ヤメは村長を驚かせたい
ヤメは村長を驚かせたい
あーしの名はヤメ。
最近、島での生活が充実している。
嬉しい。
村長は村での収穫作業があるので、最近は島に来ていない。
連日来ていただけに、ちょっと寂しい。
まあ、収穫作業が終われば、また来るだろうけど。
島に残っているのはあーしと、ハイエルフが五人、天使族が五人、リザードマンが十人。
拠点の宿に泊れる数。
あーしも収穫作業を手伝うと言ったのだけど、島の鳥たちの世話があるだろうと遠慮されてしまった。
鳥たちは放置してもなんとかなると思うけど、たしかに心配は心配。
卵から 孵 ( かえ ) ったばかりの雛たちもいるしね。
あーしが島に残るので、ハイエルフや天使族やリザードマンたちに残るように村長は言ったのかな。
巻き込んでごめん。
水 中用多目的人型機動重 ( アーティ・ホース・アクア ) 機を操るユーリは残ると言ったけど、周囲から反対されて戻った。
不満いっぱいだったけどね。
なんだかんだ言っても魔王の娘。
やることがあるのだろう。
なんにせよ、島に残っているあーしらは、島でいろいろとやっている。
村長からはできる範囲でいいからと言われているけど、それに甘えるわけにはいかない。
村長たちは村で収穫作業をしているわけだから、あーしらもちゃんと働かないとね。
海の種族たちは日帰りになるけど、あーしらを手伝いに来てくれる。
海の種族たちは海の種族たちで、なにかしらの利益を求めてだから遠慮なく手伝ってもらう。
今日は、海岸のお風呂の掃除を手伝ってもらった。
あそこ、露天だから油断するとすぐにゴミが溜まるんだよね。
お風呂は綺麗に。
海の種族の一部は、妙にそのお風呂を気に入ったりしてる。
綺麗に使用してくれるなら、問題はない。
シャワーも同じ。
島に食料は山のように運び込まれている。
数年放置されても大丈夫なぐらい。
まあ、腐ったりするから数年は言いすぎだけど、物を冷やす魔道具があるから一年は大丈夫じゃないかな。
問題は調理。
経験の差があるのはわかるけど、あーしがもっともできるのはなにかの間違いだと思いたい。
いや、調理は嫌いじゃないよ。
でも、あーしの知らない食材や調味料が多くて。
肉や魚を焼くシンプルな料理が中心になっちゃうよ。
あとは鍋かな。
鍋の作り方は、鬼人族のメイドが来てるときに聞いてるから簡単なのならできる。
簡単なの。
むずかしいのは無理だから。
むずかしいのは次に村長が来たときに、村長に言うように。
村長が来ない島で、あーしは考えた。
現状、あーしらが島から出る方法がない。
つまり、あーしのほうから大樹の村や五村に行く方法がない。
これはよろしくないのではないだろうか?
転移魔法が使える始祖さんやラナさんが来なくなったら、孤立する。
しかし、前と違っていまのあーしは、海の種族たちと友好的な関係を築けている。
船……いや、 筏 ( いかだ ) さえあれば、海の種族たちに引っ張って陸地に運んでもらえるんじゃないかな?
海の種族たちに聞いたら、運んでくれるとの話。
おおっ。
ならば、あとは筏!
あーしは、島にいるハイエルフ、天使族、リザードマンたちに相談した。
筏を作ろうと。
却下された。
理由はシンプル。
そういったのは村長が作りたがるから。
ないことであーしらの生活が危うくなるならともかく、そうじゃないなら急ぐ必要はないと。
なるほど。
言われると、その通り。
村長の楽しみを奪ってはいけない。
次に村長が来たときに、相談しよう。
おっと、海の種族たちにも、そうなったと言っておかないと。
先走って、海底に沈んでいた帆船とか持ってくるかもしれない。
ははは。
持ってきてた。
十人ぐらいが乗れる小型の帆船を。
未完成の港に。
海の種族たちは、船のあちこちについているフジツボを、ガリガリと削り取ってくれている。
船体は木製なのに、傷みは少ない。
帆はボロボロだけど。
船体だけ魔法で保護されていたのかな?
船体よりも帆を守るべきだと思うけど。
沈んだ原因は、嵐に遭遇したときに帆を畳み損ねたこと。
あー、そのときに帆を守る魔法を解除したのかな。
なんにせよ、帆船は盛大に転覆し沈没したらしい。
えーっと、中身は?
