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おばば様

異世界迷宮で奴隷ハーレムを — ncode.syosetu.com · All chapters

おばば様

前回のあらすじ:公爵のところに行ったら捕まえられた

「ええっと。どういうことで?」

公爵が俺の肩を握って放さない。

まあ痛くまではないのがせめてもの救いか。

「なに、ただの挨拶。挨拶だ。いまさら返せとか言われることはない。そこは安心してよい。セルマー伯を廃したハルツ公爵としての余の判断に意見させるつもりもない」

公爵が胸を張った。

精一杯虚勢を張っているというべきか、自分に言い聞かせているというべきか。

「ただの挨拶なら逃げることもないのでは」

「べ、別に余は逃げるつもりはない」

逃げないように肩を捕まえられているのは俺だ。

「ただの挨拶なら怯えることもないのでは」

「だ、誰も怯えてなどおらぬであろう」

やはり怯えているらしい。

伯爵令嬢のルティナを奴隷に落としたのはやはりまずかったのではないだろうか。

セルマー伯は没落したかもしれないが、親族が文句を言ってくるとは。

「これはミチオ様、ようこそいらっしゃいました」

悩んでいるところに、カシアがやってきた。

後ろにゴスラーがいる。

ゴスラーが呼んできたのだろう。

「では、私はこれで」

「……」

「えーと。今回はミチオ殿の係累の話ですので」

逃げるのかという目線をゴスラーに向けたが、言い訳を残して去っていった。

ゴスラーめ。

苦労人の存在価値は苦労してこそだろうに。

ちなみに、公爵もジト目でゴスラーの背中を追っている。

公爵よ、よくやった。

褒美としてゴスラーに迷惑をかける権利をやろう。

「ミチオ様、わたくしどもの一族の女性たちの長が、カシアを手に入れたミチオ様に是非一度会ってみたいとのことです。これから一緒にお越し願えますか?」

「面会ですか」

カシアから言われたのでは断れない。

「別に何も心配することはありません。優しいお婆様ですので」

横の公爵がカシアからは見えないところで首を横に振っているわけだが。

身内には優しい、ということだろうか。

一族というのがどこからどこまでを指すのか知らないので、公爵が一族に入るかどうか分からない。

女性には優しいということだろうか。

「長に会うならルティナも連れてきた方が」

「いえ、大丈夫です。長が会いたいと言っているのはミチオ様だけです。ルティナを会わせて、変に里心をつけてもいけませんし」

「なるほど」

「大丈夫だ。ちょっと行って、ちょっと挨拶してくるだけだから。がんばって行ってくるといい」

公爵が俺の肩をたたく。

どうやら生け贄は俺一人らしい。

さっきは逃げるつもりはないと言っていたのに。

いや。ただの挨拶だ。挨拶。

「これから?」

「軽い挨拶ですぐに終わるからな。じっくりと時間をとって挨拶したいなら、晩餐にでも招待してもらうことになるが」

「これから行きましょう」

「であろう」

公爵がにやりと破願した。

なんか腹立たしい。

「公爵は来ないので?」

「いや、余はいそが」

「残念。まあ長には、城で暇そうにしていたのに来なかった、とでも伝えておけば」

「余ももちろん一緒に行こう」

忙しいと言い切る前にボソッとつぶやくと、あわてて発言を変更する。

公爵の弱点を見つけた。

もっとも、俺にとっても弱点となりかねないが。

「行かなかったのではないのですか」

「ほかならぬミチオ殿やカシアのためだ。余が労を取るよりあるまい」

「単なる顔見世程度なので、そこまでしていただくこともありませんが」

「だ、大丈夫だ」

公爵がカシアに突っ込まれている。

美人の妻の、一族の長なのだから、邪険にすることはないのだ。

「冒険者の者が先にロビーに行っているので、そこでミチオ様にもパーティーに入ってもらって、案内させていただきます。まいりましょうか」

「はい」

カシアに続いてロビーへと赴いた。

公爵が後ろから恨みがましい目でにらんでいるような気がしないでもないが、気にしない。

恨みは逃げ出したゴスラーにこそぶつけるべきだろう。

ロクサーヌたちに何も言ってきていないが、パーティーを解散したことは分かるから、多少時間がかかるだろうくらいのことは判断するに違いない。

