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杞憂

異世界迷宮で奴隷ハーレムを — ncode.syosetu.com · All chapters

杞憂

前回のあらすじ:駿馬のエナメルハイヒールブーツを作成させた

「ちょっと帝国解放会のロッジに立ち寄るぞ」

「分かりました」

セリーに断り、商人ギルドからワープした。

別に連れて行っても問題はない。

長い時間一人で資料室にいたこともあるのだし。

一度家に帰って、セリーを置いてまだ出るのも面倒だ。

ワープだからほぼ一瞬だとはいえ。

話を聞くだけならそんなに長居することもないだろう。

「ミチオ様、セリー様、ようこそいらっしゃいました」

ロビーに着くなり、セバスチャンが上半身を直角に折り曲げて出迎えた。

これが毎回驚かされるよな。

俺たちが来るのを分かってたんじゃないだろうか。

そんなはずはないが。

この前来たばかりの俺はまだしも、セリーの名前なんてよく覚えているものだ。

大体、誰が来たか確認する時間さえそんなになかっただろう。

セリーは俺の後から出てきたはずだし。

「お、おう。この間のや、やつだが」

「はい」

びっくりしすぎて変な声が出てしまった。

おまけに変な声にあせり、どもってしまう失態付き。

そんな俺を落ち着かせるように、セバスチャンがゆっくりと静かに声を出す。

なんか人間としての出来が違うと感じてしまう。

「もらった装備品に融合を行ったところ、成功した。商人三人の前でやったので間違いはない。証言もしてくれると思う」

「それはおめでとうございます」

「これだ」

アイテムボックスから駿馬のエナメルハイヒールブーツを取り出した。

「お預かりしても?」

セバスチャンが微妙なことを尋ねてくる。

預けていいのだろうか。

持ち逃げする気とか。

まあそれはないか。

ないだろう。

ないと思う。

ないといいな。

それでも、預けていいものかどうか。

逆にいえば、断ってもいいものだろうか。

断って悪い印象を持たれても困る。

預り証でももらえればいいのだろうが、防具鑑定が必要だからまた面倒そうだし。

詐欺に騙されるときはこんな感じなんだろうか。

ノーと言える日本人を目指したい。

「……いいだろう」

言えなかったよ。

つい、セバスチャンの要求にうなずいてしまった。

まあ皇帝に再献上するなら結局渡すしかないよな。

それに考えてみれば俺には決闘が使える。

セバスチャンが詐欺を働くようなら叩き切ればいい。

そうなる事態を考慮に入れれば、セバスチャンもそうそう詐欺は働かないだろう。

渡しても問題ないはずだ。

と思っておこう。

誰か強力な助っ人がいるのかもしれないが。

セバスチャンは物腰が柔らかく、マナーも完璧だ。

相当上位の家の出身か、もしくはその係累だろう。

強い代理人へのツテはあると考えたほうがいい。

さらにいえばセバスチャンは帝国解放会のロッジの職員だ。

誰か帝国解放会会員の中に仲のよい人がいるかもしれない。

帝国解放会は迷宮の討伐を目指す人の集まりだから、俺より強い人がゴロゴロいる。

そちらをあてにすることもありうる。

助っ人に詐欺被害を訴えたとして、中立を選んでくれるかどうか。

当然セバスチャンは否定するだろうから、仲がよければ向こうの肩を持ちそうだ。

セバスチャンだって俺が決闘に訴えてくることくらいは当然想定するだろう。

それでも詐欺を働いてくるなら、対策はできていると判断すべきだ。

しかし、闇討ちという手もある。

何も強力な助っ人を相手にする必要はない。

決闘の代理人にはなっても、四六時中護衛につくことはできないだろう。

騙されたときはそちらを選ぶべきだな。

駿馬のエナメルハイヒールブーツをセバスチャンに渡した。

考えてみたらこれ、俺が詐欺を働くこともできるんじゃないか。

セバスチャンはどうするのか。

俺がニセモノを渡すことだってありえないわけじゃない。

結局、防具商人を呼んで防具鑑定だろうか。

