第341話〜第360話
第341話〜第360話
### 第341話 ベンチが動く
後半。
5分過ぎ。
---
スコア。
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
試合は。
続く。
---
相模原が。
ハーフタイムから。
修正。
---
千葉も。
それに合わせて。
戸部を。
使い始めた。
---
その中。
---
千葉ベンチ。
マルコが。
ピッチを見ながら。
中村へ。
声をかける。
---
「そろそろ。」
---
中村。
頷く。
---
そして。
ベンチへ。
振り返った。
---
「何人か。」
「軽く動いておけ。」
---
控え選手たちが。
反応する。
---
立ち上がる。
---
まだ。
本格的な。
アップではない。
---
身体を。
冷やさない程度。
---
軽く。
走る。
---
ストレッチ。
---
ボールを。
触る。
---
交代を。
決めたわけではない。
---
ただ。
後半。
いつでも。
動けるように。
準備する。
---
だが。
---
相模原ベンチ。
---
すぐに。
気づいた。
---
コーチ。
「千葉。」
「控えを動かし始めました。」
---
相模原監督。
視線だけを。
横へ。
向ける。
---
千葉の。
ウォーミングアップエリア。
---
控え選手。
---
今日の。
千葉ベンチ。
---
GK。
**古賀悠斗。**
---
DF。
**坂本湊。**
**葉山隼人。**
---
MF。
**森川佑。**
**川崎大志。**
**中田正和。**
---
FW。
**材木座義輝。**
**栗林宰三。**
**元原太陽。**
---
その名前を。
見れば。
---
警戒しない方が。
おかしい。
---
相模原監督。
「……まだ。」
「決めたわけじゃないだろう。」
---
コーチ。
「はい。」
---
ただの。
準備。
---
しかし。
問題は。
---
**誰を入れるのか。**
---
分からない。
---
森川。
---
昨日。
29歳になった。
---
千葉の。
主力。
---
今日は。
疲労を考慮して。
ベンチスタート。
---
前半。
塩川が。
機能した。
---
そこへ。
森川を。
入れるのか。
---
川崎。
---
こちらも。
疲労が。
溜まっている。
---
長時間。
使うつもりは。
ないだろう。
---
だが。
短時間なら。
話は。
別。
---
そして。
材木座。
---
前半。
マティアスが。
最前線。
---
もし。
材木座が。
入れば。
---
ポストプレー。
---
前線で。
ボールを。
収められる。
---
相模原監督。
「森川。」
「材木座。」
---
さらに。
---
「元原もいる。」
---
39歳。
---
だが。
---
名前だけで。
無視できる。
選手ではない。
---
日本代表として。
長く。
戦ってきた。
大ベテラン。
---
試合終盤。
---
一点が。
必要な場面。
---
あるいは。
相手が。
前掛かりになった場面。
---
使い方は。
いくらでも。
考えられる。
---
そして。
---
戸部翔。
---
今。
ピッチにいる。
---
直接FK。
---
セットプレー。
---
相模原は。
すでに。
警戒している。
---
だが。
ベンチには。
さらに。
違う特徴を。
持った選手たち。
---
相模原監督。
「面倒だな。」
---
前半。
大幅な。
ターンオーバー。
---
それでも。
千葉が。
試合を。
支配した。
---
つまり。
---
控えを。
入れることが。
必ずしも。
戦力低下に。
ならない。
---
むしろ。
---
相模原が。
今。
ようやく。
対応し始めた。
千葉の形。
---
それ自体を。
また。
変えられる。
可能性がある。
---
相模原監督。
「交代が来たら。」
「すぐ知らせろ。」
---
コーチ。
「はい。」
---
「特に。」
---
監督。
千葉ベンチを見る。
---
「森川。」
---
「材木座。」
---
「この二人が。」
「動いたら。」
「見逃すな。」
---
一方。
千葉。
---
森川。
軽く。
ジョギング。
---
材木座。
身体を。
伸ばす。
---
川崎。
ボールを。
軽く。
蹴る。
---
まだ。
誰にも。
ビブスを。
脱ぐ指示はない。
---
森川。
ベンチの。
マルコを見る。
---
「俺。」
「行きます?」
---
マルコ。
首を。
横へ。
振る。
---
「まだだ。」
---
「身体を。」
「作るだけでいい。」
---
森川。
「了解。」
---
材木座も。
同じ。
---
今日。
この三人。
---
森川。
川崎。
材木座。
---
疲労が。
溜まっている。
---
だから。
先発から。
外した。
---
長時間。
使うつもりも。
ない。
---
それは。
変わらない。
---
必要なら。
短時間。
---
それだけ。
---
八幡。
相模原ベンチを。
ちらり。
---
こちらを。
見ている。
---
「警戒してますね。」
---
中村。
「そりゃするだろ。」
---
八幡。
「まだ。」
「誰も入れるって。」
「決めてないのに。」
---
中村。
少し。
笑う。
---
「向こうからしたら。」
「嫌だろうな。」
---
今。
対応している。
塩川。
---
ダニエル。
---
戸部。
---
エミリオ。
---
マティアス。
---
そこから。
誰が。
どう変わるのか。
---
分からない。
---
マルコ。
ピッチから。
目を離さない。
---
交代は。
まだ。
決めない。
---
試合の。
流れを見る。
---
相模原が。
次に。
どう動くのか。
---
そこから。
決める。
---
だが。
---
控え選手が。
立ち上がった。
---
ただ。
それだけで。
---
相模原ベンチには。
新しい。
考え事が。
増えた。
---
後半。
---
ピッチ上だけではない。
---
**ベンチの動きまで。**
---
相模原は。
警戒し始めていた。
### 第342話 動かない時間
後半。
5分を過ぎてから。
---
試合は。
膠着した。
---
相模原。
前半より。
ボールを。
動かせるようにはなった。
---
斎藤が。
位置を変える。
---
メルシエ。
岡崎。
柿山。
---
前線の三人も。
頻繁に。
立ち位置を変える。
---
だが。
---
千葉。
崩れない。
---
鬼塚が。
声を出す。
---
「橋本!」
「そこ!」
---
「毛利!」
「無理に行くな!」
---
「高山!」
「後ろいるぞ!」
---
36歳。
---
最終ラインを。
動かす。
---
橋本。
高山。
毛利。
---
その前。
笹森。
エミリオ。
---
全員が。
連動。
---
相模原。
攻める。
---
しかし。
最後。
---
入れない。
---
後半。
11分。
---
斎藤。
中央。
---
岡崎へ。
---
岡崎。
カットイン。
---
高山。
ついていく。
---
左足。
振れない。
---
岡崎。
切り返す。
---
高山。
まだ。
飛び込まない。
---
後ろ。
笹森。
---
二人に。
囲まれる。
---
岡崎。
戻す。
---
相模原。
また。
やり直し。
---
後半。
15分。
---
今度は。
メルシエ。
---
毛利を。
背負う。
---
キープ。
---
身体を。
入れる。
---
毛利。
奪えない。
---
だが。
焦らない。
---
メルシエ。
中央。
---
斎藤へ。
---
その前。
---
エミリオ。
足。
---
カット。
---
エミリオ。
すぐ。
前を見る。
---
戸部。
---
ペルティエ。
距離を。
取っている。
---
パス。
---
戸部。
受ける。
---
前を。
向く。
---
ペルティエ。
寄せる。
---
戸部。
ワンタッチ。
---
右。
ダニエル。
---
ダニエル。
運ぶ。
---
相模原。
戻る。
---
ダニエル。
無理には。
行かない。
---
毛利へ。
戻す。
---
千葉も。
焦らない。
---
一点。
リード。
---
だからといって。
引きこもらない。
---
かといって。
無理に。
二点目を。
取りに行って。
バランスを。
崩すこともしない。
---
後半。
19分。
---
相模原。
柿山。
---
鬼塚と。
接触。
---
柿山。
倒れる。
---
笛。
---
なし。
---
柿山。
両手を。
広げる。
---
「おい!」
---
審判。
流す。
---
鬼塚。
その間に。
ボールを。
橋本へ。
---
柿山。
鬼塚を見る。
---
鬼塚。
見ない。
---
まったく。
相手に。
しない。
---
柿山。
「……チッ。」
---
苛立つ。
---
八幡。
ベンチ。
「鬼塚さん。」
「本当に乗らないな。」
---
中村。
「36歳だからな。」
---
「何人。」
「ああいうの。」
「見てきたと思ってる。」
---
八幡。
「ですよね。」
---
後半。
22分。
---
千葉。
左。
---
塩川。
---
高山。
---
塩川。
中へ。
---
戸部。
---
戸部。
受ける。
---
ペルティエ。
寄せる。
---
戸部。
一瞬。
ボールを。
止める。
---
そして。
逆。
---
ダニエルへ。
展開。
---
ダニエル。
前を向く。
---
マティアス。
動く。
---
ダニエル。
スルーパス。
---
マティアス!
---
だが。
---
相模原CB。
足を。
伸ばす。
---
カット。
---
千葉。
惜しい。
---
相模原も。
耐える。
---
どちらも。
次の一点が。
遠い。
---
そして。
---
時間だけが。
進む。
---
後半。
25分。
---
スコア。
---
**0-1。**
---
相模原ベンチ。
監督。
時計を見る。
---
残り。
20分ほど。
---
ホーム。
---
一点。
負けている。
---
そろそろ。
待てない。
---
だが。
---
前へ。
人数を。
かけすぎれば。
---
千葉。
---
ダニエル。
塩川。
マティアス。
---
さらに。
エミリオの。
縦パス。
---
カウンター。
---
危険。
---
しかも。
---
横を見る。
---
千葉ベンチ。
---
まだ。
いる。
---
森川。
---
川崎。
---
材木座。
---
元原。
---
葉山。
---
坂本。
---
中田。
---
栗林。
---
誰を。
出す。
---
いつ。
出す。
---
まだ。
読めない。
---
相模原監督。
「……。」
---
一方。
千葉。
---
マルコも。
時計を見る。
---
八幡。
モニターと。
ピッチを。
交互に。
確認。
---
中村。
「そろそろか?」
---
マルコ。
すぐには。
答えない。
---
試合を見る。
---
相模原は。
前半より。
攻めている。
---
だが。
決定機。
ほとんど。
ない。
---
千葉も。
二点目。
取れていない。
---
このまま。
行くのか。
---
動くのか。
---
後半。
27分。
---
相模原。
斎藤。
---
左へ。
流れる。
---
笹森。
追いすぎない。
---
メルシエ。
中央。
---
斎藤から。
メルシエ。
---
メルシエ。
キープ。
---
毛利。
エミリオ。
二人。
---
メルシエ。
無理に。
突破しない。
---
後ろへ。
戻す。
---
ペルティエ。
---
ペルティエ。
前を見る。
---
柿山へ。
浮き球。
---
柿山。
鬼塚を。
背負う。
---
胸。
---
収めようとする。
---
だが。
---
橋本。
横から。
カバー。
---
長い足。
---
ボールだけを。
突く。
---
こぼれる。
---
笹森。
回収。
---
また。
千葉。
---
相模原。
攻め切れない。
---
そして。
---
時計。
---
**後半28分。**
---
スコア。
---
## 相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉
---
橋本の。
前半の。
一発。
---
それ以降。
---
スコアは。
動いていない。
---
後半に入り。
相模原も。
修正した。
---
千葉も。
対応した。
---
互いに。
相手の。
狙いを。
消し合う。
---
その結果。
---
23分間。
---
何も。
起きていないように。
見える。
---
だが。
---
ベンチでは。
違う。
---
マルコ。
ついに。
時計から。
目を離す。
---
そして。
控え選手たちへ。
視線を。
向けた。
---
相模原監督も。
それに。
気づく。
---
「……来るか。」
---
後半。
28分。
---
残り。
17分。
プラス。
アディショナルタイム。
---
ここから。
一枚の。
交代カードで。
---
止まっていた試合が。
再び。
動き出そうとしていた。
### 第343話 背番号32
後半。
28分。
---
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
マルコが。
ベンチへ。
視線を向ける。
---
森川。
川崎。
材木座。
---
疲労を抱える。
主力たちではない。
---
その視線が。
一人の男で。
止まった。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
39歳。
---
マルコ。
「元原。」
---
元原が。
顔を上げる。
---
「はい。」
---
マルコ。
短く。
告げた。
---
「気持ちを作れ。」
---
一瞬。
---
元原の。
動きが。
止まった。
---
意味は。
分かる。
---
準備しろ。
---
ただ。
身体を。
温めろという。
意味ではない。
---
**試合に入る気持ちを作れ。**
---
つまり。
---
出番が。
近い。
---
元原。
「……はい。」
---
静かに。
立ち上がった。
---
その姿を。
八幡が。
見る。
---
中村も。
見る。
---
誰も。
余計なことは。
言わない。
---
元原は。
ベンチを離れる。
---
ウォーミングアップエリアへ。
---
ゆっくり。
走り始める。
---
39歳。
---
若い選手のように。
いきなり。
速度を上げない。
---
一つずつ。
---
身体の。
状態を。
確かめる。
---
足首。
---
膝。
---
股関節。
---
腰。
---
何度も。
故障した。
身体。
---
その身体と。
会話するように。
---
少しずつ。
強度を。
上げる。
---
昨年。
夏。
---
それを最後に。
公式戦から。
遠ざかった。
---
長かった。
---
復帰の。
目途すら。
立たなかった時期も。
あった。
---
39歳。
---
契約。
今季限り。
---
周囲から。
聞こえてくる。
言葉。
---
**引退。**
---
それでも。
---
元原は。
諦めなかった。
---
もう一度。
---
ピッチへ。
---
そして。
---
もう一度。
---
**ゴールを。**
---
それだけを。
追ってきた。
---
ジョギング。
---
少し。
速くなる。
---
スタッフから。
ボールを。
受ける。
---
右足。
---
返す。
---
左。
---
返す。
---
トラップ。
---
パス。
---
身体。
動く。
---
痛み。
---
ない。
---
元原。
一度。
大きく。
息を吐く。
---
その様子を。
相模原ベンチが。
見ていた。
---
コーチ。
「監督。」
---
相模原監督。
すでに。
気づいている。
---
千葉の。
ウォーミングアップエリア。
---
背番号32。
---
「……元原か。」
---
名前を。
知らないわけがない。
---
むしろ。
---
日本サッカーを。
長く見てきた人間なら。
知らない方が。
難しい。
---
元日本代表。
---
長年。
日本の。
エースストライカー。
---
日本代表。
歴代得点ランキング。
**11位。**
---
ワールドカップ。
**3大会連続出場。**
---
そして。
世界最高峰の舞台で。
---
**3ゴール。**
---
相模原コーチ。
「本当に。」
「使うんですかね。」
---
監督。
「分からない。」
---
まだ。
交代の。
指示ではない。
---
だが。
---
他の選手とは。
明らかに。
違う。
---
元原が。
一段。
強く。
アップを。
始めた。
---
それだけで。
意味がある。
---
相模原監督。
ピッチを見る。
---
千葉の。
CF。
マティアス。
---
23歳。
---
そして。
外。
---
39歳。
元原。
---
もし。
交代なら。
---
CF。
そのまま。
入れ替える。
可能性。
---
ある。
---
だが。
問題は。
元原が。
どういう選手か。
---
スピードで。
ぶち抜く。
タイプではない。
---
派手な。
ドリブルを。
するわけでもない。
---
圧倒的な。
高さで。
勝ち続ける。
タイプでもない。
---
だが。
---
ゴール前。
---
相手DFの。
死角。
---
半歩。
---
一歩。
---
身体の向き。
---
ボールが。
落ちる場所。
---
GKが。
嫌がる場所。
---
それを。
知り尽くしている。
---
**生粋のゴールハンター。**
---
相模原監督。
「厄介だな。」
---
コーチ。
「39ですよ。」
---
監督。
「だから何だ。」
---
即答。
---
「90分。」
「走らせるなら。」
「話は別だ。」
---
「残り。」
「十数分。」
---
「一点を。」
「取りに来るだけなら。」
---
視線。
元原へ。
---
「年齢は。」
「関係ない。」
---
まして。
---
千葉。
一点。
リード。
---
これから。
相模原は。
同点を狙って。
前へ。
出なければならない。
---
最終ラインの。
背後。
---
ペナルティーエリア。
---
一瞬の。
隙。
---
そこへ。
日本代表で。
何度も。
ゴールを。
奪ってきた男が。
入ってくる。
---
相模原監督。
「CBに。」
「伝えろ。」
---
「元原が。」
「準備してる。」
---
コーチ。
「はい!」
---
指示が。
ピッチへ。
飛ぶ。
---
相模原CB。
ベンチを見る。
---
そして。
元原を。
確認。
---
表情が。
変わる。
---
一方。
元原。
---
そんな。
相模原の反応など。
見ていない。
---
ただ。
身体を。
動かす。
---
軽い。
ダッシュ。
---
止まる。
---
方向転換。
---
ボールを。
受ける。
---
シュートを。
想定した。
足の振り。
---
何度も。
確かめる。
---
その脳裏。
---
長い。
現役生活。
