第8話 新たな仲間
第8話 新たな仲間
二日後――。
午前十一時十分。
成田国際空港。
到着ロビー。
多くの旅行客が行き交う中、一人の青年が静かに立っていた。
黒いスーツ。
細身の体格。
黒縁眼鏡。
エストレヤ千葉
**強化部 国際スカウト兼分析官**
比企谷八幡。
右手にはクラブロゴ入りのボード。
そこには、
**DANIEL RODRÍGUEZ**
と書かれていた。
到着口の自動ドアが開く。
海外からの乗客が次々と姿を現す。
その中に、一人。
身長181センチほどの青年が、スーツケースを押しながら歩いてくる。
短く整えられた茶色がかった髪。
鋭い眼差し。
辺りを見回していたその青年は、八幡を見つけた瞬間、大きく笑顔になった。
「¡Hachiman!」
スーツケースを引いたまま、小走りで駆け寄ってくる。
八幡も自然と歩み寄った。
ダニエルは約束どおり右手を差し出す。
「待たせたな。」
八幡も右手を差し出した。
固い握手。
三年前に交わした握手と同じように。
「ようこそ、日本へ。」
「やっと来られた。」
ダニエルは嬉しそうに笑う。
「ありがとう。」
「礼はいらない。」
八幡は真っ直ぐダニエルを見る。
「クラブを勝たせろ。」
ダニエルは力強く頷いた。
「もちろん。」
「そのために来た。」
その瞳に迷いはなかった。
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空港のロータリー。
一台の黒いワゴン車が停まっていた。
運転席の窓が開く。
「¡Daniel!」
聞き慣れたスペイン語。
ダニエルが顔を上げる。
「¡Emilio!」
エミリオ・アルバレスだった。
二人は笑顔で抱き合う。
「久しぶりだ!」
「元気そうだな!」
「まさか日本でまた一緒にプレーできるなんて。」
「全部ハチマンのおかげだ。」
八幡は苦笑する。
「積もる話は車でしろ。」
「行くぞ。」
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車内。
運転席はエミリオ。
助手席に八幡。
後部座席にダニエル。
高速道路を走りながら、ダニエルは窓の外を眺めていた。
「日本は思っていたより静かだ。」
「そうか。」
「街も綺麗だし、人も落ち着いてる。」
その時。
スマートフォンが震えた。
送り主は、
**城廻めぐり**
ダニエルの表情が自然と柔らかくなる。
> 『日本着いた?』
すぐに返信する。
> 『今着いた。』
数秒後。
> 『仕事終わったら会える?』
ダニエルは笑った。
> 『もちろん。』
エミリオがバックミラー越しに笑う。
「相変わらず仲良いな。」
「恋人だからな。」
「早く会いたい。」
八幡は前を向いたまま口を開く。
「今日は午後からメディカルチェックと契約手続きだ。」
「全部終われば夕方には自由になる。」
ダニエルは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
「感謝するのは、試合に勝ってからでいい。」
「分かってる。」
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午後一時。
エストレヤ千葉トレーニングセンター。
トップチームは午後練習の準備をしていた。
ロッカールームでは選手たちが話している。
「今日、新外国人来るんだろ?」
「スペイン人らしい。」
「八幡さんが連れてきたって。」
「エミリオ以来の補強か。」
「また当たりなら助かるけどな。」
そんな話をしていると、
ガチャッ。
ロッカールームの扉が開いた。
八幡だった。
「全員集合。」
選手たちはすぐに集まる。
その隣にはマルコ・ベッルーニ監督。
さらに、一人の青年が立っていた。
八幡が一歩横へ下がる。
「紹介する。」
「今日からチームへ加入する。」
ダニエルが一歩前へ出た。
少し緊張した様子で、日本語を話し始める。
「初めまして。」
「ダニエル・ロドリゲスです。」
「まだ日本語は勉強中です。」
「でも。」
「このチームのために。」
「勝つために。」
「全部出します。」
「よろしくお願いします!」
深く頭を下げる。
ロッカールームに拍手が響いた。
最初に前へ出たのは材木座義輝だった。
「よろしく!」
「よろしく!」
二人は力強く握手を交わす。
続いて戸塚。
森川。
大志。
郷田。
一人ずつ握手をしていく。
最後に戸部翔が前へ出た。
二人は静かに握手する。
しかし、戸部の表情は複雑だった。
目の前にいるのは、自分と同じ攻撃的ポジションで起用される可能性が高い選手。
競争相手。
戸部は小さく呟いた。
「負けねぇ。」
ダニエルは笑みを浮かべる。
「俺も。」
「負けない。」
二人の視線が交わる。
その様子を見ていた八幡は何も言わない。
(それでいい。)
(競争が、チームを強くする。)
マルコ監督がパン、と手を叩いた。
「今日からダニエルも練習に参加する。」
「そして全員、もう一度言う。」
監督は選手全員を見渡した。
「今の順位は最下位だ。」
「だが、それは今日までの話だ。」
「下を向く必要はない。」
「我々の目標は変わらない。」
一呼吸置いて、力強く宣言する。
「**J2優勝。**」
その一言で、ロッカールームの空気が変わった。
「はい!」
選手たちの声が響く。
ダニエルも力強く頷いた。
エストレヤ千葉に、新たな司令塔が加わった。
ここから。
最下位クラブの、本当の反撃が始まる。