第3話 美少女ファーマーになりました 2025年12月9日 公開
第3話 美少女ファーマーになりました 2025年12月9日 公開
中身を確認すると先程は白紙だった紙に文字が書かれている。
静流へ――。
この手紙を読んでいるということは、やはり異世界に渡った際の静流の変化を自覚したようじゃな。
お前には記憶を改竄する魔法を使ったから覚えてはおらんじゃろうが、静流は異世界では女になってしまうんじゃ。
小さい頃のお前は自分が異性に変化したことを面白がっていたが、今はどうじゃろうか?
こっちのお前は見た目に恵まれておったからな。きっとべっぴんさんになっていることじゃろう。
もしも嫌だったとしたらすまない。
ワシの見たところ、日本に帰れば元に戻りはした。
気にするなとは言えんが、楽しんでおくれ。
……これは夢かな?
頬をつねってみたが、普通に痛かった。
そういえば夢だと気づいていない状況だと、夢の中でも痛覚があると聞いたことがある。
もしかしたら俺は寝ているのかもしれないな。
まあ、とりあえず夢疑惑は保留しておく。
周囲をぼんやりと眺めていると、鏡があることに気づいた。
それなりに大きな鏡で、人一人位なら収まる大きさだ。
「あー……まあ……」
鏡には女の子が映っていた。
困ったような、悟ったような、そんな微妙な顔をしている。
年齢は10歳くらいだろうか? もう少し幼いか?
太陽のような黄金色の艶やかな髪がお尻辺りまで伸びている。
また非常に整った、どちらかと言えばかわいい系の顔立ち。
瞳は緑色で、光を反射してエメラルドのようにキラキラと輝いている。
肌は白く、きめ細かいながらも健康的な部分を残し、身体の線は細く、けれどしっかりとしたラインがある。
身長も以前よりずっと低いし……なんというのか、可憐な美少女というのがピッタリくる容姿。
少なくとも、街中をこんな子が歩いていたら思わず振り返る程度には美少女だった。
「子供の頃はこういう彼女、欲しかったなぁ……いや幼過ぎるか」
女の子特有の高い……透き通る声が喉を外に漏れる。
小さい頃は大人になれば恋人が自然に出来て、当然のように結婚するんだと思っていた。
しかし、実際は会社でも事務的な会話ばかり。
残念ながら俺に彼女が出来る未来を想像することができない。
一生独身だと思う。35歳だったしねー……縁が不思議となく、経験人数も0だ。
なんかぼんやりと誰かと結婚の約束したような気もするのだけど妄想だろう。
それはともかく、爺さんの言葉通り、べっぴんさん……かわいいと思う。
見た目外国人っぽいのに親しみのある顔立ちだ。
日本人の好みそうな……俺の好きなアニメとかで出てきそう。
服装は作業用の長袖にオーバーオールだ。
うん、カウガールって感じ。
「……」
ちょっとした好奇心から、手が下半身に向かう。
「ない!」
やっぱりなかった。
異様な軽さからわかってはいたんだけどさ。
困ったような笑みを浮かべる鏡の中の少女から視線を外すと、棚の上に写真立てがあることに気づいた。
「……写真?」
そこには爺さんと金髪緑眼の少女、その隣に真っ赤な髪をした少女が映っている。
金髪少女は笑顔いっぱいで楽しそう……大人になった俺からすると、その笑顔が眩しい。
小さい頃の自分を想像して、どうして今はこんななんだ……とセンチメンタルな気分になってしまう。
後ろには……なんだろ? たくさんの人間じゃない生き物らしいのがいるのだけど掠れて輪郭しかわかんない。
「なんか覚えがあるような気がするんだけど……」
記憶にモヤが掛かっていて鮮明には思い出せない。
爺さん曰く、魔法で記憶を改竄されているらしいし、そういうものなのかもしれない。
少なくとも、これが夢ならばそういう設定で進むはず。
なんて思っていると、ゴンゴンと少し離れた所から音が聞こえてきた。
なんだ?
家屋から出て音のする方に向かう。地味に遠くて少しばかり丘を越えねばいけない。
するとそこには何か……ボロボロの柵っぽい切れ目、入口の残骸辺りで小太りの男性……外国人っぽい人がいた。
その男性は、なんて言うんだろうか?
海外の教会……神父なんて呼ばれている様な人が着る、ぶかぶかな服を着ていた。
「……」
俺に気付いたのか、外国人の男性はこちらを見て止まった。
気持ちはわかる。
爺さんの言う、異世界の感性はわからないが、日本と同じ感性であれば、かなりの美少女だ。
見た時に一瞬思考が止まるのは自然だと思う。
「おお! やはり居ましたか!」
やがて、男性はすぐにそんなことを言った。
普通に日本語を喋っている? いや、違う……何を言っているのか俺が分かっているんだ。
そう思いながら社会に出てから培った経験を元に近寄る。
「どうもどうも、こんにちは」
若干棒読みになってしまった様な気がするけどしょうがない。俺も日本語じゃない言葉で何か話してる! 不思議体験だぞこれ!
「こんにちは。御丁寧にどうも」
相手も普通に反応してくれた。
……挨拶が終わったら謎の沈黙が辺りを支配する。
「えー……まずは自己紹介からにしましょう。私はルーク・シュタイン。ここから少しばかり離れた所にあるマリーヌ村で神官と村長を兼業していている者です」
神官って怪しげな宗教臭がするんですけど異世界だもんな。
まあ着ている服的にそんな感じだけどさ。
「自分は星谷静流と申します。サラリーマンをしています」
本当はSEだが、一般の人にはこう言った方がわかりやすいんだ。
システムエンジニアなんて言っても興味を持たれないだろうしな。