第401話 狙っていた場所
第401話 狙っていた場所
バーバリスタジアム。
第33節。
仙台アステルFC。
対。
エストレヤ千葉。
主審が時計を確認する。
両チームが、それぞれの位置についた。
仙台は4-2-3-1。
対する千葉。
中盤の最深部には。
背番号25。
小林庄雅。
そして最前線には。
プロ公式戦初出場。
背番号23。
宍道務。
試合前から大きな注目を集めた二人。
だが。
小林がアンカーとして何をするのか。
宍道がなぜベニテスや材木座を差し置いて先発したのか。
その答えは、まだ千葉の内部にしかなかった。
ピーッ――!
主審の笛。
試合が始まった。
◇
キックオフ直後。
仙台は急がなかった。
後方。
センターバック。
横。
もう一枚のセンターバック。
そして。
ボランチ。
今の仙台が得意とする。
後方から丁寧に繋ぐビルドアップ。
前回対戦時とは違う。
簡単にボールを蹴らない。
自分たちで動かし。
千葉を動かし。
空いた場所へ縦を入れる。
そのはずだった。
だが。
開始一分にも満たないところで。
背番号23が動いた。
宍道務。
◇
仙台の左CBがボールを持つ。
宍道は。
真正面から突っ込まない。
少し外側から入り。
中央へのパスコースを身体で隠しながら距離を詰める。
「ん?」
仙台CBが顔を上げた。
ボランチ。
いる。
だが。
出しにくい。
宍道の立ち位置が。
微妙に邪魔だった。
左SBへ。
パス。
その瞬間。
宍道。
加速。
「速い!」
仙台サポーターから声が漏れる。
左SB。
トラップ。
だが。
前を見る時間がない。
もう。
宍道が来ている。
「戻せ!」
仙台ベンチから声。
左SB。
CB。
さらに。
宍道が追う。
CB。
GK。
宍道は。
そこまで行く。
仙台GK。
逆サイドへ。
ようやく。
宍道のプレスを外した。
だが。
それだけで。
仙台は。
本来必要のない数本のパスを使わされていた。
◇
放送席。
司会者が少し身を乗り出す。
「宍道、いきなりかなり行きますね」
解説者も頷いた。
「ただ走っているだけではないですね」
「と言いますと?」
「中央を切りながら、外へ出させています」
CB。
SB。
GK。
宍道は。
一人で全員を追いかけているように見える。
だが。
目的は。
奪うことそのものではない。
仙台が。
落ち着いて中央へ入れる時間を。
最初から消している。
「これを見ると、宍道の先発にも何か明確な意図がありそうですね」
「前からの守備ですか」
「少なくとも、かなり重要な役割でしょう」
◇
前半三分。
仙台。
ようやく。
右から前進する。
右SB。
ボランチ。
そこから。
中央。
ダニー・フォーレンが。
少し下がってくる。
仙台のボランチが顔を上げた。
縦。
通る。
フォーレンも。
ボールを受ける準備。
パスが出る。
その瞬間だった。
背番号25。
小林庄雅。
動く。
◇
フォーレンの足元へ届く直前。
小林が。
斜め前から。
パスコースへ入った。
接触。
しない。
相手へ身体をぶつけるのではない。
ボールが通る場所へ。
先に。
自分の足を置く。
パシッ。
右足のインサイド。
ボールだけを。
奪った。
「え?」
仙台サポーターの反応が。
一瞬。
遅れる。
小林。
持たない。
すぐ。
エミリオへ。
エミリオ。
前。
ダニエル。
千葉。
右から。
一気に進む。
安原。
オーバーラップ。
ダニエルから。
外。
安原。
クロス。
仙台CB。
クリア。
得点にはならない。
だが。
試合開始三分。
小林庄雅。
最初のパスカット。
◇
放送席。
「今の、小林ですよね?」
「小林です」
リプレイ。
仙台ボランチ。
縦を見る。
フォーレン。
動く。
小林。
ボールが蹴られるより。
ほんの少し前。
すでに。