---
日本代表。
---
ワールドカップ。
---
歓声。
---
ゴール。
---
そして。
---
故障。
---
リハビリ。
---
出られない。
日々。
---
それでも。
家に帰れば。
妻が。
いた。
---
**あなたが納得するまでサッカーを続ければいい。**
---
何度。
その言葉に。
支えられたか。
---
元原。
目を閉じる。
---
一度。
---
深く。
息を。
吸う。
---
そして。
吐く。
---
目を。
開ける。
---
ピッチを見る。
---
39歳。
---
自分が。
若くないことくらい。
誰より。
分かっている。
---
身体が。
全盛期とは。
違うことも。
分かっている。
---
だから。
---
今。
できることで。
勝負する。
---
ポジショニング。
---
駆け引き。
---
判断。
---
そして。
---
**ゴールを決める技術。**
---
それだけは。
積み重ねてきた。
---
元原。
小さく。
呟く。
---
「……よし。」
---
ベンチ。
マルコが。
その姿を見る。
---
まだ。
呼ばない。
---
まだ。
試合を。
見る。
---
後半。
28分。
---
千葉。
一点。
リード。
---
そして。
その外では。
---
日本代表として。
三度。
ワールドカップを。
戦った男。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
昨年夏から。
公式戦のピッチを。
離れていた。
39歳の。
ストライカーが。
---
静かに。
---
**戦う気持ちを作り始めていた。**
### 第344話 待ち続けた家族
後半。
28分。
---
千葉の。
ウォーミングアップエリア。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
軽い。
ジョギング。
---
ストレッチ。
---
短い。
ダッシュ。
---
そして。
ボールを。
受ける。
---
一つ。
一つ。
身体の感覚を。
確かめていく。
---
その姿を。
---
スタンドから。
じっと。
見つめている。
二人がいた。
---
**元原春子。**
50歳。
---
そして。
その隣。
---
16歳の。
**次男。**
---
四人きょうだいの。
末っ子。
---
次男が。
身を乗り出す。
---
「母さん。」
---
春子。
「うん。」
---
「あれ。」
---
「父さん。」
---
「アップ。」
「強くしてない?」
---
春子は。
すぐには。
答えない。
---
ただ。
夫を見る。
---
長い。
付き合いだ。
---
元原が。
18歳。
---
春子が。
29歳。
---
二人は。
出会った。
---
翌年。
---
元原。
19歳。
---
結婚。
---
それから。
20年。
---
春子は。
ずっと。
見てきた。
---
若かった。
夫。
---
プロとして。
試合へ。
出始めた頃。
---
日本代表へ。
呼ばれた頃。
---
日本の。
エースと。
呼ばれた頃。
---
ワールドカップへ。
向かった頃。
---
ゴールを。
決めた時。
---
結果が。
出なくて。
苦しんだ時。
---
そして。
---
怪我。
---
何度も。
何度も。
---
身体を。
痛めた。
---
復帰。
---
また。
故障。
---
それでも。
---
夫は。
サッカーを。
やめなかった。
---
春子。
元原の。
動きを見る。
---
走り方。
---
身体の。
ほぐし方。
---
ダッシュ。
---
ボールを。
触った後。
---
そして。
何より。
---
顔。
---
春子。
「……そうね。」
---
次男。
「じゃあ。」
---
「出るの?」
---
春子。
「まだ。」
「分からないわ。」
---
次男。
「でも。」
「いつものアップと。」
「違うよね?」
---
春子。
少しだけ。
笑う。
---
「よく見てるわね。」
---
「そりゃ。」
---
次男。
ピッチから。
目を離さない。
---
「父さんだから。」
---
春子。
その言葉に。
何も。
返さない。
---
ただ。
微笑む。
---
次男は。
知っている。
---
父が。
39歳。
---
今季で。
契約が。
切れることも。
---
引退を。
予想されていることも。
---
去年の夏から。
公式戦に。
出ていないことも。
---
家でも。
見てきた。
---
父が。
身体を。
整える姿。
---
リハビリ。
---
トレーニング。
---
帰宅して。
身体の。
ケアをする姿。
---
思うように。
動けない日。
---
それでも。
次の日には。
また。
クラブへ。
向かう。
---
そして。
---
兄。
20歳。
---
双子の姉たち。
18歳。
---
三人は。
もう。
家を出た。
---
今。
実家に。
残っている。
子どもは。
自分だけ。
---
だから。
---
父が。
どれだけ。
この一年。
苦しんできたか。
---
近くで。
見てきた。
---
次男。
「……出てほしいな。」
---
小さな。
声。
---
春子にも。
聞こえた。
---
「うん。」
---
春子。
それだけ。
答える。
---
次男。
「父さん。」
「ずっと。」
「出たがってたから。」
---
春子。
「そうね。」
---
「でも。」
---
次男。
春子を見る。
---
春子は。
ピッチを。
見たまま。
---
「出ることが。」
「ゴールじゃないから。」
---
次男。
「え?」
---
春子。
笑う。
---
「あなたのお父さん。」
---
「出るだけじゃ。」
「絶対に。」
「満足しないわよ。」
---
次男。
一瞬。
黙る。
---
そして。
---
「ああ。」
---
納得した。
---
「ゴール。」
「決めたいんだ。」
---
春子。
「きっとね。」
---
元原が。
ボールを。
受ける。
---
トラップ。
---
身体を。
開く。
---
シュートを。
想定した。
右足。
---
振る。
---
次男。
目で。
追う。
---
春子も。
追う。
---
あの。
蹴り方。
---
何度。
見ただろう。
---
20年以上。
---
テレビ。
---
スタジアム。
---
練習場。
---
日本代表。
---
ワールドカップ。
---
そして。
---
家の近くで。
子どもたちと。
ボールを。
蹴っていた時。
---
ずっと。
見てきた。
---
次男。
「母さん。」
---
「父さんが。」
「もう辞めるって言ったら。」
---
春子。
少し。
驚く。
---
次男。
「どうする?」
---
春子。
「どうもしないわ。」
---
即答。
---
次男。
「え?」
---
春子。
「太陽が。」
「自分で。」
「もう十分だって。」
「思えたなら。」
---
「お疲れさまって。」
「言うだけ。」
---
次男。
「じゃあ。」
「まだやりたいって。」
「言ったら?」
---
春子。
今度は。
少しだけ。
笑った。
---
答えは。
昔から。
変わらない。
---
**「あなたが納得するまでサッカーを続ければいい。」**
---
その言葉を。
夫に。
何度も。
伝えてきた。
---
だから。
今も。
同じ。
---
春子。
「応援するわ。」
---
「それだけ。」
---
次男。
「……そっか。」
---
その時。
---
元原。
短い。
ダッシュ。
---
先ほどより。
強い。
---
そして。
止まる。
---
スタッフと。
何か。
話す。
---
さらに。
ベンチ。
---
マルコが。
一度。
元原の方を。
確認する。
---
次男。
「母さん!」
---
春子。
「見えてる。」
---
次男。
「監督。」
「父さん見たよ!」
---
「分かってるって。」
---
そう言いながら。
春子自身も。
---
少しだけ。
背筋が。
伸びる。
---
次男。
落ち着かない。
---
座る。
---
また。
立つ。
---
春子。
「座ってなさい。」
---
「無理。」
---
「まだ。」
「呼ばれてないでしょう。」
---
「でも!」
---
春子。
苦笑。
---
16歳。
---
もう。
小さな。
子どもではない。
---
それでも。
今だけは。
---
父親の。
出番を待つ。
子ども。
---
春子も。
同じだった。
---
表には。
出さないだけ。
---
昨年夏から。
---
長かった。
---
夫が。
公式戦の。
ピッチから。
離れて。
一年以上。
---
何度も。
復帰を。
目指した。
---
そのたび。
身体と。
相談した。
---
焦らないよう。
言ったこともある。
---
落ち込む夫を。
何も言わず。
見守った夜もある。
---
そして。
今日。
---
その夫が。
ユニフォーム姿で。
ベンチに入り。
---
今。
目の前で。
---
出場を。
想定した。
アップをしている。
---
春子。
両手を。
静かに。
組む。
---
「太陽。」
---
小さく。
名前を。
呼ぶ。
---
届くはずは。
ない。
---
それでも。
---
「焦らなくて。」
「いいからね。」
---
そして。
少し。
間を置く。
---
「でも。」
---
「もし。」
「出るなら。」
---
春子。
微笑む。
---
長年。
日本を代表する。
ストライカーを。
一番近くで。
見続けた。
妻として。
---
「あなたらしく。」
「やってきなさい。」
---
次男。
その横で。
---
父を。
見つめる。
---
元原太陽。
39歳。
---
背番号32。
---
本人だけではない。
---
その瞬間を。
ずっと。
待っていた。
家族がいる。
---
そして。
---
元原の。
ウォーミングアップは。
少しずつ。
---
**試合へ入るための強度へ。**
---
上がっていた。
### 第345話 切り札
後半。
**34分。**
---
スコア。
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
試合は。
まだ。
動かない。
---
その中。
八幡は。
一人の選手を。
見ていた。
---
**戸部翔。**
---
「……やっぱり。」
---
中村が。
八幡を見る。
---
「落ちてきたか。」
---
八幡。
「はい。」
---
戸部の。
運動量。
---
明らかに。
前半より。
落ちてきている。
---
もちろん。
開幕当初と。
比べれば。
違う。
---
シーズンを。
戦う中で。
戸部自身も。
身体を作ってきた。
---
運動量は。
確実に。
増えている。
---
それでも。
今日は。
久しぶりの。
スタメン。
---
しかも。
ただ。
中央に。
立っていたわけではない。
---
前半。
ペルティエを。
引きつけるため。
何度も。
動いた。
---
囮になる。
---
中央から。
外れる。
---
下がる。
---
また。
上がる。
---
相手を。
連れていく。
---
後半。
相模原が。
修正してからは。
---
今度は。
ボールを。
受ける。
---
展開する。
---
左右へ。
散らす。
---
相手を。
引きつける。
---
守備でも。
走る。
---
今日の。
戸部。
---
やることが。
多い。
---
八幡。
最初から。
分かっていた。
---
「このくらいの。」
「時間でしょうね。」
---
マルコ。
「ああ。」
---
戸部が。
また。
中盤まで。
戻る。
---
そして。
前へ。
---
だが。
最初の頃より。
一歩。
遅い。
---
八幡。
「無理させる必要は。」
「ないです。」
---
マルコ。
頷く。
---
そして。
ウォーミングアップエリアへ。
視線を向ける。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
マルコ。
「元原!」
---
元原。
すぐに。
反応。
---
「はい!」
---
「来い。」
---
元原。
ベンチへ。
戻る。
---
息を。
整えながら。
マルコの前へ。
---
八幡も。
横へ。
---
マルコ。
「戸部と。」
「代わる。」
---
元原。
一度。
頷く。
---
「はい。」
---
つまり。
---
マティアスを。
下げない。
---
CF。
一枚を。
そのまま。
入れ替える。
わけではない。
---
**戸部翔 OUT。**
---
**元原太陽 IN。**
---
そして。
---
前線。
---
**マティアス・ベニテス。**
---
**元原太陽。**
---
二人。
---
**2トップ。**
---
マルコ。
「入ったら。」
「マティアスと。」
「二人で前だ。」
---
元原。
「分かりました。」
---
八幡。
「相模原は。」
「そろそろ。」
「前に出ざるを得ません。」
---
残り。
11分。
プラス。
アディショナルタイム。
---
ホーム。
0-1。
---
相模原は。
待てない。
---
前へ。
人数を。
かける。
---
最終ラインも。
上がる。
---
八幡。
「だから。」
「ずっと。」
「ボールを追い回さなくていいです。」
---
39歳。
---
久しぶりの。
公式戦。
---
無駄に。
走らせない。
---
八幡。
「前で。」
「相手CBの位置を。」
「見てください。」
---
「マティアスが。」
「動きます。」
---
23歳。
マティアス。
---
運動量。
---
スピード。
---
若さ。
---
相手の。
最終ラインを。
動かす。
---
その横。
---
元原。
---
39歳。
---
必要なのは。
同じ動きではない。
---
八幡。
「マティアスが。」
「外へ流れたり。」
「裏へ走った時。」
---
「元原さんは。」
「空いた場所へ。」
---
元原。
「入る。」
---
「はい。」
---
八幡。
「逆もあります。」
---
元原が。
CBを。
引きつける。
---
マティアスが。
裏へ。
---
二人が。
同じ場所へ。
走らない。
---
相手CBを。
二人で。
動かす。
---
マルコ。
「サイドは。」
「そのまま使う。」
---
左。
塩川。
---
右。
ダニエル。
---
戸部が。
いなくなる。
---
だが。
---
攻撃の。
中心を。
失うわけではない。
---
形を。
変える。
---
サイドから。
二人の。
ストライカーへ。
---
さらに。
---
後ろ。
エミリオ。
---
マルコ。
「エミリオが。」
「前を向いたら。」
「裏も狙え。」
---
元原。
「はい。」
---
八幡。
「でも。」
「元原さんまで。」
「毎回裏へ走る必要は。」
「ありません。」
---
元原。
八幡を見る。
---
「分かってる。」
---
少し。
笑う。
---
「俺が。」
「今。」
「何歳だと思ってる。」
---
八幡。
「39歳です。」
---
元原。
「即答するなよ。」
---
八幡。
「2月27日生まれの。」
「39歳です。」
---
元原。
「そこまで聞いてない。」
---
一瞬。
---
マルコが。
小さく。
笑う。
---
だが。
すぐ。
表情を戻す。
---
マルコ。
「太陽。」
---
元原。
顔を。
上げる。
---
「君に。」
「若い頃と。」
「同じことは。」
「求めていない。」
---
「今の君に。」
「できることを。」
「やってくれ。」
---
元原。
静かに。
頷く。
---
分かっている。
---
スピード。
---
運動量。
---
身体能力。
---
全盛期とは。
違う。
---
だが。
---
ゴール前。
---
ポジショニング。
---
相手との。
駆け引き。
---
一瞬の。
判断。
---
シュート。
---
それは。
---
39歳まで。
積み重ねてきた。
---
マルコ。
「ペナルティーエリアでは。」
「遠慮するな。」
---
「最後は。」
---
一言。
---
「ゴールを。」
「狙え。」
---
元原。
「はい。」
---
八幡。
「あと。」
---
「相模原は。」
「元原さんが。」
「入るだけで。」
「多少は警戒します。」
---
元日本代表。
---
歴代得点ランキング。
11位。
---
ワールドカップ。
3大会。
---
その名前。
---
CBが。
無視できるはずがない。
---
八幡。
「それも。」
「使いましょう。」
---
「元原さんに。」
「一人つけば。」
---
「マティアスが。」
「動きやすくなる。」
---
「逆に。」
「マティアスを。」
「警戒すれば。」
---
元原。
「俺が空く。」
---
「そうです。」
---
マルコ。
「二人で。」
「相手のCBを。」
「迷わせろ。」
---
元原。
「了解。」
---
スタッフが。
交代用紙を。
準備。
---
第四審判へ。
伝わる。
---
相模原ベンチ。
---
すぐに。
気づく。
---
コーチ。
「監督。」
---
「32番。」
---
相模原監督。
見る。
---
元原。
---
もう。
ビブスを。
脱いでいる。
---
「……来るか。」
---
そして。
交代対象。
---
戸部。
---
相模原監督。
目を。
細める。
---
「戸部を下げる?」
---
なら。
形が。
変わる。
---
前半。
戸部を。
囮に。
---
後半。
戸部を。
使う。
---
そして。
最後。
---
戸部を。
下げて。
---
**2トップ。**
---
相模原監督。
「最後まで。」
「形を変えてくるか。」
---
ピッチ。
---
戸部。
膝に。
手をつく。
---
大きく。
息を。
吐く。
---
その時。
---
第四審判の。
ボード。
準備。
---
背番号。
---
**20。**
---
そして。
---
**32。**
---
後半。
34分。
---
エストレヤ千葉。
---
次の。
一手。
---
久しぶりに。
スタメンとして。
走り続けた。
戸部翔を。
下げる。
---
そして。
---
昨年夏から。
公式戦を。
離れていた。
---
39歳。
---
元日本代表。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
その男を。
---
マティアスとの。
**2トップとして。**
---
ピッチへ。
送り込もうとしていた。
### 第346話 帰ってきた背番号32
後半。
34分。
---
タッチライン。
---
第四審判が。
交代ボードを。
掲げる。
---
**20 OUT**
---
**32 IN**
---
その数字が。
表示された。
瞬間。
---
アウェイ側。
---
エストレヤ千葉。
サポーター席。
---
一瞬。
ざわめく。
---
「……32?」
---
「え?」
---
「元原!?」
---
「元原だ!!」
---
次の瞬間。
---
ドッ!!
