第383話 並んだ勝ち点
第383話 並んだ勝ち点
第32節。
アウェー・山形。
**山形ブリッツFC 2-4 エストレヤ千葉。**
森川。
ダニエル。
川崎。
塩川。
四人がそれぞれゴールを決め、そのすべてを材木座義輝がアシストした。
派手な打ち合いを制した千葉は、これでついに**6連勝**。
勝ち点は**69**まで伸びた。
残されたリーグ戦は、あと2試合。
そして。
山形戦翌日。
J2第32節の全試合が終了した。
◇
エストレヤ千葉トレーニングセンター。
スタッフルーム。
大型モニターには、最新のJ2順位表が映し出されていた。
八幡。
マルコ。
中村。
田島。
ルイス。
山本。
鳥山。
本庄。
そして、強化部長の佐藤。
全員がモニターを見ている。
だが。
誰も、すぐには口を開かなかった。
視線が向いているのは、順位表の一番上。
そこだった。
## J2 第32節終了時点
| 順位 | クラブ | 勝ち点 | 成績 | 直近 |
| ------- | --------------- | -----: | --------- | ------------------- |
| **1位** | **北海道フェニックスFC** | **69** | 21勝6分5敗 | **勝ち・2連勝** ※得失点差で首位 |
| **2位** | **エストレヤ千葉** | **69** | 21勝6分5敗 | **勝ち・6連勝** |
| **3位** | **岡山セルフィオFC** | **60** | 18勝6分8敗 | **勝ち** |
| **4位** | **仙台アステルFC** | **56** | 15勝11分6敗 | **勝ち** |
| **5位** | **富山ベイウインズ** | **56** | 16勝8分8敗 | **引き分け・4連敗から脱出** |
| **6位** | **青森ブランシェFC** | **49** | 15勝4分13敗 | **勝ち・3連勝** |
| **7位** | **相模原マンスリーFC** | **44** | 12勝8分12敗 | **負け** |
| **8位** | **熊本アスフィーダ** | **43** | 12勝7分13敗 | **引き分け** |
| **9位** | **愛媛サザンクロスFC** | **42** | 10勝12分10敗 | **引き分け** |
| **10位** | **福岡レガーロ** | **41** | 11勝8分13敗 | **引き分け** |
| **11位** | **鹿児島レヴァンテFC** | **40** | 12勝4分16敗 | **勝ち** |
| **12位** | **横浜マンゲールFC** | **38** | 10勝8分14敗 | **負け** |
| **13位** | **CS栃木** | **37** | 9勝10分13敗 | **負け** |
| **14位** | **山形ブリッツFC** | **36** | 10勝6分16敗 | **負け** |
| **15位** | **伊勢シーガルズ** | **34** | 7勝13分12敗 | **勝ち** |
| **16位** | **秋田ノルディアFC** | **31** | 7勝10分15敗 | **負け** |
| **17位** | **信州アルプスFC** | **30** | 7勝9分16敗 | **負け** |
| **18位** | **駿河ユナイテッドFC** | **27** | 7勝6分19敗 | **負け** |
◇
「……並んだな」
長い沈黙を破ったのは、中村だった。
「はい」
八幡も順位表を見たまま答える。
**69。**
北海道。
69。
千葉。
69。
さらに。
勝利数。
21。
引き分け。
6。
敗戦。
5。
そこまで、まったく同じだった。
唯一違うのは。
得失点差。
それだけ。
「北海道が一位」
田島が言う。
「千葉が二位」
「ああ」
「でも、勝ち点は同じ」
もう。
首位を追いかけている。
そんな距離ではなかった。
本当に。
並んだ。
◇
八幡は、少し前の順位表を思い出していた。
第29節終了時。
北海道。
勝ち点63。
千葉。
勝ち点60。
3ポイント差。
そこから。
第30節。
駿河戦。
1対0。
第31節。
岡山戦。
3対1。
第32節。
山形戦。
4対2。
千葉は三試合すべてに勝った。
勝ち点9。
取りこぼしなし。
だが。
「北海道も落ちませんでしたね」
八幡が言った。
「そうだな」
