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召喚されし者たち1

異世界は小悪魔と共に — novelup.plus · All chapters

召喚されし者たち1

餓死で死のうと考えた男性が寝ていると、近くから声がする。とはいえ、深い眠りに入っているために気付くことはない。 それでも徐々に眠りが浅くなり、周囲の声を聞き取り始めた。「おっさん。起きろ、起きろよ!」「うーん」「きゃは! マジ寝てんだけど? ウケるぅ」「寝てる場合じゃないのですが、どうしましょうかね?」 男性は横っ腹に痛みが走り、頭を 叩 ( たた ) かれたような痛みも感じた。 そこまでされたら、さすがに目が覚めるというものだ。「おっ! おっさん、起きたか?」「さっさと起きてくれるぅ」「申し訳ないですが起きてもらえますかね?」「う、ん?」 男性は目を擦りながら、周囲を見回した。すると近くには、二人の男性と一人の女性が立っている。 その三人は若者だった。 一人はホストのような男性で、もう一人は知的な大学生のような男性。女性は今どきのギャルである。「なっなんだ! なんだ君たちは!」「なんだ、じゃねえよ! とりあえず起きろ」「きゃは! 放っておけばいいじゃん!」「ですが四人で来たわけですしね」 状況に混乱した男性は、ホストのような男性に言われたとおり起き上がる。しかしながら、どう見ても自分の部屋ではない。 豪華な造りのうえ、高級そうなテーブルとソファーが置かれている。 男性は人間が嫌いで苦手だが、会話ぐらいは可能だ。状況を確認するためにも、まずは疑問を呈する。「この部屋は何だ? 俺は自室で寝てたはずだが……」「いいか、よく聞けよ? 今いる世界は日本じゃねえ!」「は?」 男性の問いかけに、ホストのような男性が答えた。なんとも突拍子もないことを言っているので、男性は 怪訝 ( けげん ) な表情に変わる。 それにしても、ホストのような男性がふざけているようには見えない。知的な男性も真面目な顔をしている。 唯一ギャルだけは、ニヤニヤと笑っていた。「信じられねえだろうなあ。俺も信じられねぇ」「きゃは! でもさあ。信じないと駄目なわけ」「異世界ってやつだね。まさか本当にこんなことが起こるとは……」「い、異世界?」 知的な男性が異世界と言った。 そういった創作物は知っているが、はっきり言って想像の域だ。いくら男性がゲーム好きでも、その程度の分別はあった。 それでも三人が 嘘 ( うそ ) を言っているようには見えない。ギャルは置いておいても、二人の男性は真面目な顔を崩していない。「どういうことだ?」「おっさんは落ち着いてんな」「まぁ年の功ってやつか」「そりゃ結構。お偉いさんが俺らを召喚したって話だぜ」「信じるのか?」「信じられねぇが信じるしかねぇな。外を見な!」 ホストのような男性に促されたので、立ち上がり窓から外を見る。地面は暗くてよく見えないが、薄っすらと大きな庭が見えた。 それから視線を、空に移すのだった。「月が……。七つだ、と?」「作りもんじゃねぇぜ。後で担当者が来るってよ」「担当者?」 男性は 唖然 ( あぜん ) としてしまう。餓死して死のうかと部屋で寝ただけだ。 それが起きたら、異世界に転移していた。 何の笑い話だろうか。ライトノベル作品やゲームではお約束のシチュエーションである。とはいえ、現実で起こるとは思ってもいなかった。「自己紹介が遅れたな。俺はシュンだ。二十五歳だぜ」 シュンと名乗る男性は、現役のホストらしい。 召喚されたときは仕事中だったらしく、黒いスーツを着ていた。長めの金髪で、典型的なホストに見える。「あたしはアーシャね。十七歳よ」 アーシャと名乗る女性は、クラブへ通っていた露出の激しい女性である。 踊っていたときに召喚されたらしい。ヘソまで出して、今にもパンツが見えそうなミニスカートを履いていた。「僕はノックス。二十歳」 ノックスと名乗る男性は、現役の大学生である。 スマートフォンゲームで遊んでいたときに、こちらの世界に召喚されたという話だった。おしゃれなシャツとジーパンを履いて、上着を腰へ巻いている。「あれ? 君たちは日本人じゃ……」 そして、男性は部屋着である。 少し汚れたシャツに短パンだけの簡単な服装だった。この格好で自宅から出たら恥ずかしい思いをするだろう。 家の近くにあるゴミ捨て場へ行くなら問題はないが、コンビニエンスストアすら行きづらい格好だ。 三人と比べると恥ずかしい。「みんなは名前を覚えてねぇんだ。おっさんは覚えてるか?」「え? 俺の名前……。名前? 俺の名前は……。なんだっけ?」「分かったようだな」「君たちの名前は?」「俺らを召喚した奴がカードをくれてな。それに書いてある名前だ」「カード?」「ほれ。ポケットに入ってんだろ?」 なぜかは分からないが、確かに名前を思い出せない。 シュンから言われたとおりポケットに手を入れると、確かにあった。