第407話 待っていた答え
第407話 待っていた答え
後半開始。
バーバリスタジアム。
仙台アステルFCの選手たちが、前半とは少し違う立ち位置を取り始める。
スコアは0対1。
まだ一点差。
仙台にとって、十分に取り返せる点差だった。
だからこそ。
ハーフタイムに確認した形を、最初から使う。
ダニー・フォーレンは中央に留まらなかった。
後半開始直後から、少しずつ右へ流れる。
前半終了間際。
唯一と言っていいほど千葉の守備を崩した場所。
右のハーフスペース。
そこへ。
もう一度。
入っていく。
◇
後半二分。
仙台の右CBがボールを持った。
最前線。
宍道務が走る。
ただし。
前半と少し違う。
闇雲には追わない。
右CBが顔を上げるより先に、フォーレンへ通じる斜めのコースを意識しながら距離を詰める。
仙台右CB。
中央は難しい。
外。
右SBへ。
その先。
安西清勝。
さらに。
フォーレン。
仙台がハーフタイムに狙った形。
右側へ人数を集める。
「来た」
千葉ベンチ。
中村敏三郎が、小さく呟いた。
八幡は何も言わない。
視線だけが。
フォーレンを追っていた。
◇
右SBから。
安西。
安西が背中で塩川康文を押さえながらボールを収める。
フォーレンは。
その内側。
前半最後と。
ほぼ同じ場所。
小林庄雅から離れている。
安西が顔を上げた。
フォーレンへ。
通せる。
パス。
だが。
小林は。
動かなかった。
追わない。
中央。
そのまま。
「……来ない?」
フォーレンが一瞬思う。
代わりに。
前へ出たのは。
戸塚彩加だった。
◇
フォーレンが受ける。
その瞬間。
戸塚が。
正面。
ただし。
飛び込まない。
身体をぶつける必要もない。
中央。
そこだけ。
切る。
フォーレンが得意とする。
斜め。
縦。
狭いゲート。
そこへ。
戸塚が立っている。
「……」
フォーレン。
一度。
止まる。
右。
安西。
外。
右SB。
そこは使える。
だが。
中央。
ない。
フォーレンは。
右SBへ戻した。
千葉は。
誰も。
無理に奪いに行かなかった。
仙台はボールを失っていない。
それでも。
攻撃は。
進んでいなかった。
◇
放送席。
司会者が気づく。
「後半、フォーレンが右へ出ていますね」
「前半最後に成功した形です」
解説者も。
すぐに意図を理解する。
「仙台としては、小林のいる中央を避けているんでしょう」
「ところが」
画面。
小林。
中央。
ほとんど動いていない。
「小林、ついていきません」
「はい」
「代わりに戸塚が出ました」
解説者が少し黙る。
数秒。
そして。
「ああ……」
声が変わった。
「千葉、これも準備してますね」
◇
後半四分。
仙台。
もう一度。
右。
今度は。
フォーレンが先に下がる。
安西が内側へ入る。
右SB。
外。
位置を入れ替える。
ハーフタイムで確認した通り。
相手を。
動かす。
はずだった。
だが。
千葉は。
一人が。
どこまでも。
ついてこない。
フォーレンが内側へ戻れば。
小林。
右へ出れば。
戸塚。
さらに外へ行けば。
塩川。
次。
次。
受け渡す。
誰も。
フォーレンだけを。
追い回さない。
◇
「ダニー!」
安西から。
パス。
フォーレン。
右。
受ける。
戸塚。
前。
中央。
小林。
後ろ。
高山俊樹も。
位置を崩していない。
フォーレン。
前を向く。
縦。
仙台CF。
そこへ。
通したい。
戸塚が。
真正面。
パスコース。
塞ぐ。
フォーレン。
安西へ。
返す。
安西。
外。
右SB。
右SB。
クロス。
高山。
距離を詰める。
足に当てる。
ボール。
タッチライン。
外。
仙台のスローイン。
仙台サポーターから。
拍手。
だが。
決定機にはならない。
