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下賜

異世界迷宮で奴隷ハーレムを — ncode.syosetu.com · All chapters

下賜

前回のあらすじ:皇帝からプレゼントをもらった

皇帝は、俺にエナメルのハイヒールブーツを押しつけると、すぐに身を翻した。

え?

なんか用事があったんじゃないの?

「本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございました」

「世話になった」

セバスチャンと挨拶を交わし、扉の外に帰っていく。

どうやら本当にエナメルのハイヒールブーツを渡すためだけに来たらしい。

暇人め。

スタッフ一同総出で見送った。

付き合わされるほうも大変だ。

「今日は運よくガイウス様がお越しになられたので、直接お渡しすることができてよろしゅうございました」

「そ、そうね」

いやいや。

絶対そのために来たよね。

つまり呼んだよね。

まあ、皇帝がプレゼントを贈るために動いたとか公言できないのかもしれないが。

贈るものがあれだし。

あれだし。

「ミチオ様はご存じないかもしれませんので、申し上げておきましょう。皇て、いや、ガイウス様から装備品の下賜があった場合、下々の者には一度だけこの装備品にモンスターカードを融合してみるチャンスがあります」

「はあ」

それはまあ、融合するチャンスは一度あるだろう。

どんなものだろうと。

その前に、下賜とか下々とか言っちゃってるけど大丈夫なんだろうか。

皇帝はともかく。

「いえいえ。そういうわけではなく、ガイウス様から下賜のあった装備品の現品に限り、モンスターカードの融合に成功した場合にそれを献上することが認められているのです」

献上せよ、ということか。

さすがは皇帝。

一度下げ渡したものでもスキルを融合できたら返せと。

おまえのものは俺のもの。

つまり、確実に融合に成功するこのハイヒールブーツは……。

「取り上げられるのか」

「もちろん献上すればそれに倍する新たな下賜がございます。そのために、献上することのできる品が下賜された装備品の現品に限られているのです」

昔の中国の朝貢貿易では夷狄から貢ぎ物が贈られるとそれを上回る財物が下賜されたと聞いたことがある。

それと同じようなものか。

皇帝という立場からいっても、取り上げてばかりというわけにはいくまい。

献上すればそれを上回るお返しがある。

献上してそれ以上のものが返ってくるのなら、献上したがる人は多いだろう。

だから献上できるものには制限がある。

具体的には下賜された装備品の現品に限りモンスターカードの融合に成功した場合に献上できると。

俺はストッキングを献上してしまったのだが、いいのだろうか。

あれは許されるのだろうか。

最悪は……。

「……な、なるほど」

い、いや。きっと大丈夫だったのだろう。

皇帝は喜んでいたのだし。

大丈夫たったに違いない。

ノーカン! ノーカン!

「献上できるのは下賜されてから十日までというのが慣例です。その間、ミチオ様の周囲では多くの人が目を光らせているとお考えください」

「はあ」

「貴族というのは相手の足を引っ張り、貶め合うのが仕事です。ミチオ様はブロッケン様やエステル様とも親しいご様子。足を引っ張りたい人は数多いでしょう」

別に俺は貴族じゃないし、と答えようとしたら、先回りされた。

ブロッケンというのはハルツ公爵のことだ。

公爵ともなれば敵も多いだろう。

先日も某伯爵家でクーデターもどきのことをやってたし。

俺を貶めればハルツ公爵を貶めることになる、という理屈は分かる。

そんなに簡単ではないだろうが。

エステル男爵とは親しいわけではないが、わざわざ指摘することでもない。

「いやな世界だ」

「それが貴族という生き物ですから。そういうわけで、ミチオ様もしばらく行動には注意されてください」

「うへぇ」

なんでこんなことに。

しかし、貴族批判はまずいかもしれないので、あまりおおっぴらに文句をいうわけにもいかない。

考えてみれば、いやな世界だというのもまずかったのではないだろうか。

ノーカン! ノーカン!

