LNCrawler

ズルい女

異世界コンビニ☆ワンオペレーション — novelup.plus · All chapters

ズルい女

―― 五日目 ―― やはり夜になると魔物は襲って来ないようです。それに何か意味があるのかは分かりません。 ですがそれは店内だけの話で、エリオットが外に出ると、サメは途端に襲ってくるようです。 結局昨夜もエリオットは王都行きを諦めて、お店に泊まりました。 お昼前にそれはやってきました。「おはざまーす!」「おはようございます。フーゴさん」 先日と同じ人が、馬車で荷物を運んで来ました。「サメは大丈夫でしたか? フーゴさん」「俺の配達の邪魔は誰にもさせねえ! サメごときが俺を止められるワケがねえ!」「そ、そうなのですか……」 サメの泳ぐ砂漠地帯を、普通に抜けてきたようです。「ありあっしたー!」 フーゴさんは店内へと木箱を運び入れた後、馬車に乗り込み、颯爽と去って行きます。 あ、サメがフーゴさんの馬車に轢かれました。「エリオットさん! 来ましたよ!」 木箱は二つあります。一つはマナ・ポーション、もう一つには鞭が入っていました。 鞭はクルクルと巻かれた状態で入っています。「おい、マジかよ。俺の使っていた鞭だ。しかも新品になってやがる」 エリオットは鞭を手に取り、信じられないと言った表情で、冷や汗さえかいています。「ちょっといいですか、エリオットさん」  私は鞭を返してもらい、調べます。「あ、あった。バーコード」 手で持つ柄の部分にありました。レジに通してみます。 ピッとスキャンすると、POSレジの画面に値段が表示されます。『プロフェッサー・ウィップ 1億円』「だそうです。エリオットさん。どうしますか?」「どうしますかじゃねぇよ、それ俺のじゃないのか?」「当店で入荷したものですよ、エリオットさん。お買い上げになりますか?」「ちょっとまて、金貨千枚なんて持ってない。いや、持ってはいるが今ここにはない」 一億円は、こちらの世界では金貨千枚らしいです。「一億円、持ってるんですか……すごいですね」 ヒール・ポーションの代金も相当な額になっていましたが、この人は手持ちでお金を持っていました。 トレジャーハンターも上手くやれば、かなり稼げる仕事なのでしょうか。「ちょっと貸してくれ」 再び鞭を手に持つと、エリオットは軽く一振りします。 ピシィ! と床に鞭がしなやかに打ち付けられた後、さらに一振りしました。 ガン! と今度は鞭が棒状に変化し、セラミックコーティングのお店の床に、硬い音を響かせました。 これの事でしょうか、商品詳細にあった魔力感知型の変形とは。「本物だ。これは俺が使っていた鞭だ。ユニークアイテムで唯一の物だ」「お気に召しましたでしょうか? お買い上げですか?」「くそっ。後で必ず払う。貸しにしてくれないか」「 お店 ( うち ) にその商品の、仕入代金の請求が来たら困るのですが」「むむむ」 エリオットは悩んでいます。「金はちょっと遠い場所に隠してあるんだ。取りに行くのは……王都に寄ってからだな」「王都へは行けそうですか?」「ワームはどうにかなる。サメは大群で来られるとマズイな。ワームとセットだと最悪だ」「王都に行けばなんとかなるのですか?」「なんとかする。まず王国の軍が動くだろう。Aランクの魔物がわんさか来るんだ。国も堪らないだろう」「エリオットさんは酷いですね」「まあな。独立自尊が信条だが、利用出来るものは利用するってのも、俺の信念でもあるんだ」「酷いし、ずるいんですね」「なんとでも言え。生き残れば勝ちだ」 私としてはすぐに鞭を渡してあげたい所なのですが、後で請求が来た時に支払が出来なかったらどうなるか、想像もつかないのです。 この世界の事です、命で精算しろとなったら嫌です。「お昼はコロッケでいいですか?」  そろそろお昼の時間です。抜いてもいいのですが、賞味期限の早いものから消費していかないと、無駄になってしまいます。「えびピラフとやらが美味かったのだが、それはないのか?」「あれは大変貴重なものなのです。あの時は特別サービスだったのですよ。食べたかったら一億円いただきます」「……コロッケください」 フライヤーに冷凍のコロッケ三個を置いて、Bモード三番のボタン、六分でセット。 コロッケを置いた籠が自動で百七十度の油に下りていきます。 ジュワアと一気に油が踊ります。 出来上がる前に私はバックルームのストコンの前に行きました。調べたい事があったのです。 DOTの商品詳細では載っていない事が、ストアコンピューターでは調べられます。 ストコンのモニターは相変わらず文字化けしていましたが、私の長年の感で目的のボタンの場所の辺りをクリックします。 クリック、クリック、クリック、出ました。目的のページです。 ここまでくると、文字化けはありません。さらにクリックしてそれが出るまで流します。 ありました。商品情報。――『教授の鞭』を表示。 ここで私が見たかったのは、商品の原価です。教授の鞭は――『教授の鞭 原価 0 販売小売価格 1億円 利益率100』「ええー!?」 思わず声に出ました。「ポーションは?」  ――これも原価ゼロでした。「……ぼろ儲けだ」 これはどういう事なのでしょうか。 いくつかのパターンを考えてみます。 1・これを送ってくる者は、元手が掛かっていない。 そして儲けるつもりがないので、そのまま送ってくる。 2・元手が掛かっていないが、売り上げの何パーセントかを送金しなければならない。 3・本当は元手が掛かっているが、私にサービスしたい。 4・創造してしまうので元手もなにもない。 1はストレートに考えるとそうかな? というもの。持ち主の居なくなった武器を表示した事もその理由。でもどうやって手に入れているのでしょう。  2はこの世界に来てから私は精算業務を一度もしていないのに、何のペナルティも発生していないから、関係ないかも。  3は私の隠れファンがこの世界に居て、私に貢ぎたいと思っている人。私が大好きな人。私と結婚したいと思っている人。(きっとイケメン)  4は突拍子もない事のように思えて、意外とありえるかも知れない話。 だって私、既に異世界転移とかしちゃってるんですよね。その時点でもう、ありえないです。 謎翻訳やお店のインフラ整備、結界に発注システム。ここまで好き放題出来るって何者ですか? 何様ですか?     私の相手って神様なんじゃないでしょうか。「いちばん怪しいのは三番ね」 考える事を放棄しました。 カウンターに戻るとエリオットが、どうした? といった顔をしています。「何か叫んでなかったか?」「い、いえ……なんでもないです」 とりあえず黙っておく事にします。さっき彼にずるいと言ったばかりの私は何なのでしょう。 ピーッピーッピーッと三回、フライヤーの終了音が響きました。「コロッケが出来ましたよ。食べましょうか。あ、これはサービスです」 私は元の世界に戻るまで、ここで生きて行かなければなりません。それがどれくらいの期間なのかも分かりません。 限られた食材はやがて尽きます。お金はあった方がいいですよね? 私はズルい女なのでしょうか。