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脱出

異世界迷宮で奴隷ハーレムを — ncode.syosetu.com · All chapters

脱出

前回のあらすじ:ルティナやカシアの一族の長のおばば様から合格をいただいた

「亡くなったカッサンドラおばば様の夫も、一代で叙勲されたのです」

おばば様の話が長引きそうだったためか、カシアがフォローに入ってきた。

人間族だったというおばば様の旦那はすでに死んでいるらしい。

そらまあさすがに百七歳だもんな。

「そのとおりだよ。あたしの夫は人間ながらなかなかのいい男でね。元々はとある貴族の一門だったんだが、迷宮にやられて失爵、没落というよくある話だ。夫は危機感を持っていろいろ諌めていたので一門の中で浮いてしまってね。追われるようにうちの実家の領地まで流れて来たわけだ。爵位を得た後には、まあ親族がもちろんいろいろ言ってきたが、そんなのはきっぱりとはねつけることができるちゃんとした男だったよ。まともそうなのを一人だけ採って跡を継がせたけどね。そんないい男を逃さずばっちり捕まえたのが、このあたしの見識さね。迷宮での度胸もあるし腕も確かだし、元は貴族の一門だっただけに立ち居振る舞いも完璧という優良物件だ。カシアも、ろくでもない男ならさっさと見切りをつけるがいい」

貴族が迷宮を討伐できずに爵位を失うのはよくある話らしい。

ただ、それ以外の話はあまり参考にもならなかった。

長いだけで。

「余が優良物件でないと申すか」

「あたしはそんなことは言っちゃいないよ。ろくでもない男ならば、見切りをつけてもいいと言ったんだ。ちゃんとした男なら別に見切られることはない。それとも、自覚があるのかえ?」

「ぐっ」

公爵は面白いように転がされているな。

諦めればいいのに。

公爵としての意地があるのだろうか。

「おぬしも、それなりの男だというのなら早く叙爵されることだ。そこまでは簡単でないとしても、ろくでもない男だと見切られることになる」

「はっ」

ここはうなずいておくのがいいだろう。

公爵のようにならないためにも。

「人間のところへ行くのも悪いことばかりじゃない。あたしがこうして一族の女のことを取り仕切っていられるのも、自分の子孫がおらず、公平に判断できるだろう、という理由もあるからね」

人間とエルフだと種族が違うので子どもは生まれない。

おばば様も自分の子どもがいないから一族のことを公平に見れる、ということか。

「なるほど」

「あたしの前の長は、自分の娘や孫ばかりを優先させると評判が悪かった。あの娘にも、ひょっとしたら一族の長のお鉢が回ってくるかもしれん。なんなら今からあたしのところに預けておいてもいいかもね。鍛えてやるよ」

「いえ。迷宮での戦闘に必要なので」

油断も隙もないな。

本当は取り上げるつもりではないだろうか。

「まあ、形はどうあれちゃんと暮らしていけるなら文句は言わないよ。あんまりひどいことをして泣かせているようなら、考えがあるけどね」

おばば様の目が光った、ような気がした。

考えがあるとは、どうするつもりだろう。

怖いので具体的に聞くことはできない。

怖いので。

大事なことなので二度言いました。

「泣かせるなんてとんでもない」

「はねっかえりだの家出だの駆け落ちだの零落だの奴隷だのは別に珍しいことじゃない。その程度でいちいちあわてるようじゃ、一族の長はやっていけないよ」

「そういうもんですか」

少しはあわててもいいような気がする。

特に駆け落ちとか。

それ以外は、まあそのとおりなんだろう。

迷宮で行方不明になることもあるだろうし。

「今あたしが一番困っているのは、父親が誰だか分からない娘のことだ。貴族の令嬢だというのに母親は何を考えているんだか。父親がはっきりしないのではいいところに貰い手はないし、半端なところに出すわけにもいかない。それでも、一族の娘なのだから幸せになれるように図ってやるのが長の務めだ。もうすぐ成人するのに頭が痛いよ。おぬしも、もらってくれそうな心当たりはないかえ?」

