第2話 楽しい異世界生活 2025年12月9日 公開
第2話 楽しい異世界生活 2025年12月9日 公開
……小鳥の声がする。
そんな物音で意識が覚醒してきた。
「ん……」
寝ていたのか?
くっそ、居眠りをしたら上司になんて言われるかわかったもんじゃない。
これ幸いにと減給とか言い出す可能性まである。
そう思いつつ、久しぶりの熟睡に頭がスッキリとしていることに気づいた。
仕事のことで頭がいっぱいであまり長く寝られていなかったもんな。
とりあえず……目を開こうと考えたそのとき、ベッドで寝ているわけじゃないことに気づいた。
朦朧とした意識の中で公園の茂みに入ってしまって、そのまま寝たのか?
その割に雑踏の音がしないな。
目を開いて起き上がり、辺りを見渡す。
すると俺は言葉を失ってしまった。
「な、なんだここ?」
俺が眠っていたのは……林の前の……草が生えたちょっとした丘の上だった。
丘下には結構古い家屋が見える。
その前には……無造作な畑らしきのが確認できる。
俺はどこまで彷徨ったんだ?
なんて思いつつ、畑に目を向ける。
その畑の隣には小川が流れていて、川のせせらぎが聞こえてくる。
あー……なんか空気が美味しい。
ふと、爺さんが遺した封筒が地面に落ちていることに気づいた。
そうだ。中身を確認しようと思って意識が飛んだんだった。
確認してからでも遅くはないだろう。
なんて思いつつ俺は爺さんが遺した手紙を読むことにした。
あれ? 一枚だけだと思ったのに沢山の束が入っていてパンパンだ。
静流へ――。
この手紙を読んでいるということは、とても辛い状況にいたのじゃろう。
そんな静流へワシは頑張れなどとは言えない。
辛いのなら逃げるのも、やめるのも選択じゃ。
ワシなら静流が無理をすることを良いと思わないとわかっておるじゃろ?
だからこそ、この封筒の中身を見た一番大切な孫のお前に他の者たちには渡さない内緒のプレゼントを贈ることにした。
……何もかも捨てて逃げたいと思うほどに思い詰めた静流ならばきっと気に入ってくれるとワシは願っておるよ。
そんなわけでプレゼントの中身なのじゃが、そこは異世界のワシの土地にして他の者たちに渡せない静流に継いでもらいたい遺産じゃ。
とても良い場所だとワシ自身も思っておる。
このワシにとって最も大事な遺産を上手く使ってほしい。
気に入らなかったら申し訳ないのう。
静流なら大丈夫と信じておるし静流が馴染みやすいように色々と仕掛けを施しておいた。
とりあえず、今はそこでゆっくり休んでおくれ。
しっかりと英気を養ってからどうするか決めてくれれば良い。
ではの。
ごめんね爺さん……ブラックなのは辛かったけれど死ぬほどだったかというと怪しいや。
でも……うん。爺さんは俺の記憶の通りの優しい文面でよかった。
ただ……異世界の爺さんの土地? 一番大事な遺産か……。
手紙は他にも何枚かあるようだけど、何も書かれていない。
後は……アレ? こんなの入っていたか?
古臭い鍵が封筒の中に入っていた。
それにしても異世界とか……もしや爺さん、俺にこれを渡したときには既にボケていたのか?
いやいや……そう思いつつ俺は辺りを見渡す。
「異世界、ねぇ……」
封筒を開けた瞬間いきなりこんな場所。
ありえなくはない状況だけど、判断材料が足りない。
とりあえずこの鍵が使えそうな場所というと、あの木製の家屋だろうか?
そう思いつつ家屋の方へと歩いて行く。
不思議と懐かしい気持ちになる。
そうだ……確か俺の覚えている爺さんと過ごした田舎がこんな場所だった気がする。
ただ、あの田舎の牧場は親戚が売ってしまって今じゃ住宅街になってしまっていた気がするんだけどなぁ。
何か混乱してきた。本当に懐かしいような気がする。
家屋に意識を戻すと、ちょっと古臭い……レトロな感じに風化している家だ。幸いなことに壊れているとか住めないほどではなさそうだけど……家屋の扉には鍵が掛けられていた。
鍵を出して錠前に差し込んで捻るとカチッという音と共にロックが外れる。
扉を開けて中を確認すると……予想通りに長い年月放置されたと感じる部屋だった。
あ、部屋の隅にベッドがある。
最低限の設備として、キッチン、暖炉もあるようだ。奥の部屋は子供部屋か? 小さなベッドが二つある。
他に木箱を発見。
机には……ノート。
長い歳月を感じさせる埃を払いながらとりあえず確認する。
【楽しい異世界生活のススメ】
……見なかった事にしたくなる表紙だ。
子供の頃の俺ならワクワクしたんだろうが、今は恥かしくてムズムズする。
手書きという感じではなく、製本されているところも爺さんの意図を感じる。
とりあえず読んでみるか。
レッスン1
まずは状況理解。
この世界はステータス等の概念があります。
しっかりと認識しましょう。
……これは爺さんが作った残念な中二ノートか何かだろうか?
そう思いつつ、ステータスねーと思ったところでさっきから視界の隅にある、疲れから感じる視線をチラつく星か何かだと思っていたものに意識が向かう。
星谷静流 性別:女 職業:ファーマー Lv7
ピコンと軽い音がして、俺の視界に謎のステータス表が浮かんで来た。
「うわ!?」
言わずにはいられないだろ。
いきなり目の前に謎のステータス表示が何処からともなく浮かんでいるんだぞ?
ゲームは好きだが……どうやったらこんな表示が?
3Dグラフィックの見える道具の類を付けている訳でもないし、こんな廃屋にその手の描写をする機材らしき物は見えない。
どうなっているんだ?
なんて思うけどとりあえずいくら調べても答えは出て来なさそうだ。
わかったことは、邪魔だと思ったらステータス画面が消えるということ。
あれだ。俺のレベル、7らしいぞ。
ていうか女って……などど思わず苦笑いした。
「ははは……えっ?」
いや、先程から違和感はあった。声がね……俺の声なのに高すぎるんだよ。
歩く速度とか、視界の高さとか、手の形とか、上半身の重さとか、下半身の軽さとか、風に靡く髪の感触とか。
そんな違和感を寝起きを理由に誤魔化していたんだ。
「ん?」
自分の異変に困惑していると、手に持っていた爺さんの手紙が光っていることに気づいた。