召喚されし者たち2
召喚されし者たち2
豪華な部屋に入ってきた男女。 彼らはソファーに座って、対面に座るよう促してきた。とはいえフォルトは立ち上がって出迎えたので、他の三人に席を取られる。 おっさんに譲ってもらいたいところだが、性格的に言い出せなかった。「初めまして、聖女のソフィアです。こちらの者はザイン」「よろしく頼む」「皆様に今回の件を説明するために参りました」 ソフィアは聖女と名乗ったので、シュンの言っていた女性に違いない。 好みと言っていたが、確かに万人受けする顔立ちで奇麗だった。アイドルと言っても過言ではない。年齢も若そうに見える。 その隣にいるザインは、剣や 鎧 ( よろい ) を装備している。屈強そうな顔つきと体格で、中世時代の騎士を 彷彿 ( ほうふつ ) させた。 とりあえずは、話を聞かないと始まらない。「お願いします」「まずシュン様が説明されたと思いますが……」「俺が聞いた内容は伝えたぜ。納得したかは知らねぇけどな」「そちらを踏まえての話になります」「分かりました」「まずは勇者に成り得る者かを判定させてください」 納得しようにも、どうしようもない状況である。とはいえシュンからは、勇者候補が当たりと聞いていた。 ソフィアの言った勇者に成り得る者とは、それを指すのだろう。フォルトは人と会話することが苦手なため、ここからは成り行きを見守る。 場に少し沈黙が訪れたところで、シュンが疑問を呈した。「どうやって確認するんだ?」「お手持ちのカードを御覧ください」「名前の横に称号が書かれているのだ」「確かにあるな」「指を当てていただくと称号が分かります」「ほう」「スマホみたいだね」 何かのゲームのようだが、フォルトたちは言われたとおりに指を当てる。すると、カードの上に透明な板が現れた。 よく見ると、文字が表示されている。「俺は「召喚されし者」と「聖なる騎士」だってよ」「あたしは「召喚されし者」と「舞姫」だって。クラブで踊ってたから?」「僕は「召喚されし者」と「初級魔法使い」って書いてあるね」「俺は……」 フォルトは言葉に詰まる。 カードに書いてある内容が、他の三人と違った。「召喚されし者」はデフォルトのようだが、自身には別の称号が表示された。「俺は「帰ってきた者」と、二項目は空欄ですね」「「帰ってきた者」? それと空欄ですか」「はい。お見せします」 ソフィアはフォルトのカードを受け取って、称号を確認する。 首を傾けているが、興味を失くしたようにカードを返してきた。「このカードは身分証明書になるものです」「再発行には金が必要だ。紛失するな!」「身分証?」「名前や称号。レベルやスキルの他に、職業や犯罪歴などが登録されます」「提示を求められるときがあるからな!」(マイナンバーカードの進化版みたいな感じか? って、レベル? スキル? そのゲームみたいなものは何だよ!) ソフィアから言われた内容に、全員が驚いた。 ロールプレイングゲームで遊んだことがあれば知っている内容だが、現実の人間にレベルなどは無いのだ。 そこでフォルトは口を開いた。「レベルやスキルですか。ゲームなのですか?」「いえ。こちらの世界には存在します」「は?」「他に召喚された方々からも、同様の質問をされましたね」「レベルは身体能力を数値にしたものだぞ。強さの基準になる」「へぇ」 存在するというのであれば、きっと存在するのだろう。 身体能力を数値化したものであれば、測定できる何かがあると思われた。しかしながら、いま聞くべき内容でもない。 そしてザインが、目を鋭くさせた。「お前らのレベルはいくつだ?」「俺は十二だぜ」「あたしは五よ」「僕は八だね」「おっ俺は……。三だ」「国民の平均は七だ。一般兵の平均が十五くらいだ」 アーシャとノックスは平均的で、シュンが少し強いくらいか。 フォルトのレベルは話にならない。子供、もしくはお年寄りレベルか。さすがに詳しく聞くと、心が折れそうだった。(引き籠っていたし体力なんて無いからなぁ。でも相当低いぞ。こちらの世界だと、すぐに死ねそうだな)「おっさん、キモいうえに弱っ!」「あ、ははっ……」 どうもフォルトは、アーシャに嫌われているようだ。 若者だからなのか、遠慮会釈がなく罵倒してくる。さすがに憤りを感じるが、彼女と言い争っても仕方ない。「話が逸れましたね。それでシュン様」「なんだ?」「あなたが勇者候補です」「俺が当たりか!」「なに? あたしはハズレってこと? マジ最悪なんだけどぉ」「ハズレかぁ。残念」「当たり? ハズレ? それは何でしょうか?」「こっちの話だ。ソフィアさんは気にしないでいいぜ」 三人は気楽に構えているようだが、フォルトはハズレについて気になった。 ソフィアたちが望まぬ者ということで、今後の扱いが怖い。「シュン様は城に残っていただきます」「残ってどうすんだ?」「訓練をしていただき、魔物の討伐をお願いすることになります」「そんなことが俺にやれるのか?」