動き始めている。
解説者が。
画面へ身を乗り出した。
「かなり早いですね」
「パスを見てからではない?」
「出る前に読んでいます」
そして。
さらに気づく。
「それと」
「はい」
「相手と競ってないんですよ」
司会者が。
もう一度リプレイを見る。
確かに。
小林は。
フォーレンへ身体を当てていない。
肩も。
腰も。
使わない。
純粋に。
パスコースへ先回りしている。
「対人で奪ったわけではない」
「そうです。ボールだけ取っています」
ただ。
まだ。
一度。
それだけなら。
偶然とも言える。
この時点では。
◇
五分。
仙台。
再び。
後方。
右CB。
宍道。
来る。
中央。
切る。
右SBへ。
そこへ。
ダニエル。
右CBへ戻す。
宍道。
また。
走る。
「こいつ、ずっと来るな」
仙台CBが思わず呟く。
宍道は。
何も言わない。
ただ。
走る。
今日。
自分に求められている仕事。
それだけを。
忠実に。
やっている。
◇
七分。
仙台。
少し強引に。
中央へ。
ダブルボランチの一人。
受ける。
戸塚。
寄せる。
ただし。
完全には食いつかない。
エミリオ。
横の選択肢を。
少しずつ削る。
仙台ボランチ。
顔を上げる。
右。
安西。
中央。
フォーレン。
前。
CF。
全部。
あるように見える。
だが。
戸塚。
エミリオ。
二人が。
少しずつ。
立つ場所を変える。
そして。
最も出しやすく見えたのは。
中央。
フォーレン。
パス。
その瞬間。
小林。
また。
前へ。
スッ。
フォーレンへ届く前に。
足先。
触れる。
ボール。
自分の前。
完全に。
パスカット。
「まただ!」
今度は。
千葉サポーターも。
すぐ反応した。
小林。
そのまま。
近くの戸塚へ。
強く蹴らない。
短い。
安全なパス。
戸塚。
前。
ダニエル。
また。
千葉の攻撃が始まる。
◇
仙台の選手が。
一度。
小林を見る。
二回。
中央への縦パス。
二回。
小林。
「25!」
仙台ベンチ。
声が飛ぶ。
だが。
問題は。
分かっても。
対処法が。
まだ。
分からないことだった。
小林は。
強く当たりに来ない。
タックルにも来ない。
競り合いもしない。
むしろ。
**接触そのものを避けている。**
だが。
ボールだけが。
消える。
◇
それには。
理由があった。
小林は。
強く左足を振るだけではなく。
激しいフィジカルコンタクトも。
まだ。
できない。
相手と激しくぶつかる。
脚を絡める。
強く踏ん張りながら競り合う。
そんな瞬間。
身体が。
あの日を思い出す。
背後から受けた接触。
捻れた脚。
激痛。
そこから始まった。
長い時間。
だから。
小林は。
典型的な守備的MFのように。
身体をぶつけて。
ボールを奪うことができない。
激しいタックルも。
避ける。
球際で。
相手を吹き飛ばすような守備も。
できない。
だから。
別の方法を。
覚えた。
**ぶつかる前に奪う。**
◇
九分。
仙台。
今度は。
中央を避ける。
右。
安西清勝。
タッチライン際。
受ける。
対面。
塩川。
その後ろ。
高山。
安西。
身体を入れ。
キープ。
塩川。
無理に足を出さない。
高山も。
後ろで待つ。
安西。
中央を見る。
フォーレン。
そこへ。
エミリオ。
さらに。
後方。
小林。
安西。
出せない。
一度。
右SBへ戻す。
「前行け!」
仙台ゴール裏。
声。
だが。
行きたい。
中央。
そこに。
背番号25がいる。
◇
十一分。
仙台。
再び。
中央。
今度は。
ボランチが受けた。
小林。
距離。
ある。
相手。
ターン。
できそう。
普通の守備的MFなら。
ここで。
身体を寄せ。
背中へ圧力をかける場面。
だが。
小林は。
行かない。
接触しない。
