第4話 スタァ地方の聖地 2025年12月9日 公開
第4話 スタァ地方の聖地 2025年12月9日 公開
「ホシタニ・シズルさんですね。サラリーマンというのは判断できかねますがよろしくお願いします」
「はい、静流が名前です」
発音が少し違ったし、一応補足しておく。
「ああ、そうでしたか。シズルさん」
「はい」
爺さん曰く、異世界なんだっけ?
異世界の人との会話で俺は激しく動揺している。
爺さんの言葉なので暫定的に信じるとしても、異世界の人が俺に何を言いたいんだ?
「えっと……昨夜聖地の方で大きな光が見えたとの証言があり、この聖地の所有者が現れたのではと……確認のために私が遣わされたのです」
「はあ……」
ピンとこない俺に対してルークさんは小首を傾げている。
聖地の所持者とか、よくわからない。
「もしかして事情を把握しておられない?」
「ええ、申し訳ありません。なにぶん、気がついたらこんな場所にいまして」
ハッキリ言って、そこが一番重要だ。
「それは……大変な状況ですね。ですがシズルさん、貴方は聖地に選ばれた方なのは揺るがない事実なのでしょう」
なんか勝手に納得されてしまった。
「その聖地とは?」
「今、シズルさんがいらっしゃる場所が聖地です」
「ここが、ですか?」
人が居なくなって荒れた田舎の民家って感じだが……爺さんの遺産らしい土地だ。
そんな俺の感想とは違い、ルークさんははっきりと頷いた。
「はい。この辺りでは聖地と呼ばれていて、楽園だと伝えられています」
楽園……まあ田舎暮らしの飢えた都会の人ならそう思うかもしれない。
空は青いし、緑も溢れている。
それこそ写真で眺める田園風景とか、普通に見れそうな感じ。
「そして、聖地には選ばれた者の以外が中に入ることはできないそうです。私は産まれてからずっとこの辺りで暮らしておりますが、聖地に入れた者を見たことがありません」
ルークさんはそう言って何もない空間でパントマイムを始めた。
硝子に手を押し当てたみたいな感じだ。
そしてルークさんが腰に掛けた物を見てギョッとする。
なんとルークさんは丸い金属の玉の付いた棒……鈍器を手に取っていたからだ。
ルークさんは鈍器で何もない空間に軽く振るう。
するとゴンゴンと先ほどした音が、そこから鳴り響いた。
まるで壁を叩くかのように。
もしかして透明な壁でもあるのかな?
そう思ってルークさんが押し当てた辺りに手をかざすと……なんかブヨンとした幕みたいな物を通り抜ける感触があった。
「うわっ! 気持ち悪!?」
「やはりシズルさんは出入りが可能なようですね」
俺の態度を見てルークさんは何やら頷いている。
どうやら何かわかったことがあるらしい。
「これは一体……」
「えー、色々と混乱していらっしゃる状況でしょうが聞いてください」
「わかりました」
はっきり言って、この壁は異常だ。
事情を知っていそうな人の話を聞く方が良いだろう。
「この結界の出入りがシズルさんがその地の持ち主である何よりの証となります」
「いやいや……結界って……」
「文字通りその地を守っているのでしょう。魔物も入れません」
ルークさんは説明を放棄してしまっている。
いや、空気って何? って感じの質問の様な答え方だったぞ。
そんなに当たり前の単語じゃないだろう。結界。
「というか、魔物ってなんですか?」
凄く不吉なワード。
ゲームとかだと敵として出て来る連中の総称だったと思うけど。
「魔物を御存じない……シズルさんがいらっしゃった場所は平和な場所だったのでしょう」
平和な場所だったが、ブラックな社会だった。
親戚は遺産相続で揉めていたし、魔物よりも怖いのは人間だと思う。
多分、爺さんも同じ結論に至ったから俺にあんな手紙を残したんだろうしな。
コホンとルークさんは軽く咳をしてから説明を続ける。
「経典にあります。魔物を知らない者への説明方法が……魔物とは人以外の生き物の総称です」
あー……なんとなくわかった。
まあ俺も社会人になるまでそれなりにゲームやマンガに親しんできたからな。
というか、今の日本に生まれてそれらの物に触れたことがない奴の方が珍しいだろう。
「アレも魔物ですよ」
そう言って先ほどからチチチと鳴いている鳥だと思った生き物をルークさんが指差す。
そこには、尾っぽがトカゲっぽい雀に似た小鳥がいた。
なんだアレ? 見たこともない生き物だぞ。
「アレはメーズと呼ばれる害のない魔物です」
「そうなんですか……」
「魔物とは駆逐することのできないという特徴を持ち、魔物がリポップする地域では如何に魔物と共存を図るかが生活に関わっております」
「え? リポップ!? それってあのリポップですか? 再出現するの?」
オンラインゲームのフィールドで出て来る魔物みたいな設定だ。
なんだそれ。
というか、どういう原理で生き物が再出現するんだ?
「はい。他に知りたいことはあるでしょうか?」
「えー、じゃあ簡潔に……ここは一体どこで、俺はどうなっているかわかりますか?」
「ここはスタァ地方、過去に異界からやってきた者が開拓した伝説の地と言われる場所ですね」
「あ、そうなんですか」
「そしてシズルさんは、そのスタァ地方の何者も入ることができなかった聖地に姿を現した。伝承の方です」
つまり俺がここにいることが所有者の証らしい。
過去に異界からやってきた者……爺さんなのかね?
話の流れ的にそうだとしてもおかしくないんだが、どうなんだろうか?
「あの……日本という言葉に心当たりは?」
「はて? それはシズル様の故郷でしょうか? この世界でも異世界からの来訪者という者がいらっしゃるというのは聞いたことがあります。詳しくは村に来ていただいて話しましょう」
なんて感じに俺は質問を繰り返して話を進め、ルークさんの勧めで結界の外に出て村の方へと向かった。