商人を呼んだら、俺のことが信用できないのかと嫌味のひとつも言ってやろう。

俺だけが詐欺の心配をするのは不公平だ。

まあ言わないけど。

「ありがとうございます。確かに、お預かりしました」

「おう」

あら。

防具商人はなしか。

「こちらの品を受け取りましたことは、私セバスチャンと、あちらにいるマテウスがいつでも証言いたします。ありがとうございました」

しかも保険をかけてきやがった。

こっちが詐欺を働こうものなら向こうは二人で証言する。

向こうが詐欺を働くつもりなら、当然すでに連携しているのだろう。

たまたま居あわせた、というやつだ。

俺のほうが一方的に不利になった。

まあ、闇討ちする相手が二人になるだけか。

「いいだろう。では、また来る」

「装備品を見ては行かれないのですか。特に目新しい商品は入荷しておりませんが」

「大丈夫だ」

装備品を見たら空きスロットがいっぱいのエナメルのハイヒールブーツがあるわけじゃないですか。

ほしくなるじゃないですか。

なければないで腹も立つし。

だから、ここは見ないのが正解だ。

「早ければ明日。さすがに今日の明日では確約できませんが、遅くとも明後日にはなんらかの返答をお返しできるかと思います。本日はありがとうございました」

セバスチャンに追い出されるように、ロッジを後にする。

セリーを連れて、家に帰った。

「渡してしまったが、大丈夫だろうか?」

帰ってからセリーの意見も聞いてみる。

「何か問題が?」

「黙って持ち去るとか」

「別に強くもなさそうでしたが」

やっぱりそういう判断なのね。

持ち逃げされたら決闘で解決しろと。

弱くて勝てそうなら問題はないと。

「あんなところで働いているのだし、強い知り合いがいるかもしれない」

「うーん。どうでしょう。あそこは貴族が多そうですし、あまり泥棒の片棒を担ぐとは。ねえルティナ、貴族は名誉や名声を重んじますよね?」

「当然です。泥棒を助けたなどと後ろ指をさされるようでは、はたして諸侯会議でどんな顔をすればいいか」

セリーがルティナまで巻き込んだ。

巻き込んでいいんだろうか。

貴族令嬢から奴隷に落ちたルティナに貴族の話はあまりよくないような気が。

少なくとも俺なら聞かない。

とはいえ、気にするなら諸侯会議がどうこうとかは言ってこないか。

大丈夫ということなんだろう。

少なくともセリーはそう判断したらしい。

セリーが大丈夫というなら大丈夫か。

「なるほど。彼が悪さを働こうとしても、力を貸す貴族は多くなさそうか」

「そうです」

「そのような者は貴族の風上にも置けません」

悪いやつは貴族にもいそうだが。

セリーもルティナも考えが甘い、ような気がする。

浜の真砂と五右衛門が歌に残したように。

知らざあ言って聞かせねばなるまい。

ただまあ、セバスチャンが詐欺を働くかというと、そこまで心配することもなかっただろうか。

今までトラブルもなくやってきたから、あの地位にいるのだろうし。

皇帝への献上品を騙し取った、などと陰口を叩かれては貴族は大変そうだ。

さすがに嫌がるだろう。

こっちにはモンスターカード融合を見ていた人もいる。

というか、それだってセバスチャンの助言に従ったんだよな。

そこを含めて騙すつもりならルークあたりまでグルだという話になる。

さすがにそこまではない。

証人の商人も承認してくれるはずだ。

ルークくらいなら、決闘で蹴散らすのはバックに誰かが控えている可能性があるから大変だとしても、闇討ちするのは難しくないし。

この世界に月夜の晩はないのだ。

とりあえず明日も帝国解放会のロッジに顔を出すとして、それまでは迷宮にこもる。

それでいいだろう。

今はできることをやる。

迷宮で強くなれば、バックに用心棒がいても関係なくなる。

その後は迷宮に入り、翌朝、三十八階層のボス戦を行った。

「クーラタル迷宮三十八階層のボスはコーラスコーラルです。複数匹で歌っている最中はお互いに能力を高めあうそうで、気をつける必要があります。歌はスキルとは違うのでキャンセルもできないようです」