まあ期限が十日間というのなら、十日間何もしなければいい。

献上しなければ問題になることもないだろう。

まあるく収まるはずだ。

「もちろん、行動を見られているということは、何の動きもなかった場合も分かるということです。忠誠を疑われますのでご注意ください」

俺の思考を読み取ったかのように、セイバスチャンが忠告してきた。

そんなに分かりやすかったのか。

いや。分かりやすかったというよりは、誰でも考えることなのだろう。

「なる、ほど」

「過去には、余計な疑いを持たれないようにモンスターカードの融合を公開の場で行った者もおります。それくらい慎重さが要求される事態だとご理解ください」

「りょ、了解」

あの変態め、厄介なものを。

考えてみれば、ハイヒールブーツに踏まれて喜ぶやつがそのハイヒールブーツを他人に譲るはずがない。

俺に渡したのはあくまで戻ってくること前提だ。

与えたのではなく、貸したのだ。

いや。それはないか。

融合に失敗すればハイヒールブーツは戻ってこない。

それとも、融合に成功すると、このエナメルのハイヒールブーツに空きのスキルスロットがあると見抜いたのだろうか。

それもないか。

鑑定があって戻ってくること前提なら、空きのスキルスロットが五つある方を選ぶ。

俺ならそうする。

鑑定は持っていないだろうから、融合が成功するかどうかがなんとなく分かる程度なのかもしれないが。

疑えばきりがない。

おそらくそういうことはないだろう。

人間の欲望は進化するものだ。

あの変態もハイヒールブーツの刺激では飽きたらなくなったに違いない。

もっと強い刺激を。

もっと強い快楽を。

あるいは、さらなるブツをすでに手に入れているのかもしれない。

そうでなければこれを手放さない。

帝宮ではもっと恐ろしい事態が夜な夜な繰り返されているに違いない。

このエナメルのハイヒールブーツだってかなりすごいとは思うけどね。

こんなので踏まれたら……。

男でいられなくなってしまうのではないだろうか。

踏むならせめて素足にしていただきたい。

ロクサーヌなら優しく踏んでくれそうだ。

セリーは、小柄だし軽いし痛くないだろう。

ジトッとした目で蔑まれそうだが。

ミ、ミリアの方がいいかもしれない。

ベスタでは、大柄だから確実に潰れる。

何が?