一歩。
斜め。
立つ。
仙台ボランチが。
前を向こうとする。
その先。
パスコース。
小林が。
塞ぐ。
右。
エミリオ。
左。
戸塚。
前。
ない。
小林自身は。
身体を当てていない。
それでも。
仙台ボランチは。
前進できない。
後ろへ。
返す。
「戻した!」
中村が。
ベンチ前で拳を握る。
「それでいい!」
八幡も。
静かに頷いた。
奪えないなら。
奪わなくていい。
接触する必要もない。
**前へ行かせなければいい。**
◇
放送席。
解説者が。
何かに気づき始める。
「なるほど……」
司会者が聞く。
「何か分かりました?」
「小林、ほとんど身体を当てませんね」
「確かに」
「普通、アンカーというと対人の強さをイメージすることも多いんですが」
今日の小林は。
違う。
接触。
避ける。
タックル。
ほとんどしない。
「じゃあ守備が弱い?」
司会者。
解説者は。
首を横へ振る。
「今のところ、結果は逆です」
仙台。
前へ進めない。
「ぶつからない代わりに、立ち位置と読みで消しています」
◇
十三分。
仙台。
GK。
右CB。
宍道。
追う。
中央。
切る。
右SB。
ダニエル。
寄せる。
戻す。
また。
CB。
宍道。
走る。
仙台CB。
今度は。
ボランチへ。
短く。
戸塚。
前。
寄る。
ボランチ。
逃げる。
横。
エミリオ。
そこ。
限定。
仙台。
苦しくなる。
最後。
ロングボール。
宇津木健太。
高さ。
頭。
跳ね返す。
橋本。
セカンド。
処理。
玉縄。
後方から。
「落ち着け!」
千葉。
回収。
仙台。
自分たちの形で。
ほとんど。
前進できていない。
◇
十五分。
仙台。
右。
安西。
少し。
中央へ入る。
塩川。
追う。
高山。
待つ。
安西。
フォーレンへ。
短い縦。
フォーレン。
ワンタッチ。
前。
CF。
そこへ。
小林が。
伸ばした足。
ただし。
相手へは行かない。
あくまで。
ボールの軌道。
つま先。
僅かに。
触れた。
ボール。
逸れる。
戸塚。
回収。
また。
千葉。
「また小林!」
千葉ゴール裏。
歓声。
小林自身は。
転ばない。
競り合わない。
相手とも。
ぶつからない。
ただ。
パスだけを。
壊した。
◇
戸塚。
前。
ダニエル。
右。
安原。
上がる。
ダニエル。
内側。
仙台ボランチ。
寄せる。
そこで。
逆。
塩川。
大きく展開。
塩川。
受ける。
高山は。
無理に追い越さない。
塩川。
中央。
エミリオ。
ミドル。
ゴール。
少し上。
外。
「惜しい!」
千葉ゴール裏。
拍手。
スコア。
0-0。
だが。
仙台側。
落ち着かない。
◇
放送席。
司会者が言う。
「小林、もうかなり引っかけていますね」
「そうですね」
「でも一度も激しい守備してない」
「そこが特徴ですね」
解説者も。
ようやく。
見えてきた。
「ボールを持った選手を倒すんじゃない」
「はい」
「その選手にボールが届く前に仕事を終わらせている」
司会者。
少し感心したように。
「だからフィジカルコンタクトが要らない」
「今のところは、そうなっています」
◇
十七分。
仙台。
中央。
ボランチ。
今度は。
小林の位置を確認する。
目が合う。
小林。
動かない。
パス。
出さない。
横。
右CB。
さらに。
右SB。
安西。
千葉。
スライド。
また。
後ろ。
仙台。
ボールは持っている。
だが。
前へ。
進まない。
ホームスタンド。
少しずつ。
焦れた声が増える。
「前行け!」
「縦!」
「もっと速く!」
しかし。
その。
縦。
そこが。
千葉の狙いだった。
◇
十八分。
仙台。
左CB。
宍道。
中央を切る。
左SB。
そこへ。
宍道。
追う。
左SB。
戻す。
左CB。
今度こそ。
中央。
