大ラナノーン
大ラナノーン
私の名はラナノーン。
ふふふ、私に挑んだ者にしか教えないのだが、自分で 呟 ( つぶや ) くのは許される。
……
いや、自分のことながら面倒な縛りを課したものだ。
コミュニケーションがまともにとれん。
名乗らん者を、どうやって信用しろというのだ。
まったく。
昔の自分を殴る……のは痛いな。
叱ってやりたい。
おっと、話が逸れたな。
改めて。
私は神代竜族のラナノーン。
竜王ギグラントの妻だ。
そこらのドラゴンと一緒にするのではないぞ。
私は希少な神竜型のドラゴンでな。
口の悪い者は蛇に手足が生えたとか言うが、由緒ある型のドラゴンなのだ。
……
まあ、神代竜族はすべて由緒があるのだけどな。
さて。
神代竜族の寿命は永遠だ。
なれど、死はある。
肉体の衰えで死なんだけで、精神……活力の低下による死だ。
眠る時間が長くなり、最後は肉体が石のようになって死ぬ。
私にも死が近づいていた。
長き時間をかけて眠りながら死に至る。
怖くはない。
先に亡くなった私の夫が待っているのだからな。
ただ、現世との別れを寂しく思う。
それだけだ。
そう思って眠りについていたのに、いきなり叩き起こされた。
なんだ?
なにが起きた?
駄目だ。
瞼 ( まぶた ) が開かん。
瞼が石になっている。
ただ、 ドラゴン ( 私 ) の肉体と精神が無理やりに起こされているのはわかる。
石になった私になにをしたのだ?
ええい、情報が足りん!
気合で瞼を開く!
……暗い。
そういえば、私は光が届かぬ深い洞窟の奥で寝たのだった。
あ、慌てるな。
私は神代竜族。
集中すれば、夜の闇ぐらい見通せる。
……
ぽつぽつと小さい灯りと、その近くで動くもの。
小さき者か?
くっ、焦点が合わん。
あ、いや、これは老眼ではないぞ。
寝起きだからだ。
お、落ち着け、落ち着くんだ。
緑とかを見ればいいとか聞いた覚えがあるけど……あれは遠くを見るときだったかな。
なんにせよ光が届かない洞窟に緑はない。
そ、それがどうした。
私には溢れんばかりの魔力がある!
魔力で視力を強化だ!
よし、見える!
見えるぞ!
ええっと、小さき者が……私の鼻の上に乗っている?
無礼な!
でもって、その小さき者が私の目に……
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
目がぁっ!
目がぁぁぁっ!
小さき者が、私の目になにかを 塗 ( ぬ ) り込んだ!
いや、 捻 ( ね ) じ込んだ!
なんだこやつ!
悪魔族か!
悪魔族が復讐に来たのか!
古いことを根に持ちおって!
だから嫌われるのだぞ!
んー……
なんだ?
視界が妙にはっきりしてきた。
痛みも消えた。
ぬっ。
目の前にいる小さき者は、悪魔族ではなく人か。
そして、私の目に捻じ込んだものは……
なにかを 煎 ( せん ) じたもの?
だが、その魔力……まさか、世界樹の葉?
しかも、その手にある量。
何十枚も使ったな!
神代竜族の私でなければ変質するぞ!
き、危険な使い方をしおって。
しかし、何者だ?
世界樹の葉は厳重に管理されて、簡単に持ち出せるものではないはず。
それを何十枚も使えるとは……
私の力が必要になったということか?
寝ている私を起こしてまで?
ほかの神代竜族はなにをしているのだ?
まさか、滅んだのか?
人がなにか叫んでいるが……
聞こえん。
耳が詰まっている。
ちょっと待て。
魔力で……よし、耳の詰まりがとれた。
よし、聞こえる。
ならば聞こうではないか。
私になにを望むのだ!
「体をちょっと横にずらして!」
……
すまない、もう一度、頼む。
「貴女の体が街の水源を塞いでいるの!
