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第404話 完全に消す

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第404話 完全に消す

ハーフタイム。

バーバリスタジアム。

エストレヤ千葉の控室へ戻ってきた選手たちは、それぞれ椅子へ腰を下ろした。

スコアは一対〇。

前半三十八分、ダニエル・ロドリゲスのゴールで先制。

狙い通りの展開だった。

宍道務の前線からのプレスで仙台のビルドアップを落ち着かせず、中央へ入ってきた縦パスを小林庄雅が何度も奪った。

仙台の攻撃は明らかに停滞している。

それでも、控室に浮ついた雰囲気はなかった。

理由は、前半終了間際。

ダニー・フォーレンに、この試合で初めてと言っていいほど自由を与えてしまった場面だった。

右のハーフスペースへ流れたフォーレンから、センターバックの間を通す鋭い縦パス。

あれを仙台のCFに通され、最後は玉縄幸三のセーブに救われた。

一歩間違えば。

一対一のまま、ハーフタイムを迎えていた。

◇

「水飲め。まず呼吸を戻せ」

フィジカルコーチのルイス・マルティネスが声をかける。

選手たちはボトルを手に取り、汗を拭う。

本庄麻衣や鳥山右京も、それぞれ選手の状態を確認して回っていた。

「違和感ある人?」

誰も手を上げない。

宍道務は椅子に座ったまま、大きく肩で息をしていた。

前半四十五分。

プロ公式戦初出場とは思えないほど走った。

仙台のCBからGK、SBまで何度も追い、中央への入り口を限定し続けた。

本庄が宍道の前へしゃがむ。

「脚、張ってない?」

「大丈夫です」

「本当に?」

「はい。まだ走れます」

その返事を聞いた中村敏三郎が少し笑った。

「初出場で飛ばしすぎて後半五分で動けなくなるのはなしだからな」

「なりません!」

「返事だけはずっと元気だな」

周囲から小さく笑いが起きた。

その空気が少し落ち着いたところで。

マルコ・ベッルーニが前へ立った。

◇

「前半」

選手たちの視線が集まる。

「非常にいい」

まず、そこは認めた。

「務」

「はい!」

「最初の仕事。できている」

宍道が背筋を伸ばす。

「相手のCBに自由を与えていない。中央を切りながら外へ追い込めている」

「はい」

「ただし、後半も全部追う必要はない。行くところと、行かないところを間違えるな」

「はい!」

次に。

マルコは小林を見る。

「庄雅」

「はい」

「何本取った?」

小林は少し考えた。

「……数えてないです」

中村が横から口を挟む。

「俺も途中から分からなくなった」

小林は苦笑した。

「じゃあ、それなりに」

「それでいい」

マルコも薄く笑う。

「数は重要じゃない」

そして。

表情を戻した。

「問題は最後だ」

控室の空気が変わった。

◇

大型モニター。

八幡が操作する。

映し出されたのは。

前半終了間際。

仙台の攻撃。

右寄りへ流れる。

背番号33。

ダニー・フォーレン。

映像が止まる。

八幡が画面を指した。

「ここです」

小林も。

戸塚も。

エミリオも。

画面を見る。

「フォーレンが中央を捨てました」

前半の大半。

フォーレンは中央で受けようとしていた。

しかし。

パスが届かない。

小林に切られる。

届いても。

次のコースがない。

そこで。

前半の最後。

フォーレンは自分から位置を変えた。

仙台から見て右。

千葉から見れば左側のハーフスペース。

小林の守備範囲から、意図的に外れた。

「当然です」

八幡は淡々と続ける。

「あれだけ中央で引っかかったら、同じ場所に居続けるほど馬鹿じゃない」

ダニエルが小さく頷いた。

「昔からそうだ」

全員が。

ダニエルを見る。

◇

かつて。

スペインで同じクラブに所属していた二人。

中央。

フォーレン。

右。

ダニエル。

当時から。

何度も見てきた。

「中央を閉じられると、少し外へ逃げる」

ダニエルが言う。

「でも、サイドに張るわけじゃない」

八幡が頷く。

「そうですね」

完全に外へ行けば。

フォーレン自身の最大の武器。