◇
「……違う」
フォーレンが。
小さく呟く。
前半最後。
自分が右へ動いた時。
もっと。
自由だった。
小林は来なかった。
その瞬間。
千葉の対応が。
一瞬。
遅れた。
だから。
前を向けた。
だから。
あのパスを。
通せた。
後半。
同じ場所へ来た。
小林は。
やはり来ない。
なのに。
今度は。
戸塚がいる。
さらに。
外へ逃げれば。
塩川。
逆側なら。
エミリオ。
逃げた先。
全部。
誰かがいる。
◇
後半六分。
仙台。
今度は。
左から回す。
フォーレンは。
中央へ。
一度。
戻る。
「ここ!」
ボランチへ要求。
仙台ボランチ。
顔を上げる。
フォーレン。
空いている。
ように見える。
パス。
だが。
蹴った瞬間。
小林。
一歩。
前。
フォーレンへ。
届く前。
右足。
パシッ。
また。
取った。
「小林!」
千葉ゴール裏から。
大きな声。
小林。
すぐ。
エミリオへ預ける。
そこで。
千葉が。
一気に。
前へ出る。
◇
エミリオ。
前。
戸塚。
戸塚。
右。
ダニエル。
ダニエルが。
ボールを持った瞬間。
仙台。
戻る。
だが。
ダニエルは。
急がない。
一度。
安原翼へ。
安原。
前へ。
少し。
運ぶ。
仙台の左SHが戻る。
左SBも構える。
安原。
無理に仕掛けず。
中央。
エミリオ。
さらに。
小林。
千葉。
また。
ボールを回し始める。
「落ち着いてるな」
千葉サポーター。
声。
一点リード。
仙台が。
前へ出たい時間。
その仙台に。
ボールを渡さない。
◇
後半八分。
千葉の時間が。
少しずつ。
長くなっていた。
橋本翔。
宇津木健太。
小林。
エミリオ。
戸塚。
安原。
また。
中央。
仙台が。
プレスへ出る。
フォーレンも。
前。
出る。
だが。
守備は。
得意ではない。
戸塚が。
フォーレンの脇で受ける。
フォーレン。
振り向く。
一歩。
遅い。
戸塚。
すぐ。
ダニエル。
仙台の中盤が。
一枚。
ずれる。
ダニエル。
内側。
安原。
外。
右。
二人。
関係。
作る。
◇
ダニエル。
安原へ。
安原。
縦。
ダニエル。
戻る。
ワンタッチ。
エミリオ。
中央。
千葉。
テンポ。
上げる。
仙台。
守備。
左右。
揺さぶられる。
左。
塩川。
受ける。
高山。
後ろ。
塩川。
中へ。
戸塚。
戸塚。
ペナルティーエリア手前。
一度。
シュートを見せる。
仙台CB。
出る。
戸塚。
右。
ダニエル。
ダニエル。
シュート。
仙台DF。
ブロック。
ボール。
外へ。
千葉。
CK。
アウェーゴール裏。
拍手。
◇
スコアは。
動かない。
それでも。
後半。
試合のリズムは。
明らかに。
千葉。
仙台は。
前半最後の形を。
続けようとしている。
だが。
そこに。
前半と同じ自由はない。
そして。
フォーレンを。
外へ動かせば動かすほど。
別の問題が。
生まれていた。
◇
後半十一分。
仙台。
右。
フォーレンが。
かなり外まで流れた。
塩川。
見る。
戸塚。
無理に追わない。
フォーレン。
ボールを受ける。
だが。
位置。
タッチラインに近い。
ゴール。
遠い。
中央へ。
一本。
入れたい。
しかし。
その間。
戸塚。
さらに。
奥。
小林。
二枚。
いる。
安西。
近づく。
「ダニー!」
フォーレン。
安西へ。
短いパス。
安西。
身体を入れる。
塩川。
無理に奪わない。
安西。
右SB。
戻す。
仙台。
また。
後ろ。
◇
フォーレンは。
歯を食いしばった。
ボールには。
触れた。
前半より。
触っている。
だが。
意味のある場所で。
触れていない。
中央から。
追い出されている。
自分から。
逃げたはずだった。
小林を。
避けるために。
なのに。
気づけば。
