」

「そこまでは見ていません。」

---

八幡は映像を思い出す。

確かに。

数字だけ見れば。

突出した成績ではない。

しかし。

試合を見れば違う。

「なるほど。」

「受け手ではなく。」

「結果だけ見られている。」

「はい。」

国内スカウトは頷く。

「だから。」

「市場評価は低いです。」

---

八幡はメモを書く。

**『映像を見ないクラブは過小評価』**

---

続いて。

国際スカウトが資料を開いた。

「アルゼンチンの選手ですが。」

「こちらは少し状況が違います。」

「どう違う。」

「能力は。」

「高く評価されています。」

八幡は頷く。

「やはり。」

「現地では有名です。」

「二部では。」

「注目選手の一人です。」

---

「では。」

「なぜ動かない。」

国際スカウトは苦笑した。

「移籍金は安い。」

「ですが。」

「年俸要求があります。」

「なるほど。」

「本人の要求額は。」

「二部では高めです。」

「そのため。」

「国内クラブは二の足を踏んでいます。」

---

さらに。

「ヨーロッパクラブは。」

「非EU枠を使いたくない。」

「南米一部ならまだしも。」

「二部の選手には慎重です。」

八幡は静かに頷く。

「つまり。」

「能力は認められている。」

「でも。」

「条件面で止まっている。」

「はい。」

---

国際スカウトは最後に付け加えた。

「ただ。」

「一つだけ。」

八幡が顔を上げる。

「Jリーグから正式なオファーは。」

「まだありません。」

部屋の空気が変わる。

「ゼロか。」

「はい。」

「興味を持っているクラブはあります。」

「ですが。」

「具体的な交渉には進んでいません。」

---

八幡は椅子にもたれた。

頭の中で整理する。

J3の30歳。

能力に対して評価が低い。

映像を見れば印象が変わる。

アルゼンチン2部の23歳。

能力は高評価。

しかし。

条件面が壁になっている。

どちらも。

理由は違う。

だが。

**市場価格より安く獲得できる可能性がある。**

---

佐藤が八幡を見る。

「比企谷。」

「今のところ。」

「どちらが上だ?」

八幡はすぐには答えなかった。

二冊の資料を見つめる。

そして静かに言った。

「まだ決めません。」

「実際に会います。」

竹内GMが笑う。

「また現地か。」

八幡も少し笑う。

「映像だけでは。」

「分からないことがあります。」

「本人。」

「考え方。」

「目標。」

「人間性。」

「それを見ないまま。」

「最後の補強は決められません。」

マルコは満足そうに頷いた。

「それでいい。」

「最後の一人だからこそ。」

「妥協はしない。」

八幡は二冊の資料を閉じた。

最後のピース。

その答えを出すため、次は二人のストライカーと直接会うことを決めた。