体を横にずらして!」
………………
えっと、こうか?
石になっていたから、なかなか動かないが……
あれ?
私、寝るときはもう少し丸まって寝てたと思うけど、こんなに 寝相 ( ねぞう ) って悪かったっけ?
とりあえず、なんとか体を横にずらした。
すると、地面から水が溢れだしてきた。
小さき者たちが喜んでおる。
あー、ひょっとして私の寝相で迷惑をかけてた?
すまない。
しかし、寝るときに水源など近くになかったように思うが?
長い年月で、変化したのだろうか?
そのあたりを教えてもらえると……ちょっと待てぇっ!
なに、用事は済んだって感じで帰ろうとしている。
無理やり起こされた私はどうなる?
おやすみって、こっちは完全に目が覚めたわっ!
ぐぬぬ。
私が寝てから、どれぐらい経過したのだ。
世界はどうなっている?
もう少し、情報。
情報を寄越せっ!
ん?
私の名?
知りたくば挑め!
……待って。
いきなり殴りかかってくるのはどうかと思う。
たしかに、こっちから挑めと言ったけど。
私、起きたて。
寝起き。
だから、まだ満足に動けないの。
そこに殴りかかってくるのは違うんじゃないかな?
ほら、もう少しあると思うんだ。
やりとりが。
横着はよくないと思うぞ。
面倒くさそうな顔をするんじゃない!
話し合い。
話し合いは大事。
挑めと言ったの私だけど。
あと、もう少しドラゴンを 敬 ( うやま ) え。
神代竜族は、人が普通に話せる存在ではないぞ。
……
親が神代竜族?
嘘を言うんじゃない。
あー、育ての親ね。
それならありえるか。
そのドラゴンの名は?
ハクレン?
知らぬ名だな。
だが……名から感じる力は……
ひょっとして、ライメイレンの娘か?
おおっ!
ライメイレンは私の孫だ。
そうかそうか。
……ん、ちょっと待て。
ライメイレンに娘がいるということは……ライメイレンの相手はドースの坊やか。
ライメイレンがやたらと執着しておったからな。
え?
ドースの坊やが今の竜王?
あの坊やが。
おっと、不安に思っているわけではないぞ。
ドースの坊やは真面目だから、しっかりとやっているはず。
怠 ( なま ) けていたら、ライメイレンが尻を叩くだろうしな。
ハクレンにはお前以外にも子がいる?
育ての親としてか?
あ、産んだ子ね。
ヒイチロウに、ヒカルにヒミコか。
ふむ。
子が多いのは、いいことだ。
ラナノーン?
ほう。
ほうほう。
よい名ではないか。
そうかそうか。
それもハクレンの娘か?
ラスティスムーンの娘?
ドースとライメイレンの息子ドライムの娘がラスティスムーンね。
なるほど。
うむ。
これは会いに行って祝福せねばならんな。
どこにいるか、知っておるな。
案内を所望する。
ん?
私の名?
さっき、挑んだのだから教えろ?
挑むってそういうものじゃ……
わかったわかった。
では、耳を澄まして聞くがよい。
私の名はラナノーン。
神代竜族のラナノーンだ。
よい名であろう。
そちらの名は?
ウルザか。
そちらも、よい名ではないか。
では、案内を頼む。
なに報酬は払おう。
……
あれ?
寝るときに集めた私の宝はどこにいった?
ない?
奪われた?
い、いや、よくよく周囲を見れば、寝た場所と違う?
あれー、寝相で変な場所に移動したのかな?
なんにせよ、ウルザに渡す報酬がない。
ライメイレンやドースの坊やを頼るのは抵抗があるな。
案内の報酬は仕事を手伝え?
神代竜族になにを言うか。
神代竜族は半神。
半分、神だぞ。
もっと敬ってだな……
ダイコンを育てている神代竜族がいる?
は?
え?
畑仕事?
神代竜族が?
わ、私が寝ているあいだに、神代竜族になにがあったのだ?