マルコは腕を組んだまま頷く。
北海道は決して万全ではない。
神谷直人は第20節から負傷離脱。
さらに。
CFの佐々木俊郎。
右の林達也。
左の林卓也。
前線の三人も、本来の調子ではなかった。
それでも。
北海道は勝つ。
GK石原一成。
CBカストロ。
DMFカサーツノ。
その三人を中心に、守備が簡単には崩れない。
「攻撃が悪くても」
山本がモニターを見ながら言う。
「勝ち点を落とさない」
「首位にいた理由ですね」
八幡が返した。
「そういうことだ」
マルコも同意する。
攻撃がうまくいかない。
それでも負けない。
そして、必要な一点を取って勝つ。
それを続けてきたからこそ。
北海道もまた。
勝ち点69まで積み上げていた。
◇
「でも」
中村が順位表の上二つを指した。
「もう差はない」
「正確には」
八幡がすぐに言う。
「得失点差があります」
「分かってるよ」
「ならいいです」
「細かいな、お前」
「順位を決めてる部分なんで」
「それはそうだけど」
室内に少しだけ笑いが起きた。
だが。
その笑いも長くは続かない。
全員の視線は、すぐに順位表へ戻った。
残り。
**2試合。**
北海道。
69。
千葉。
69。
ここからどちらかが一度でも勝ち点を落とせば。
一気に状況は変わる。
逆に。
両方が勝ち続けるなら。
得失点差は最後まで意味を持つ。
「もう」
佐藤が口を開いた。
「他所の結果を完全に無視できる段階じゃないな」
「ですね」
八幡が答える。
しかし。
マルコがすぐに続けた。
「でも、選手にはそこばかり見せない」
「もちろんだ」
佐藤も即答した。
北海道がどうなるか。
得失点差がどう動くか。
それを考える前に。
まず。
千葉が勝たなければ何も始まらない。
◇
順位表の三番目。
岡山セルフィオFC。
勝ち点60。
「岡山は立て直しましたね」
八幡が言った。
第31節。
千葉が3対1で勝利。
だが。
岡山は第32節ですぐに勝利を取り戻した。
勝ち点60。
3位。
「上二つとは9差か」
中村が数字を見る。
「残り2試合ですから……」
そこまで言って。
止まった。
計算するまでもない。
残り2試合。
最大で獲得できる勝ち点は6。
北海道。
69。
千葉。
69。
岡山。
60。
もう。
届かない。
つまり。
優勝争いに残ったのは。
事実上でもなく。
数字の上で。
正式に。
**北海道フェニックスFC。**
そして。
**エストレヤ千葉。**
その二つだけだった。
◇
「……二チームか」
田島が呟く。
「そうなりましたね」
八幡は淡々と答えた。
だが。
胸の奥では、少し違う感覚があった。
開幕5試合。
0勝2分3敗。
勝ち点2。
単独最下位。
あの時。
残り2試合で。
J2優勝を争っている。
そんな未来を。
本気で想像できた人間が、果たして何人いただろうか。
◇
一方。
4位。
仙台アステルFC。
勝ち点56。
そして。
5位。
富山ベイウインズ。
同じく56。
「富山」
山本が言う。
「やっと止まりましたね」
「連敗は」
「はい」
北海道に負け。
千葉に負け。
その後。
さらに二つ。
負けた。
**4連敗。**
そして第32節。
ようやく引き分け。
勝ったわけではない。
それでも。
連敗自体は止まった。
「万条の件もあったからな」
中村が少し声を落とす。
「まあ」
八幡も頷く。
「チームとしては相当難しかったでしょうね」
二連敗。
主力選手のスキャンダル。
取材対応。
クラブとしての対応。
その後も続いた敗戦。
一時は北海道と千葉を追っていた富山が。
今は勝ち点56。
仙台と並び。
5位。
田島が苦笑した。
「サッカーって、二か月もいらないんだな」
「何がです?」
「流れ変わるのに」
「……まあ」
八幡も否定できなかった。
少し前まで。
5連勝。
勢いではリーグでも屈指。
そう言われていたチームだった。
それが。
今は5位。
本当に。
流れというものは、一気に変わる。
◇
逆に。
今、勢いを増しているクラブもある。
6位。
青森ブランシェFC。
勝ち点49。
**3連勝。**
「青森も来てますね」
「ああ」
「この時期の連勝は順位が一気に上がる」
その下も詰まっていた。
相模原。
44。
熊本。
43。
愛媛。
42。
福岡。
41。
鹿児島。
40。
一試合で入れ替わってもおかしくない差。
中位争いも。
まだ終わってはいない。
◇
そして。
順位表の下。
15位。
伊勢シーガルズ。
34。
16位。
秋田ノルディアFC。
31。
17位。
信州アルプスFC。
30。
18位。
駿河ユナイテッドFC。
27。