---
スタジアムが。
揺れた。
---
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
---
千葉サポーター。
総立ち。
---
「元原ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
---
「太陽ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
---
「待ってたぞぉぉぉぉぉ!!」
---
大歓声。
---
アウェイ。
---
敵地。
---
それでも。
千葉側から。
響く。
---
拍手。
---
歓声。
---
叫び声。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
39歳。
---
昨年夏を。
最後に。
公式戦から。
遠ざかっていた。
---
何度も。
怪我。
---
何度も。
リハビリ。
---
復帰を。
目指す。
---
だが。
戻れない。
---
今季。
契約最終年。
---
引退。
---
そんな言葉も。
聞こえていた。
---
それでも。
---
元原は。
諦めなかった。
---
そして。
サポーターも。
---
待っていた。
---
もう一度。
---
あの背番号32が。
---
公式戦の。
ピッチへ。
戻ってくる日を。
---
「元原!!」
---
「おかえり!!」
---
「待ってたぞ!!」
---
「もう一回決めてくれ!!」
---
大歓声。
止まらない。
---
相模原の。
選手たちも。
思わず。
千葉サポーター席を見る。
---
柿山。
「……すげぇな。」
---
岡崎も。
見る。
---
メルシエ。
静かに。
元原へ。
視線を向ける。
---
斎藤。
「そりゃ。」
「こうなるか。」
---
日本代表。
歴代得点ランキング。
11位。
---
ワールドカップ。
3大会連続出場。
---
通算。
3ゴール。
---
長年。
日本の。
最前線を。
背負ってきた。
ストライカー。
---
敵であっても。
その実績を。
知らない選手は。
ほとんどいない。
---
相模原ベンチ。
監督。
腕を組む。
---
「来るぞ。」
---
「CBに。」
「もう一度伝えろ。」
---
「名前に。」
「飲まれるな。」
---
「だが。」
---
「ゴール前では。」
「絶対に。」
「見失うな。」
---
相模原コーチ。
「はい!」
---
一方。
---
ピッチ。
---
戸部。
ゆっくり。
タッチラインへ。
歩いてくる。
---
大きく。
息を吐く。
---
今日。
久しぶりの。
スタメン。
---
前半は。
囮。
---
後半は。
ゲームメイク。
---
役割を。
変えながら。
走った。
---
タッチライン。
---
元原が。
待つ。
---
戸部。
元原を見る。
---
「お願いします。」
---
元原。
右手を。
出す。
---
「任せろ。」
---
パンッ。
---
二人。
ハイタッチ。
---
戸部。
ピッチを。
出る。
---
元原。
一歩。
---
白線を。
越えた。
---
その瞬間。
---
再び。
---
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
---
千葉サポーター。
大歓声。
---
元原。
一瞬。
足を。
止める。
---
聞こえる。
---
自分の。
名前。
---
「元原!!」
---
「太陽!!」
---
「おかえり!!」
---
元原。
アウェイ席を見る。
---
そして。
---
深く。
一度。
頭を下げた。
---
歓声。
さらに。
大きくなる。
---
スタンド。
---
次男。
「父さん!!」
---
立ち上がって。
叫ぶ。
---
「父さーーーーん!!」
---
春子。
その隣。
---
何も。
言わない。
---
ただ。
拍手。
---
ずっと。
拍手。
---
夫が。
ピッチへ。
入る姿を。
見つめる。
---
昨年夏から。
---
長かった。
---
苦しんだ。
---
何度も。
身体と。
向き合った。
---
それでも。
---
やめなかった。
---
春子。
小さく。
笑う。
---
「おかえり。」
---
その声は。
歓声に。
消える。
---
届かない。
---
それで。
いい。
---
元原。
ピッチ中央へ。
---
そこへ。
マティアス。
近づく。
---
元原。
「二枚だ。」
---
マティアス。
頷く。
---
「はい。」
---
元原。
「俺に。」
「合わせようと。」
「しなくていい。」
---
「いつも通り。」
「動け。」
---
マティアス。
元原を見る。
---
元原。
続ける。
---
「お前が。」
「空けたところは。」
---
ゴールを見る。
---
「俺が使う。」
---
マティアス。
ニッと。
笑う。
---
「分かりました。」
---
23歳。
---
39歳。
---
16歳差。
---
タイプも。
違う。
---
だが。
---
二人とも。
ストライカー。
---
千葉。
形を。
変える。
---
戸部翔。
OUT。
---
元原太陽。
IN。
---
そして。
---
**マティアス・ベニテス。**
**元原太陽。**
---
2トップ。
---
相模原CB。
二人。
---
警戒。
---
マティアスを見る。
---
元原を見る。
---
その時。
---
元原。
ゴールを見る。
---
一年以上。
---
公式戦では。
遠かった。
景色。
---
相手GK。
---
ゴールネット。
---
ペナルティーエリア。
---
そして。
---
そこへ至る。
スペース。
---
元原の。
表情が。
変わる。
---
穏やかな。
ベテランではない。
---
日本代表で。
長年。
ゴールを。
奪い続けた。
---
**ストライカーの顔。**
---
千葉サポーター。
まだ。
名前を。
叫んでいる。
---
「元原!!」
---
「元原!!」
---
「元原!!」
---
後半。
34分。
---
一点。
リード。
---
エストレヤ千葉。
最後の。
勝負へ。
---
一年以上の。
時を越え。
---
背番号32。
---
**元原太陽が。**
---
公式戦の。
ピッチへ。
帰ってきた。
### 第347話 空いた中盤
元原太陽。
投入。
---
戸部翔。
OUT。
---
元原太陽。
IN。
---
その交代によって。
千葉の形は。
明確に。
変わった。
---
トップ下。
戸部が。
いなくなった。
---
前線。
---
**マティアス。**
**元原。**
---
2トップ。
---
その後ろ。
---
左。
塩川。
---
右。
ダニエル。
---
中央。
---
**笹森。**
**エミリオ。**
---
ダブルボランチ。
---
相模原監督。
すぐに。
気づく。
---
「……ボランチ。」
---
千葉の。
中央。
---
戸部が。
いた時とは。
違う。
---
トップ下が。
消えた。
---
前線に。
一枚。
増えた。
---
つまり。
---
中盤中央。
---
笹森と。
エミリオの。
二人が。
広く。
使わなければならない。
---
相模原監督。
「開くぞ。」
---
コーチ。
「はい。」
---
「戸部が。」
「いなくなった分。」
「中央の間隔が。」
「広がってます。」
---
本来なら。
---
ここ。
---
狙える。
---
千葉の。
ダブルボランチへ。
プレッシャーを。
かける。
---
自由に。
前を向かせない。
---
奪えば。
---
そのまま。
千葉の。
最終ラインへ。
---
近い。
---
だが。
---
相模原監督。
顔を。
しかめる。
---
「……行けてない。」
---
千葉。
後方。
---
橋本。
笹森へ。
---
笹森。
受ける。
---
前を見る。
---
相模原。
寄せが。
来ない。
---
笹森。
エミリオへ。
---
エミリオ。
受ける。
---
また。
前を向く。
---
相模原監督。
「行け!」
---
声が。
飛ぶ。
---
しかし。
---
遅い。
---
エミリオ。
右。
ダニエルへ。
---
ダニエル。
前へ。
---
元原。
中央。
---
マティアス。
少し。
右へ流れる。
---
相模原。
最終ラインが。
動かされる。
---
また。
千葉ボール。
---
今度は。
高山。
---
塩川。
---
戻して。
笹森。
---
笹森。
余裕を持って。
受ける。
---
相模原監督。
舌打ち。
---
「そこを。」
「自由にさせるな。」
---
だが。
---
相模原の。
ダブルボランチ。
---
そのうち。
一人は。
**ロマン・ペルティエ。**
---
守備。
---
マンマーク。
---
スペース管理。
---
相手を。
潰す。
---
そうした仕事では。
一級品。
---
もう一人の。
ボランチも。
---
守備を。
得意とする。
タイプ。
---
つまり。
---
相模原の。
ダブルボランチ。
---
**二人とも守備型。**
---
守備では。
強い。
---
だが。
---
今。
必要なのは。
---
前へ。
出て。
千葉の。
ボランチへ。
圧力を。
かけること。
---
さらに。
奪えなかった時にも。
そのまま。
前から。
追い続けること。
---
相模原監督。
「……噛み合わない。」
---
千葉が。
逃げているわけではない。
---
笹森。
---
エミリオ。
---
二人の間は。
確かに。
開いている。
---
狙いどころは。
ある。
---
なのに。
---
そこへ。
十分な。
プレッシャーを。
与えられない。
---
ペルティエ。
前へ。
出ようとする。
---
だが。
---
その瞬間。
---
元原が。
少し。
下がる。
---
相模原CB。
一瞬。
迷う。
---
ついていくのか。
---
残るのか。
---
さらに。
マティアスが。
逆に。
裏へ。
走る。
---
「――っ!」
---
相模原CB。
下がる。
---
ペルティエも。
簡単には。
前へ。
出られない。
---
前線。
二枚。
---
それが。
効いている。
---
相模原監督。
「そういうことか……。」
---
元原は。
走り回っているわけではない。
---
むしろ。
動く量だけなら。
マティアスの方が。
圧倒的に。
多い。
---
だが。
---
立つ場所。
---
一歩。
---
二歩。
---
それだけで。
相模原の。
最終ラインを。
縛っている。
---
CBが。
前へ。
出にくい。
---
そこへ。
マティアスが。
動く。
---
だから。
相模原の。
中盤も。
思い切って。
前へ。
出にくい。
---
千葉。
また。
ボールを。
持つ。
---
鬼塚。
---
エミリオ。
---
相模原。
寄せきれない。
---
エミリオ。
前を向く。
---
その瞬間。
---
元原。
相模原CBの。
背後。
---
ゆっくり。
位置を。
変える。
---
マティアス。
逆方向へ。
走る。
---
二人のCB。
視線が。
分かれる。
---
エミリオ。
それを見る。
---
だが。
無理には。
出さない。
---
左。
塩川へ。
---
相模原監督。
「……千葉に。」
「楽に持たせすぎている。」
---
一点。
負けている。
---
残り。
時間は。
少ない。
---
本来。
追いつかなければ。
ならないのは。
相模原。
---
なのに。
---
ボールを。
持っているのは。
千葉。
---
しかも。
---
千葉に。
時間を。
使われている。
---
相模原監督。
腕を組む。
---
守備型。
ダブルボランチ。
---
守備を。
固める展開なら。
心強い。
---
しかし。
---
今は。
**0-1。**
---
追う側。
---
千葉の。
ダブルボランチへ。
圧力を。
かけたい。
---
だが。
できない。
---
戸部が。
下がったことで。
---
千葉の。
中盤には。
確かに。
スペースが。
できた。
---
しかし。
---
その代わり。
前線には。
---
マティアス。
---
そして。
元原。
---
二人の。
CF。
---
相模原監督。
「……面倒な形に。」
「変えてきたな。」
---
前へ。
圧力を。
かければ。
---
2トップが。
怖い。
---
下がれば。
---
笹森と。
エミリオを。
自由にする。
---
そして。
時間だけが。
過ぎる。
---
後半。
35分。
---
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
元原投入。
---
その交代は。
単純に。
ゴールを狙う。
ベテランFWを。
一人。
増やしただけではない。
---
千葉の。
形そのものを。
変え。
---
一点を。
追わなければならない。
相模原へ。
---
新しい。
選択を。
突きつけていた。
### 第348話 悪童の代償
後半。
36分。
---
相模原。
思うように。
いかない。
---
一点。
追わなければ。
ならない。
---
なのに。
千葉へ。
十分な。
プレッシャーを。
かけられない。
---
そして。
もう一人。
---
苛立ちを。
募らせている男がいた。
---
**柿山渉。**
---
今日。
ほとんど。
仕事を。
させてもらえていない。
---
前半から。
鬼塚。
---
そして。
橋本。
---
身体を。
ぶつける。
---
挑発する。
---
ギリギリの。
接触。
---
それでも。
鬼塚は。
乗ってこない。
---
橋本も。
鬼塚の声を。
聞きながら。
冷静に。
対応。
---
空中戦。
---
198センチ。
橋本。
---
柿山が。
競る。
---
橋本。
頭で。
弾き返す。
---
また。
負けた。
---
柿山。
「……っ。」
---
着地。
---
橋本は。
すぐ。
前を見る。
---
その背中を。
柿山が。
睨む。
---
そして。
---
「クソが!」
---
ドンッ!!
---
「――っ!」
---
橋本の。
背中を。
両手で。
強く押す。
---
橋本。
完全に。
不意を。
突かれる。
---
バランスを。
崩し。
---
ドサッ!!
---
倒れる。
---
「おい!!」
---
鬼塚が。
すぐに。
振り返る。
---
笛。
---
**ピーーーーーッ!!**
---
主審。
迷わない。
---
柿山へ。
走る。
---
胸ポケット。
---
黄色。
---
**イエローカード。**
---
柿山。
「はぁ!?」
---
ここで。
終われば。
よかった。
---
相模原。
斎藤。
すぐに。
気づく。
---
「柿山!」
---
ペルティエも。
駆け寄る。
---
「やめろ!」
---
だが。
---
柿山。
主審へ。
向かっていく。
---
「なんで俺だけなんだよ!」
---
審判。
距離を。
取る。
---
柿山。
止まらない。
---
「ずっと向こうだって。」
「やってんだろ!」
---
「見てねぇのかよ!」
---
相模原監督。
ベンチから。
立ち上がる。
---
「柿山!!」
---
「戻れ!!」
---
斎藤。
柿山の。
腕を掴む。
---
「もういい!」
---
柿山。
「離せ!」
---
振りほどく。
---
ペルティエ。
前へ。
入る。
---
「黙って下がれ!」
---
だが。
間に合わない。
---
柿山。
再び。
主審へ。
言葉を。
ぶつける。
---
主審。
表情を。
変える。
---
一度。
警告するように。
手を出す。
---
それでも。
---
柿山。
まだ。
文句を。
続ける。
---
斎藤。
「柿山!」
---
ペルティエ。
「もう喋るな!」
---
次の瞬間。
---
主審。
再び。
胸ポケットへ。
手を入れた。
---
「……!」
---
相模原の。
選手たちが。
止まる。
---
黄色。
---
**二枚目のイエローカード。**
---
そして。
---
主審。
続けて。
赤を。
掲げる。
---
**レッドカード。**
---
柿山。
「…………は?」
---
スタジアム。
騒然。
---
千葉サポーター。
大歓声。
---
相模原サポーター。
どよめき。
---
後半。
36分。
---
**柿山渉。**
---
一枚目。
---
橋本を。
押し倒した行為。
---
そして。
---
その判定に。
激しく。
抗議。
---
二枚目。
---
**警告二枚。**
---
退場。
---
相模原監督。
両手を。
腰へ。
---
「……何を。」
「やってるんだ。」
---
一点。
負けている。
---
残り。
十数分も。
ない。
---
そんな。
状況で。
---
CFが。
自ら。
退場。
---
斎藤。
額を。
押さえる。
---
岡崎。
「マジかよ……。」
---
メルシエも。
険しい顔。
---
ペルティエ。
柿山を見る。
---
「だから。」
「止めたんだ。」
---
柿山。
何か。
言おうとする。
---
だが。
---
今度は。
相模原の選手たちが。
完全に。
囲む。
---
斎藤。
「もういい。」
---
「行け。」
---
「これ以上。」
「何も言うな。」
---
柿山。
歯を。
食いしばる。
---
そして。
ピッチを。
出ていく。
---
その横。
---
倒された。
橋本。
---
鬼塚が。
手を。
差し出す。
---
「大丈夫か。」
---
橋本。
その手を。
掴む。
---
「はい。」
---
立ち上がる。
---
鬼塚。
「余計なこと。」
「するなよ。」
---
橋本。
「しませんよ。」
---
鬼塚。
「ならいい。」
---
報復。
しない。
---
相手が。
自分で。
崩れた。
---
こちらまで。
付き合う必要は。
ない。
---
ベンチ。
---
八幡。
退場していく。
柿山を見る。
---
「……一番。」
「やっちゃいけないやつ。」
---
中村。
「自分で。」
「試合を難しくしたな。」
---
マルコは。
喜ばない。
---
すぐ。
選手へ。
指示。
---
「集中しろ!」
---
「相手が。」
「十人になったからといって。」
「終わりではない!」
---
その通り。
---
まだ。
**0-1。**
---
一点差。
---
何が。
起こるか。
分からない。
---
しかも。
相模原には。
---
メルシエ。
---
岡崎。
---
斎藤。
---
ペルティエ。
---
危険な選手が。
まだいる。
---
だが。
---
追う側の。
相模原。
---
そのCF。
---
悪童。
柿山渉。
---
苛立ちを。
抑えられず。
---
自ら。
ピッチを。
去ることになった。
---
後半。
36分。
---
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
そして。
人数。
---
**10対11。**
---
試合は。
一気に。
千葉有利へ。
傾いた。
### 第349話 苦肉のセンターフォワード
後半。
37分。
---
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
柿山渉。
退場。
---
相模原。
10人。
---
相模原ベンチ。
監督と。
コーチ陣が。
急いで。
話す。
---
「交代しますか?」
---
監督。
ピッチを見る。
---
残り時間。
---
一点。
必要。
---
だが。
---
「……いや。」
---
首を。
振る。
---
「まだ。」
「替えない。」
---
コーチ。
「では。」
「前は?」
---
相模原監督。
一人を。
指す。
---
**斎藤寛太。**
---
「斎藤を。」
「上げる。」
---
「CFですか?」
---
「ああ。」
---
本来。
OMF。
CMF。
---
相模原ユース。
最高傑作。
---
高い技術。
---
マークを。
外す動き。
---
相手の。
視界から。
消える。
---
そして。
中盤で。
ボールを。
引き出し。
---
攻撃を。
組み立てる。
---
それが。
斎藤寛太。
---
しかし。
今。
必要なのは。
---
退場した。
柿山の。
代わり。
---
相模原監督。
ピッチへ。
指示を。
飛ばす。
---
「寛太!」
---
斎藤。
振り返る。
---
監督が。
前を。
指す。
---
斎藤。
すぐに。
意味を。
理解する。
---
「……俺が。」
「一番前か。」
---
そして。
ポジションを。
上げる。
---
相模原。
交代。
なし。
---
**斎藤寛太をCFへ。**
---
再開。
---
相模原。
ボールを。
前へ。
---
ペルティエ。
斎藤を見る。
---
縦。
---
斎藤。
受けようとする。
---
だが。
---
橋本。
後ろ。
---
鬼塚。
横。
---
「……っ。」
---
斎藤。
一度。
下がる。
---
すると。
鬼塚は。
無理に。
ついてこない。
---
笹森へ。
受け渡す。
---
斎藤。
「……。」
---
いつもなら。
---
ここから。
---
相手の。
中盤と。
最終ラインの。
間。
---
マーカーの。
視界から。
消える。
---
味方から。
ボールを。
引き出す。
---
前を。
向く。
---
そして。
ラストパス。
---
ドリブル。
---
シュート。
---
攻撃を。
操る。
---
だが。
---
今は。
違う。
---
最前線。
---
背後には。
CB。
---
前には。
スペースが。
ほとんどない。
---
求められる。
動きも。
違う。
---
CBを。
背負う。
---
最終ラインと。
駆け引きする。
---
クロスへ。
入る。
---
裏へ。
走る。
---
ゴール前に。
残る。
---
斎藤。
本職ではない。
---
相模原監督。
腕を。
組む。
---
「……やはり。」
---
分かっていた。
---
斎藤なら。
最低限。
こなせる。
---
技術が。
ある。
---
サッカーIQも。
高い。
---
だから。
CFへ。
置いた。
---
だが。
---
**こなせることと。**
**怖いことは違う。**
---
相模原。
左。
メルシエ。
---
ボールを。
キープ。
---
毛利を。
背負う。
---
中央。
---
斎藤。
---
クロスを。
入れたい。
---
しかし。
---
斎藤の。
入り方が。
遅い。
---
橋本が。
先に。
ポジションを。
取る。
---
メルシエ。
出せない。
---
戻す。
---
今度は。
右。
岡崎。
---
高山と。
対峙。
---
左足へ。
持っていく。
---
中央。
確認。
---
斎藤。
鬼塚の。
前へ。
入ろうとする。
---
だが。
---
鬼塚。
簡単に。
身体を。
入れる。
---
クロス。
---
橋本。
ヘディング。
---
クリア。
---
斎藤。
「……やりづらいな。」
---
本職の。
CFなら。
---
CBとの。
接触を。
前提に。
位置を取る。
---
クロスが。
上がる前から。
勝負を。
始めている。
---
柿山なら。
---
荒っぽくても。
身体を。
ぶつけ。
---
押し合い。
---
場所を。
奪う。
---
橋本や。
鬼塚を。
背負いながら。
強引に。
ボールへ。
触ろうとする。
---
だが。
斎藤は。
違う。
---
技術で。
ズレを。
作る選手。
---
人と。
人の。
間。
---
視線の。
外。
---
そこで。
怖さを。
発揮する。
---
最前線で。
CB二人に。
見られ続ける。
---
この状況では。
---
持ち味が。
削られる。
---
ベンチ。
---
八幡も。
すぐ。
分かった。
---
「助かってますね。」
---
中村。
「ああ。」
---
八幡。
「斎藤が。」
「前に行ったことで。」
---
「一番怖かった。」
「中盤での。」
「マーク外しが。」
「ほとんど。」
「出せなくなってる。」
---
前回。
Round 5。
---
千葉を。
苦しめた。
斎藤。
---
中盤を。
動き回り。
---
マークを。
外す。
---
受ける。
---
散らす。
---
また。
消える。
---
再び。
現れる。
---
千葉は。
捕まえられなかった。
---
だが。
今。
---
斎藤は。
最前線。
---
鬼塚。
橋本。
---
二人の。
視界の中。
---
八幡。
「不慣れなのも。」
「大きいです。」
---
マルコ。
「ああ。」
---
「ただし。」
---
マルコ。
八幡を見る。
---
「油断は。」
「するな。」
---
八幡。
頷く。
---
技術まで。
消えたわけではない。
---
斎藤寛太。
---
27歳。
---
相模原。
背番号10。
---
一瞬。
ボールを。
持たせれば。
何かを。
起こせる。
---
だが。
---
今までの。
怖さはない。
---
さらに。
---
斎藤が。
前へ。
行ったことで。
---
相模原の。
中盤。
---
攻撃を。
組み立てる。
中心も。
消えた。
---
ペルティエ。
ボールを。
持つ。
---
前を見る。
---
だが。
---
その先で。
ボールを。
引き出してくれる。
斎藤は。
もう。
いない。
---
前線で。
鬼塚と。
橋本に。
挟まれている。
---
相模原監督。
「……。」
---
交代を。
使わず。
斎藤を。
CFへ。
---
人数を。
これ以上。
崩さないための。
選択。
---
だが。
---
代償。
---
**相模原で最も怖い攻撃の司令塔を。**
**最も慣れていない場所へ置くことになった。**
---
後半。
39分。
---
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
10人の。
相模原。
---
追いつくため。
斎藤寛太を。
最前線へ。
上げた。
---
しかし。
---
そこにいる。
背番号10からは。
---
前回。
千葉を。
支配した時のような。
---
**いつもの怖さが。**
---
消えていた。
### 第350話 太陽は沈まない
後半。
アディショナルタイム。
---
表示された時間は。
**2分。**
---
スコア。
**相模原マンスリーFC 0-1 エストレヤ千葉。**
---
柿山の。
退場後。
---
相模原は。
その間に。
二人を。
交代させていた。
---
流れを。
変えるため。
---
配置も。
動かした。
---
だが。
---
うまく。
修正できない。
---
一人。
少ない。
---
さらに。
斎藤を。
CFへ。
動かしたことで。
---
中盤の。
バランスも。
変わった。
---
そこへ。
途中交代の。
選手を。
二人。
投入。
---
短い時間で。
役割を。
整理し直す。
---
しかし。
---
時間が。
ない。
---
千葉も。
形を。
変えている。
---
マティアス。
---
元原。
---
2トップ。
---
後ろには。
エミリオ。
笹森。
---
左右。
塩川。
ダニエル。
---
相模原。
誰が。
どこへ。
出るのか。
---
誰が。
前線を。
見るのか。
---
誰が。
エミリオを。
捕まえるのか。
---
わずかな。
ズレ。
---
そのズレを。
千葉は。
見逃さない。
---
後半。
アディショナルタイム。
1分。
---
相模原。
前へ。
ボールを。
入れる。
---
斎藤。
受けようとする。
---
鬼塚。
身体を。
寄せる。
---
こぼれる。
---
笹森。
拾う。
---
「エミリオ!」
---
エミリオへ。
---
相模原。
戻る。
---
だが。
遅い。
---
エミリオ。
前を向く。
---
その瞬間。
---
マティアス。
動く。
---
相模原CBの。
前。
---
元原は。
その少し。
後ろ。
---
エミリオ。
見る。
---
そして。
---
縦。
---
鋭い。
パス。
---
**マティアスへ。**
---
相模原CB。
寄せる。
---
マティアス。
受ける。
---
そう。
見えた。
---
だが。
---
触らない。
---
「――っ!」
---
**スルー。**
---
ボールが。
マティアスの。
股下を。
抜ける。
---
相模原CB。
一瞬。
反応が。
遅れる。
---
そして。
---
その後ろ。
---
走り込んでいた。
男。
---
背番号。
32。
---
**元原太陽。**
---
「――!」
---
八幡。
立ち上がる。
---
マルコも。
目を見開く。
---
相模原GK。
前へ。
---
元原。
ボールを見る。
---
一歩。
---
二歩。
---
速くはない。
---
全盛期のような。
爆発的な。
スプリントではない。
---
だが。
---
そこに。
いる。
---
相手DFが。
マティアスへ。
意識を。
向けた。
---
その後ろ。
---
誰も。
捕まえていない。
場所。
---
そこへ。
---
元原は。
走り込んでいた。
---
39歳。
---
何度も。
怪我をした。
---
身体は。
全盛期とは。
違う。
---
それでも。
---
**ゴールが生まれる場所だけは。**
---
忘れていない。
---
元原。
右足。
---
振り抜く。
---
バシュッ!!