中央へ刺すパス。

それが使いづらくなる。

だから。

タッチラインまでは行かない。

ハーフスペース。

中央からほんの少し外れた場所。

そこで。

前を向く。

「最後の場面もそうです」

八幡が映像を再生する。

フォーレン。

受ける。

前。

向く。

千葉のCB二枚。

その間。

ほんの僅かに。

開く。

そこへ。

縦。

通す。

仙台CF。

シュート。

玉縄。

セーブ。

映像が止まった。

◇

「前半は」

八幡が言う。

「フォーレンへの中央のパスを庄雅さんに取らせました」

小林が画面を見る。

「後半も同じじゃ駄目?」

「駄目です」

即答だった。

「もう向こうが分かってます」

戸塚が腕を組む。

「小林さんが中央にいるから、フォーレンが外へ逃げる」

「そうです」

「じゃあ、小林さんもついていく?」

八幡は。

首を横へ振った。

「それが一番駄目です」

小林も。

すぐに理解した。

自分がフォーレンを追って横へ動けば。

中央が空く。

しかも。

相手へ身体を当てて守れるわけでもない。

自分の強みを。

自分から捨てることになる。

「庄雅さんは動かなくていいです」

八幡が言う。

「中央にいてください」

「じゃあ外へ行ったフォーレンは?」

エミリオが聞く。

八幡が。

ホワイトボードへ向かった。

◇

仙台。

4-2-3-1。

中央。

フォーレン。

右。

安西。

千葉。

小林。

その前。

戸塚。

エミリオ。

八幡は。

フォーレンの駒を右へずらした。

「後半は、こいつを完全に沈黙させます」

一瞬。

誰も喋らなかった。

中村が。

少し笑う。

「言い切ったな」

「前半最後に一回やられましたから」

八幡は。

フォーレンの駒を見る。

「二回目は要りません」

◇

やることは。

単純だった。

ただし。

一人ではできない。

「フォーレンが中央にいる時は、今まで通りです」

小林が。

パスコースを見る。

戸塚。

エミリオ。

前で。

仙台の選択肢を少しずつ削る。

中央へ。

入れさせる。

小林。

読む。

奪う。

だが。

フォーレンが外へ流れた時。

「庄雅さんは追わない」

「うん」

「その側のCMFが受け渡します」

戸塚とエミリオが。

画面を見る。

「俺たちが?」

戸塚。

「はい」

八幡はフォーレンの駒の前に。

中盤の一枚を置く。

「ただし、奪いに行かなくていいです」

「前を向かせない?」

「それもあります。でも一番大事なのは」

少し位置を修正する。

「中央へ戻すパスを切ることです」

◇

フォーレンは。

外でボールを受けても。

最終的には中央を使いたい。

縦。

斜め。

狭いゲート。

そこへ。

パスを通す。

なら。

外へ逃がす。

そこで。

閉じ込める。

「フォーレン本人を奪いに行かなくていい」

マルコが補足する。

「外へ行ったら、外に置いておけ」

ダニエルが。

少し笑った。

「嫌がるぞ」

「でしょうね」

八幡も。

淡々と返す。

中央で。

狭いゲートを探す。

それが。

フォーレンのプレー。

その選手を。

外。

遠い場所。

そこへ。

置いたままにする。

ボールを受けても。

中央への道。

ない。

一度。

後ろへ返すしかない。

それなら。

怖くない。

◇

「もう一つ」

八幡が言う。

今度は。

宍道を見る。

「務」

「はい!」

「後半、CBへ行く角度を少し変えます」

「どう変えます?」

「フォーレンがいる側へ、簡単に逃がさない」

仙台のCB。

フォーレンが右へ流れる。

なら。

その側。

そこへ。

最初から。

楽に出させない。

宍道のプレス。

外から。

内。

あるいは。

内から。

外。

状況に合わせて。

だが。

一つ。

意識。

「フォーレンが移動した側のCBに、時間を与えないでください」

「はい」

「顔を上げてフォーレンを探される前に行く」

「はい!」

「無理に奪わなくていい」

「コースだけ限定する」

「そうです」

◇

さらに。

塩川。

ダニエル。

両SH。

彼らにも役割がある。

仙台がサイドへ逃げる。

そこを。