「はい。「聖なる騎士」は 稀 ( まれ ) に見る騎士の称号です」「良い称号なのか?」「もちろんです。神が判定されたのですから……」「神なんているのか!」「聖神イシュリル。勇者召喚の儀は神の御力によるものです」 ソフィアの口から、神の存在と名前が飛び出した。 先ほどシュンから聞いたが、こちらの世界には魔法があるらしい。日本からフォルトたちを召喚したので、その話は信じても良いかもしれない。ならば、神が存在していても不思議ではないだろう。 そんなことを考えていると、フォルトは名前について思い出した。「えっと。全員が名前を覚えてないのは、何か理由でも?」「元来名前とは、世界に個人を 繋 ( つな ) ぎ止める糸なのです」「それで?」「その糸を断ち切って、異世界から召喚します」「糸を切られることで、名前を忘れてしまうんですね?」「はい」 ソフィアから勇者召喚の特性を聞いて、フォルトは納得する。 いや、納得するしかないと言ったほうが正しいか。神や魔法が存在する世界で、科学的根拠を聞いても意味が無いからだ。 ここで若者の三人が、顔を見合わせる。「もう名前は思い出せないんだねぇ」「名前なんてどうでもよくね?」「そうだね」「アーシャっていいよね! 気に入ったからもういいや!」「ノックスかぁ。名前は変えたいな」「シュンだぜ。名前も当たりじゃね?」 三人は楽観的で、日本での名前は気にしていないらしい。 実のところフォルトも同様だが、彼らとは違って悲観的だ。存在を抹消されたような気持ちになり、少しだけ気が重くなった。 そして、一番気になっていた件を問いかけた。「確認したいのですが?」「どうぞ」「俺たちは日本に帰れないのでしょうか?」「申しわけありません。一方通行ですので帰すことが 叶 ( かな ) いません」「今までの人たちは?」「元の世界に帰ったという話は聞きませんね」「勝手に俺たちを召喚しておいてですか?」「申しわけありません」 ソフィアは悲しそうに謝罪する。 それに対して、強く文句を言えなかった。諦めの境地とでもいうのか。そもそも自殺を考えるまで落ちぶれていた。 もはや何が起きても、フォルトはどうでも良いとさえ思っていた。「勇者候補になれない者はどうなるのでしょう?」「召喚した者の責任として、一定期間は面倒を見ます」「一定期間?」「その間に仕事を探していただいて、自力で生活してもらいます」「勝手ですね」「申しわけありません」「貴様! 先ほどからソフィア様に対して無礼であろう!」「ひっ!」 ソフィアが責められていると思ったのか、ザインが怒声を浴びせてきた。 考えてみれば、彼女は聖女と呼ばれている人物だ。言葉は選んだつもりだったが、一言多かったかもしれない。 怒鳴られることに慣れていないフォルトは、ビックリして後ずさった。「よしなさい!」「ですが……」「この人の言っていることは当たり前の話なのです」「ソフィア様は聖女であらせられるのですぞ!」「私たちは謝罪することしかできないのですよ?」「わっ分かりました」 ソフィアには謝罪しかできないのだ。 王国ということは、フォルトたちを召喚すると決めたのは国王である。聖女の彼女は、それに対して何も言えなかったと思われた。 ならばこれ以上は、何を言っても無駄なのだ。 そして何かを感じ取った三人の若者は、真面目な顔に変わった。「本当に帰れねえんだな」「超サイアク……」「異世界へ来て職探しかぁ」 ノックスだけ少しズレていたが、フォルトは渋い表情を浮かべた。 氷河期世代の引き籠りで、当然のように無職だったのだ。働く必要性を感じても、精神的な問題で職探しができなかった。 ソフィアも職を探してもらうと言っていたので、気が重くなったのだ。 口をつぐんで、質問も出なくなった。するとシュンがホストスマイルを浮かべて、ソファーに座りながら前に乗り出した。「なぁ聞きてえんだが?」「なんでしょう?」「勇者候補ってことは仲間が必要だよな?」「他の勇者候補と組まれるのが良いと思っております」「ソフィアさんとザインさん、ちょっといいか?」「構いませんが……」「うむ」 シュンは立ち上がり、ソフィアとザインを連れて席を離れた。 続けてボソボソと、会話を始める。しかしながら内容については、フォルトの耳には届かなかった。 それには首を傾げるが、暫くすると三人とも戻ってきた。「お待たせしました。当面の食事と住居は用意してあります」「助かります」「それと世話役の神官を付けます。分からないことは聞いてください」「はい」 もっと細かい話を聞きたかったが、どうやら二人は忙しいようだ。会話を打ち切ったところで、シュンを連れて部屋から出ていってしまった。 その後は世話役の女神官が訪れて、部屋に残った三人は城外に連れていかれる。光を灯すものが無くても、月明かりで問題なく歩けた。 そして目的の場所に到着すると、小さなロッジが建ち並んでいるのだった。