海の種族たちが救助したのね。
よかった。
この帆船をあーしらが使ったらいい?
帆さえ交換したら、自力でも動かせると。
あ、ありがとう。
全員、集合。
相談。
うん、帆船。
見たよね。
あれ、どうする?
隠す?
どこに?
どこに持っていくにせよ、帆がないから。
海の種族たちに頼むのは……向こうが善意で用意してくれたものを、隠すから手伝ってくれとは頼みにくい。
あーしらでなんとかしないと駄目。
なんとかはなんとか。
考えよう。
考えた。
村長に素直に言うことを。
あの帆船は、海の種族たちからの善意の贈り物。
村長は怒ったりはしない。
だから、素直に言っても問題ない。
問題はないけど、できるかぎり村長をがっかりさせてはいけない。
あーしらの考えは一致した。
しかし、そのためにはどうするか?
がっかりを 驚き ( サプライズ ) に変えてしまう。
どうやって?
あーしらは考えた。
あーしらは困った。
そして、あーしらは 捻 ( ひね ) りだした。
港近くの海岸を掘り、帆船を隠せる洞窟を作る。
隠し港から登場する帆船。
これなら村長は喜ぶのではないか。
あーしはよくわからないけど、隠し港というのがいいらしい。
ハイエルフの一人が深く頷いていた。
天使族の一人もわかると言ってた。
そういうことで、海岸を歩き、隠し港を建設する場所を選んだ。
そして掘る。
掘るといえば多目的人型機動重機。
島にある水中用多目的人型機動重機を使う方法も検討されたが、動かせる者がいなかった。
多目的人型機動重機は、安全のために魔力の保有量が多い者は扱えない。
安全装置が働き、動作しないのだ。
それゆえ、魔力の保有量が多い者は自身の魔力が外部に漏れるのを防ぎつつ、パイロットスーツを着て魔力を抑える。
そのパイロットスーツがない。
ユーリのものはユーリ専用にサイズ調整されているうえに、ユーリが持ち帰っている。
まあ、置いていく必要はないからね。
洗ったりしないといけないし。
使えない物のことを考えても仕方がない。
あーしらは島にある掘削道具や魔法で洞窟を掘った。
帆船が小型でよかった。
大型の帆船だったら、泣いてた。
でも、あーしらはやりとげた。
帆船が綺麗に隠れる洞窟を掘り、さらに港として使えるように道を作った。
隠し港だから、目立ってはいけない。
頑張って隠した。
海から見られてはいけない。
洞窟の進路上に岩山を作り、海から洞窟が見えないようにした。
そこに洞窟があると思って近づかないと、見つからないはず。
海に岩山を作るのは大変だったけど、やりとげた。
途中、海の種族たちの助けを借りたときは、素直に島の裏側に持っていってもらえばよかったのではないかと思わなくもない。
いや、海の種族たちに頼んだのは隠すことではなく、村長を驚かせることへの協力。
なので問題なし。
細かいことは考えない。
あーしらの目的は、村長をがっかりさせない。
村長を驚かせる。
それだけ。
隠し港が完成し、そこに小型の帆船を収納。
あとは帆さえ手に入れば、出航できるはず。
……隠し港は洞窟だから、風が吹かないよね?
どうやって帆船が出航するんだろ?
帆船を収納したときのように、海の種族たちに押したり引っ張ったりしてもらう?
あまりかっこいい出航じゃないなぁ。
村長を驚かせるために、出航は帆を広げたい。
そうなると、洞窟の奥に穴を空けて、風を通すのはどうかな?
風さえ通れば、魔法でなんとでもなる。
うん、いいと思う。
きっと村長は驚いてくれるだろう。
さて。
そう、さて。
冷静に隠し港に帆船が停泊しているのを見て、気づいたのだけど……
うん、いま気づいたの。
言っていいかな?
耳を塞がないで。
この隠し港って、村長が作りたそうなものじゃないかな?
あーしは、これまで一緒に頑張っていたハイエルフ、天使族、リザードマンたちに質問した。
彼ら彼女らは、なぜかあーしに目を合わせてくれなかった。
ハイエルフ「隠し港と帆船は、隠したままということで……」
天使族 「そうしたいけど、やめておきましょう。バレたときが怖いから」
村長 「驚きはするけど、怒ったりはしないぞ」