---
相模原GK。
反応。
---
手を。
伸ばす。
---
だが。
---
届かない。
---
ボール。
---
ゴール。
隅へ。
---
突き刺さる。
---
ネットが。
揺れた。
---
一瞬。
---
元原。
止まる。
---
そして。
---
**ピーーーーーッ!!**
---
主審。
センターサークルを。
指す。
---
**ゴール。**
---
次の瞬間。
---
千葉サポーター席。
---
爆発。
---
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
---
「元原ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
---
「太陽ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
---
元原。
両腕を。
広げる。
---
「っしゃああああああああああああ!!!!」
---
39歳。
---
叫ぶ。
---
マティアス。
真っ先に。
飛びつく。
---
「元原さん!!」
---
「ナイススルーだ!」
---
ダニエル。
塩川。
エミリオ。
---
次々。
集まる。
---
ベンチ。
---
全員。
立っている。
---
戸部。
「うおおおおお!!」
---
森川。
「マジかよ!!」
---
材木座。
両手を。
叩く。
---
中村。
「決めた……!」
---
八幡。
ゴールを。
見たまま。
---
「……すげぇ。」
---
マルコ。
大きく。
拳を。
握る。
---
そして。
スタンド。
---
次男。
「――っ。」
---
声が。
出ない。
---
一瞬。
---
ただ。
ピッチを。
見つめる。
---
そして。
---
「父さあああああああああん!!!!!!」
---
両腕を。
上げる。
---
「決めた!!」
---
「母さん!!」
---
「父さん決めた!!」
---
春子。
---
答えない。
---
拍手を。
している。
---
だが。
---
目元。
---
涙。
---
次男。
「母さん。」
---
春子。
笑う。
---
涙を。
拭う。
---
「……見てたわよ。」
---
ずっと。
---
見てきた。
---
20年以上。
---
若かった。
ストライカー。
---
日本代表。
---
ワールドカップ。
---
怪我。
---
復帰。
---
また。
怪我。
---
そして。
昨年夏から。
公式戦を。
離れた。
---
それでも。
---
諦めなかった。
---
そして。
今。
---
ゴール。
---
しかも。
---
元原太陽にとって。
---
**昨年5月以来の得点。**
---
一年以上。
---
止まっていた。
公式戦での。
ゴール。
---
その時計が。
---
ようやく。
動いた。
---
春子。
小さく。
呟く。
---
「よかったね。」
---
「太陽。」
---
ピッチ。
---
元原は。
仲間たちに。
囲まれている。
---
マティアスが。
笑う。
---
「俺。」
「触らなくて。」
「正解でしたね!」
---
元原。
「最高だった。」
---
そこへ。
エミリオ。
---
「俺のパスも。」
「忘れないでくれ。」
---
元原。
笑う。
---
「分かってるよ。」
---
そして。
---
一度。
千葉サポーター席を見る。
---
拳を。
握る。
---
高く。
掲げる。
---
再び。
大歓声。
---
スコア。
変わる。
---
**相模原マンスリーFC 0-2 エストレヤ千葉。**
---
アディショナルタイム。
---
エミリオ。
縦パス。
---
マティアス。
スルー。
---
そして。
---
元原太陽。
フィニッシュ。
---
派手な。
ドリブルではない。
---
圧倒的な。
スピードでもない。
---
味方の動き。
---
相手DFの。
視線。
---
空いた場所。
---
そこへ。
誰よりも。
早く。
気づく。
---
そして。
一撃。
---
全盛期から。
変わらない。
---
**ゴールハンターの得点。**
---
39歳。
---
昨年5月以来。
---
背番号32。
---
**元原太陽。**
---
長い。
長い。
時間を越えて。
---
再び。
公式戦で。
---
ゴールネットを。
揺らした。
### 第351話 連敗脱出
元原のゴール。
---
スコア。
**相模原マンスリーFC 0-2 エストレヤ千葉。**
---
後半。
アディショナルタイム。
---
残された時間は。
ほとんどない。
---
相模原。
すぐに。
ボールを。
センターサークルへ。
運ぶ。
---
斎藤。
「まだだ!」
---
声を。
出す。
---
10人。
---
二点差。
---
厳しい。
---
それでも。
ホーム。
---
最後まで。
前へ。
---
試合再開。
---
相模原。
後ろから。
すぐに。
前線へ。
---
ペルティエ。
縦。
---
メルシエ。
受ける。
---
毛利が。
寄せる。
---
メルシエ。
身体を。
使って。
キープ。
---
中央。
斎藤へ。
---
だが。
---
鬼塚。
前へ。
---
「行かせるな!」
---
斎藤へ。
入る前に。
カット。
---
こぼれ球。
---
岡崎。
拾う。
---
左足。
---
中へ。
切り込もうとする。
---
高山。
動かない。
---
飛び込まない。
---
岡崎。
一度。
止まる。
---
その間に。
笹森。
戻る。
---
二人で。
コースを。
消す。
---
岡崎。
「くっ……!」
---
仕方なく。
クロス。
---
中央。
斎藤。
---
橋本。
---
高い。
---
ヘディング。
---
弾き返す。
---
セカンドボール。
---
エミリオ。
拾う。
---
相模原。
前へ。
出ている。
---
前線。
---
マティアス。
---
元原。
---
二人。
残っている。
---
エミリオ。
一瞬。
前を見る。
---
だが。
---
今度は。
出さない。
---
右。
ダニエル。
---
ダニエルも。
無理をしない。
---
ボールを。
キープ。
---
相模原が。
奪いに来る。
---
身体を。
入れる。
---
時間。
進む。
---
千葉サポーター。
拍手。
---
「そのまま!!」
---
「落ち着け!!」
---
「あと少し!!」
---
相模原。
なんとか。
奪う。
---
だが。
---
その瞬間。
---
**ピーッ!**
---
そして。
---
長い。
笛。
---
**ピーーーーーーーーーッ!!**
---
試合終了。
---
一瞬。
---
静寂。
---
そして。
---
千葉サポーター席。
---
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
---
大歓声。
---
選手たち。
拳を。
握る。
---
マルコ。
大きく。
息を吐く。
---
中村。
「よし。」
---
八幡。
スコアボードを見る。
---
### 試合終了
**相模原マンスリーFC 0-2 エストレヤ千葉**
---
得点。
---
前半。
**橋本翔。**
---
後半。
アディショナルタイム。
**元原太陽。**
---
千葉。
勝利。
---
そして。
---
**連敗脱出。**
---
鹿児島。
1-3。
---
青森。
2-3。
---
二試合連続。
敗戦。
---
主力には。
疲労。
---
さらに。
千葉の。
基本戦術は。
各クラブから。
徹底的に。
研究され始めていた。
---
だから。
今日は。
変えた。
---
大幅な。
スタメン変更。
---
戸塚。
長谷川。
宇津木。
ベンチ外。
---
森川。
川崎。
材木座。
ベンチスタート。
---
相模原に。
研究されていた。
いつもの千葉とは。
違う選手。
---
違う攻め方。
---
前半は。
戸部を。
囮に。
---
塩川。
ダニエル。
両サイド。
---
エミリオの。
縦パス。
---
そして。
橋本の。
高さ。
---
後半。
相模原が。
修正すれば。
---
今度は。
戸部を。
使う。
---
さらに。
後半34分。
---
戸部を。
下げ。
---
元原投入。
---
マティアスとの。
2トップ。
---
最後まで。
形を。
変え続けた。
---
八幡。
「……勝った。」
---
マルコ。
横で。
答える。
---
「ああ。」
---
だが。
その視線は。
ピッチ。
---
元原へ。
---
試合終了の。
笛を聞いた。
元原。
---
その場で。
立ち止まっていた。
---
一年以上。
---
公式戦から。
離れていた。
---
そして。
今日。
---
復帰。
---
さらに。
---
**昨年5月以来のゴール。**
---
マティアス。
後ろから。
肩を。
叩く。
---
「元原さん。」
---
元原。
振り返る。
---
マティアス。
笑う。
---
「おめでとうございます。」
---
元原。
少し。
間を置いて。
---
「ありがとう。」
---
そこへ。
橋本。
---
「元原さん!」
---
元原。
「お前も。」
「プロ初ゴールか?」
---
橋本。
「はい!」
---
元原。
笑う。
---
「じゃあ。」
「今日は。」
「俺より。」
「お前だ。」
---
橋本。
「いやいや!」
---
「元原さん。」
「一年以上ぶりなんですよね!?」
---
鬼塚。
歩いてくる。
---
「どっちも。」
「めでたいでいいだろ。」
---
橋本。
「ですよね!」
---
元原。
「そうだな。」
---
笑う。
---
そして。
---
選手たちが。
千葉サポーター席へ。
向かう。
---
拍手。
---
大歓声。
---
特に。
---
元原が。
近づいた瞬間。
---
さらに。
大きくなる。
---
「元原!!」
---
「太陽!!」
---
「ナイスゴール!!」
---
「待ってたぞ!!」
---
元原。
深く。
頭を下げる。
---
長い。
長い。
お辞儀。
---
顔を。
上げる。
---
その時。
---
スタンド。
---
春子。
拍手。
---
次男。
両手を。
振っている。
---
「父さーーーん!!」
---
元原。
その声までは。
聞き取れない。
---
だが。
---
スタンドを。
見渡して。
---
見つける。
---
春子。
---
次男。
---
一瞬。
元原の。
表情が。
柔らかくなる。
---
右手を。
上げる。
---
次男。
「母さん!!」
---
「今こっち見た!」
---
春子。
笑う。
---
「見てたわね。」
---
「絶対。」
「俺に手振った!」
---
「はいはい。」
---
「絶対だから!」
---
春子。
夫を見る。
---
39歳。
---
まだ。
ピッチに。
立っている。
---
まだ。
ゴールを。
決められる。
---
春子。
小さく。
呟く。
---
「よかったね。」
---
一方。
---
相模原。
---
選手たちは。
悔しそうに。
立ち尽くす。
---
柿山の。
退場。
---
斎藤の。
急造CF。
---
交代による。
修正も。
間に合わなかった。
---
だが。
それ以前。
---
前半から。
千葉に。
狙いを。
外され続けた。
---
相模原監督。
千葉ベンチを見る。
---
前回。
Round 5。
---
**0-1。**
---
自分たちが。
勝った。
---
だが。
今日は。
---
**0-2。**
---
完敗。
---
マルコ。
選手たちを。
見つめる。
---
連敗。
---
疲労。
---
対策。
---
それらに。
対して。
---
同じことを。
続けなかった。
---
選手を。
変えた。
---
戦い方を。
変えた。
---
試合中も。
変えた。
---
そして。
勝った。
---
**第22節。**
---
**相模原マンスリーFC 0-2 エストレヤ千葉。**
---
橋本翔。
---
元原太陽。
---
若き。
19歳のCBと。
---
39歳の。
レジェンド。
---
20歳差の。
二人が。
ゴール。
---
エストレヤ千葉。
---
苦しかった。
二連敗を。
止め。
---
敵地で。
勝ち点3を。
持ち帰った。
### 第352話 第22節終了
試合終了から。
しばらく。
---
**相模原マンスリーFC 0-2 エストレヤ千葉。**
---
千葉の選手たちが。
ロッカールームへ。
戻っていく。
---
橋本の。
先制点。
---
元原の。
復帰ゴール。
---
そして。
二連敗。
ストップ。
---
勝ち点。
**3。**
---
千葉。
勝ち点を。
---
**41。**
---
まで。
伸ばした。
---
だが。
第22節は。
まだ。
終わっていない。
---
他会場。
---
続々と。
試合終了。
---
そして。
すべての。
結果が。
出揃った。
---
### 第22節終了時点
| 順位 | クラブ | 勝ち点 | 成績 | 第22節 |
| -----: | --------------- | -----: | ------- | ------------ |
| **1** | **北海道フェニックスFC** | **50** | 15勝5分2敗 | 勝ち |
| **2** | **エストレヤ千葉** | **41** | 12勝5分5敗 | **勝ち** |
| **3** | **富山ベイウインズ** | **40** | 11勝7分4敗 | 負け |
| **4** | **岡山セルフィオFC** | **36** | 10勝6分6敗 | 負け |
| **5** | **仙台アステルFC** | **35** | 9勝8分5敗 | 勝ち |
| **6** | **相模原マンスリーFC** | **35** | 10勝5分7敗 | **負け** |
| **7** | **福岡レガーロ** | **34** | 10勝4分8敗 | 勝ち |
| **8** | **横浜マンゲールFC** | **33** | 9勝6分7敗 | 勝ち |
| **9** | **青森ブランシェFC** | **31** | 9勝4分9敗 | 負け |
| **10** | **愛媛サザンクロスFC** | **30** | 8勝6分8敗 | 負け |
| **11** | **熊本アスフィーダ** | **30** | 8勝6分8敗 | 勝ち |
| **12** | **CS栃木** | **29** | 7勝8分7敗 | 勝ち |
| **13** | **鹿児島レヴァンテFC** | **27** | 8勝3分11敗 | 負け |
| **14** | **山形ブリッツFC** | **26** | 7勝5分10敗 | 負け |
| **15** | **伊勢シーガルズ** | **26** | 6勝8分8敗 | 勝ち |
| **16** | **信州アルプスFC** | **21** | 5勝6分11敗 | **勝ち・3連勝** |
| **17** | **秋田ノルディアFC** | **21** | 5勝6分11敗 | 負け |
| **18** | **駿河ユナイテッドFC** | **19** | 5勝4分12敗 | **負け・最下位転落** |
---
千葉。
ロッカールーム。
---
スタッフが。
他会場の結果を。
確認していく。
---
中村。
「富山。」
「負けました。」
---
八幡。
顔を上げる。
---
「……ということは。」
---
「はい。」
---
順位。
---
**2位。**
エストレヤ千葉。
勝ち点41。
---
**3位。**
富山ベイウインズ。
勝ち点40。
---
差は。
---
**1。**
---
二連敗しても。
2位から。
落ちなかった。
---
そして。
今節。
---
千葉。
勝利。
---
富山。
敗戦。
---
勝ち点差を。
わずかだが。
広げた。
---
ただし。
---
その上。
---
北海道フェニックスFC。
---
今節。
勝利。
---
勝ち点。
**50。**
---
千葉との差。
---
**9。**
---
中村。
「北海道も。」
「勝っています。」
---
八幡。
「ですよね。」
---
簡単には。
縮まらない。
---
第17節。
---
千葉が。
北海道へ。
シーズン初黒星を。
つけた。
---
だが。
---
首位は。
首位。
---
その後も。
勝ち点を。
積み上げている。
---
マルコ。
順位表を見る。
---
「上を見るなら。」
「9ポイント。」
---
「下を見るなら。」
「1ポイント。」
---
2位。
---
聞こえは。
いい。
---
だが。
---
一つ。
崩れれば。
富山がいる。
---
さらに。
---
4位。
岡山。
36。
---
5位。
仙台。
35。
---
6位。
相模原。
35。
---
7位。
福岡。
34。
---
8位。
横浜。
33。
---
中位より。
少し上。
---
その辺りは。
まだ。
詰まっている。
---
八幡。
「仙台。」
「上がってきましたね。」
---
中村。
「ああ。」
---
仙台。
勝利。
---
勝ち点35。
---
敗れた。
相模原と。
並んだ。
---
一方。
---
福岡も。
勝利。
---
34。
---
横浜も。
勝利。
---
33。
---
上位争い。
---
一試合で。
順位が。
動く。
---
そして。
---
下。
---
八幡。
順位表を。
スクロール。
---
「……信州。」
---
中村。
「3連勝です。」
---
少し前まで。
最下位。
---
信州アルプスFC。
---
そこから。
---
**3連勝。**
---
勝ち点21。
---
ついに。
---
**最下位脱出。**
---
16位。
---
秋田も。
勝ち点21。
---
そして。
---
駿河。
---
敗戦。
---
勝ち点19。
---
18位。
---
**最下位転落。**
---
八幡。
「下も。」
「全然決まってないな。」
---
残留争い。
---
そこも。
激しい。
---
勝てば。
一気に。
抜ける。
---
負ければ。
落ちる。
---
シーズン。
22試合。
---
まだ。
終わらない。
---
マルコ。
順位表を。
閉じる。
---
「今日は。」
「順位を。」
「喜ぶ日ではない。」
---
選手たちが。
監督を見る。
---
「二連敗を。」