千葉のゴールから。
遠い。
「……くそ」
これでは。
ゲームを作っているとは。
言えない。
ただ。
ボールを触っているだけ。
◇
仙台ベンチ。
監督も。
少し。
表情を変える。
想定と。
違う。
フォーレンが右へ動けば。
千葉も動く。
そこへ。
安西。
右SB。
人数をかける。
そう考えていた。
だが。
千葉は。
追いかけてこない。
受け渡す。
その結果。
千葉の基本配置。
ほとんど。
崩れない。
「……受け渡してるのか」
仙台スタッフ。
ようやく。
気づく。
監督は。
黙ったまま。
ピッチを見る。
◇
後半十三分。
千葉。
また。
ボール。
保持。
小林。
短く。
戸塚。
戸塚。
エミリオ。
仙台。
一人。
出る。
エミリオ。
ワンタッチ。
小林。
今度。
小林の前へ。
仙台のボランチが。
寄せる。
小林。
接触する前。
右足。
横。
橋本。
すぐ。
ボールを離す。
橋本。
安原。
安原。
ダニエル。
仙台。
また。
走らされる。
小林は。
攻撃でも。
変わらない。
無理をしない。
相手と。
ぶつからない。
長く。
持たない。
自分が。
できること。
それだけ。
◇
「千葉、完全に試合を落ち着かせてますね」
放送席。
司会者。
「そうですね」
解説者。
「後半は仙台が出てくると思いましたが、今のところ千葉の方がゲームをコントロールしています」
「一点リードしている側なのに、引いて守るわけでもない」
「むしろボールを持って、仙台を走らせています」
さらに。
画面。
フォーレン。
「そして、仙台が攻撃に移ってもフォーレンが中央で自由になれない」
「ハーフタイムに何か修正しましたか?」
「これは間違いなくしているでしょう」
◇
後半十五分。
仙台。
一度。
高い位置で。
ボールを奪う。
ホームスタンド。
歓声。
安西。
右。
受ける。
「行け!」
大きな声。
安西。
前。
塩川。
高山。
安西。
右SB。
外。
使う。
右SB。
一気に。
縦。
高山。
下がる。
フォーレン。
右のハーフスペース。
顔。
出す。
右SBから。
内。
パス。
フォーレン。
受ける。
戸塚。
すぐ。
前。
フォーレン。
ワンタッチ。
安西。
中央へ。
入っている。
安西。
受ける。
だが。
そこ。
エミリオ。
さらに。
小林。
中央。
二人。
安西。
前。
行けない。
一度。
止まる。
◇
「戻せ!」
仙台。
安西。
右SBへ。
返す。
その瞬間。
千葉。
全体。
元。
戻る。
フォーレン。
また。
外。
追いやられる。
仙台の攻撃。
途切れてはいない。
だが。
速さ。
失う。
そして。
速さを失った仙台に。
千葉は。
ほとんど。
隙を与えない。
◇
安西。
舌打ち。
「またかよ……」
前半。
中央。
小林。
詰まる。
後半。
外。
フォーレン。
出す。
そこも。
千葉。
対応。
している。
安西には。
分かる。
これは。
試合中。
偶然。
そうなったわけではない。
フォーレンが。
右へ出る。
それを。
最初から。
待っていた。
「読まれてたのか……?」
小さく。
呟く。
その可能性。
認めたくない。
だが。
他に。
説明。
難しい。
◇
後半十七分。
千葉。
右。
ダニエル。
ボール。
持つ。
仙台左SB。
対面。
ダニエル。
一歩。
縦。
見せる。
内側。
切り返す。
ボランチ。
寄せる。
ダニエル。
エミリオへ。
渡す。
そのまま。
走る。
エミリオ。
ワンタッチ。
裏。
ダニエル。
抜ける。
仙台CB。
カバー。
ダニエル。
ペナルティーエリア右。
クロス。
中央。
宍道。
入る。
宍道。
触れない。
その後ろ。
塩川。
シュート。
仙台DF。
身体を投げ出す。
ブロック。
「惜しい!」
