第384話 来季への準備
第384話 来季への準備
第32節。
山形ブリッツFC。
アウェー。
4対2。
勝利。
エストレヤ千葉は6連勝。
勝ち点69。
北海道フェニックスFCと。
ついに。
勝ち点で並んだ。
残り2試合。
優勝争いは。
最後の最後まで続く。
だが。
クラブの仕事は。
今シーズンだけを見ていればいいわけではない。
◇
10月も。
もう終わる。
間もなく。
11月。
リーグ戦は最終盤。
それと同時に。
来シーズンへ向けた編成も。
本格的に進めなければならない時期へ入っていた。
エストレヤ千葉トレーニングセンター。
強化部。
会議室。
机の上には。
高校。
大学。
ユース。
さまざまな選手の資料が並んでいる。
「リーグが終わってから探し始めたんじゃ遅いからな」
強化部長。
佐藤智成。
59歳。
資料をめくりながら言う。
「当然ですね」
八幡も。
自分の前に置かれた資料を見る。
国内。
海外。
即戦力。
若手。
育成。
補強には。
いくつもの種類がある。
今。
話しているのは。
その中でも。
**学生選手。**
来季。
プロの世界へ入ってくる。
高校生や大学生。
「国内スカウトから、最終報告が上がってきた」
佐藤。
そう言って。
一つのファイルを前へ出した。
◇
「まず」
すでに。
獲得が決まっている選手。
地元。
千葉市。
**千葉市立総武高校。**
そこから。
一人。
来季。
エストレヤ千葉へ加入する。
資料。
写真。
プロフィール。
名前。
**春山和也。**
9月13日生まれ。
18歳。
右利き。
ポジション。
**DMF。**
**OMF。**
**CB。**
そして。
千葉市立総武高校サッカー部。
キャプテン。
「春山は正式に決まりました」
国内スカウトが報告する。
「本人、学校側とも話はまとまっています」
「地元の高校からトップへ直接か」
佐藤。
「はい」
八幡も。
資料を読み進める。
「結構、特殊な選手ですね」
「ポジションが?」
「それもありますけど」
DMF。
OMF。
CB。
普通なら。
少し離れて見える三つ。
だが。
春山の場合。
共通しているものがあった。
◇
「最大の特徴は」
国内スカウト。
モニターへ映像を出す。
「**空間の把握力と掌握力です**」
総武高校。
試合映像。
春山。
中盤の底。
相手がボールを持っている。
だが。
春山は。
すぐには飛び込まない。
一歩。
横。
少し下がる。
そして。
味方へ声をかける。
右。
閉じる。
前。
限定する。
相手。
パスコース。
一つ。
残る。
「ここです」
国内スカウトが映像を止める。
「春山自身はボールへ行ってません」
「ですね」
「でも」
再生。
相手が。
残されたコースへパスを出す。
その瞬間。
総武高校の選手。
前へ。
奪う。
春山も。
次の位置へ動いている。
「誘導してるのか」
佐藤が言う。
「はい」
「相手に」
八幡。
画面を見る。
「そこが空いているように見せてる」
「そうです」
◇
春山和也。
派手に。
一人でボールを奪う。
そういうタイプではない。
むしろ。
味方を動かす。
相手を動かす。
スペースを。
意図的に作る。
そして。
そこへ。
相手を誘い込む。
「ゾーン守備の理解が高校生としてはかなり高いです」
国内スカウト。
「自分の担当だけ見ている選手ではありません」
誰が。
どこを閉めるのか。
誰が。
前へ出るのか。
どこへ。
相手を誘導するのか。
それを。
ピッチ上で。
常に確認する。
「声も多いです」
映像。
「右切れ!」
「中残せ!」
「まだ行くな!」
「今!」
春山の声。
その合図。
味方が動く。
相手。
逃げ道。
消える。
「……キャプテンなのも分かるな」
佐藤。
「はい」
◇
別の映像。
今度は。
CB。
春山。
最終ライン。
ボールを持つ相手FWへ。
一人。
味方が寄せる。
春山は。
カバー。
だが。
少しだけ。
普通より高い。
「ここ」
八幡が言う。
「わざと縦を空けてます?」
「そうです」
相手。
縦へ。
出す。
次の瞬間。
春山。
前へ。
インターセプト。
「最初から狙ってる」
「はい」
「自分が取る場合もあれば、味方に取らせる場合もあります」
空間。
距離。
相手の身体の向き。
味方の立ち位置。
それを。
まとめて見る。