「止めた。」
---
「主力を。」
「何人も休ませた。」
---
「相手に。」
「研究されている中で。」
「違う戦い方を。」
「見せられた。」
---
そして。
---
橋本。
---
元原。
---
二人を見る。
---
「出番を。」
「待っていた選手が。」
「結果を出した。」
---
「それを。」
「喜ぼう。」
---
元原。
静かに。
頷く。
---
橋本は。
嬉しそうに。
笑う。
---
マルコ。
「だが。」
---
表情を。
引き締める。
---
「我々は。」
「まだ。」
---
「首位ではない。」
---
北海道。
---
勝ち点。
50。
---
千葉。
41。
---
**9ポイント差。**
---
そして。
---
後ろには。
富山。
---
わずか。
**1ポイント差。**
---
「だから。」
---
「次も。」
「勝つ。」
---
短い。
言葉。
---
選手たち。
「はい!」
---
第22節。
終了。
---
首位。
北海道。
---
2位。
千葉。
---
3位。
富山。
---
上では。
北海道が。
一歩。
抜けている。
---
その下を。
千葉が。
追う。
---
さらに。
富山が。
千葉を。
追う。
---
そして。
下位では。
---
信州が。
3連勝。
---
最下位を。
脱出。
---
代わって。
駿河が。
18位へ。
---
上も。
下も。
---
まだ。
何も。
決まっていない。
---
**残り12試合。**
---
エストレヤ千葉。
---
勝ち点。
**41。**
---
順位。
---
**2位。**
---
二連敗を。
止め。
---
ここから。
再び。
---
首位。
北海道フェニックスFCを。
追いかける。
第353話 再び積み上げる勝ち点
第22節。
エストレヤ千葉は、アウェーで相模原マンスリーFCと対戦した。
結果は――0-2。
橋本翔が先制点を奪い、さらに元原太陽が追加点を決めた。
元原にとっては、昨年5月以来となる久しぶりのゴールだった。
第20節の鹿児島戦、第21節の青森戦と連敗していた千葉だったが、この勝利でようやく悪い流れを断ち切った。
そしてここから、千葉は再び勝ち点を積み上げていくことになる。
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第23節。
相手は福岡レガーロ。
アウェーでの一戦だった。
福岡とは第6節に一度対戦している。
その時の結果は2-0。
千葉が完封勝利を収めていた。
当時、八幡たちが福岡の中で特に警戒していた選手が二人いた。
一人は左サイドバックの風間琢磨。
速さがあり、一対一の守備にも強い。
唯一の弱点だったスタミナさえ最後まで持てば、攻守において非常に厄介な選手だった。
しかし、その風間はもういない。
夏の移籍市場で福岡を離れ、新天地として選んだのは――スペインだった。
そしてもう一人。
33歳のベテランボランチ、笹倉友三。
元日本代表で、海外でのプレー経験も持つ福岡中盤の要。
だが、その笹倉も前節に負傷。
千葉戦は欠場となった。
それだけではない。
福岡は夏に何人かの主力選手が移籍し、さらに怪我人まで出ている。
第6節で千葉と戦った頃と比べれば、チーム状態が落ちていることは明らかだった。
だからといって、簡単な相手ではない。
福岡が長年築いてきた堅守速攻というスタイルそのものは、今も変わっていなかった。
守備ブロックを形成し、中央を固める。
千葉がボールを持っても、簡単には危険な場所へ侵入させてくれない。
時間だけが過ぎていく中、前線で身体を張ったのが材木座義輝だった。
相手ディフェンダーを背負いながらボールを収める。
そして無理に振り向かず、後ろへ落とした。
そこへ走り込んできたのは――塩川康文。
迷わず右足を振り抜く。
次の瞬間。
ボールがゴールネットを揺らした。
「よしっ!」
塩川が拳を握る。
0-1。
均衡を破った千葉は、その一点を最後まで守り切った。
福岡レガーロ、0。
エストレヤ千葉、1。
得点者は塩川康文。
アシストは材木座義輝。
第6節の2-0に続き、第23節も1-0。
福岡相手に二戦二勝。
千葉はシーズンダブルを達成した。
---
続く第24節。
今度はホーム、エストレヤスタジアムで横浜マンゲールFCを迎えた。
横浜とも、第7節ですでに対戦している。
その試合では千葉が3-0で快勝していた。
あれから17節。
だが、横浜が抱えていた問題は依然として解決していなかった。
司令塔。
攻撃の中心。
誰に試合を作らせるのか。
開幕からその答えが定まらず、第7節で千葉と戦った時から状況はほとんど変わっていない。
当然、勝ち切れない試合も多かった。
この日は谷口修吾が先発。
横浜は谷口を中心に攻撃を組み立てようとしていた。
だが。
「……。」
戸塚彩加が谷口を見る。
その少し後方では、エミリオ・アルバレスも静かに位置を調整していた。
二人の役割は明確だった。
谷口を自由にさせない。
ただし、闇雲に追い回すわけではない。
谷口が自陣深くまで下がれば、無理には追わない。
逆に危険なエリアへ入ってきた瞬間、一気に距離を詰める。
ボールが入る前にはパスコースを消し、受けられても前を向かせない。
谷口が何度も周囲を見渡す。
だが、肝心の縦方向への選択肢がない。
「……くそ」
思わず声が漏れた。
横浜の攻撃は徐々に停滞していく。
そして千葉は、その隙を容赦なく突いた。
主役となったのは、夏に加入した23歳のアルゼンチン人ストライカー。
マティアス・ベニテス。
一ゴール。
さらに二ゴール。
そして――三ゴール。
試合終了を告げる笛が鳴った時、スコアボードには再び『3-0』の数字が並んでいた。
得点はすべてマティアス。
ハットトリック。
森川佑が二アシスト。
川崎大志が一アシスト。
第7節も3-0。
そして第24節も3-0。
まったく同じスコアで、横浜相手にもシーズンダブルを達成した。
何より大きかったのは、マティアスだった。
夏に加わった23歳のストライカーが、一試合三得点。
その得点能力を、エストレヤスタジアムで一気に爆発させた。
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第25節。
千葉は続けてホームでCS栃木と対戦した。
栃木との前回対戦は第8節。
結果は1-1の引き分け。
今度こそ勝ち切りたいところだったが、栃木も簡単には崩れてくれなかった。
互いに譲らず、一進一退。
どちらに転んでもおかしくない試合展開が続く。
そんな中で結果を残したのは――川崎大志だった。
材木座が前線で身体を張る。
相手センターバックに寄せられても簡単には倒れず、ボールを収める。
そして味方の動きを確認すると、シンプルに落とした。
そこへ川崎。
シュート。
ゴール。
一度だけではなかった。
再び材木座が起点となり、二度目も川崎が仕留める。
二得点。
材木座は二アシスト。
栃木も意地を見せて一点を返したが、千葉はそれ以上の反撃を許さなかった。
2-1。
第8節では引き分けた相手に、今度はしっかりと勝ち切った。
これで相模原戦から――4連勝。
二連敗で失いかけた勢いを、完全に取り戻しつつあった。
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そして第26節。
アウェーでの信州アルプスFC戦。
信州は少し前まで最下位に沈んでいたチームだった。
しかし、第22節終了時点で3連勝。
すでに最下位を脱出していた。
序盤戦とは、明らかに違う。
第9節の対戦では、千葉が2-0で勝っている。
だが今回の信州は、あの時とはまったく別のチームだった。
球際で戦う。
走る。
こぼれ球へ食らいつく。
千葉に簡単には主導権を渡さない。
千葉も攻め込むものの、最後のところでなかなか相手守備を崩し切れない。
そんな中。
左サイドで塩川がボールを持った。
顔を上げる。
中央を見る。
そして、ゴール前へボールを送り込んだ。
「っ!」
そこへ飛び込んだのは、葉山隼人。
タイミングを合わせる。
シュート。
ゴール。
千葉が先制した。
塩川のアシストから、葉山の得点。
このまま千葉が押し切るかにも思われた。
だが、信州は諦めなかった。
一歩も引かない。
走り続ける。
身体をぶつける。
そして、ついに千葉ゴールをこじ開けた。
1-1。
振り出しに戻る。
その後、千葉はもう一度勝ち越そうと攻勢を強めた。
しかし二点目は遠い。
信州も最後まで集中を切らさず、千葉の攻撃を耐え続ける。
やがて――試合終了。
信州アルプスFC、1。
エストレヤ千葉、1。
得点は葉山隼人。
アシストは塩川康文。
第9節では2-0で勝利した信州相手に、今回は引き分け。
千葉の連勝は、4で止まった。
だが。
負けたわけではない。
第20節。
鹿児島に1-3。
第21節。
青森に2-3。
二連敗。
そこから。
第22節、相模原に2-0。
第23節、福岡に1-0。
第24節、横浜に3-0。
第25節、栃木に2-1。
そして第26節、信州に1-1。
5試合無敗。
4勝1分。
二連敗を喫した時、一度は勢いが止まりかけた。
だが千葉は、そこで崩れなかった。
戦い方を見直した。
選手を入れ替えた。
必要ならば先発も変えた。
そして再び。
一試合ずつ。
勝ち点を積み始めた。
第26節終了。
シーズンは、いよいよ終盤へ入る。
残り8試合。
エストレヤ千葉が掲げる目標は、開幕前から何一つ変わっていない。
――J2優勝。
その旗を。
千葉はまだ、降ろしてはいなかった。
第354話 首位の異変
第26節。
エストレヤ千葉は、アウェーで信州アルプスFCと対戦した。
先制を許す苦しい展開となったものの、葉山のゴールで追いつき、試合は1-1で終了。
勝ち点1を持ち帰った。
これで第22節から続いていた連勝は4で止まったが、決して悲観するような結果ではない。
第22節の相模原マンスリーFC戦から、福岡レガーロ、横浜マンゲールFC、CS栃木を相手に4連勝。
そして今回の信州戦で引き分けた。
直近5試合は4勝1分。
一時は二連敗を喫して嫌な流れに入りかけていたことを考えれば、チームは完全に立て直していた。
ただ――。
千葉が好調だからといって、順位が簡単に上がるわけではない。
同じように。
いや、それ以上の勢いで勝ち点を積んでいるクラブがあった。
第26節の全試合が終了した夜。
クラブハウスのミーティングルームでは、最新の順位表が大型モニターに映し出されていた。
## 第26節終了時点
| 順位 | クラブ | 勝ち点 | 成績 | 第26節 |
| ------ | --------------- | -----: | -------- | ---------- |
| **1** | **北海道フェニックスFC** | **57** | 17勝6分3敗 | **負け** |
| **2** | **富山ベイウインズ** | **52** | 15勝7分4敗 | **勝ち・4連勝** |
| **3** | **エストレヤ千葉** | **51** | 15勝6分5敗 | **引き分け** |
| **4** | 岡山セルフィオFC | 45 | 13勝6分7敗 | 勝ち |
| **5** | 仙台アステルFC | 44 | 11勝10分5敗 | 引き分け |
| **6** | 相模原マンスリーFC | 37 | 10勝7分9敗 | 負け |
| **7** | 福岡レガーロ | 34 | 10勝4分12敗 | 負け |
| **8** | 横浜マンゲールFC | 34 | 9勝7分10敗 | 引き分け |
| **9** | 青森ブランシェFC | 34 | 10勝4分12敗 | 勝ち |
| **10** | 熊本アスフィーダ | 33 | 9勝6分11敗 | 勝ち |
| **11** | 愛媛サザンクロスFC | 32 | 8勝8分10敗 | 負け |
| **12** | CS栃木 | 32 | 8勝8分10敗 | 勝ち |
| **13** | 鹿児島レヴァンテFC | 31 | 9勝4分13敗 | 負け |
| **14** | 山形ブリッツFC | 30 | 8勝6分12敗 | 勝ち |
| **15** | 伊勢シーガルズ | 29 | 6勝11分9敗 | 引き分け |
| **16** | 信州アルプスFC | 28 | 7勝7分13敗 | 引き分け |
| **17** | 秋田ノルディアFC | 27 | 6勝9分11敗 | 引き分け |
| **18** | 駿河ユナイテッドFC | 20 | 5勝5分15敗 | 負け |
「……3位か」
順位表を見上げながら、八幡が小さく呟いた。
エストレヤ千葉、勝ち点51。
直近5試合で4勝1分という成績を残しているにもかかわらず、順位は3位だった。
もっとも、その理由は明白だった。
千葉の一つ上。
勝ち点52。
富山ベイウインズ。
「富山、止まらないな」
隣で順位表を確認していた中村が腕を組む。
「これで4連勝か。完全に勢いに乗ったな」
「ですね」
八幡も否定しなかった。
第22節終了時点では、千葉が勝ち点41。
富山が40。
わずか1ポイントではあったものの、その時点では千葉の方が上にいた。
そこから千葉も勝ち点を順調に積み上げている。
それなのに。
今は富山が一つ上。
理由は単純だった。
富山が勝ち続けている。
八幡は手元のパソコンを操作し、富山の直近の試合映像をモニターへ映した。
中盤でボールを受けた一人の選手が、相手を背負いながら身体を反転させる。
そのまま前へ運び、近くの味方へ預けると、すぐに別のスペースへ移動する。
「……万条」
中村がその名前を口にした。
映っているのは万条富隆。
夏までエストレヤ千葉に所属していたミッドフィールダーだった。
出場機会を求めて千葉を離れ、夏の移籍市場で富山ベイウインズへ完全移籍。
新天地へ渡った万条は、早くも富山の戦い方に馴染んでいた。
「随分、普通にやってるな」
「元々、色々できますからね」
八幡は画面を見たまま答える。
万条は、一つのプレーだけで試合を決めるような選手ではない。
その代わり、複数のポジションをこなせる。
中盤でボールを受ければ前へ運べる。
味方との距離を見ながらパスを繋ぐこともできる。
必要になれば守備にも戻る。
状況に合わせて役割を変えられる器用さこそが、万条の持ち味だった。
千葉でも見せていたその能力が、今は富山で生かされている。
与えられた役割を理解し、それに応えている。
その万条を加えた富山が現在4連勝。
勝ち点52。
千葉との差は、わずか1ポイントになっていた。
夏まで同じクラブにいた選手が、新天地で出場機会を掴み、しかも今は自分たちより上の順位にいる。
複雑に感じる者がいても不思議ではない。
だが、八幡はそこまで気にしていなかった。
「万条が活躍してること自体は、別に悪いことじゃないんですけどね」
「そうなのか?」
「千葉を出たからって、失敗しろと思うほど性格悪くないですよ」
中村が八幡を見る。
「それ、自分で言うのか?」
「事実なんで」
「そこまで言い切れるのもすごいな」
中村が苦笑する。
選手が移籍し、新しいクラブで出場機会を掴む。
そこで結果を残す。
それ自体は悪いことではない。
万条には万条のサッカー人生がある。
ただし。
順位表の話になれば別だった。
富山は2位。
千葉は3位。
わずか1ポイント差。
今は完全に、昇格だけでなく優勝を争う直接のライバルとなっている。
そして――。
警戒すべき相手は、もちろん富山だけではない。
八幡の視線が順位表の一番上へ移る。
北海道フェニックスFC。
勝ち点57。
依然として首位。
しかし、その北海道に明らかな異変が起きていた。
「北海道、また勝てなかったな」
中村の声が少し低くなる。
第26節。
北海道は敗戦。
八幡も小さく頷いた。
「はい」
シーズン序盤から、北海道フェニックスFCは圧倒的だった。
戦力。
選手層。
そして、個々の能力。
どこを見てもJ2では頭一つ抜けており、長期間にわたって無敗を続けていた。
第17節。
その北海道を2-1で破り、シーズン初黒星を与えたのがエストレヤ千葉だった。
とはいえ。
その一敗で北海道が崩れたわけではない。
その後も首位を守り、多少勝ち点を落としながらも他クラブとの差を維持していた。
だが、第20節を境に状況が変わった。
北海道の攻撃を支えていた神谷直人が負傷。
そこから欠場が続いている。
神谷一人が抜けただけなら、北海道ほど選手層の厚いクラブであれば、ある程度は補える。
実際。
戦力そのものが大幅に落ちたわけではなかった。
問題は、その時期と重なるように攻撃陣全体の調子まで落ち始めたことだった。
八幡が今度は北海道の試合映像を再生する。
右サイドからクロスが入る。
しかし中央の選手とは合わず、そのまま反対側へ流れていく。
別の場面。
中盤から良い形で前へ運ぶ。
最後の縦パス。
僅かに長い。
相手GKに処理された。
さらに。
ペナルティエリア内へ侵入して放ったシュートが、ゴールの横を抜けていく。
中村が眉を寄せた。
「……噛み合ってないな」
「ですね」
決定的に何かが崩壊しているわけではない。
チャンスは作れている。
シュートまで持っていくこともある。
ただ、その最後が合わない。
シーズン前半なら通っていた一本が通らない。
決まっていたシュートが枠を外れる。
最後の判断が一瞬遅れ、相手の守備が間に合う。
神谷を欠いていることに加え、攻撃陣全体の調子が落ちている。
その二つが重なり、北海道は思うように勝ち点を伸ばせなくなっていた。
「神谷がいない。その上、前の選手まで落ちてる」
中村の言葉に、八幡は少しだけ考えてから答えた。
「それでも北海道ですけどね」
「まあな」
「簡単に崩れるチームじゃないです」
それは間違いない。
神谷以外にも能力の高い選手は揃っている。
守備陣も大きく崩れてはいない。
そもそも、これだけ苦しんでいる現在でも首位なのだ。
北海道がそのまま最後まで勝てなくなるなどとは、とても考えられない。
きっかけ一つで立て直す可能性は十分にある。
だが同時に。
今までのような圧倒的な北海道ではなくなっているのも事実だった。
第26節で、また一つ黒星が増えた。
北海道、57。
富山、52。
千葉、51。
少し前までは、もっと遠くにあったはずの首位。
今では富山との差が5ポイント。
千葉との差も6ポイントまで縮まっている。
残り8試合。
ミーティングルームの後方で順位表を見ていたマルコが、腕を組んだまま口を開いた。
「北海道は苦しんでいる」
静かな声だった。
視線が、その一つ下へ移る。