千葉ゴール裏。
一気に。
立ち上がる。
◇
宍道は。
ゴール。
まだ。
ない。
だが。
後半も。
動き続けている。
前半のように。
全部を追わない。
ハーフタイム。
言われた。
賢く走れ。
その言葉。
守る。
仙台CB。
余裕。
ある時。
無駄に。
全力では行かない。
中央へ。
入れようとした時。
加速。
GKへ。
戻った時。
角度。
変える。
前半。
勢い。
後半。
そこへ。
判断。
少し。
加わっていた。
◇
後半十八分。
仙台。
また。
後方。
フォーレン。
今度。
左へ動く。
右が。
駄目なら。
逆。
中央。
小林。
避ける。
左。
そこ。
エミリオ。
反応。
フォーレンが。
受ける。
エミリオ。
距離を詰める。
フォーレン。
中へ。
戻したい。
小林。
いる。
外。
左SH。
そこへ。
安原。
対応。
「……こっちもか」
フォーレン。
顔。
歪む。
右。
戸塚。
左。
エミリオ。
中央。
小林。
さらに。
外。
SHとSB。
場所を変えても。
同じ。
◇
フォーレンは。
仕方なく。
後ろへ戻す。
仙台ボランチ。
CB。
また。
最初から。
ホームスタンド。
少し。
ため息。
「もっと前!」
「行け!」
「一点だぞ!」
声。
大きくなる。
だが。
ピッチ内。
仙台は。
分かっている。
無理に縦へ入れれば。
前半。
同じ。
小林。
待つ。
外へ逃げても。
千葉。
受け渡す。
◇
後半二十分。
時計。
65:00。
スコア。
**仙台アステルFC 0-1 エストレヤ千葉。**
後半。
二十分。
経過。
仙台が。
追いつくため。
圧力を高めるはずだった時間。
しかし。
流れを握っているのは。
千葉だった。
◇
仙台が。
前半最後に見つけた。
突破口。
フォーレンを。
小林のいる中央から外す。
安西。
右SB。
連係。
右から。
崩す。
だが。
千葉は。
その答えを。
すでに。
知っていた。
小林は。
追わない。
中央。
残る。
右なら。
戸塚。
左なら。
エミリオ。
さらに外なら。
塩川。
ダニエル。
高山。
安原。
次の選手へ。
受け渡す。
◇
結果。
フォーレンは。
前半より。
ボールに触れている。
だが。
怖くない場所。
ゴールから。
遠い場所。
そこへ。
追い出されている。
中央へ戻れば。
小林。
待っている。
外へ逃げれば。
別の選手。
いる。
どこへ行っても。
千葉の形。
崩れない。
◇
そして。
仙台が。
フォーレンを使うため。
人を動かせば。
今度は。
千葉が。
その空いた場所で。
ボールを持つ。
戸塚。
エミリオ。
ダニエル。
安原。
塩川。
少しずつ。
仙台を。
走らせる。
一点。
リード。
だからといって。
守り込まない。
ボールを持つ。
動かす。
仙台が。
攻める時間そのものを。
削る。
◇
千葉ベンチ。
マルコ・ベッルーニは。
時計を見る。
後半二十分。
まだ。
二十五分以上。
ある。
何も。
終わっていない。
中村も。
八幡も。
同じ。
一点差。
一つ。
ミス。
それだけで。
追いつかれる。
だが。
ここまで。
ゲームプラン。
崩れていない。
むしろ。
ハーフタイムの修正。
完全に。
機能している。
◇
一方。
仙台。
フォーレンは。
中央。
背番号25を見る。
小林庄雅。
何も。
特別なことをしていないように。
見える。
走り回らない。
身体をぶつけない。
自分を。
追ってもこない。
それなのに。
試合の中心。
そこへ。
戻ろうとすると。
必ず。
いる。
フォーレンは。
唇を噛む。
ハーフタイム。
答えを。
見つけたと思った。
だが。
その答えは。
すでに。
千葉に。
読まれていた。
後半二十分。
試合は。
完全に。
エストレヤ千葉のリズムで。
進んでいた。