ルティナでもいい。

わたくしのご主人様はとんだ変態さんだったのですわと。

鳥肌を立てながら踏んでくれそうだ。

我々の業界ではご褒美です。

いやいやいや。

待て。慌てるな。

これは皇帝の罠だ。

そんなことは無理だ。

最初は相手が絶対に受け入れられないような条件を出し、次に譲歩した形で本来の自分の要求を提示することで、これを飲ませる。

詐欺師などがよく使うテクニックだ。

ハイヒールブーツというシロウトの手にあまるものを提示し、素足ならと納得させる。

自分の仲間に引きずり込もうという策略である。

さすが皇帝。

皇帝めぇ。

「そういうことですので、ぜひともミチオ様の忠誠心をお見せください」

こっちもめんどくさい。

いろいろとめんどくさいことになっているな。

だから皇帝とか公爵とか嫌なんだ。

好きに生きられたらそれでいいのに。

「あー。それで、その、店に置いてあるほうのエナメルのハイヒールブーツだが。あれをもらうわけには」

「ミチオ様、私の話を聞いておりましたか?」

皇帝からもらったハイヒールブーツを皇帝に返すことになる以上、代わりのハイヒールブーツがほしいと思ったが、やはりそういうわけにいかないようだ。

空きのスキルスロットが五つある装備品を手に入れるチャンスなのに。

「やはり駄目か」

「下賜された装備品と同じものを購入したと分かれば、その装備品でも献上用に融合を行ったと批判されることは確実です」

まあそうなるわな。

「では、融合して献上するまで、取っておいてもらうというのはどうだろう。もちろん、融合に失敗した場合も買い取る」

「それでも同じことです」

最初のは駄目だろうと思ったが、その後要求を下げてみたのに、これも通じなかった。

おかしい。

最初に受け入れられない条件を出して次に譲歩すればいけるのではなかったのか。

「うーん。これも駄目か」

「店頭から蔵匿すれば足を引っ張りたい相手にも分かります」

「そこは店のほうで事実を公表すれば」

「当会がいくら否定したところで無駄です。事実がどうであるかなどとは関係なく、隙を作るような行動に問題があったとみなされるでしょう」

結局うまくいかないようだ。

空きのスキルスロット五つ入りのエナメルのハイヒールブーツを確実に手に入れることは難しいか。

皇帝に献上するまで売れないことを祈るのみ。

「かたがつくまで残っていればいいが」

「それも駄目です。ほとぼりが冷めるまで、半年くらいは同じものを買わないほうがいいでしょう」

「いやいや。献上した後に買えば。まあ失敗した後でもいいけど」

「相手の目的は事実ではなく足を引っ張ることです。事実などどうでもいいのです」

「理不尽だな」

そこまで駄目なのか。

これだから貴族同士の足の引っ張り合いは。

俺なんか、いろいろ隠し事が多いし、隙も多いに違いないのに。

「出る杭が打たれるのは最初だけです。実力を示せば、すぐにも態度が変わるでしょう。迷宮を倒せるほどの冒険者パーティーともなれば揉み手でにじり寄ってきます」

「それはそれで面倒な」

「それが貴族というものです」

ろくなもんじゃない。

俺は何も手に入れることなく、ほうほうのていでロッジから逃げ出した。

いや。皇帝からもらったエナメルのハイヒールブーツは持ったが。

家に帰ると、ロクサーヌたちはまだ掃除を行っていた。

それほど長い時間ロッジにいたわけでもなし。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「あー。そのままでいいから、聞いてくれるか。ややこしい話だが。新しい装備品が手に入った。ただし、これにはとっととスキルをつけて献上しないといけないらしい。だから使っていられるのは短い間だ」

「新しい装備ですか。どんなものでしょう?」

「そうなんですか」

セリーが微妙な表情をしている。

スキルをつけるとなれば、セリーの出番だからな。

「新しいそうび、です」

「短い間でもいいと思います」

「手に入ったのにスキルをつけてすぐに献上するなんて、まるで皇帝から下賜された装備品のようですね」

ルティナが正解だ。

さすがというべきかどうかは、別にして。

発想が偏っているとはいえる。

「手に入れたのは、このエナメルのハイヒールブーツだ」

「ほう。これですか」

アイテムボックスから出し、ロクサーヌに渡した。

「モンスターカードの融合については、心配していない」

「はい」

セリーの杞憂も解いておく。

不安を払拭できたかどうかは、別にして。

はいと返事をしたから、大丈夫だろう。

「いいもののようです」

ロクサーヌは、しばらくの間ためつすがめつ眺めていたが、やがて納得がいったのか、ハイヒールブーツをセリーに回した。

無事ロクサーヌのお墨付きを得た。

「魔法を強くする効果があるんだよな?」

「多分、そうじゃないかと思います」

ハイヒールブーツを見ているセリーにも確認するが、おそらくそうだろう。

だから皇帝はこれを送ってきたのだ。

まあ返さなければいけないとはいえ。

「魔法が強くなるなら、ルティナの装備品一択ということになるが」

俺がはくものではないだろうし。

全員を見回すが、誰も特に異論はないようだ。

「そうですね」

最後にロクサーヌが代表して返事をした。

セリーも何も言うことなくミリアにハイヒールブーツを回している。

「ただし、いずれなくなる装備品だ。これを当てにしてよいのだろうか?」

しかし俺には懸念がある。

エナメルのハイヒールブーツがあることを前提にして迷宮での戦いや戦略に慣れてしまってよいものだろうか。

杞憂だろうか。

他の装備品ならともかく、魔法が強くなるとそれに依存してしまう可能性もあるのではないかという気もする。

「大丈夫でしょう。どんな戦闘だろうと気を抜かなければいいだけの話です」

「確かに、可能性としては問題があるかもしれませんが、せっかくの装備品を使わないのももったいない話です。装備品が使える間に強くなればいいわけですし」

「当てにする、です」

「大丈夫だと思います」

「使えるものなら使いたいです」

やはり杞憂だろうか。

どんな戦闘でも気を抜かないのは、実際無理だとは思うが。

『月刊少年エース』で本作のコミカライズが始まります。正式掲載は来月からで、今日(3/25)発売の五月号には予告編としてプロローグが載っています。次号予告のロクサーヌが可愛いのでよろしくお願いします。