「富山は勝っている」
4連勝。
今、リーグで最も勢いに乗っているクラブの一つ。
そして、最後に3位を見る。
「我々は3位だ」
中村が順位表を見ながら言う。
「2位まで1ポイントか」
「首位まで6ですね」
八幡が続ける。
6ポイント。
残り8試合を考えれば、決して小さい差ではない。
北海道が二試合勝てば、それだけでまた離される。
だが。
以前ほど絶望的な数字にも見えなくなっていた。
何より首位が今、絶好調ではない。
その一方で、一気に存在感を増してきた富山がいる。
そして、その中には。
夏まで千葉でプレーしていた万条富隆もいる。
再び映像へ目を向ける。
富山のユニフォームを着た万条が、中盤でボールを受ける。
相手を引きつけて味方へ預け、そのまま前へ走っていく。
もう違和感はなかった。
完全に、富山の選手としてプレーしている。
八幡は椅子の背もたれへ身体を預けた。
「……面倒だな」
中村が横目で見る。
「万条が?」
「富山が」
八幡はすぐに答えた。
その後で少しだけ間を空ける。
「万条が向こうで活躍してること自体は、別にいいんですよ」
恨んでいるわけではない。
敵意があるわけでもない。
ただ。
優勝を目指すエストレヤ千葉にとって、現在の富山は間違いなく厄介な存在だった。
「残り8試合だ」
マルコの声に、八幡と中村が振り返る。
「北海道がこのまま勝てない保証はない。当然、次からまた連勝する可能性もある」
誰も反論しない。
「富山がこのまま勝ち続ける保証もない」
4連勝しているクラブでも、一つの敗戦から流れが変わることは珍しくない。
そして。
マルコは最後に千葉の順位へ視線を戻した。
「我々が、このまま勝ち続けられる保証もない」
結局。
他クラブの結果だけを気にしていても意味はない。
北海道が落とすことを期待しても仕方がない。
富山が負けることを願っても、自分たちが勝てなければ何も変わらない。
次の一試合を勝つ。
その次も勝つ。
自分たちで積み上げられる勝ち点を、一つでも多く積み上げていく。
それしかなかった。
首位、北海道フェニックスFC。
勝ち点57。
神谷直人が第20節から負傷欠場し、攻撃陣も不調。
それでも、まだ首位にいる。
2位、富山ベイウインズ。
勝ち点52。
現在4連勝。
夏に千葉から加入した万条富隆も、その勢いを支える一人となっている。
そして3位、エストレヤ千葉。
勝ち点51。
5試合無敗。
首位から3位まで、その差は6ポイント。
残り8試合。
少し前までは北海道の独走で終わるかに見えていたJ2の優勝争い。
だが。
夏を越えたシーズン終盤。
北海道が足踏みし、富山が一気に追い上げ、千葉もその背後から離れずについていく。
優勝争いの流れは。
ここへ来て、確実に変わり始めていた。
# 第355話 追撃
北海道が足踏みし、富山が一気に追い上げ、その背後から千葉も離れずについていく。
第26節を終えた時点で、首位の北海道フェニックスFCは勝ち点57。
2位の富山ベイウインズが52。
そして3位のエストレヤ千葉が51。
残り8試合。
少し前までは北海道の独走で終わるかに見えていた優勝争いは、確実にその様相を変え始めていた。
もっとも。
北海道が苦しんでいるからといって、千葉の勝ち点が勝手に増えるわけではない。
富山が4連勝しているからといって、そこばかりを気にしていても意味はない。
次の一試合を勝つ。
マルコが前節のミーティングで口にした通り、千葉にできることはそれだけだった。
そして迎えた第27節。
エストレヤスタジアム。
ホームに迎えたのは、秋田ノルディアFCだった。
現在17位。
残留争いの真っ只中にいるクラブである。
優勝を狙う千葉にとって勝ち点3が必要なのと同じように、秋田にも勝ち点が必要だった。
むしろ、残留という意味では一試合の重みはさらに大きい。
その必死さは、試合開始直後から守備に表れていた。
秋田は最終ラインと中盤の距離を縮め、中央を固める。
千葉が後方でボールを持っても、無闇には飛び込んでこない。
危険な場所だけを消し、ダニエルへ簡単にボールを入れさせない狙いだった。
千葉も急がない。
最終ラインから一度、戸塚彩加へボールが入る。
戸塚は前を確認してから、無理に縦へ入れず右へ展開した。
ボールが戻ってくれば、今度は左。
秋田の守備を左右へ動かしていく。
その隣では、エミリオ・アルバレスが少し高い位置を取っていた。
戸塚とエミリオ。
千葉のダブルボランチ。
役割は同じではない。
戸塚が後方で全体のバランスを取り、相手のカウンターに備える。
その分、エミリオは一歩前へ出て、縦や斜めへのパスを狙う。
そして、その二人の前にいるのがダニエル・ロドリゲスだった。
OMF。
戸塚でもエミリオでもない。
二人のボランチからボールを引き出し、そこから前線を動かす攻撃の中心だった。
千葉は焦らず、三人を経由しながら秋田の守備を動かしていった。
やがて。
戸塚からエミリオへボールが入る。
エミリオが顔を上げた。
中央。
秋田の中盤と最終ラインの間に、ダニエルが下りてくる。
縦パス。
ダニエルは相手を背負った状態で受けた。
一度身体を入れ、ボールを守る。
そこから右へ視線を向けた。
川崎大志がいる。
ダニエルから右へパス。
川崎が受けると、秋田の左サイドがすぐに寄せてきた。
縦への突破を切られる。
だが、川崎は無理に仕掛けなかった。
顔を上げる。
中央へ走り込んでくる選手が見えた。
森川佑。
川崎が中へボールを入れる。
森川が足元へ収めた。
一歩だけ前へ出る。
そして、右足を振り抜いた。
低い弾道のシュートが秋田ゴールへ飛ぶ。
GKが横へ跳んだ。
届かない。
ボールがゴールネットを揺らした。
「よし!」
森川が拳を握る。
エストレヤスタジアムが一気に沸き上がった。
真っ先に森川のところへ走ってきたのは、ラストパスを送った川崎だった。
千葉、先制。
1-0。
先に一点を奪ったことで、秋田も少しずつ前へ出ざるを得なくなる。
それでも千葉は、相手の変化に付き合って試合を荒らすことはなかった。
秋田が縦へ入れようとすれば、戸塚が先にコースへ入る。
こぼれたボールを回収すると、近くのエミリオへ預ける。
エミリオが前を向く。
その瞬間には、すでにダニエルが中央でパスコースを作っていた。
ボールが入る。
秋田の選手が一人寄せる。
ダニエルは離さない。
もう一人も近づいてきた。
あえて持った。
二人を自分へ引きつける。
そこで。
右サイドから川崎が走り出した。
ダニエルの視線が一瞬だけ右へ動く。
次の瞬間。
秋田の選手の間を通るパスが、右前方へ流れた。
川崎が抜け出す。
スタンドから歓声が大きくなる。
そのままペナルティエリアへ。
川崎は迷わず右足を振り抜いた。
鋭いシュートがGKの横を抜ける。
ネットが大きく揺れた。
2-0。
「っしゃあ!」
川崎が叫びながら拳を突き上げた。
一得点一アシスト。
二点目はダニエルのアシストだった。
二点差。
ここまで守備を優先してきた秋田も、さすがに待ってはいられなくなる。
残留争いを考えれば、このまま何もせず終わるわけにはいかない。
選手を前へ出し、千葉陣内へ人数をかけ始めた。
だが。
そういう展開になるほど、千葉のダブルボランチが効いた。
戸塚はボールだけを追わない。
相手が次に使おうとするスペースへ先に入り、危険な縦パスを消す。
その横ではエミリオが素早く戻り、戸塚が前へ出れば空いた場所を埋めた。
守備を二人で分担することで、中央を簡単には割らせない。
そして、奪った後もただ大きく蹴り出すことはなかった。
エミリオへ。
そこからダニエルへ。
ダニエルが前を向けば、秋田も再び守備へ戻らなければならなくなる。
千葉は二点をリードしてからも、守るだけのチームにはならなかった。
そのまま時間は進み。
主審が終了の笛を吹いた。
2-0。
エストレヤ千葉の勝利。
森川佑。
川崎大志。
二人のゴールでホームの試合を取り切った。
これで勝ち点は54。
首位を追うために必要だった勝ち点3を、きっちりと手にした。
そして一週間後。
第28節。
千葉は伊勢へ向かった。
相手は伊勢シーガルズ。
第26節終了時点で6勝11分9敗。
この数字を見れば、伊勢というチームの特徴は分かりやすい。
11の引き分け。
勝ち切れない試合が多い一方で、相手にも簡単には勝たせない。
守備陣形を大きく崩さず、粘り強く耐え続ける。
試合を派手な展開にさせず、気がつけば勝ち点1を持ち帰っている。
優勝を争う千葉にとって、非常に嫌なタイプの相手だった。
試合が始まる。
この日も千葉の中盤は変わらない。
戸塚とエミリオのダブルボランチ。
その前にOMFのダニエル。
序盤からボールを握ったのは千葉だった。
戸塚が後方で左右へ振り分け、相手が動けばエミリオが一つ前で縦へ刺す。
ダニエルも中盤と最終ラインの間へ何度も顔を出した。
だが、伊勢は慌てない。
ダニエルへボールが入れば、近くの選手がすぐに距離を詰める。
千葉がサイドへ逃がせば、守備陣全体が横へスライド。
クロスが入れば中央で跳ね返す。
千葉がセカンドボールを拾い、もう一度攻める。
それでも伊勢は崩れない。
同じような攻防が繰り返された。
スコアは0-0。
時間だけが進んでいく。
ベンチからピッチを見ていた八幡が、僅かに息を吐いた。
「……こうなるよな」
隣の中村も苦笑する。
「伊勢だからな」
11引き分けは偶然ではない。
相手をこういう試合へ引きずり込み、そのまま90分を終わらせる。
千葉も、じわじわとその流れに捕まり始めていた。
ダニエルへ入れても囲まれる。
サイドへ出してもスペースがない。
前線の選手たちにも、次第に焦りが見え始める。
それでも千葉はボールを動かし続けた。
戸塚が受ける。
エミリオへ。
そこから前へ。
一度戻す。
また作り直す。
伊勢の守備を少しずつ動かしていく。
そして。
中央へ意識が集まった一瞬。
右サイドの後方から、一人の選手が走り始めた。
安原翼。
夏にJ3クラブから完全移籍で加入した28歳の右サイドバック。
守備だけを見れば、もっと堅実な選択肢もある。
だが。
安原を獲得した理由はそこだけではなかった。
この選手には、明確な武器がある。
攻撃参加。
味方がボールを持った瞬間に生まれたスペースを、安原は見逃さなかった。
一気に走る。
右サイドの味方を追い越す。
伊勢の選手が気づいて振り返った時には、もう安原はその先へ出ていた。
サイドバックでありながら、そのままペナルティエリア付近まで入っていく。
ゴール前へボールが送られた。
安原は足を止めない。
そのまま中へ。
タイミングを合わせる。
右足を振った。
ボールがゴールへ飛ぶ。
伊勢のGKが反応した。
だが。
その横を抜けた。
ネットが揺れる。
「っしゃああああ!!」
安原が大きく吠えた。
拳を握り、ゴール裏へ向かって走る。
千葉のベンチも一斉に立ち上がった。
0-1。
八幡も思わず目を見開いた。
「……そこから来たか」
中村は笑っていた。
「安原の一番いいところだ」
J3で長年主力としてプレーしてきた安原。
その中で磨いてきた攻撃参加のタイミングと、思い切って前へ出る判断。
サイドバックでありながら、必要ならゴール前まで入っていく。
その武器が、崩れなかった伊勢の守備を最後にこじ開けた。
一点を失ったことで、今度は伊勢が変わらざるを得なくなる。
引き分けへ持ち込むには、まず一点が必要だった。
それまで守備に人数を残していた選手たちが、少しずつ前へ出る。
千葉陣内へボールが入る回数も増えていった。
そこで再び戸塚とエミリオが効いた。
戸塚が中央を締める。
エミリオがその横を補う。
一人がボールへ出れば、もう一人が背後を見る。
奪った後は、すぐダニエルへ繋ぐ。
千葉は自陣へ全員が下がって耐えるだけにはならない。
ダニエルが前でボールを収めれば、伊勢も後ろを完全に捨てることはできなかった。
安原も役割を切り替えていた。
先制点を奪った時のように無闇には上がらず、今度は右サイドの守備へ戻る。
前へ行くべき時は行く。
残るべき時は残る。
千葉は一点を守りながらも、試合そのものを伊勢へ渡さなかった。
残り時間が減っていく。
伊勢も最後まで攻めた。
だが、千葉のゴールは割れない。
そして。
長い笛が鳴った。
試合終了。
伊勢シーガルズ 0-1 エストレヤ千葉。
決勝点は安原翼。
難しいアウェーゲームを、右サイドバックの一撃でものにした。
第27節。
秋田ノルディアFCに2-0。
第28節。
伊勢シーガルズに1-0。
二試合連続の無失点勝利。
これで第22節以降、千葉は一度も負けていない。
相模原に2-0。
福岡に1-0。
横浜に3-0。
栃木に2-1。
信州に1-1。
秋田に2-0。
そして伊勢に1-0。
7試合で6勝1分。
勝ち点は57まで伸びた。
残り6試合。
試合を終えた選手たちがロッカールームへ引き揚げていく中、八幡はベンチ付近に残り、スマートフォンを取り出した。
自分たちの仕事は終えた。
秋田に勝った。
伊勢にも勝った。
二試合で勝ち点6。
これ以上、この二週間で千葉にできることはない。
だからこそ。
次に見るべきものは決まっていた。
北海道フェニックスFC。
そして。
富山ベイウインズ。
第26節終了時点では、北海道が57。
富山が52。
千葉が51。
そこから千葉は二連勝し、57まで伸ばした。
あとは、首位と2位がこの二節でどれだけ勝ち点を積んだのか。
中村が八幡の横へ来る。
「見るか?」
「見ないって選択肢あります?」
「ないな」
八幡は画面を開いた。
残り6試合。
北海道。
富山。
千葉。
三つのクラブによる優勝争いは、いよいよ数字一つで大きく形を変えるところまで来ていた。
そして。
第28節の全会場が終了した時。
その順位表には――。
また、新しい変化が起きようとしていた。
# 第356話 3ポイント差
伊勢シーガルズとのアウェーゲームを終えたエストレヤ千葉。
スコアは0-1。
決勝点を奪ったのは、夏に加入した安原翼だった。
これで秋田戦に続いて2連勝。
第26節の信州戦を1-1で引き分けた時点で勝ち点51だった千葉は、そこから6ポイントを積み上げた。
勝ち点57。
そして――。
「他会場、全部終わりました」
スタッフの声に、ロッカールームにいた何人かが顔を上げた。
選手たちは着替えながら、それぞれスマートフォンを確認する。
残り6試合。
ここまで来れば、自分たちの試合だけを見ているわけにもいかない。
特に気になるのは、上にいる二クラブ。
北海道フェニックスFC。
富山ベイウインズ。
そして第28節では、その二クラブが直接対決を迎えていた。
「北海道と富山は?」
八幡が尋ねる。
中村が結果を確認する。
「北海道の勝ちだ」
「……北海道か」
八幡は小さく呟いた。
ここ最近の状況だけを見れば、勢いがあったのは富山だった。
第27節までに5連勝。
夏に千葉から移籍した万条富隆も、新天地ですっかりチームに馴染み、富山の戦力として活躍している。
対する北海道は苦しんでいた。
第20節から、攻撃の中心である神谷直人が負傷欠場。
しかも、その穴を埋めなければならない他の攻撃陣まで揃って調子を落としている。
前半戦なら決まっていたシュートが決まらない。
最後のパスが僅かにずれる。
圧倒的な勢いで首位を独走していた頃と比べれば、明らかに得点力が落ちていた。
それでも――。
「5連勝の富山を止めたか」
中村が腕を組む。
「神谷がいなくても首位ですからね」
八幡も頷いた。
北海道が弱くなったわけではない。
苦しんでいるだけだ。
そして、その状態でも絶好調だった富山との直接対決を勝ち切った。
富山の連勝は、5で止まった。
その結果。
第28節終了時点の順位表は、大きく動いた。
## 第28節終了時点 順位表
| 順位 | クラブ | 勝ち点 | 成績 | 第28節 |
| -----: | --------------- | -----: | ------------ | --------------- |
| **1** | **北海道フェニックスFC** | **60** | **18勝6分4敗** | **勝ち** |
| **2** | **エストレヤ千葉** | **57** | **17勝6分5敗** | **勝ち・2連勝** |
| **3** | **富山ベイウインズ** | **55** | **16勝7分5敗** | **負け・5連勝でストップ** |
| **4** | **岡山セルフィオFC** | **51** | **15勝6分7敗** | 勝ち |
| **5** | **仙台アステルFC** | **47** | **12勝11分5敗** | 勝ち |
| **6** | **青森ブランシェFC** | **40** | **12勝4分12敗** | 勝ち |
| **7** | **熊本アスフィーダ** | **39** | **11勝6分11敗** | 勝ち |
| **8** | **相模原マンスリーFC** | **38** | **10勝8分10敗** | 負け |
| **9** | **福岡レガーロ** | **36** | **10勝6分12敗** | 引き分け |
| **10** | **横浜マンゲールFC** | **35** | **9勝8分11敗** | 負け |
| **11** | **愛媛サザンクロスFC** | **34** | **8勝10分10敗** | 引き分け |
| **12** | **鹿児島レヴァンテFC** | **34** | **10勝4分14敗** | 勝ち |
| **13** | **CS栃木** | **33** | **8勝9分11敗** | 負け |
| **14** | **山形ブリッツFC** | **30** | **8勝6分14敗** | 負け |
| **15** | **伊勢シーガルズ** | **29** | **6勝11分11敗** | 負け |
| **16** | **信州アルプスFC** | **28** | **7勝7分13敗** | 負け |
| **17** | **秋田ノルディアFC** | **27** | **6勝9分11敗** | 負け |
| **18** | **駿河ユナイテッドFC** | **26** | **7勝5分15敗** | 勝ち |
「……2位」
川崎が順位表を見ながら呟いた。
千葉が富山を抜いた。
第26節終了時点。
千葉は勝ち点51。
そこから秋田、伊勢を連破。
57まで伸ばした。
一方の富山も第27節を勝利し、連勝を5まで伸ばしていた。
しかし、第28節。
北海道との直接対決に敗れた。
勝ち点55。
千葉との差は2。