ボランチ。
パス。
戸塚。
寄せ。
ボランチ。
前。
フォーレン。
また。
そこ。
パスを選ぶ。
小林。
一歩。
斜め前。
フォーレンの前へ。
スッ。
三度。
四度。
もう。
何回目なのか。
パスカット。
仙台サポーター。
苛立ち。
「また25番!」
「なんでそこにいるんだよ!」
◇
小林。
奪った後。
無理をしない。
エミリオ。
渡す。
自分は。
すぐ。
また。
中央へ。
戻る。
ロングパス。
打たない。
強い左足。
使わない。
ボールを運び続けることも。
しない。
自分が。
今。
できること。
それだけ。
繰り返す。
◇
十九分。
仙台。
ようやく。
違う形。
フォーレン。
一度。
右へ逃げる。
小林の正面。
外す。
安西。
中。
仙台右SB。
外。
三人。
連係。
安西。
ボール。
高山。
待つ。
塩川。
戻る。
右SB。
オーバーラップ。
安西。
外。
パス。
右SB。
クロス。
中央。
宇津木。
頭。
クリア。
「宇津木!」
千葉サポーター。
歓声。
仙台。
ようやく。
クロスまで行く。
だが。
決定機にはならない。
◇
二十一分。
今度は。
千葉。
自陣。
玉縄。
宇津木。
橋本。
ゆっくり。
仙台。
プレス。
小林。
下りる。
受ける。
仙台の選手が。
寄せる。
小林。
身体を当てられる前に。
ワンタッチ。
エミリオ。
もう一度。
小林へは。
戻さない。
エミリオ。
戸塚。
右。
ダニエル。
小林は。
すぐ。
後方の位置へ戻る。
「攻撃では徹底してシンプルですね」
司会者。
「そうですね」
解説者。
「接触する前に放す。長く持たない」
「守備でも攻撃でも」
「相手とぶつかる状況そのものを作ってないですね」
その理由まで。
放送席は知らない。
だが。
ピッチ上の事実として。
それは。
はっきり見え始めていた。
◇
二十二分。
仙台。
後方。
右CB。
宍道。
また走る。
「まだ落ちない!」
司会者も驚く。
右CB。
GK。
宍道。
追う。
GK。
左。
少しパスがずれる。
左CB。
タッチライン際。
宍道。
また。
来る。
慌てた左CB。
前。
苦し紛れの縦パス。
戸塚。
読んでいる。
パスカット。
「戸塚!」
今度。
奪ったのは。
小林ではない。
だが。
原因。
宍道。
DFラインから。
落ち着いて。
組み立てる時間を奪った。
雑な縦。
そこを。
戸塚。
回収。
◇
マルコは。
腕を組んだまま。
動かない。
中村。
少しだけ。
前へ。
「いいぞ!」
八幡は。
何も言わず。
仙台の最終ライン。
宍道。
中盤。
小林。
その二つを。
交互に見ていた。
狙い。
二つ。
どちらも。
機能している。
◇
二十三分。
仙台。
今度は。
ボランチ一人が。
かなり低い位置まで下りた。
CBに近づく。
宍道一人では。
全てを追えない。
そこで。
千葉も。
無理をしない。
全体。
少し。
下がる。
仙台。
ようやく。
前進。
ボランチ。
顔を上げる。
フォーレン。
右。
安西。
左。
選択肢。
今度は。
少し。
増えた。
その中。
小林。
中央。
じっと。
立っている。
戸塚。
エミリオ。
その前。
わずかに。
外。
ボランチから見れば。
一本。
縦。
出せそう。
CFが。
下りる。
仙台ボランチ。
そこへ。
パス。
小林。
一瞬。
CFを見る。
次。
ボール。
そして。
動く。
相手とは。
ぶつからない。
受ける前。
コース。
入る。
右足。
パスカット。
「まただ!」
仙台サポーター。
頭を抱える。
◇
「なんで全部あいつなんだよ!」
「そこしか空いてないんじゃない?」
「でも毎回だぞ!」
「……千葉が空けてるんじゃない?」
その一言で。
周囲。
少し。
静かになる。
前回対戦。
同じだった。
自分たちが。