本当に軽い挨拶で終わるなら、問題ないだろう。

軽い挨拶ですむかどうかは別にして。

俺を呼び出すというのは、要するに、ルティナをいてこました男はどんなタマか見てやろやないかい、ということではないだろうか。

しょうもないやつやったらタマ取ったるで、までありうる。

カシアや公爵も一緒だから、いきなり変なことはされないと思うが。

保険をかける意味でも公爵を連れて行くのが正解だ。

ロビーにいた冒険者に先導されて、ボーデの城からどこかへと移動した。

着いたのもやはりどこかの城か屋敷か、立派な建物の中だ。

一族の長というくらいだから向こうも貴族なんだろう。

「カッサンドラ様にお取り次ぎを願いたい」

「かしこまりました。では、こちらへいらしてください」

冒険者が用を告げると、多分向こう側の騎士団員らしい人が対応する。

一人が先触れに走り、一人が待合室かどこかまで俺たちを案内するようだ。

こういうのが普通だよな。

俺が行ったときの、公爵はいつものとこだから勝手に中に入って行けというハルツ公爵家の対応はどうなんだ。

まあ、今回は公爵と公爵夫人が一緒だ。

公爵に失礼があってはいけない。

向こうからすれば、俺なんかは公爵の護衛の一人くらいにしか思ってないだろう。

実際、ここにはパーティーメンバー六人で来たから、残りの二人は公爵と公爵夫人の護衛だろうし。

公爵とカシアたちに続いて、廊下を進んだ。

「すぐにお会いになられるようです。待合室でなく、こちらにお進みください」

途中、多分先触れに走った人が戻ってきて、道を変える。

こういうのも公爵を連れてきた利得か。

さすがに公爵を待たせるわけにはいかないだろう。

俺が公爵に会うとき待たされたことはないが、それはやっぱり公爵が変なんだろう。

せっかちすぎる。

普通は、平民が貴族に会うときには待合室で待たせたりするものであるに違いない。

それも何時間も待たせるかもしれない。

就活では圧迫面接の一変種として、面談に来た人を長時間放置するようなこともある、と高校の先生が言っていた。

そういうときあわてたりしないようにと。

待合室で何時間も待たせれば、自分の方が上だと思い知らせることができる。

貴族が平民に対して行うのにふさわしい振る舞いではないだろうか。

貴族にも序列はある。

なにしろこの公爵はセルマー伯爵の首をあっさりとすげ替えたくらいだ。

帝国の序列が正確にどうなっているのかは知らないが、公爵を長時間待たせることが許されるのは皇帝くらいのものではないだろうか。

そんな公爵が一緒なので俺たちも待たされないと。

「どうぞこちらへ」

どこかの部屋に着くと、扉が開き中から人が出てきて、俺たちを迎え入れた。

俺たちというか、まあ公爵とカシアたちなんだろうけど。

最初に護衛の人が中に入る。

公爵は二番めだ。

せっかちな公爵にしては珍しいというか、さすがにそこのところはしっかりしているというか。

あるいはカシアの一族の長がいる部屋には入りたくなかったのかもしれない。

「おや。ハナ垂れ小僧のブロッケン坊やじゃないか」

「無沙汰しておる」

カシアに続いて部屋の中に入ると、公爵はさっそくなにやらさや当てをしていた。

相手は、婆ちゃんだ。

カクシャクしているというか、ヨボヨボしているというか。

矛盾しているようだが、確かにそんな感じだ。

ゲ。百七歳……だと。

印象は間違っていなかった。

鑑定によればカッサンドラさんは百七歳だそうだ。

そらこうなるわ。

多分百七歳にしては相当元気なんだろう。

まだまだピンピンしている。

一方で、百七歳ともなればいくら元気だとはいっても体にはガタがきている。

だいぶ小さくなっており、黙っていれば借りてきた猫みたいな感じになるはずだ。

カクシャクしていて且つヨボヨボしているという所以である。

百七歳ともなればしょうがない。

すでに息をしているだけでも不思議な年齢だ。

もはや生ける伝説といっていい。

そらこんだけ生きてれば一族の長にもなるわ。

「カシアも息災そうで何より」

「カッサンドラおばば様もお元気そうで」

おばば様か。

確かにおばば様だ。

「カシアも、別れたくなったらいつでも言ってくるのだぞ」

「何を言っておる」

「悪戯と称して一族の若い娘の入浴を覗こうとしたエロ餓鬼とは別れたくなっても仕方あるまい」

