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レイワイト王国のパンナ嬢

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レイワイト王国のパンナ嬢

ごきげんよう。

私 ( わたくし ) はレイワイト王国、シルバーシルク伯爵家の長女、パンナコア。

パンナコア=シルバーシルク。

今年で十五になります。

どうぞ、親しみを込めてパンナとお呼びください。

さて、私はいま……混乱しています。

ええ、混乱しているのです。

なぜ?

どうして?

私はなにをしているのでしょうか?

レイワイト王国には三つの王家があります。

この三つの王家から、それぞれ王を出します。

なので、レイワイト王国には三人の王がいることになります。

少しややこしいのですが、私が生まれる前からそういう 体制 ( システム ) なので文句を言っても仕方がありません。

三人の王には、それぞれ王子がいます。

私と同じぐらいか、少し下の年齢の王子たち。

その王子たちには、すでに婚約者が定められております。

まだ結婚していないだけの婚約者が。

つまり、ほぼ本決まりの相手ですね。

ひっくり返ることはないでしょう。

それゆえ、私を含めたレイワイト王国の貴族の娘は悔しさに歯を噛みしめて……などということはなく、喜んで第二夫人、第三夫人の立場を狙って暗躍していました。

正妻……第一夫人なんて、面倒なだけ。

第二夫人、第三夫人が理想。

ええ、理想です。

十代で一人、二十代でもう一人産めば、安泰。

あとの人生は王家のお金で自由三昧の生活ですよ。

しかも王家の縁者として、貴族のプライドも満たされます。

貴族の娘として生まれたからには、誰もが狙う立場でしょう。

愛?

愛なんて、一緒に過ごしていれば勝手に生えるものです。

細かいことを気にしていては、やっていけません。

そう言う私も、もちろん、王子の第二夫人、第三夫人の立場を狙う一人です。

そんなある日。

事件が起きました。

王子たちが、コーリン教の客人であるアルフレートさまと揉めたそうです。

それだけなら気にもしないのですが、王子たちに廃嫡の噂が出ました。

私たちはパニックです。

ですが冷静に、そう冷静に対処しなければいけません。

とりあえずは、焦らずに様子見。

これは 日和見 ( ひよりみ ) ではありません。

待って耐えるのは、貴族として大事なことなのです。

新しい情報が来るまで待機です。

…………

少し長引きましたが、王子たちはアルフレートさまと和解。

廃嫡は見送りとなったようです。

よかったよかった。

なにも変化はないようです。

そう思っていたのですが……

私たちにとって、事件は続いていました。

なんと、王子たちに下級貴族の娘が近づいているではありませんか。

それも三人も!

急接近ですよ。

これまで、私たちのお茶会にも参加できない。

参加しても隅で静かにしていることしかできなかった、あの娘たちが。

王子たちと!

楽しそうに会話を!

ふふっ。

ふふふふふふっ。

やってくれましたね。

感心します。

いえいえ、本心です。

本心から感心しているのです。

彼女たちは動いた。

私は動かなかった。

その差でしょう。

納得できます。

できますが、許しません。

それとこれとは、話が別です。

ええ、別なのです。

私を含め、上級貴族の娘が王子たちの第二夫人、第三夫人になろうとどれだけの調整と暗闘を繰り返してきたか。

王子たちを狙っているわけじゃない?

アルフレートさま狙い?

ならば、そういった態度を見せるべきでしょう。

なぜ、王子たちと一緒にいるのです?