「万条のところ、負けたのか」
森川が言う。
「ああ。ただ、5連勝してたチームだからな。一回負けただけでどうこうって状態でもないだろ」
戸塚が答える。
その通りだった。
万条は富山で活躍している。
チームも好調。
北海道に敗れたとはいえ、千葉との勝ち点差は僅か2しかない。
一試合で簡単にひっくり返る。
だが――。
今、千葉の選手たちが最も気にしていた数字はそこではなかった。
「北海道、60」
エミリオが順位表を見ながら言う。
「俺たち、57」
川崎が続ける。
少しだけ間が空いた。
「……3差じゃん」
ロッカールームが静かになった。
首位との勝ち点差。
**3。**
一試合分。
少し前まで、北海道は遥か先を走っていた。
第17節。
千葉が2-1で勝利し、北海道にシーズン初黒星をつけた。
それでも、まだ差は大きかった。
だが、第20節から神谷が負傷離脱。
攻撃陣も揃って調子を落とし、北海道が勝ち切れない試合を増やした。
その間に富山が猛追。
そして千葉も、第20節、第21節の二連敗から立て直した。
相模原に2-0。
福岡に1-0。
横浜に3-0。
栃木に2-1。
信州とは1-1。
秋田に2-0。
伊勢に1-0。
7試合。
6勝1分。
無敗。
気づけば、北海道の背中が目の前まで近づいていた。
「ただ」
マルコの声が響く。
選手たちが監督を見る。
「北海道が不調だから、ここまで近づいた。それは事実だ」
誰も否定しない。
「神谷もいない。攻撃陣も本来の状態ではない」
そこでマルコは一度言葉を切った。
「だが、その北海道は今日、5連勝中だった富山に勝った」
「……」
「苦しんでいることと、弱いことは違う」
八幡も小さく頷いた。
むしろ北海道にとって、この勝利が復調のきっかけになる可能性もある。
神谷がいつ戻ってくるか。
攻撃陣がいつ調子を取り戻すか。
それも分からない。
そして、北海道だけを見ているわけにもいかない。
千葉、57。
富山、55。
その差は2。
さらに4位の岡山も勝ち点51。
残り6試合なら、まだ何が起こってもおかしくなかった。
「結局」
八幡が順位表を見ながら呟く。
「こっちは勝ち続けるしかないんですよね」
「そういうことだ」
中村が笑う。
「北海道が負けるかどうかも、富山が負けるかどうかも、俺たちにはどうにもできないからな」
「分かりやすくていいじゃん」
森川が言った。
「残り全部勝てばいいんだろ?」
「言うのは簡単だけどな」
戸塚が苦笑する。
「そこは勢いで乗ってくれよ」
小さな笑いが起こった。
マルコもそれを止めなかった。
だが、やがて再び選手たちを見る。
「残り6試合」
笑いが止まる。
「我々は2位だ」
北海道。
60。
千葉。
57。
富山。
55。
「だが、我々が目指しているのは2位ではない」
シーズン開幕から。
ずっと掲げてきた。
目標。
「J2優勝だ」
マルコが言い切る。
誰も目を逸らさない。
一時は独走状態だった北海道。
第20節から神谷を失い、攻撃陣も不調。
その北海道を猛烈な勢いで追い始めた富山。
そこには、夏まで千葉にいた万条富隆もいる。
そして。
二連敗から立て直し、再び勝ち点を積み上げ続ける千葉。
残り。
6試合。
首位との勝ち点差。
**3。**
2位と3位の差。
**2。**
もう。
一度の勝利。
一度の引き分け。
一度の敗戦で。
順位は簡単に動く。
長かったシーズンは。
いよいよ。
本当の優勝争いへ入っていた。
第357話 富山ベイウインズ
第28節から二日後。
エストレヤ千葉のクラブハウス。
首脳陣が集まったミーティングルームでは、大型モニターに一つのクラブの試合映像が映し出されていた。
富山ベイウインズ。
第28節終了時点で16勝7分5敗。勝ち点55で現在3位。
2位のエストレヤ千葉との差は、僅か2ポイントだった。
そして何より。
夏まで千葉に所属していた万条富隆が、現在プレーしているクラブでもある。
「北海道のことも気になりますが」
八幡は手元のリモコンを操作しながら口を開いた。
「先に、こっちを整理しておきたいです」
映像が止まる。
画面には富山の選手たちがピッチに並んでいる。
ミーティングルームにいるのは、マルコ、中村、田島、ルイス、山本、鳥山、本庄、そして八幡。
いつもの首脳陣八人だった。
マルコが腕を組んだままモニターを見つめる。
「富山か」
「はい」
八幡が映像を切り替えると、富山の基本布陣が表示された。
3-4-2-1。
CF
シャドー シャドー
LWB RWB
CMF CMF
CB CB CB
GK
「基本はこの形です。ただ、並びだけ見て判断すると、ちょっと面倒なことになります」
「二列目だな」
中村がすぐに反応した。
「ですね」
八幡が再生ボタンを押す。
相手チームがボールを持っている場面だった。
富山は無理に前から追わない。
まずは自分たちの陣形を整え、中央のスペースを消す。
相手にある程度ボールを持たせることも恐れない。
焦って奪いに行くのではなく、相手が入ってきてほしい場所へ誘導している。
そして。
ボールを奪った瞬間だった。
一気に前へ出る。
「基本的にはカウンターです」
八幡が説明する。
「ボール保持率そのものを高くすることには、それほどこだわってません。守って、奪って、そこから前へ出る。かなり割り切ってます」
映像の中では、富山の選手が奪ったボールを迷わず縦へ送っていた。
前線のCFが受ける。
その周囲へ二人のシャドーが動く。
そこで八幡が映像を止めた。
「問題は、この二人です」
二シャドー。
富山の3-4-2-1で、最も特徴的な場所だった。
「かなり自由に動きます」
右のシャドーだからといって、常に右側にいるわけではない。
左のシャドーも同様だった。
中央へ入る。
ハーフスペースへ流れる。
サイドへ開く。
時には中盤まで下りてボールを受ける。
相手の位置や味方の動き、その瞬間に生まれたスペースを見ながら、二人がかなり自由にポジションを変えていた。
「ポジションを固定してないのか?」
本庄が尋ねる。
「完全に好き勝手ってわけじゃないです。ただ、かなり裁量は与えられてます」
八幡が再び映像を流す。
一人のシャドーが低い位置まで下りた。
それに釣られるように、相手のボランチが数メートル前へ出る。
その瞬間。
もう一人のシャドーが、空いた中央へ入り込んだ。
すぐにボールが入る。
「厄介だな」
中村が低く呟いた。
「一人を捕まえようとすると、別の場所を使われる」
「はい。だからマンツーマン気味に追いかけると、富山の思う壺です」
一人についていけば、その選手がいた場所が空く。
そこへもう一人のシャドーが入る。
あるいはCFが下がり、空いた最前線へシャドーが飛び出す。
数字だけなら整然とした3-4-2-1。
だが、実際に前線の三人が動き始めると、それほど単純な形には見えなくなる。
マルコが画面を見つめたまま言った。
「前の三人を固定しないことで、相手の守備基準を曖昧にしている」
「そうですね」
八幡は少し映像を戻した。
「ただ、この二シャドーを自由に動かせるのには理由があります」
今度は画面の左右を指す。
ウイングバック。
マルコが目を細めた。
「かなり低い位置だな」
「はい」
富山のウイングバックは、攻撃時に常に高い位置へ張るタイプではなかった。
むしろ優先順位は守備にある。
相手のサイド攻撃を止める。
三バックの外側をカバーする。
ボールを失えば素早く戻り、最終ラインに吸収される。
守備時には五枚が横に並ぶ時間も多い。
「ウイングバックは、かなり守備に比重を置いてます。二シャドーを自由に動かせるのも、サイドの守備をこの二人がかなり引き受けてるからです」
富山が押し込まれる。
左右のウイングバックが下がる。
基本的には5-4-1に近い形。
二シャドーの戻る位置によって多少形は変わるものの、サイドのスペースを簡単に空けることはない。
「守備型か」
山本が口にする。
だが、八幡は首を横に振った。
「守備だけなら、まだ楽なんですけどね」
別の映像に切り替える。
富山が自陣でボールを奪った。
まずシャドーへ縦パス。
受けたシャドーが前を向く。
その瞬間だった。
つい数秒前まで最終ライン近くにいた右ウイングバックが、一気に前方へ飛び出す。
相手のサイドバックの外側を駆け抜けた。
「……速いな」
中村が思わず漏らす。
「攻撃性能もあります」
八幡が映像を進める。
「守備を優先してるだけで、攻撃が苦手なわけじゃない。むしろ、上がるタイミングを選んでます」
毎回追い越すわけではない。
だからこそ厄介だった。
二シャドーが中央へ入れば、その外側へウイングバックが出てくる。
逆にシャドーがサイドへ流れれば、無理に追い越さず後方で支える。
必要な時だけ前へ出る。
それだけに、相手からすると攻撃参加のタイミングを読みづらい。
「二シャドーを見てるとウイングバックが来る。ウイングバックを警戒すれば、中の二人が動きやすくなる」
マルコの言葉に、八幡が頷いた。
「そういうことです。守備重視だからって、放置していい相手じゃないです」
映像を見ていた田島も難しい表情を浮かべる。
「相手にすると、どこを基準に守るか迷うな」
「そこを狙ってるんだと思います」
そして富山には、もう一つ大きな特徴があった。
「あと、富山相手で絶対に忘れちゃいけないのが――」
八幡が映像を切り替えた。
相手チームが最終ラインでボールを持っている。
前線のFWが富山DFの背後へ走り出した。
パサーが顔を上げる。
スルーパス。
完璧に裏を取ったように見えた。
だが。
ボールが蹴られる直前。
富山の三バックが、ほぼ同時に一歩前へ出ていた。
副審の旗が上がる。
オフサイド。
「これです」
八幡が映像を止める。
「オフサイドトラップ」
もう一本。
今度は別の試合だった。
相手のパサーが前線を見る。
FWがタイミングを計りながら背後へ走る。
その瞬間、富山の最終ラインが一斉に前へ出た。
また旗が上がる。
「かなりやるな」
中村の表情が変わった。
「かなりやります」
八幡も真剣な表情で答える。
「偶然ラインが高くなってるわけじゃないです。明確に狙ってます」
三バックだけではない。
守備時に下がったウイングバックも周囲の位置を確認し、最終ライン全体が連動して動いている。
「裏を取ったと思わせて、実際には取らせてる場面もあります」
八幡が少し先まで映像を進めた。
相手FWは完全に抜けたと思って走っている。
だが、パスが出た瞬間には、すでに一歩オフサイドポジションへ取り残されている。
田島が腕を組む。
「パサー側も嫌だな」
「ですよね」
「少し出すのが遅れただけでオフサイド。だからって早く出し過ぎると、今度はFWに合わない」
「そうなんですよ」
パスを出したい。
だが、いつ出せばいいのか迷う。
その一瞬の迷いまで、富山は守備に利用していた。
「ただし」
マルコが静かに口を挟む。
「当然、リスクもある」
「もちろんです」
八幡が頷く。
オフサイドトラップは成功すれば大きい。
だが、一人でもラインを上げ損ねれば一気に背後を取られる。
その先にはGKしかいない。
「問題は、今のところ成功率が高いことですね」
「だったら、逆にそこは使えるかもしれないな」
山本が呟いた。
八幡がそちらへ顔を向ける。
「セットプレーですか?」
「それもある。ラインを上げる意識が強いなら、その意識そのものを利用できる可能性はある」
「ですね」
八幡も頷いた。
富山ベイウインズ。
基本布陣は3-4-2-1。
守備を土台にしたカウンター。
自由に動く二シャドー。
守備を重視しながらも、出るべき時には一気に攻撃へ参加するウイングバック。
そして、高い連係を必要とするオフサイドトラップまで積極的に使う最終ライン。
単純な堅守速攻ではない。
守備を固めて相手を引き込み、ボールを奪った瞬間に自由な二シャドーを使う。
相手が中央を警戒すればウイングバックが外を走り、逆にサイドへ意識を向ければシャドーが中央へ入る。
そして守備では、ただゴール前を固めるだけではなく、自分たちからラインを動かして相手の裏への動きまで潰してくる。
中村が椅子に身体を預けながら、僅かに息を吐いた。
「……そりゃ、勝つよな」
第27節まで5連勝。
第28節では北海道に止められた。
それでも、そこまでの勢いが偶然だったわけではない。
はっきりとした戦い方があり、その戦い方を選手たちが理解している。
そして。
今の富山には、夏前まで存在しなかった戦力まで加わっている。
「それで」
八幡が別の映像を開いた。
「夏から、こいつもいます」
大型モニターに一人の選手が映る。
青い富山のユニフォーム。
もう、その姿にも以前ほど違和感はなかった。
万条富隆。
夏までエストレヤ千葉でプレーしていた男。
中村も、マルコも。
他のスタッフたちも黙って画面を見る。
万条が中盤でボールを受けた。
前を向く。
周囲を確認する。
味方へ預け、そのまま空いた場所へ動く。
八幡はそのプレーを見ながら口を開いた。
「千葉にいた時より、今の富山の方が万条の使い方ははっきりしてます」
夏まで味方だった選手。
今は、優勝を争う直接のライバルにいる。
そして。
富山の3-4-2-1。
その特徴的な戦術の中で。
万条富隆はすでに、自分の役割を確かなものにしていた。
第358話 要注意人物――万条富隆
クラブハウス。
首脳陣会議。
大型モニターには、引き続き富山ベイウインズの試合映像が映されていた。
基本布陣は3-4-2-1。
守備を土台としたカウンター。
自由に動く二人のシャドー。
守備を重視しながらも、必要な場面では一気に前へ出てくる両ウイングバック。
そして、最終ラインが積極的に仕掛けるオフサイドトラップ。
前話までで、富山というチームがどんなサッカーをするのかは一通り確認した。
八幡はそこで映像を止める。
「じゃあ、次は個人を見ます」
リモコンを操作する。
画面が切り替わった。
そこに映ったのは、金髪の男だった。
見間違えるはずもない。
夏まで毎日のようにクラブハウスで顔を合わせ、同じグラウンドにいた選手だ。
「一人目」
八幡が言う。
「背番号8。万条富隆」
29歳。
12月12日生まれ。
両利き。
そして、MFであればほぼ全てのポジションをこなせる。
中村が腕を組みながら、わずかに苦笑した。
「こいつに関しては、映像を見るまでもなく分かってる部分が多いな」
「ですね」
八幡も頷いた。
何しろ、今年の夏までエストレヤ千葉に所属していた選手である。
それだけではない。
万条は、八幡がスカウトになる以前。
前任のスカウトによって千葉へ連れてこられた選手だった。
その前任スカウトが、万条について口にしていた言葉がある。
――最高傑作。
それほどまでに、才能だけなら評価されていた。
J1クラブのユース出身。
ユース時代から世代屈指の存在として知られ、トップチーム昇格と同時にレギュラーへ定着した。
若くしてJ1でブレイク。
将来の日本代表。
いずれ日本サッカー界を背負う選手になる。
そう期待されていた。
21歳で海を渡った。
最初はイタリア。
その後、フランス。
さらにオランダ。
ヨーロッパの複数クラブを渡り歩いた。
だが。
どのクラブでも、能力を継続して発揮することはできなかった。
原因は実力ではない。
遅刻。
寝坊。
練習態度。
監督との衝突。
そして、チームメイトとの喧嘩。
プレーそのものを評価されながら、自分自身の素行によって出場機会を失う。
そんなことを繰り返した。
そして26歳の時。
前任スカウトの誘いを受け、エストレヤ千葉へ加入。
そこから約三年間。
千葉でプレーした。
そして今年の夏。
万条は千葉を離れ、富山ベイウインズへ移籍した。
「能力については、今さら説明する必要もないでしょうけど」
八幡が映像を再生する。
万条がボールを受ける。
右足でトラップ。
相手が寄せてくる。
万条は身体を一瞬揺らし、縦へ行くように見せた。
相手の重心が外へ流れた瞬間。
内側へ切り返す。
一人を外す。
そのまま左足で前線へ鋭いパスを通した。
「ドリブル」
次の映像。
左足でボールを運ぶ。
相手との間合いを見ながら、簡単には足を出させない。
「パス」
中央。
二人の間を抜くように、右足でスルーパスを通す。
「シュート」
ペナルティエリアの外。
左足を振り抜く。
低く、強烈なシュートがゴール隅へ飛んでいく。
「ゲームメイク」
今度は低い位置まで下がる。
ボールを受け、前を向く。
相手の寄せを見てから、逆サイドへ長いボールを送る。
八幡が淡々と締めた。
「全部できます」
マルコが頷く。
「そして両利きだ」
「はい」
右足を切れば左足。
左足を切れば右足。
守備側がどちらか一方へ追い込めば終わる選手ではない。
むしろ、どちらへ誘導してもプレーを続けられる。
「能力だけなら、J2では別格です」
八幡は続ける。
「J1でも十分にやれる」
「それは千葉にいた時から変わらないな」
中村が言った。
「問題は、今の富山でどう使われているかだ」
「そこです」
八幡が映像を切り替える。
富山の基本布陣。
3-4-2-1。
万条の名前は右シャドーの位置に表示されていた。
「現在の基本ポジションは右シャドーです」
映像が始まる。
だが。
数秒もしないうちに、万条は中央へ入っていた。
次の場面では左。
さらに別の場面では、中盤まで下がり、ボランチの横でボールを受けている。
山本が画面を見ながら眉を上げた。
「……右シャドー?」
「一応」
八幡が答える。
中村が小さく笑った。
「相変わらずだな」
富山の二シャドーは元々、かなり自由に動く。
その中でも、万条に与えられている自由は特に大きかった。
右にいる。
次の瞬間には中央へ。
左へ流れることもある。
低い位置まで下がる。
あるいは、CFを追い越して最前線へ出る。
空いている場所があれば、そこへ入っていく。
八幡が映像を止めた。
「富山は、万条に右シャドーとしての立ち位置を守らせるより、自由に動かした方がいいと判断してるみたいです」
「理に適っている」
マルコがすぐに答える。
「彼は一つの役割だけを与える必要がない」
「そうですね」
万条の最大の特徴は、MFならどこでも高いレベルでプレーできることだった。
右シャドーから中央へ入れば、トップ下のように振る舞う。
低い位置まで下がれば、CMFのようにゲームを作る。
サイドへ流れれば、SHのようにボールを運ぶ。
必要なら、自分でゴール前へ入り込む。
中村が映像を見ながら呟く。
「自由に動かしても、どこへ行っても仕事ができる」
「はい。だから成立します」
次の場面。
富山が自陣でボールを奪った。
カウンター。
万条は右シャドーの位置から中央へ入る。
縦パスを受けた。
相手のボランチが寄せる。
万条はワンタッチで左へ預けると、そのまま前へ走る。
リターンが来る。