ならばとカードを取り出してマジマジと見ると、名前らしき文言が書かれている。「えっと……。フォルトと書いてある」「フォルトか。歳はいくつだ?」「四十七歳だ」「マジおっさんじゃん! その格好はどうかと思うよ?」「寝てる間に召喚されたんでしょ」「そうだけどさあ。でもキモッ!」「名前は思い出せないのに、歳を覚えてるのって変だよね」(若いギャルにキモいとか言われるとへこむな。ギャルは死語か? でもノックスが言ったように、年齢は覚えてる。思い出せないのは名前だけか) 気落ちしたフォルトは、窓際から近くにあるソファーに向かう。 どうも立っていると疲れるので、一言発して座った。「どっこいしょっと」 運動量が極端に不足しているためだ。 ソファーはフワフワで、尻が大きく沈んだ。背もたれに寄りかかると、気持ち良さのために息を吐いてしまう。「ふぅ」「おっさん臭いっつーの! でもおっさんだったね。きゃは!」 アーシャがフォルトを馬鹿にしてくる。 顔は笑っているが、目がゲテモノを見るようだ。そんな目で見られる筋合いは無いのだが、すでに諦めていた。 現状で口論しても仕方ない。四十代後半のおっさんが、若者と口 喧嘩 ( けんか ) しても勝てる見込みは皆無である。「ところで君たちは、誰かに会ったのか?」「聖女って女にな。そいつの近くにいた兵士に取り囲まれてよ」「聖女? 兵士?」「逃げようと思ったがよ。どうしようもねぇぜ」「言われたとおりにするしかないしぃ」「取り囲まれて武器を向けられれば、ね」「おっさんは寝ながら運ばれてきてさ。超ウケる!」「そっそうか。済まなかったな」 話を聞くかぎり、その聖女という女性が日本から召喚したらしい。兵士に守られているのなら重要人物だろう。 三人が不用意な行動に走らなくて良かった。もしも何かしていたら、フォルトは寝ている間に殺されていたかもしれない。(ん? それでも良かった気もするな。寝てたなら痛みも無く死ねる。どうせ死のうとしてたんだし……。でももう遅いか)「とりあえずよ。日本には帰れねぇって言ってたぜ」「マジ最悪。どうすんのよ? 訴えてやるわ!」「訴えるって言っても、ここは日本じゃないしね」「そうだったあ。もぉおっさん! どうにかしてよ!」「どうにかって……。帰れない?」 アーシャが突っかかってくるが、今は無視しておく。 それよりも、シュンの話は聞き捨てならない。詳しい内容を聞くと、どうやら一方通行の召喚らしい。 フォルトは 愕然 ( がくぜん ) としてしまった。「俺ら以外にもよ。何人か召喚されてるらしいぜ」「シュン君は色々と知ってるな」「君はやめろ。呼び捨てでいい」「そうか」 おっさんが若者に君付けすると嫌われることが多い。 例に漏れず、シュンにも嫌われた感じがした。これには 溜息 ( ためいき ) を吐きたくなった。しかしながら、そんなことを気にしている場合ではなかった。「言われたとおりにしながら質問攻めしたんだよ」「あの状況でマジ凄いんだけど!」「聖女が好みだったからな。第一印象は重要だぜ?」「さすがはホストだわ。あたしなんて震えちゃったよ」「僕もだよ。いきなりで混乱した」 シュンはホストらしい話術で、聖女から情報を聞き出していた。 大人しく紳士的に振る舞ったおかげで、優しく教えてくれたようだ。様々なことを質問したらしいが、やはり異世界という結論だった。 今いる場所は、エウィ王国という国である。 魔物討伐のために、フォルトたちを召喚したらしい。「魔物?」「いるんだってよ」「ゲームみたいだ」「そいつらを倒すらしいぜ」「あたしたちに倒せるわけがないじゃん!」「僕らは普通の日本人だよ? 魔物なんて無理だよ」 ノックスの言ったとおりだ。 フォルトも魔物どころか動物すら殺したことがない。肉は好物だが、加工した食品を食べているだけだ。 狩りをして捕まえることは不可能である。「そうでもないらしいぜ」「え?」「俺らより前に召喚された奴らがよ。魔物を退治してるぜ」「どうやって?」「冒険者をやってるんだとよ」「へぇ」 冒険者。 異世界ものの創作物では定番で、フォルトも知っている職業だ。とはいえ、自分がやれるとは思っていない。 氷河期世代の引き籠りに、肉体労働など無理な話である。「仕事の依頼で魔物を倒してるって聞いたぜ」「マジ? 凄いじゃん!」「でもよ。そいつらはハズレらしい」「ハズレってなんなの?」「聖女が言うには勇者候補が当たり。それ以外はハズレ」「マジ最悪じゃん! ハズレなら放り出されるってこと?」「ハズレの基準って何だろうね」「後で説明してくれるらしいぜ」 ここまで会話したところで、部屋の扉がノックされた。 続けて二人の男女が入室してくる。女性はシスターのような格好で、とても 清楚 ( せいそ ) な印象だ。屈強そうな男性は、重そうな 鎧 ( よろい ) を着ている。 フォルトは立ち上がって、二人に席を譲った。すると女性のほうは、一礼してからソファーに座った。 そして、対面の席に座るよう促してきたのだった。