私は、彼女たちがアルフレートさまと一緒にいるところを見ておりません。

……

ですが、弁明をまったく聞かないというのも、よろしくありませんね。

まだ話し合いの余地がある……はずです。

それすら拒絶するというなら、私の家の力を使って……というほど、私の家の力は強くないのです。

私の家はレイワイト王国では有数の伯爵家なのですが、いろいろあるのです。

ええ、いろいろと。

恥ずかしい話なのですが、ここ十年ほど領地の特産品がなぜかまるっきり売れず、在庫を抱えながら借金を繰り返すという財政状況になっておりました。

私が王子たちの第二夫人、第三夫人の立場を狙っていたのも、家を少しでも楽にしたいという気持ちがあったからです。

しかし、それも過去の話。

私の家の財政状況は一気に改善しました。

なんでも、私の家の特産品が売れなかったのは、大きな商会が売買を妨害していたからだそうです。

気づきませんでした。

ですが、その大きな商会の上層部は総入れ替えになったらしく、妨害もなくなりました。

もちろん、だからと言って特産品がすぐに売れることはありません。

私の家の特産品であるレース生地は、職人が手間暇をかけたどこに出しても恥ずかしくない最高級品。

それゆえに高い値で取り扱われ、販売がむずかしいのです。

ですが、そこにアルフレートさまです。

アルフレートさまは私の家のレース生地をとても気に入り、すべて購入してくれました。

すべてです。

いくつもの倉庫に、積み上げられたレース生地をすべて。

しかも、ほぼ即金で。

金貨を積み上げられました。

私の家を 憐 ( あわ ) れまれたのかとも考えましたが、そうではありませんでした。

アルフレートさまにはレース生地を販売するあてがあるらしく、コーリン教が強く関わるマルデ商会の大型商船に積み込んでいたそうです。

つまり商売で。

お互いに利益がある取引。

そうして、私の家は力を取り戻しつつあります。

まだ戻っていません。

各地の借金を返済しているのですが、急な返済は困るとゴネる相手がいるようで。

貸したお金を返されるより、私の家にお金を貸している状態のほうが望ましいということですね。

理解はできますが、利息込みで返すと言っているのに受け取らないのはどうかと思いますが。

まあ、そのあたりの交渉はお父さまに頑張っていただくとして……

なんにせよ、アルフレートさまには感謝しかありません。

アルフレートさまは、私の家の救世主です。

そんなアルフレートさまを狙っていると主張する下級貴族の娘たち……

アルフレートさまの財力を考えれば、それに目が 眩 ( くら ) むこともありますか。

……

私はアルフレートさまに恩があります。

不届き者を近づけるわけにはまいりません。

下級貴族の娘たちから、弁明を……いえ、話をしっかりと聞くとしましょう。

私は侍女を連れ、下級貴族の娘たちがいると聞いている場所に向かいました。

パンドーロの館。

別名、資料館。

レイワイト王国が持つ大量の文献を保管し、管理することを目的として建てられた館です。

場所が王城の近くということもあって、館には大小いくつもの会議室が併設されており、いろいろな人が利用しています。

下級貴族の娘たちは、資料館の会議室の一つに集まっていると聞いています。

私はその館の入口に到着したのですが……

想像よりも館が広かったので、近くにいた職員に声をかけました。

すると職員は慣れたように私と侍女を案内してくれます。

話が早くてありがたいのですが、おかしいですわね?

私、「あの……」としか言ってないのですが?

そして、案内されたのは一つの扉の前。

職員はそこに私たちを置いて、仕事に戻りました。

案内するなら最後までと言いたいのですが……

まあ、いいですわ。

ここに下級貴族の娘たちが……あれ?

扉に張られた薄い板に、なにか書かれていますね。

《入室者へ。

これより先、沈黙を命ず。

従者やそれに類する者も同じ。

ただし、主の危機を回避するために声を発することは許可する》

えーっと、静かにしろということですよね。

それはわかるのですが……

板の隅に記された文の責任者に、レイワイト王国の三人の王の名があるのはなぜでしょう?

これは王命ですか?

……

とりあえず、ここで待っていてもなにも起こりません。

部屋に入りましょう。

私は侍女に目配せをし、扉を開けてもらいます。

本来ならノックが必要なのですが、扉には《ノック不要》の札がありますので、ノックをしなくても無礼と言われることはないでしょう。

部屋に入ると……部屋ではなく、廊下でした。

左右に扉がたくさんある長い廊下。

それと、立て看板が一つ。

《百頭の羊。

八十七頭が逃げた。

残りの数の部屋に行け》

?

なんでしょう、この問は?

私が困っていると、侍女が近くの扉を指さしました。

そこには《一の部屋》と書かれています。

その隣は《二の部屋》ですか。

なるほど。

では、奥に向かいましょう。

《十三の部屋》の部屋に到着しました。

なかには誰もいません。

ですが、新たな問がありました。

《入口より来た者へ。

十三頭の羊。

新たに買って四十四頭。

買った数の部屋に行け》

あと……

《どこかの部屋から来た者へ。

廊下の最奥の扉に進め》

とあります。

間違ってこの部屋に入った人は、最奥の扉から帰させるということでしょうか?

まあ、この程度の問に私は間違えたりはしません。

計算は得意なのです。

節約生活が厳しかったので。

私は次々と問を解いて先に進みます。

問は計算だけではありませんでした。

文法の問や、法に関する問、商売のルールに関しての問なども。

なるほど。

侍女にも沈黙を求めたのは、相談させないためですね。

おっと、今度は謎解きですか。

ふふふ。

ちょっと楽しくなってきました。

全部で十五問ほどでしたか。

《最後の問》の答えである、《二の部屋》に行きます。

そこに下級貴族の娘たちが……

いました!

やった、いた!

なにやら三人は書類仕事をしているようで、顔をこちらに向けませんが……いてくれました!

つまり、ここが問のゴールですね。

達成感で満たされます。

あ、いけないいけない。

目的を忘れては……

そう思った私の左右に……あれ?

王子?

王子たち?

あの?

完璧な礼儀作法で、私をどこにエスコートされるので?

ここに座れと?

え?

あの、私の前に積み上げられた書類の山はなんでしょう?

「あの問を乗り越え、ここまで来れたのだから計算は完璧!」

「文章の理解力も万全!」

「あらゆる事態に臨機応変に対処できる!」

三人の王子は、声を揃えて言いました。

「「「頼む! 手伝ってくれ!」」」

え?

………………え?

確定申告はなんとか。