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スリープシープ

異世界迷宮で奴隷ハーレムを — ncode.syosetu.com · All chapters

スリープシープ

前回のあらすじ:予備のハイヒールブーツを手に入れることはできなかった

「いずれにせよ、エナメルのハイヒールブーツに合うモンスターカードを至急手に入れる必要がある。セリーはどんなのがいいと思う?」

エナメルのハイヒールブーツに融合するスキルのことを、セリーに相談した。

「そうですね……」

「ああ。それより、一緒に商人ギルドへ行ってくれるか。そのほうが話が早いだろう」

モンスターカードはどのみち仲買人のルークから買うことになる。

それもできるだけ早く。

セリーに相談してから訪ねるより、セリーを連れて行った方が早い。

なにしろ貴族連中の注目を浴びると忠告されているのだ。

やつらが動き出す前に片づけることができれば、それが一番だろう。

それは無理だったとしても、モンスターカードの入手はできるだけ早い方がいい。

早ければ早いほどいい。

ASAP。

アズスーンアズポッシブルである。

「分かりました」

「では、セリーを借りていくけど、いいか」

「はい。大丈夫です」

ロクサーヌに確認して、部屋を掃除中のセリーを連れ出す。

二人で商人ギルドへと飛んだ。

受付でルークを呼び出すと、すぐに出てくる。

ちゃんといたようだ。

まあこの時間の商人ギルドにいなかったためしはないが。

オークションもあるだろうし。

「こちらへ」

「悪いな」

ルークが俺たちを会議室へと案内した。

「今日はどういったご用件でしょう?」

「ある装備品が手に入ってな。至急、それにモンスターカードを融合してみなくてはならなくなった。別に失敗したなら失敗したでいい」

「エナメルのハイヒールブーツでしょうか?」

なんで分かるのだろうか。

有名な装備品だったとか。

そんなわけはないか。

「何故それを」

「商人にとって情報は命ですので」

「……」

情報が命といっても、いくらなんでも早すぎないだろうか。

「というのは、まあいいすぎでしょうか。実を申しますと、ここ最近、噂が出回っていたのです。どのような噂かは、その通りであったとすれば想像がつくでしょうが」

いや、分からん。

俺がハイヒールブーツをもらったのはついさっきのことだったのに、噂の出回りようがないと思うが。

皇帝がエナメルのハイヒールブーツを手に入れたという噂だろうか。

皇帝がエナメルのハイヒールブーツで夜な夜なあんなことやこんなことを、という噂かもしれない。

確かに、そんな噂であれば口に出すのもはばかられる。

不敬罪だ。

いや。機密漏洩罪だ。

「なる、ほど」

「近く下賜されるのでは、と噂になっておりました」

皇帝が夜な夜なという噂じゃなかった。

まあそりゃそうだよな。

機密漏洩はまずい。

皇帝がエナメルのハイヒールブーツを入手したので、近いうち誰かに下げ渡されるのではという話が広まった、というところだろうか。

分からなくもない。

「もしかして、モンスターカードの値段が上がっているとか?」

「そこまではっきりとではありませんが、多少は」

さすが皇帝。

ロクなことをせん。

近々誰かが買うだろうと分かっていれば、モンスターカードの値段も上がろうというものだ。

皇帝が装備品を下賜する。

下賜された人はモンスターカードを手に入れて融合する。

モンスターカードは、もちろんオークションで入手するのが一般的だ。

成功したとしても失敗したとしても、融合するのは一回だけだが。

コボルトのモンスターカードを含めたとしても、最大で二枚。

手持ちのストックを使う可能性もある。

とはいえ、モンスターカードはほぼ絶対に消費される。

商人としてはそれだけが問題なのかもしれない。

その情報があれば相場は動くだろう。

一犬虚に吠ゆれば万犬実を云う。

近い将来株価は上がるだろうとみんなが考えれば株は上がる。

明日のモンスターカードは今日よりも高いと多くの人が考えれば、モンスターカードの値段は上がる。