コーラスコーラルだから歌ってくるらしい。

魔物の歌というのはよく分からんが。

そしてソロは駄目と。

コーラスにならないからな。

サンゴだから元々岩みたいで硬そうなのに、さらに防御力がアップするのだろうか。

確かに要注意だろう。

気を引き締めてボス部屋に入る。

煙が集まってボスが現れた。

ロクサーヌたちがボスに向かっていく。

あれがコーラスコーラルか。

なんとか歌いだす前に。

と思う間もなく、ミリアによって決着がついてしまった。

「あー。確かになんか歌ってるな」

「そうですね」

コーラスコーラルはそこそこ早めに歌いだした。

何かが聞こえてきている。

スキャットというのかハミングというのか、そういった類のやつだろう。

正しい定義なんか知らないからどれに当たるのかは知らないが。

そもそも魔物に人間の歌の分類が当てはまるのかどうか。

ただし、ソロだ。

コーラスではない。

現れて早々、ミリアによって一匹が石化されてしまったので。

残った片割れだけが歌っている状況だ。

コーラスコーラルはボスとしては二匹で現れる。

つまりどっちかが倒された時点で合唱は成り立たない。

石化で戦うミリアは天敵みたいなものだろう。

二匹しか出てこない方が悪い。

いっそボスが一匹だけの階層で出てくればよかったのに。

さすがにそれはないか。

三十三階層上に行くと雑魚敵としてたくさん現れるから厄介かもしれない。

いや。ロクサーヌがいればそうでもないか。

選べるから。

コーラスコーラルにとって俺たちのパーティーとの相性はよくないようだ。

一匹だけ残ってしまったコーラスコーラルもコーラスが効いていない状況ではたいした敵でない。

まあボスではあるのだけれど。

一匹では攻撃をロクサーヌに当てることさえ難しい。

空振りしている間に、背後からミリアに叩かれ、こちらも無力化された。

「えらいぞ、ミリア」

「はい、です」

「ここのボスは俺たちには相性がいいようだ」

何周かしてみるが、やはりここのボス戦は楽だ。

ミリアが次々に片づけてくれる。

見ろ、ボスがゴミのようだ。

状態異常耐性ダウンをかけているので、一応俺も貢献はしている。

問題はないだろう。

今日はもうボス戦だけでいい。

繰り返しやろう。

「ロッジには行かないのですか?」

朝食まで戦い、食後に皿でも洗おうとしていると、セリーが話しかけてきた。

セリーは昨日のことを知っているからな。

行かないほうがいいかとも思ったのだが、やっぱり行ったほうがいいだろうか。

今日行くのは、おまえらのことを信用していないと相手に告げているだけのような気がする。

向こうも、こいつ信用してないんだな、と見るだろうし。

それは負けのような気が。

ここは、やはり大物ぶって泰然と構えている。

ように見せかけるべきではないだろうか。

信用しているのだと。

微塵も疑っていないのだと。

この世界、フィールドウォークがあるから、逃げ足は速い。

駿馬のエナメルハイヒールブーツを奪って逃げ出すとすれば、もうどこかに隠れているだろう。

いまさら一日遅れるくらい大きな問題にはならないはずだ。

「行くべきだろうか?」

「何の問題もないと思いますが?」

会話が噛み合っていない。

どうやら、俺の懸念を共有してはもらえないようだ。

そうなんだよな。

こんなことをしたら悪く思われるんじゃないかとか、嫌われるんじゃないだろうかとかグダグダ考えてしまうのは、コミュ障のコミュ障たる所以だ。

向こうはそんなこと全然考えなかったりするのだ。

今までの逡巡はすべて無駄だったか。

やはり行くべきだろう。

逃げている可能性もゼロではない。

それならやはり早く行ったほうがいい。

追いかけるなら早いほうがいい。

たとえ一日でも早いほうがいい。

血祭りにあげてやる。

「よし。では行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

セリーやみんなに見送られ、ワープで移動した。

「ミチオ様、お待ちしておりました。昨日、運良く向こう側との折衝が取れましたので、お預かりしているものは無事お渡しできました」

ロッジに赴くと、セバスチャンが開口一番告げる。

盗んだりはしなかったようだ。

誰だ、盗んで逃げるかもなどと不安に思っていたやつは。