選んでいると思っていた。
だが。
実際には。
千葉が。
そこへ。
誘導していた。
今日。
また。
その感覚が。
戻ってくる。
◇
二十四分。
小林。
奪う。
短く。
エミリオ。
エミリオ。
右。
ダニエル。
ダニエル。
中へ。
宍道。
中央から。
少し左へ。
動く。
仙台CB。
ついていく。
空いた場所。
戸塚。
走り込む。
ダニエル。
縦。
戸塚。
ペナルティーエリア手前。
右足。
シュート。
仙台GK。
正面。
キャッチ。
「おおっ!」
バーバリスタジアム。
大きなどよめき。
まだ。
0-0。
だが。
千葉。
少しずつ。
ゴールへ近づいていた。
◇
そして。
前半二十五分。
時計。
25:00。
司会者が。
少し息を吐いた。
「ここまで二十五分。スコアは0対0です」
「はい」
解説者。
「ただ」
少し間。
「仙台、かなりやりづらそうですね」
まさに。
その通りだった。
◇
仙台。
後方。
落ち着かない。
宍道務。
止まらない。
CB。
SB。
GK。
どこへ誘導するか。
考えながら。
走る。
中央を簡単には使わせない。
そして。
何とか。
そのプレスを越えた先。
背番号25。
小林庄雅。
待っている。
ただし。
身体は。
当てない。
競り合わない。
潰さない。
タックルへも。
簡単には行かない。
**フィジカルコンタクトを必要とする守備は、しない。**
できない。
あの怪我を。
身体が思い出してしまうから。
だから。
小林は。
接触する前に。
仕事を終わらせる。
◇
パスの出し手。
受け手。
二人を見る。
どこへ欲しいか。
どこなら。
前を向けるか。
ストライカーとして。
長年。
自分が考えてきたこと。
それを。
逆から見る。
パス。
出る前。
動く。
受ける前。
入る。
ボールだけ。
奪う。
もし。
届かなければ。
身体を当てには行かない。
パスコース。
前進する道。
そこを。
位置取りだけで塞ぐ。
後は。
戸塚。
エミリオ。
宇津木。
橋本。
周囲へ任せる。
◇
試合前。
誰も。
知らなかった。
小林庄雅。
DMF。
どんなアンカーなのか。
二十五分。
経った。
少しずつ。
答えが見えてきた。
小林は。
相手を潰すアンカーではない。
むしろ。
**潰せない。**
フィジカルコンタクトそのものに。
まだ。
恐怖が残っている。
だから。
相手ではなく。
**パスを捕まえる。**
人にぶつからず。
ボールへ。
先に。
たどり着く。
それが。
現在の小林庄雅にできる。
守備だった。
◇
そして。
背番号23。
宍道務。
プロ初出場。
初先発。
二十五分。
シュート。
まだない。
ゴールも。
もちろんない。
だが。
仙台のDFラインは。
落ち着いて。
ボールを持てない。
前を見る前に。
宍道が来る。
戻す。
また来る。
外へ逃げる。
そこにも来る。
結果。
雑なパス。
その先。
戸塚。
エミリオ。
小林。
◇
仙台サポーター席。
試合前。
「また何かやる気だ」
そう言った男が。
ピッチを見ながら。
苦笑していた。
「……やっぱりだ」
隣が聞く。
「何が?」
男は。
前線の23番。
中盤の25番。
交互に見る。
「宍道で」
仙台の最終ライン。
「落ち着かせない」
次。
小林。
「で、真ん中に出したら」
また。
パスカット。
男は。
嫌そうな顔で。
呟いた。
「小林がいる」
隣も。
ようやく。
分かったように。
表情を変える。
「……そういうことか」
◇
前半二十五分。
0対0。
まだ。
ゴールはない。
それでも。
仙台の攻撃は明らかに停滞していた。
最前線。
宍道務。
中盤最深部。
小林庄雅。
試合前まで何をするのか分からなかった二人。
その二人がバーバリスタジアムで千葉の狙いを少しずつ形にし始めていた。