相場師にとって大切なのは、実需要としてのインパクトではなく、市場トレンドに与えるだろうインパクトなのだ。

「そういうことなので、対応するモンスターカードを早めに手に入れたい。できれば値段のまだ上がらないうちに。問題は種類だが」

「モンスターカードについては、私に心当たりがございます。明日の朝、また一緒に来てもらってよろしいですか?」

種類についてセリーに話を振る前にルークが割り込んできた。

なにやら伝手があるらしい。

自分が持っているのを売ってくれるのかもしれない。

「分かった」

「悪いようにはいたしませんので、ご安心ください」

そう言われたので安心はできないが。

悪いようにいたしますと言っているようにしか聞こえん。

しかし、結局モンスターカードはルークから買うしかない。

あるいは、自分でドロップさせるか。

それも大変だし、狙って出るものではないし、今回は時間も限られているし。

いつまでもドロップしなかったら、皇帝から装備品を下賜されたのに何もしなかった不忠者の烙印を押されてしまう。

別に押されてもいいんだけどさ。

忠誠心もないし。

相手は変態だし。

そういうわけにもいかないので、ここはルークにまかせるしかないだろう。

モンスターカードのことはきっぱりとルークに一任して、こっちは迷宮に入る。

迷宮で働くのがこちらの仕事だ。

都合よくモンスターカードが出たりは、もちろんしなかった。

眠気に耐えてよくがんばったら、翌朝は三十七階層のボス戦だ。

「ここのボス戦は全員で囲んで一匹ずつ倒すのがセオリーですが、どうしますか?」

ボス部屋に入る前にセリーが聞いてくる。

「そうなのか?」

「はい。ビープシープのボスはスリープシープです。前に入ったパーティーが全滅したのでなければ、新しく出てくるときには眠っていますので」

「寝てるのかよ」

スリープシープというのは、名前のとおり眠っている魔物らしい。

自分が寝てどうする。

「一度攻撃すればもちろん目覚めます。目覚めれば厄介な相手です」

「ハンデということか」

先に殴らせてやる、みたいな。

デュランダルでラッシュをかましても、ボスを一撃で屠るのは難しい。

このくらいの階層になればなおさらだ。

余裕か。

「目覚めたスリープシープの攻撃はすさまじく、スキル攻撃が当たれば必睡です」

「必睡て」

「通常の体当たり攻撃であっても当たると高確率で眠ってしまいます」

「スキル攻撃の意味なくね?」

いろいろとツッコミどころの多いボスのようだ。

「眠っているところを起こされて機嫌が悪いという説が書いてありました」

「確かに気分は悪かろうが」

魔物に機嫌があるのだろうか。

「スリープシープの毛は、ふわふわモコモコとしていて、非常に柔らかくてさわり心地がいいそうです」

「それは単純に攻撃力が下がるのではないかと」

「スリープシープの毛にくるまれると、あまりに気分がよくてつい寝てしまうそうです」

……もう突っ込みはいいや。

魔物のことだからそういうこともあるかもしれない、としておこう。

スリープシープ。

どうやら恐ろしい敵のようだ。

「スキル攻撃が回避可能だというならなんら問題はありませんね。全体攻撃魔法を使ったほうが早く倒せますし、別に一匹ずつでなくてもよいのではないでしょうか」

ロクサーヌの意見もスルーすべき。

「まとめて戦う、です」

と思ったらミリアが同調しやがった。

「別に同時でも大丈夫だと思います」

本当に大丈夫なんだろうか。

分かっているのだろうか。

ボス二匹と同時に戦うとき、ボスの正面に立つのはロクサーヌとベスタだ。

まあ、分かっていないはずはないか。

今までそうだったのだし。

「よろしいのではないでしょうか。そんなに心地よいなら、諸侯会議で自慢できるかも知れません」

ルティナは分かっていない、と思いたい。

「分かった。まあどうせ複数回戦うのだし、最初は一匹ずつ試してみよう。初めて戦うのだしな。問題なく戦えるようなら、次は二匹同時を相手にしてみる」

「なるほど。冷静ですね。そうするのが合理的でしょう」

セリーが賛成してくれた。

常識人はセリーだけのようだ。

もっとも、ロクサーヌたちもこれに反対はしなかったので、最初は一匹ずつ対処する。