今のヨーロッパでは婚外子の方が多いなどという国もあるようだが、こちらの世界ではまだそこまで進んでいないらしい。

貴族の嫁になるのは難しいのだろう。

「いいえ」

「別に人間でも文句は言わないよ。ちゃんと幸せにしてくれる甲斐性があるならね。何番めかの妾だっていいじゃないか」

このおばば様は俺に押しつけようとしているのだろうか。

それならいただきたい。

とはさすがに言えんよな。

エルフだから美人なんだろうけどさ。

エルフならすでにルティナもいる。

ロクサーヌたちの手前もある。

あるいは、えさをぶら下げてこっちの反応を試す作戦かもしれない。

美人局か。

「いえ、本当に」

「まあそんなのだからあの娘のこともがたがたと騒ぐほどのことじゃない。一族の人数も増えたし、それなりにはある話さ」

「なるほど」

もともと弾劾しようという話でもなかったようだ。

本当に顔見せだけか。

「あの娘は諸侯会議で活躍するのが夢だったかね?」

「はい、カッサンドラおばば様」

「そういうことだし、ちゃんと叙勲されるくらいの男なら文句はないよ」

おばば様がカシアに確認した後に告げる。

なにげにハードルを上げてきたような。

大丈夫なんだろうか。

「はあ」

「せいぜいがんばりな。何かあったら相談くらいにはのってやる。可愛い一族の娘のためだ。相談したいことがあったらいつでもここに来るといい」

「ではそのおりには」

相談などは多分しないと思うが。

おばば様にとって可愛いのはルティナであっても俺ではないから、下手に近づけば俺も公爵のようにいじられかねん。

君子危うきに近寄らず。

このおばば様は敬して遠ざけるのが、正しい態度というものだろう。

「うむ。とどこおりなく引接も終わったようで余としても一安心だ。では戻るとするか」

これで話は終了か。

公爵も一緒に逃げるらしい。

「ああ、ちょうどよかった。ブロッケン坊やには話がある」

しかしまわりこまれてしまった。

「では、私はこれで」

「ミチオ殿?」

公爵が非難するような目で見てくるが、しょうがないだろう。

ベガーズ・キャントビー・チューザーズ。

乞食は選べないという英語のことわざだ。

そもそも、おばば様と公爵の話に俺は関係ない。

「わたくしは外でお待ちしております。そういえば、ゴスラーがミチオ様に何かお話があると言っておりました」

カシアが助けをくれる。

ナイス、ゴスラー。

さすがは苦労人の鑑。

一緒にここへこなかったときにはどうしてくれようかと思ったが、予め考えてあったのだな。

「では」

ゴスラーの用事を言い訳に、俺は生還した。

公爵の視線が痛い。

公爵には諦めが肝心だと言っておきたい。

大魔王からは逃げられない。

もっとも、このままゴスラーのところへ行くことはしない。

パーティーも解散してロクサーヌたちとは連絡が切れているので、今日は早めに帰った方がいいだろう。

それに、ゴスラーの話が厄介ごとでないと限ったわけでもない。

公爵が持ち込んでくる話なら多分厄介ごとだ。

「時間もたちましたので、今日のところは戻ります。ゴスラーには後日また行くとお伝えください」

「分かりました。本日はありがとうございました」

おばば様の部屋を出ると、ここで待つというカシアとも別れ、向こうの人にロビーまで送ってもらって、ワープで帰る。

こうしてちゃんとロビーまで送ってくれるおばば様のところはたいしたもんだよな。

普通はこういう対応なんだろうが。

執務室の外に放り出して勝手に帰れという公爵のところとはえらい違いだ。

家に帰るまでが遠足だと公爵は習わなかったらしい。

「お帰りなさいませ」

「ただいま。ちょっと時間かかっちゃったか?」

「いえ。問題ありません」

家に帰るとロクサーヌたちが迎えてくれた。

おばば様に会ってきたことは、別にルティナには言わなくてもいいか。

里心がついてもと、連れて行かなかったのだし。

ルティナがおばば様からの救出を唯一の希望としてすがりついている可能性もある。

その場合、おばば様の了承をもらったなどと言えば絶望しか与えないだろう。

捨て鉢な行動に出られでもしたら困る。

後で知った方がダメージもでかそうだしな。

わたくしはおばば様からの救出を頼みにしていましたのに、この男はそれがないことを知りつつ裏で笑っていましたのね、と。

こんな男に。

悔しい……でも、感じちゃう。

ビクッ、ビグッ。

鬼畜だな。

だがそれがいい。

やっぱり黙ってよう。

「では迷宮に行くか」

パーティーを解散したことに疑念を持たれないように、さっさと迷宮に移動した。

迷宮に行けば、そんな些細なことよりも戦闘が大事だ。

命かかっているし。

余計なところに気を回す余裕はない。