そして。
相手へ。
選ばせる。
ように見せて。
実際は。
選択肢を限定している。
「罠を作るのが好きな選手です」
「嫌な高校生ですね」
八幡。
淡々と言う。
国内スカウトが笑う。
「褒めてます?」
「かなり」
◇
OMFでも。
特徴は変わらない。
自分で。
何人も抜くわけではない。
圧倒的なスピードで。
置き去りにするわけでもない。
だが。
ボールを受ける前。
周囲を確認する。
味方。
相手。
空いている場所。
次に空く場所。
一つの動きで。
相手の中盤を動かし。
別のスペースを作る。
「攻撃でも空間を見る能力が高い」
「はい」
「だからOMFもできる」
「そういう評価です」
八幡は。
資料へ目を落とす。
18歳。
完成品ではない。
それでも。
武器は。
明確。
◇
「弱点は?」
佐藤が聞く。
国内スカウト。
すぐ答えた。
「**左足です**」
映像。
春山。
右足。
正確。
だが。
左足側へ。
相手に追い込まれる。
一度。
止まる。
身体を。
右へ開き直す。
「かなり右に依存しています」
八幡。
「はい」
「左で逃げられる場面でも、右へ持ち替える」
「そうです」
「プロだと狙われますね」
「間違いなく」
左足で。
簡単なパス。
トラップ。
逃がす。
そこまでは。
できる。
だが。
プレッシャーを受けた中で。
左足を使い。
局面を前へ進める。
そこには。
課題がある。
「総武では右へ持ち替える時間を作れています」
「プロじゃ待ってくれない」
「はい」
◇
佐藤。
資料を閉じる。
「そこは育成だな」
「ですね」
八幡。
「18歳で全部できたら、うちに来てないでしょうし」
「それ言うか?」
「現実です」
国内スカウト。
苦笑。
「ただ」
八幡。
春山の資料を見る。
「弱点が分かっている方がいいです」
「というと?」
「何を伸ばすか決めやすい」
左足。
対人強度。
プロのスピード。
身体。
まだ。
必要なものは多い。
それでも。
空間を読む能力。
人を動かす能力。
相手を。
意図した場所へ誘導する能力。
それは。
簡単に教えられるものでもない。
「面白いですね」
八幡。
短く言った。
◇
「それで」
佐藤が。
国内スカウトを見る。
「総武からは春山だけじゃないんだろ?」
「はい」
次。
もう一つ。
ファイル。
机の上へ置かれた。
「もう一人、獲得へ動いています」
八幡。
資料へ手を伸ばす。
「同じ総武?」
「はい」
「ポジションは?」
国内スカウト。
答える。
「**サイドバックです**」
「右?」
「両方です」
「両SB?」
「はい」
右サイドバック。
左サイドバック。
どちらでも。
専門的にプレーできる選手。
便利だから。
ついでに反対側もできる。
そういう意味ではない。
最初から。
**両サイドバックを専門としている。**
「珍しいですね」
八幡が言う。
「高校年代では、かなり」
「利き足だけじゃ決まらないタイプか」
佐藤。
「はい」
国内スカウトは。
映像を準備する。
「春山とはまた全然違います」
◇
八幡。
画面を見る。
千葉市立総武高校。
同じチーム。
春山。
キャプテン。
そして。
もう一人。
来季。
エストレヤ千葉が。
獲得を狙う高校生。
「評価は?」
八幡が聞く。
国内スカウト。
少し考え。
「獲れるなら」
答える。
「獲っておきたい選手です」
佐藤の目。
少し。
鋭くなる。
「そこまでか」
「はい」
来季へ向けた。
新戦力。
一人は。
すでに決まった。
**春山和也。**
18歳。
千葉市立総武高校。
キャプテン。
DMF。
OMF。
CB。
空間を読み。
空間を操り。
味方を動かし。
相手を罠へ誘い込む。
右利き。
そして。
明確な課題。
左足。
さらに。
同じ総武高校から。
もう一人。
両サイドバックを専門とする選手。
エストレヤ千葉は。
獲得へ。
動き始めていた。
◇
リーグ戦。
残り2試合。
北海道と。
勝ち点69で並ぶ。
優勝争い。
もちろん。
今。
最も重要なのは。
そこ。
だが。
11月が近づく。
今シーズンが終われば。
すぐ。
次のシーズンがやってくる。
クラブは。
立ち止まれない。
目の前では。
J2優勝。
その裏では。
来季。
新しい選手たち。
エストレヤ千葉は。
二つの時間を。
同時に。
進み始めていた。