スリープシープは、眠っている羊だった。

ほんとに寝てやがるな。

全員で囲って、あっさり、片づけた。

ミリアが。

考えてみれば当然だった。

相手は眠ってるんだ。

寝ている間にそっと囲んで、最初の一撃は絶対に通る。

攻撃されれば目覚めるとはいえ、すぐに動けるわけもないので、二撃めも通る。

魔物の正面にはロクサーヌが立つから、ミリアは後ろから行く。

後ろからなので反撃を気にすることなく、もう一、二撃入れられるだろう。

メッタ振りすればもうちょっといけるかもしれない。

それだけあれば、ミリアならまず確実に相手を石化できる。

つまりそういうことだった。

案ずるより産むがやすし。

「終わってみれば全体攻撃魔法を使うまでもなかったな」

「そうですね」

「ミリアのおかげだな」

「はい、です」

ミリアの頭をなでておいた。

帽子をずらしてネコミミにも触れる。

ヒクヒクと動いて可愛らしい。

それにつけてもネコミミのいとおしさよ。

「スリープシープにはもうこの戦い方で十分だろう。次からもこの方法で戦ってみよう」

デュランダルを出すと、経験値的には少しつらい、かもしれない。

それでも、安全に勝てるならそれが一番だよな。

格別大きく減るわけでもないし。

その後は、周回してボス戦を繰り返した。

順番に何の問題もなく石化していく。

安全第一。

問題が起こるとすれば、前のパーティーが全滅していてスリープシープが目覚めた状態で残っていた場合か。

まあそんなことはめったにない。

その場合でも、スリープシープが無傷で残るはずはなく、ある程度はダメージを負っているだろうから、深刻な事態に陥ることはないはずだ。

実際、スリープシープが残っているようなこと起こらなかった。

安全に、確実に、一匹ずつ無力化していく。

三十四階層以降のボス戦では一番危険を感じることもなかったといえるだろう。

先に一発殴らせるとか、妙なハンデをつけたのがスリープシープの敗因だな。

もこもこの毛に包まれて心地よさを味わうことは、諦めてもらう必要はあるが。

朝食の時間まで安全に戦い、迷宮を抜ける。

朝食をとったら、俺とセリーは商人ギルドへ直行だ。

「ようこそ。お待ちしておりました」

待合室でルークを呼び出すと、すぐにやってきた。

「待たせたみたいだな」

「いえいえ。お呼び出ししたのはこちらですし」

待ってたことは否定しないと。

ならば早速本題に入るか。

「それで。モンスターカードのほうは?」

「はい。こちらなどがよろしいのではないかと」

部屋に入って早々に話を切り出すと、ルークがモンスターカードを二枚出してきた。

コボルトと、もう一枚は牛のモンスターカードだ。

コボルトのモンスターカードは、予備のものを持っているから、いらないといえばいらないのだが。

「これか」

「はい。牛のモンスターカードとコボルトのモンスターカードになります」

「牛のモンスターカードは、コボルトのモンスターカードと一緒に融合すると、移動力増強のスキルになります。靴につけるには定番のスキルですね」

移動力増強だから靴につけるのが定番というセリーの話は、納得できなくはない。

モンスターカードも鑑定どおりだ。

牛で移動力増強というのは、よく分からんが。

牛というとのろそうなイメージがある。

まあ、闘牛とかを見ると、そうでもないのか。

アメリカバイソンとかも早そうな気はする。

牛といっても牛の魔物だから、いうまでもなく猛牛よりだろうし。

あるいは、平安貴族のように牛車に乗っての雅な世界なのかもしれない。

皇帝に献上するわけだしな。

ハイヒールで踏まれる雅な趣味をお持ちの雅な皇帝に。

「ふーん。まあよさそうだな」

「ありがとうございます。牛のモンスターカードを四千五百ナール、コボルトのモンスターカードを五千ナールでいかがでしょう?」

コボルトのモンスターカードも五千ナールなら買っておいていいか。

その辺も考えての値段なのだろうが。

「いいだろう」

「融合に成功すれば皇帝に献上なさるわけですし、二枚ともお買い上げいただけるのでしたら、今回は特別に六千六百五十ナールとさせていただきましょう」

いや。コボルトのモンスターカードも必要だ。

是非とも必要だった。