「い、いつの話をしておる。余がまだ分別もつかぬ子どものころのことではないか」

公爵がタジタジだ。

てかそんなことをしていたのか。

俺も覗きたい。

「そういえばあのころはまだ寝小便も治っておらぬと言っておったが、治ったのかえ」

「だからいつの話かと言っておる」

「覗こうとして無様に捕まったところを、子どものしたことだからとお尻叩きで許すように温情をもって裁いたあたしに対する態度じゃないね」

公爵はお尻ペンペンされていたと。

せっかちな公爵のことだから、計画もろくに立てていなかったに違いない。

公爵が何故来たくなかったか分かった。

英雄は故郷では英雄ならず、という。

大人になってどんなに偉くなった人でも、子どものころに遊んでやったりおむつを替えてやったりした人から見ると、その人は偉くは見えない。

余は生まれながらの将軍と言い放った徳川家光も、乳母の春日局には頭が上がらなかっただろう。

公爵とおばば様の関係もそんな感じなのだ。

そら来たくはないわな。

自分の祖母というわけでもないし。

百七歳という年齢を考えれば、おそらくはゴスラーも五十歩百歩か。

「ミチオ様、こちらはカッサンドラ。わたくしのひいひいひいおばあ様の末の妹になります。一族の女性にとっては母に等しいお方です」

公爵とのさや当てをスルーして、カシアがおばば様を俺に紹介してくれる。

ひいひいひいおばあ様の末の妹というのもすごいな。

ほとんど他人だ。

俺だって、ひいひいひいおばあちゃんから分かれた遠戚が日本にいるかもしれないが、会ったことも気にしたこともない。

いや、違うか。

ひいひいひいおばあ様の末の妹なのだから、分岐したのはひいひいひいひいおばあ様の代ということになる。

考えるだけでひいひい言ってしまう。

「余からすれば、ひいひいひいひいひいおばあ様の孫ということになる」

「お祖母様も不肖の子孫で嘆いておることだろう」

もっとすごいのがいた。

それこそ、ひいっとなるな。

さて、さっきからひいがいくつ出てきたでしょう?

とにかくそれくらいにすごい。

百七歳とくればそんなものなのか。

さすがは生ける伝説。

「ミチオです」

まあこっちの世界はまだ大家族が多いだろうし、特に貴族なら血のつながりを重視しても当然なのだろう。

家系図とかも残ってそうだ。

「カッサンドラおばば様、こちらはミチオ様。先日セルマー伯が廃されたとき、継嫡家名を捨てたルティナの引き受け手となってくれた方です」

「おお。あの件か。一族の女に不幸をもたらすセルマー伯を廃したのは、英断だったな」

「余の下した決断である」

「もっと早く下しておけば、不幸も広がらなかったものを」

「ぐっ」

公爵はもう何を言っても駄目だと思うよ。

ただ、セルマー伯を倒してルティナを奴隷に落としたことを怒っているのではないようだ。

「ふむ。おぬしがかえ」

言い負かされている公爵を尻目に、おばば様は俺を見る。

しわだらけの顔にはっきりと瞳を露出させ、俺をにらんだ。

さっきまではしわか目か分からなかったのに。

まさか鑑定は持っていないだろうが、すべてを見透かされそうだ。

「……」

緊張の一瞬。

いや、一瞬というには長いか。

長い。

長すぎる。

「ふん。ちったあやるのかね」

おっと。

無事合格をいただけたようだ。

合格だ。

合格だろう。

「はっ」

「おぬしは冒険者なのかえ?」

「はっ」

「まだ若そうなのにやるもんだ」

今ではもう誰はばかることなく冒険者なわけですよ。

なんならインテリジェンスカードも見せていいわけですよ。

というか、一族の娘を人間が奴隷にしたのだが、いいのだろうか。

「エルフではありませんが」

「ふん。あたしの亭主も人間だったよ。あたしは末っ子だったからねえ。いいのは上の姉から持っていき、あたしのときにはロクなのが残ってなかった。貴族に嫁げたのは三女まで。四女は、騎士団一の有望株と引っついたけど、ありゃ結局駄目だったねえ。五女は商家の跡取り息子の嫁だ。一番の大店と言われ一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、姉が食いつぶしたのか今じゃ店までつぶれちまった。世の中分かりゃしないものさ」

あえて言おう。

年寄りの話は長い。

長すぎる。