こちらも別にやましいことをしてきたわけではない。

女と会ってきたがババアだ。

できれば再び会うことがなければそれが一番いい。

この意見には公爵も同意してくれるだろう。

その日一日は、三十四階層のボス狩などをして過ごした。

ミリアがいればボス戦も安定だ。

三十四階層からは二匹しか出てこないこともあって、こちらが魔法で倒す前にビシビシと石化してくれた。

ただし、クーラタル三十四階層のボスはコボルトイェーガーだ。

コボルト系は弱いから割り引いて考えなければならない。

三十五階層からが本格的な戦いとなるだろう。

その三十五階層のボスに挑むのは明日の朝だ。

まあ、別に嫌ではない。

もちろん待ち遠しくはないが。

嫌でもなく待ち遠しくもなくという、妙な感じ。

中学校のときの修学旅行が、そんな気分だっただろうか。

ぼっちだったしな。

それを除けばただの観光旅行だから、嫌というほどでもなかった。

嫌でもなく待ち遠しくもなく。

三十五階層のボスも、そんな感じだろう。

待ち遠しくない気分は、色魔を就けて発散させた。

もちろん、嫌で嫌でしょうがなかったら色魔を就けて発散だ。

待ち遠しいときには、やっぱり色魔を就けて我慢する。

色魔万能すぎる。

「クーラタル迷宮三十五階層のボスはカナリアカメリアです。ナイーブオリーブやパームバウムと同様、弱点となる属性も耐性のある魔法属性もありません。基本的に三十五階層の魔物であるパームバウムをもう一段強くした魔物と考えていいでしょう」

翌朝、三十五階層のボスに挑んだ。

セリーのブリーフィングを受けてから、ボス部屋に突入する。

魔法は雷魔法でいいだろう。

煙が集まり、二匹のボスが姿を現した。

ナイーブオリーブやパームバウムと同じような木の魔物だ。

ニードルウッドやラブシュラブとの違いは、青々と葉が生い茂っていることである。

木なのに火属性が弱点でないのは、この葉っぱのおかげだろうか。

サンダーストームを二回念じ、ミリアとベスタが向かう左のカナリアカメリアに状態異常耐性ダウンをかける。

いつものパターンだ。

ただし、これが正しいかどうかは分からない。

サンダーストームに限らず、魔法は念じてから発動するまでに少しタイムラグがある。

状態異常耐性ダウンがすぐにかかるなら、魔法を念じた後にかけることで、タイムラグを利用して魔法が発動する前にかけることができるかもしれない。

状態異常耐性ダウンにも魔法と同様にかかるまでのタイムラグがあるなら、先に念じないと魔法の前にかかることはないかもしれない。

状態異常耐性ダウンのかかるタイミングが分からないから、どっちかを決定することができないんだよな。

そもそも、ちゃんと状態異常耐性ダウンがかかっているかどうかも不明だ。

いや。三十三階層までは、ボス部屋に出てくるお付の魔物は通常の魔物よりも雷魔法での麻痺やミリアの石化にかかりやすかった。

状態異常耐性ダウンにかかっていてちゃんと効果が出たのは間違いない。

さすがに、最初の一撃に効果が出ていたかどうかまでは判然としない。

ダメージよりも雷魔法で麻痺することに期待するなら、状態異常耐性ダウンを先に回す手もありそうか。

しかし現状これでうまくいっているのだから、無理に変える必要もない。

魔物は、最初の雷魔法二連打で二匹とも麻痺した。

片方にはまだ状態異常耐性ダウンをかけていないから、効果が出たのかどうかは微妙なところだな。

続いて、麻痺した魔物をミリアが始末する。

二匹とも再び動き出すことなく石化した。

楽勝だな。

世にこれを朝飯前という。

ロクサーヌとセリーとベスタは、ほとんど何もすることなく終わってしまった。

俺は魔法で後片づけが残っている。

カナリアカメリアは、大きな花をつけた木の魔物だ。

枝にカナリアでもとまっているのかと思ったが、そんなことはない。

その代わり、てっぺんのちょうど顔のような位置に黄色い花が咲いていた。

多分それがカナリアイエローということなんだろう。

石化したカメリアカナリアに最後まで魔法をぶつけると、魔物が煙と化す。

同時に、黄色い花がボトリと落ちた。

散るとかじゃなくて、丸ごと落下する。

「おわっと。こんな風になるんだ」

突然落ちたので、変な声が出てしまった。

「そうですね。人間の首が飛ぶように花全体が落ちるので、縁起の悪い魔物だと言う人もいます」

セリーが教えてくれる。

魔物に縁起がいいのがあっても困るが。

というか、人間の首にたとえるのもどうなんだろう。

顔のあるような位置にあったとはいえ。

『異世界迷宮でハーレムを 6』が12月28日に発売になります。

よろしくお願いします。

手に取っていただいた人には、あのかたが裏表紙で滅びの呪文を。