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山エルフの荷車

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山エルフの荷車

荷車 ( にぐるま ) 。

人や馬で引く車輪がついた台だ。

車輪は二輪のものもあれば、四輪のものもある。

二輪は小回りが利き、四輪は重量を運べる。

五村では坂道が多いからか、二輪タイプをよく見かける。

その荷車を、山エルフたちが作った。

もちろん、普通の荷車ではない。

なんと、人や馬が引く必要がない。

特殊な宝石に向かって自動で移動する四輪タイプの荷車だ。

その特殊な宝石をベルトなどに仕込めば、ベルトを装着した者を追尾してくれる。

すごく有用だ。

まさか山エルフたちが急にこんな便利なものを作るなんて。

驚いてしまっては失礼だけど、びっくりした。

なにがあった?

多目的人型機動重機 ( アーティ・ホース ) の研究や、内燃機関の研究で貴重な素材や予算を使いまくっていたから、文官娘衆たちからの視線が痛かったと。

まあ、ああいうのは研究を続けるというか積み重ねることが大事で、儲けはあと回しだからな。

「さすが村長!

理解がある!」

だからと言って、まるっきり儲けというか成果がないのも困るけど。

「うう……そうなんですよねぇ」

……

「あの?

なにか?」

君たち山エルフは、文官娘衆の視線ぐらいでやりたいことを止めたりはしないだろ。

酒がからんだときのドワーフと一緒だ。

なにがあったんだ?

「あはは。

実は……」

爆発事故をやった?

そういえばそんな報告が前にあったな。

被害はなかったとあったけど?

「人的被害はありませんが、貴重な素材をふっ飛ばしてしまいまして。

文官娘衆に頼まねば、補充が……」

なるほど。

「 贖罪 ( ごめんなさい ) も兼ねています」

それで、簡単に売れそうな物をということで、今回の荷車か。

「開発にはルーさんやティアさんも協力してくれまして」

ひょっとして、二人も文官娘衆からの視線を気にしたのかな?

違うな。

二人も文官娘衆の視線を気にしたりはしない。

「爆発事故にお二方も関わっております」

……

とりあえず、荷台本体の製作は山エルフ。

魔法的な部分をルーとティアが。

実動実験にリザードマンたちが手伝ってくれたらしい。

「リザードマンさんたちの尻尾を 轢 ( ひ ) くトラブルや、急に止まったときの追突トラブルの回避に苦労したとルーさんとティアさんが」

あー、自動追尾だとそのあたりを考えないといけないか。

「はい。

追尾目標の宝石から大人が両手を伸ばしたぐらいの距離を維持するようにしています」

ふむ。

「ちなみに、そうしたことで目標の宝石を装着している人が荷車に近づけないという面白いトラブルもありまして」

ははは。

それで、追尾のオンオフ機能も追加されたと。

「はい。

あとは坂を検知したり、道幅を検知したり、障害物を検知したりして、通れない場合にどうするかなど。

かなり苦労しました」

試作品の数をみると、そうみたいだな。

例えば坂道になるたびに出力を変えたりしないと、安定して移動できない。

登り、下りを考えると、ギアを使う必要もあるか。

「自重で勝手に移動したりしても困りますからね。

その場で動かないようにするのが難しかったです」

ふむ。

ん?

車輪じゃなく、脚のものもあるみたいだな。

「山道での自走を考えるとザブトンさんのような多脚はどうだろうと」

なるほど。

でも、前に多脚型のゴーレムを作って……

「不幸な事故がありましたね」

そうだったな。

「それを思い出し、試作品で終わりました。

多目的人型機動重機で学んだ技術を盛りに盛ったので、量産というか生産が厳しいです」

それは残念だな。

「はい、残念です。

あと、こっちは浮いていれば障害物は気にしなくていいのではと」

小型の浮遊庭園を自動で移動できるようにしたタイプか。

「これが最高の形だろうとなったのですが……

生産がほぼルーさんの手作業になりますし、素材収集の難しさから製造費がすごいことになって販売向きではありません」

そうなるか。

「安定した生産と販売を考え、車輪タイプが主力となりました」

山エルフたちがそう結論を出したのか?