完全に自由にはさせない。

安西。

SB。

そして。

フォーレン。

誰か。

一人へ。

人数をかけすぎない。

前回。

仙台が。

鈴木へ集まり。

壊れた。

千葉は。

それをしない。

「ダニーだけを三人で囲むようなことはしません」

八幡。

「そんなことしたら、安西が空きます」

塩川が頷く。

「だから、受け渡す」

「はい」

フォーレンが中央。

小林。

外へ逃げる。

CMF。

さらに。

大きくサイドへ逃げるなら。

SH。

誰も。

追い続けない。

次。

次。

受け渡す。

「走らせます」

八幡が言う。

「フォーレン本人を」

◇

中村が。

少し。

笑った。

「なるほどな」

フォーレンが。

中央。

受けられない。

外。

移動。

そこでも。

前を向けない。

さらに。

逆。

移動。

また。

受け渡される。

自分だけが。

場所を探し続ける。

「こっちが追うんじゃない」

中村。

「向こうに逃げさせ続けるのか」

「そうです」

◇

ダニエルが。

腕を組んだまま言った。

「ダニーは、ボールに触れない時間が長いと苛立つ」

八幡が見る。

「昔から?」

「ああ」

ダニエルは。

少しだけ。

昔を思い出すように。

「試合を自分で動かしたがる」

ボール。

触る。

見る。

狭い場所。

通す。

それが。

フォーレン。

長く。

試合の外へ置かれることを。

好まない。

「触れないと」

ダニエルが続ける。

「もっと下がる」

八幡。

頷く。

「そこまで下げられれば、こっちの勝ちです」

司令塔。

OMF。

その選手が。

ボールを受けるため。

CBの近くまで。

下がる。

そこから。

ゴールまでは。

遠い。

一発のパスは。

ある。

だが。

前半のように。

ペナルティーエリア近くの狭いゲートへ。

すぐ。

刺せる距離ではなくなる。

◇

小林が。

ホワイトボードを見る。

「俺は、後半も同じ?」

「基本は」

八幡が答える。

「ただし」

小林。

見る。

「前半より一歩、我慢してください」

「我慢?」

「もう仙台は、小林さんを警戒してます」

前半。

何本も。

取った。

だから。

後半。

小林の動きを。

見る。

一度。

フェイント。

入れる。

パス。

出すように見せる。

小林を。

先に。

動かそうとする。

「だから、出るのを少し遅らせます」

小林。

考える。

「ボール蹴る瞬間まで待つ?」

「はい」

「間に合わなかったら?」

「追わない」

即答。

「絶対に身体ぶつけに行かないでください」

控室。

少し。

静かになる。

小林は。

ゆっくり頷いた。

「分かってる」

◇

そこは。

変えない。

怪我。

記憶。

接触。

小林は。

フィジカルコンタクトを。

使えない。

だから。

一歩。

遅れたら。

無理をしない。

戸塚。

エミリオ。

宇津木。

橋本。

後ろに。

仲間がいる。

「取れる時だけ取ればいいです」

八幡。

「無理なら、コースを一個消してください」

「それだけ?」

「それだけで十分です」

小林は。

少し笑う。

「相変わらず要求が地味だな」

「派手にやって怪我されるよりマシです」

「言うと思った」

◇

次。

映像。

先制点。

フォーレン。

縦。

小林。

カット。

エミリオ。

ダニエル。

ゴール。

画面が止まる。

マルコが。

ダニエルを見る。

「後半」

「はい」

「お前のところも使う」

ダニエル。

頷く。

「フォーレンがボールを受けるために下がる」

マルコ。

ホワイトボード。

仙台の中央。

空く。

守備時。

フォーレンは。

戻らない。

それは。

すでに。

分析済み。

「ダニーが下がったら」

ダニエルが言う。

「そこを使う」

「そうだ」

戸塚。

エミリオ。

ダニエル。

そして。

安原。

右。

人数。

出せる。

フォーレンを。

攻撃で。

遠ざける。

そして。

その空いた場所を。

千葉が。

使う。

◇

「つまり」

中村がまとめる。

「守備ではフォーレンを外へ追い出す」