「下もきついな」
中村が言う。
「ですね」
八幡も頷いた。
優勝争い。
上位争い。
中位。
残留争い。
戦っているものは違う。
それでも。
残り2試合。
どのクラブにも。
簡単に譲れる試合などなかった。
◇
その頃。
選手用ロッカールームでも。
同じ順位表が見られていた。
「……マジか」
川崎がスマートフォンを見ながら呟く。
「並んでる」
「昨日から分かってただろ」
森川が言う。
「いや」
川崎は画面から顔を上げた。
「全部終わって正式に見ると違うじゃないですか」
「まあな」
森川も近づき、画面を見る。
北海道。
69。
千葉。
69。
「得失点差か」
戸塚も覗き込む。
「はい」
坂本も近くへ来た。
「北海道が一位」
「でも勝ち点同じですよね」
橋本が言う。
「そう」
「すご……」
19歳。
橋本翔は、思わずそれだけを漏らした。
自分がトップチームで出場しているシーズン。
その最後。
クラブが優勝を争っている。
しかも。
首位と同勝ち点。
現実なのに。
どこか現実ではないようにも感じた。
◇
「おい」
少し離れた場所。
佐久間が若手たちへ声をかけた。
37歳。
「順位表ばっか見てんなよ」
「気になるじゃないですか」
川崎が返す。
「そりゃ気になる」
「ですよね?」
「でも」
佐久間は自分のロッカーを閉めた。
そして。
指を二本立てる。
「北海道の試合を俺たちが動かせるわけじゃない」
「……」
「俺たちが動かせるのは、残り二つだけだ」
川崎の表情が少し変わった。
「勝つしかないってことですね」
「そういうこと」
◇
一方。
材木座は。
明らかに一人だけ違う空気だった。
「しかし!」
やたらと上機嫌。
「六連勝であるぞ!」
「お前はまず昨日の余韻から帰ってこい」
川崎が呆れる。
「四アシストであるぞ?」
「分かったって」
「四であるぞ?」
「何回言うんだよ!」
「拙者のサッカー人生における伝説の一日を――」
「長くなるからやめろ!」
ロッカールームに笑いが起こる。
その空気を。
森川も壊さなかった。
ただ。
少しして。
静かに言った。
「でも」
全員が見る。
「材木座の言う通り」
「……」
「俺たちは今、六連勝してる」
材木座が妙に誇らしげな顔をする。
川崎がそれを見て、何か言いかけた。
だが。
森川が続ける。
「ここまで来た」
キャプテンの声。
静かだが。
しっかり届いた。
「だったら」
一拍。
「あと二つだ」
ロッカールームが静かになる。
「北海道がどうとか」
「得失点差がどうとか」
「そういうのは、あとでいい」
森川は全員を見た。
「まず俺たちが勝つ」
「はい」
戸塚が答える。
「そうですね」
坂本も頷く。
「勝ちましょう」
橋本。
「絶対」
川崎。
そして。
佐久間も小さく頷いた。
◇
その後。
選手、スタッフ全員がミーティングルームへ集められた。
前にはマルコ。
大型モニターには。
さっきまでスタッフルームでも見ていた順位表。
北海道。
69。
千葉。
69。
だが。
マルコはそれを長く見せなかった。
「見れば分かる」
短く言う。
「勝ち点69」
「北海道と同じ」
「向こうが得失点差で上だ」
そこまで。
次の瞬間。
モニターの画面を消した。
「以上」
川崎が思わず目を丸くした。
「終わり?」
小声。
「聞こえてるぞ」
「すみません」
マルコが少しだけ笑う。
「順位表を一時間見ても、勝ち点は増えない」
誰も反論しなかった。
「残り二試合」
マルコは選手たちを見渡す。
「私たちは」
一度。
言葉を止める。
「二つ勝つ」
そして。
「それだけだ」
◇
後方。
壁際。
八幡は腕を組みながら、その言葉を聞いていた。
単純。
だが。
本当に。
それしかない。
北海道フェニックスFC。
勝ち点69。
21勝6分5敗。
エストレヤ千葉。
勝ち点69。
21勝6分5敗。
完全に同じ。
違うのは。
得失点差。
「……ここまで来たか」
八幡は小さく呟いた。
◇
開幕。
5試合。
勝ちなし。
0勝2分3敗。
勝ち点2。
最下位。
そこから。
何度も勝った。
何度も負けた。
そのたびに修正した。
足りないところを補強した。
若手が伸びた。
ベテランが支えた。
新加入選手が力を発揮した。
そして。
また勝った。
その積み重ねの先。
第32節終了。
勝ち点69。
首位と。
同勝ち点。
残り。
**2試合。**
もう。
追いつくための戦いではない。
ここからは。
先にゴールへ辿り着くための戦い。
北海道フェニックスFC。
エストレヤ千葉。
勝ち点。
69。
並んだ二つのクラブが。
J2優勝を懸けて。
最後の2試合へ向かう。