今度は右足。
大きく右へ展開した。
走り出した右ウイングバックへ、正確なボールが通る。
「これです」
八幡が映像を止めた。
「カウンターで万条に前を向かれると、選択肢が多すぎます」
自分で運ぶ。
CFへ縦パスを入れる。
逆サイドへ振る。
ウイングバックを使う。
もう一人のシャドーと絡む。
そして。
自分でシュートを打つ。
「しかも」
八幡は少し映像を戻す。
「万条自身は、右足か左足かを気にする必要がない」
万条にとっては、それだけの話だ。
だが守る側は違う。
両方を警戒しなければならない。
中村が一つずつ数えるように言った。
「縦を切れば中へ来る。中を切れば外へ出る。シュートを警戒して寄せればパス。パスを警戒して距離を取れば運ばれる」
八幡が横を見る。
「面倒でしょう?」
「知ってる」
「ですよね」
夏までの練習で、何度も見てきた。
だからこそ。
万条富隆という選手が、能力だけなら本物だということは、誰よりも分かっていた。
田島が画面を見ながら口を開く。
「真面目だったら、日本代表の常連になっててもおかしくなかった」
誰も否定しなかった。
それだけの才能はある。
だが。
その才能を、自分自身の素行で何度も無駄にしてきた。
それでも、まだ29歳。
サッカー選手として、十分に力を発揮できる年齢である。
そして今。
富山では、その能力がチームの戦術と噛み合っていた。
「千葉にいた時と比べて、どう見る?」
中村が八幡へ尋ねた。
「能力そのものが急に上がったわけじゃないです」
八幡は即答する。
「使われ方ですね」
再び映像。
右シャドーにいた万条が中央へ入る。
それに合わせるように、もう一人のシャドーが左へ流れた。
右ウイングバックが外を駆け上がる。
CFは中央に残る。
万条が前を向く。
それだけで、複数のパスコースが生まれていた。
「富山の方が、万条に細かい立ち位置を求めてないです」
八幡が説明する。
「右シャドーから動いても、誰かがその場所を使う。ウイングバックもいるし、もう一人のシャドーも動く」
だから。
万条が自由に動いても、チームの形そのものは大きく崩れない。
むしろ。
それに対応しようとする相手の守備の方が崩れていく。
「捕まえに行けば?」
本庄が尋ねた。
「こっちが動かされます」
八幡はすぐに答える。
「万条が低い位置まで下がったからって、DFがそのまま追いかけるわけにはいかない。ボランチが受け渡すにしても、その瞬間に別の選手が入ってくる」
マルコも頷く。
「マンツーマンは危険だな」
「俺もそう思います」
万条一人を追い続ける。
それは、富山の二シャドーにこちらの守備配置を動かされることと同じだった。
「じゃあ、放っておくか?」
中村が聞く。
「それも無理です」
八幡はまた即答した。
「一人で決められるんで」
ドリブル。
パス。
シュート。
ゲームメイク。
両利き。
MF全ポジションを高いレベルでこなせる。
そして今は、富山から大きな自由まで与えられている。
マルコが画面に映る万条を見つめた。
「止めることだけを考えるのではなく」
少し間を置く。
「自由に使える場所を減らす」
八幡がマルコを見る。
「俺も、それが一番現実的だと思います」
万条だけを完全に消そうとしてはいけない。
どこへ動いたのか。
誰が受け渡すのか。
その時。
もう一人のシャドーはどこへ動く。
CFはどうする。
ウイングバックは上がってくるのか。
見るべきなのは、万条一人ではない。
富山の3-4-2-1全体だった。
八幡が映像を止める。
画面の中央。
金髪。
背番号8。
万条富隆。
「要注意人物、一人目」
夏までは味方だった。
今は、優勝を争う直接のライバル。
八幡は次の映像へ切り替えながら言った。
「こいつに好き勝手やらせたら」
一度だけ。
画面に映る万条へ視線を戻す。
「普通に、一人で試合を持っていかれます」
第359話 左足だけの万能型
「二人目」
八幡がリモコンを押す。
大型モニターから万条富隆の映像が消え、代わりに別の選手が映し出された。
ライアック・フォーン。
背番号22。
23歳。
3月22日生まれ。
オーストラリア国籍。
左利き。
そして、MFならどのポジションでもプレーできる。
「夏に加入したオーストラリア人です」
八幡が説明を始める。
「オーストラリア1部から完全移籍。現在もオーストラリア代表に選ばれてます」
「23歳で現役代表か」
中村が画面を見る。
「ああ。こいつか」
「はい」
映像が始まった。
富山がボールを保持している。
フォーンは中央。
相手の中盤と前線、そのちょうど間に立っていた。
完全にフリーというわけではない。
だが、誰が捕まえるのか判断しづらい。
そんな位置だった。
「……嫌なところにいるな」
中村が呟く。
「そこが一番厄介です」
八幡は即答した。
フォーンが一度、後ろを見る。
それから数歩だけ横へ動いた。
相手の視界から外れる。
直後。
パスが入った。
フォーンは左足でボールを収める。
ほとんど止まることなく身体を前へ向け、そのまま斜め前へ鋭いパスを通した。
「上手いな」
山本が言う。
「パス精度はかなり高いです」
次の映像。
今度は右寄りに位置している。
フォーンはボールが来る前に首を振った。
一度。
二度。
相手。
味方。
スペース。
すべて確認している。
ボールが来る。
左足でトラップ。
一度で身体の向きを作る。
そのまま左足を振り、相手二人の間へ縦パスを通した。
「特に厄介なのは二つです」
八幡が映像を止める。
「ポジショニングとパス」
画面には、ボールを受ける直前のフォーンが映っていた。
「こいつ、持ってから考えるタイプじゃないです」
八幡が画面を指す。
「受ける前にかなり準備してる」
相手の背中。
視界。
味方との距離。
次に出せる場所。
そこから逆算して立っている。
「万条とは違うな」
中村が言った。
「違います」
八幡も頷く。
「万条は、ボールを持ってからでも局面を変えられる。ドリブルでも、パスでも、シュートでも」
対してフォーンは。
「こっちは、受ける前に優位を作るタイプです」
再び映像が動き出す。
フォーンがゆっくり移動する。
派手ではない。
走り回っているわけでもない。
ただ、相手のボランチとFWの間へ、自然に入っていく。
そこに立てばパスコースができる。
ボールを受ける。
左足。
ワンタッチで前へ。
「こいつがいると、カウンターの一発目が安定するんですよね」
八幡が言う。
富山の基本はカウンター。
ボールを奪った直後。
最初にどこへつけるか。
その場所に、フォーンがいる。
受けて前へ出す。
あるいは逆へ振る。
無理なら戻す。
状況を見て、最適な選択肢を選べる。
「判断も悪くない」
マルコが言った。
「はい。何でもかんでも縦に入れるタイプでもありません」
MFなら、どこでもプレーできる。
中央。
サイド。
攻撃的な位置。
守備的な位置。
「万条ほどじゃないですけど、タイプとしては万能型です」
「万条ほどではない?」
本庄が尋ねる。
「できることの幅ですね」
八幡が答えた。
「万条はドリブルで一人剥がして、そのままシュートまで持っていける。ゲームメイクもできるし、両足も使える」
フォーンも多くのことを高い水準でこなせる。
だが。
一人で何でも解決してしまう万条ほどの万能性ではない。
「ただ」
八幡が映像を進める。
「チームの中で使うなら、こいつも相当面倒です」
富山がボールを失った。
フォーンはすぐに戻る。
相手の前進するコースへ身体を入れ、中央へのパスを消す。
ボールがサイドへ流れると、今度はそこへ寄せた。
相手は前へ進めず、後方へ戻す。
「守備もサボらない」
中村が言った。
「はい」
攻撃だけの選手ではない。
ボールを失えば戻る。
寄せる。
パスコースを切る。
味方のために走る。
富山の守備組織から、一人だけ外れるようなこともない。
「現オーストラリア代表で、これだけ戦術的に動ける23歳か」
田島が呟いた。
「夏にいいの取ったな、富山」
「そうなんですよね」
八幡が苦笑する。
万条富隆。
ライアック・フォーン。
富山は夏、中盤に二人の強力な選手を加えていた。
「ただし」
八幡が映像を止める。
「フォーンには、かなり分かりやすい弱点があります」
マルコが画面を見る。
「右足か」
「はい」
別の映像。
フォーンが左足でボールを受ける。
相手は左側を塞いだ。
フォーンの動きが、一瞬止まる。
「右足が使えない?」
本庄が尋ねる。
「ほぼ全く」
八幡が答えた。
「トラップはできます」
映像の中で、フォーンは右足でボールを止めた。
そこまでは問題ない。
むしろトラップ自体は上手い。
だが、その先が続かない。
相手がフォーンの左側を完全に切る。
右へ追い込む。
フォーンは右足でボールを運ばない。
右足でパスも出さない。
一度身体を作り直し、左足へ持ち替えた。
「パスは右だと無理です」
次の映像。
「ドリブルも右ではできない」
さらにゴール前。
右足で打てるように見える。
だが、フォーンは左へ持ち替えた。
「もちろんシュートも」
中村が腕を組む。
「随分極端だな」
「極端です」
左足一本だけなら、かなり高水準だった。
トラップ。
パス。
展開。
ドリブル。
シュート。
ほとんど何でもできる。
だが、それが右足になると一気に選択肢が消える。
「両足を使える万条と並べると、余計に目立つな」
山本が言った。
「そうですね」
万条は左右のどちらでも同じようにプレーできる。
一方。
フォーンは左だけ。
「だったら左を切って、右へ追い込めばいい」
本庄が言う。
「基本は、それです」
八幡も頷いた。
だが。
映像を少しだけ戻す。
「問題は」
フォーンがボールを受ける、その前。
「こいつ、自分の弱点を分かった上でポジションを取ってるんですよ」
右足が使えない。
そんなことは本人が一番よく分かっている。
だからこそ。
最初から左足で次のプレーができる位置へ動く。
身体の向きも作る。
相手が左を切ろうとすれば、その前に立ち位置を変える。
「弱点がはっきりしてる分、対策自体はできます」
八幡が言う。
「でも、右へ追い込むところまで行けなかったら意味がない」
マルコが頷いた。
「彼が受けてからでは遅い」
「そう思います」
フォーンの高精度な左足。
それを出させないためには、ボールが入ってから対応するのでは遅い。
入る前。
立ち位置の段階から制限する必要がある。
「万条と比べれば、弱点は明確です」
八幡がリモコンを操作する。
「でも」
画面の中。
フォーンが左足一本で縦パスを通した。
そこから富山のカウンターが一気に加速する。
「左足を自由にさせたら、かなり危ないです」
映像が止まる。
背番号22。
23歳。
現オーストラリア代表。
ライアック・フォーン。
MFならどこでもできる万能型。
優れたポジショニング。
高精度の左足。
守備も怠らない。
そして。
右足がほとんど使えないという、あまりにも明確な弱点。
「要注意人物、二人目」
八幡が言う。
画面に名前が表示された。
**ライアック・フォーン。**
「右足を使わせるところまで」
八幡はモニターを見たまま続けた。
「どうやって追い込むかですね」
# 第360話 富山の心臓
「三人目」
八幡がリモコンを押す。
ライアック・フォーンの映像が消え、次の選手が大型モニターに映し出された。
背番号10。
チョウ・ウンソウ。
32歳。
5月25日生まれ。
ポジションはDMF。
そして、現中国代表。
「富山のキャプテンです」
八幡が説明を始めた。
「富山に加入して、今年で10年目」
「10年か」
中村が画面に映る男を見る。
「外国籍選手で10年は長いな」
「もう完全に富山の顔ですね」
来日して富山へ加入。
それから一度もクラブを離れることなく、10年間プレーし続けてきた。
今では背番号10を背負い、腕にはキャプテンマーク。
チームを象徴する存在と言っていい。
ただし。
今シーズンの前半戦、富山のピッチにその姿はなかった。
「前半戦はいませんでした」
八幡が映像を切り替える。
「去年負った怪我の影響です」
画面にはシーズン前半の富山の試合が流れる。
そこに背番号10はいない。
長期離脱。
復帰できないまま、シーズンは折り返しを迎えた。
「戻ってきたのは――」
八幡が操作すると、第19節の映像に切り替わる。
「第19節です」
そこで初めて。
富山の中盤に、背番号10が戻ってきた。
中村が小さく息を吐いた。
「……なるほどな」
「はい」
第19節。
チョウ・ウンソウが復帰。
そして夏には、万条富隆とライアック・フォーンが加入した。
富山の後半戦。
その戦力は、前半戦とは明らかに違っている。
「5連勝も偶然じゃないってことか」
「そういうことです」
八幡が映像を再生する。
相手が中央から仕掛けていた。
富山の守備陣形が僅かにずれる。
縦パス。
ペナルティエリア手前で相手MFがボールを受け、前を向こうとする。
その瞬間だった。
チョウが身体を入れる。
肩をぶつける。
相手とボールの間へ身体を滑り込ませ、そのままボールを奪った。
「強いな」
田島が言う。
「身体を張ることを嫌がりません」
八幡が答えた。
派手なスライディングではない。
相手へ無理に飛び込むわけでもない。
肩。
腰。
身体全体。
それを使って相手を自由にさせない。
次の場面。
富山がクロスを跳ね返す。
こぼれたセカンドボールへ、相手選手が走り込んだ。
だが。
その前にチョウが入る。
身体で進路を塞ぎ、ボールを味方へ預けた。
「球際から逃げない」
中村が言った。
「はい」
そこで八幡は映像を少し先へ進めた。
「ただ、チョウの一番厄介なところは、身体を張れることだけじゃないです」
今度は、相手が右サイドから攻撃している場面。
チョウはすぐには寄せない。
一歩だけ下がった。
まず中央へのパスコースを消す。
相手が横へ動かす。
チョウもそれに合わせて数メートル移動する。
まだ飛び込まない。
そして。
縦パスが入った瞬間。
初めて前へ出た。
そのままボールを奪う。
「判断力か」
マルコが言う。
「はい」
八幡が頷く。
「行くべき時と、待つべき時を間違えないです」
無理にボールへ行かない。
味方に任せるべき場面では任せる。
自分が出るべき時だけ出る。
冷静。
それがチョウの守備だった。
「32歳。富山10年目」
八幡が画面を見ながら続ける。
「このチームを知り尽くしてるのも大きいと思います」
映像の中。
富山のウイングバックが攻撃参加する。
その背後にスペースができた。
だが、チョウはすぐにそこへ移動した。
穴を埋める。
次の場面では、三バックの一人が相手へ食いついた。
今度はその背後へ下がる。
カバー。
「派手じゃない」
中村が言う。
「でも、いなくなると困るタイプだな」
「まさに、それです」
八幡も頷いた。
富山の3-4-2-1。
二人のシャドーには大きな自由が与えられている。
ウイングバックも状況を見ながら攻撃へ出ていく。
万条が動く。
フォーンも動く。
サイドからウイングバックも上がる。
当然。
その後ろでは、誰かがバランスを取らなければならない。
画面の中央。
チョウはほとんど動いていないように見える。
だが実際には、数メートルずつ位置を修正し続けていた。
前に出た味方の背後。
空いた中央。
相手のカウンターで使われそうな場所。
そこへ先回りしている。
「こいつがバランスを取ってるんですよ」
マルコが腕を組んだ。
「だから前の選手が自由に動ける」
「そうですね」
万条には自由。
フォーンには優れたポジショニングと高精度の左足。
そして、その二人の後ろにチョウがいる。
守備。
バランス。
判断。
富山の中盤は、それぞれの特徴が綺麗に分かれていた。
「第19節にチョウが復帰して」
中村が呟く。
「夏に万条とフォーンが来た」
「はい」
八幡が答える。
「後半戦の富山を、前半戦と同じチームだと思わない方がいいです」
戦力が明確に変わった。
だから順位を上げてきた。
だから5連勝まで伸ばした。
チョウが復帰したことで守備と中盤の土台が戻り、そこへ万条とフォーンが加わった。
富山が後半戦に入って一気に勢いを増した理由は、そこにもあった。
「ただし」
八幡が映像を止める。
「チョウにも弱点はあります」
画面がセットプレーへ切り替わった。
相手から高いロングボールが入る。
チョウが競る。
身体をぶつける。
だが。
頭上では相手の方が高かった。
「高さか」
山本が言った。
「はい」
プロフィールが画面に表示される。
172センチ。
「DMFとしては小さいです」
身体は張れる。
地上の球際でも逃げない。
判断力も高い。
だが。
身長だけはどうにもならない。
次の映像。
相手が前線へ浮き球を入れる。
チョウが競る。
自由に跳ばせないよう身体を当てる。
それでも、ボールは頭上を越えていった。
「地上戦なら強い」
中村が言う。
「でも空中戦は別か」
「ですね」
特に相手が明確に高さをぶつけてきた場合、チョウ一人では対応しきれない。
もちろん。
それは富山側も理解している。
三バックが近くでカバーする。
チョウだけに空中戦を任せるような守り方はしていない。
「弱点があるからって、簡単にそこを狙えるわけでもないな」
本庄が言った。
「そうなんですよ」
八幡は映像を少し戻す。
「チョウ本人も、自分が小さいことくらい当然分かってます」
競る前に身体を当てる。
相手を自由に跳ばせない。
落下地点へ先に入る。
自分では無理だと判断すれば、最初から味方に任せる。
「判断力で補ってます」
172センチ。
明確な弱点ではある。
だが。
それだけを狙えば簡単に崩せるほど、単純な選手ではなかった。
何より。
富山で10年間戦ってきたキャプテンである。
八幡が映像を止めた。
画面中央。
背番号10。
チョウ・ウンソウ。
32歳。
中国代表。
富山在籍10年目。
第19節に復帰。
身体を張る守備と冷静な判断。
そして、チーム全体のバランスを支える存在。
「要注意人物、三人目」
八幡が言った。
中村が画面を見る。
「万条やフォーンみたいに、分かりやすく目立つタイプじゃないな」
「ああ」
マルコが答える。
画面の中。
チョウがキャプテンマークを巻き、味方へ指示を飛ばしている。
「だが、こういう選手がいるから前の選手が自由にプレーできる」
八幡も小さく頷いた。
富山ベイウインズの攻撃を見るなら。
万条富隆。
ライアック・フォーン。
その二人に目が向く。
だが。
そこだけを見ていてはいけない。
その後ろには。
10年間、このクラブを知り続けてきたキャプテンがいる。
チョウ・ウンソウ。
派手に試合を決める選手ではない。
それでも。
富山の自由なサッカーを成立させるためには欠かせない。
文字通り。
**富山の心臓。**
そう呼ぶに相応しい選手だった。