「いえ、文官娘衆の方々を中心とした意見です」

だろうな。

山エルフたちだと、浮遊タイプか多脚タイプで進める。

「ルーさんもティアさんも、悔しそうでした」

あー、うん。

そうだろうな。

で、これを俺にお披露目したということは量産体制のための根回し?

五村でやるの?

「いえ、量産体制はまだ早いです。

まだまだ試験がありますので」

それじゃあ?

「そろそろ必要じゃないかとの意見がでまして」

必要?

「命名をお願いします」

……俺にとって、もっとも困難な仕事だ。

山エルフたちの荷車は、追尾荷車と命名された。

面白味がないのは自覚している。

しかし、まあ、その、なんだ。

変わった名前をつければいいというものではない。

わかりやすいのが一番。

追尾荷車は、量産と低価格化を目指した改良が続けられる。

自動で動くので、あらゆることを想定しないといけない。

運用に関してのマニュアル作りも並行して行なわれた。

大樹の村で運用してみたところ、収穫物の運搬にとても便利だと好評。

積み下ろしも自動でやってくれないかなぁと文官娘衆たちが言ったので検討されたが、高価格になると断念。

ただ、専用の荷下ろし場を作り、そこに追尾荷車を停車させることで荷物の積み下ろしを自動で行なう仕組みを作った。

まあ、その荷下ろし場に降ろした荷物は荷物で運ばないといけないけど。

「荷下ろし場と倉庫を一体化させたら……」

「倉庫内での荷物の移動も自動化で」

「どこにどう荷物を置くかの判断はどのようにしましょう?」

「荷物を運び込んだ日とかの記録がいりますよね?」

山エルフたちが、物流に革命を起こしそうな雰囲気を出しているが大丈夫だろうか?

追尾荷車を量産したときの混線対策として、追尾用の特殊な宝石にはナンバーが振られる。

ルーとティアは四桁でと考えていたが、俺は十二桁にしたほうがいいとアドバイスをしておいた。

使わないとしても、余裕があるほうが絶対にいいから。

追尾用の特殊な宝石を仕込んだベルトを着けた先導者と追尾荷車の移動速度の差から、追尾荷車が遅れる可能性がある。

どれだけ離れたら追いかけなくなるかの実験が行なわれた。

俺の感覚で、障害物がなければだいたい百メートルほど。

障害物があると……障害物にもよるけど三十メートルぐらいかな。

ハイエルフがその実験と結果を見て、森などでの遭難者を探すときに使えるんじゃないかと意見。

遭難者が追尾用の特殊な宝石を持っていれば、三十メートルほど近づけばいるのがわかると。

なるほど。

まあ、全員に持たせるわけにはいかないけど、危険な場所に行く冒険者とかに持ってもらうのは悪くないかもしれない。

五村から依頼したときとか。

検討しておこう。

追尾荷車に追尾用の特殊な宝石が仕込まれたベルトを装着し、何台も連結して移動することも可能と判明。

子供でも追尾荷車を使えることから、大量生産の期待が増えた。

山エルフたちが少し困った顔をしていた。

ゴロウン商会のマイケルさんが運用実験中の追尾荷車を見たあと、そのまま文官娘衆のところに行って発注をした。

千台も発注してくれるのは助かるけど、値段を聞かないのは大丈夫なのだろうか?

え?

年内に千台?

来年はさらに追加する?

えーっと……量産体制、頑張らないと駄目かな?

ルーやティアに、必要な素材の詳細を聞いておこう。

感想、いいね、ありがとうございます。

誤字脱字指摘、助かっています。

これからも、よろしくお願いします。