「はい」

「攻撃では、あいつが戻らない場所を使う」

「はい」

「性格悪いな」

八幡が。

中村を見る。

「今さらですか?」

「褒めてない」

「知ってます」

少し。

控室に笑い。

出る。

◇

ただ。

マルコは。

すぐ。

全員を見た。

「一点」

指を一本。

立てる。

「それだけだ」

空気。

引き締まる。

「前半は良かった」

「だが」

「仙台は最後に答えを一つ見つけた」

フォーレン。

外へ。

ずれる。

パス。

通す。

玉縄。

止めた。

「後半、必ず変えてくる」

安西も。

フォーレンも。

監督も。

このままでは。

来ない。

「だから」

マルコ。

選手たちを見る。

「俺たちも、変える」

◇

玉縄が。

後ろから。

声を出す。

「最後のやつ」

全員。

見る。

「俺が止めたからいいけど」

少し。

間。

「二回目はいらない」

橋本が。

頷く。

宇津木も。

「分かってる」

高山。

安原。

最終ライン。

全員。

同じ。

◇

小林は。

タオルで。

汗を拭いた。

前半。

できた。

パス。

何本も。

取った。

先制点。

始めた。

でも。

最後。

一度。

フォーレンに。

通された。

完璧ではない。

だから。

後半。

もう一段。

変える。

自分が。

もっと。

激しく守るわけではない。

もっと。

走り回るわけでもない。

もっと。

身体をぶつけるわけでもない。

むしろ。

逆。

**動きすぎない。**

**追いすぎない。**

**出すぎない。**

相手が。

自分を避けようとするなら。

避けさせる。

その先。

仲間へ。

渡す。

◇

戸塚が。

小林へ声をかける。

「小林さん」

「ん?」

「フォーレンが外行ったら、俺たちが見るんで」

「頼む」

「だから真ん中空けないでください」

「分かってる」

エミリオも。

横から言う。

「欲張るな」

「お前、後半それ何回言うつもりだよ」

「必要なだけ」

小林は。

苦笑した。

「はいはい」

◇

その少し前。

宍道。

まだ。

水。

飲んでいる。

ダニエルが。

近く。

「務」

「はい!」

「後半も走れ」

「はい!」

「ただし」

宍道。

見る。

「賢く走れ」

「……はい」

ダニエルが。

少し笑う。

「全部追ったら、お前が先に死ぬ」

「死にません」

「例えだ」

「はい」

また。

小さく笑い。

◇

マルコが。

時計を見る。

ハーフタイム。

残り。

僅か。

「立て」

選手たちが。

一斉に。

立ち上がる。

十一人。

そして。

ベンチ。

全員。

前。

見る。

「前半」

マルコが言う。

「ダニー・フォーレンは」

一拍。

「ほとんど試合に入れていない」

誰も。

反論しない。

「後半」

さらに。

声。

強く。

「完全に消す」

小林。

戸塚。

エミリオ。

宍道。

塩川。

ダニエル。

全員。

表情。

変わる。

「一人で消すな」

「チームで消せ」

「はい!」

◇

扉。

開く。

スタジアムの音が。

一気に。

控室へ入ってくる。

バーバリスタジアム。

ホーム。

仙台サポーター。

大声援。

前半。

0対1。

仙台は。

必ず。

来る。

だから。

千葉も。

待っているだけではない。

前半。

フォーレンへのパスを。

小林が刈った。

後半。

さらに。

その一歩先。

**フォーレンがボールを受ける場所そのものを奪う。**

中央なら。

小林。

外へ逃げれば。

戸塚。

エミリオ。

さらに外なら。

塩川。

ダニエル。

誰も。

追い回さない。

誰も。

一人で潰そうとしない。

ただ。

次。

次。

受け渡す。

そして。

仙台の司令塔を。

試合の外へ。

追い出す。

◇

エストレヤ千葉。

一点リード。

だが。

守り切るだけではない。

前半。

一度。

牙を見せた。

ダニー・フォーレン。

その牙を。

後半。

今度こそ完全に抜く。

第33節。

後半。

千葉はさらに一段。

仙台の司令塔を封じるための形へ修正を加えていた。