統一王の旅の思い出
統一王の旅の思い出
こんにちは。
俺はケイルランド地域連合王国の統一王。
積み重ねられる書類と見張りの文官だけが友だちさ。
えーっと、まず、薬ってすごい。
あの痛かった腕が動くようになった。
常用するのはよくないので、使えるのは十日に一回ぐらいだけどとても助かる。
でも、常用はよくない。
大事なことなので何度でも言う。
常用はよくない。
だから、常用しなくてすむように休憩は必要だと訴えたい。
頑張るから。
動けるときは頑張るから。
文官がしぶしぶ許してくれた休憩をとる。
体はなるべく楽な姿勢で動かさず。
つまり、仰向けで寝る。
手足に負担をかけない。
温かいお湯に浸したタオルを緩く絞り、目の上に乗せる。
あとは……リラックスできる音楽などがほしいが、わざわざ楽士を呼ぶのも悪い。
窓を開けてもらい、風の音でまったりする。
あー。
疲れた。
しんどい。
旅も大変だったが、ここまでではなかったなぁ。
行きの船旅はかなり怯えた。
なにせ、これまで船に乗ったのは川を渡るときぐらいだ。
大海を 帆 ( ほ ) で走る大船に乗るのは初めてだった。
とても怖かった。
だが、慣れた。
大船は陸が見えるか見えないかの位置を進み、数日に一度は港に停泊してくれたことがよかった。
同行者たちが恐れていた嵐にも遭遇しなかったしな。
そうして船旅を進めていると、ラーメンで足止めされることになった。
そうラーメンだ。
国の名は……なんだったかな。
王の名も……クラウ……クラッタン?
クラウデン?
そんな感じだったと思う。
よく覚えていない。
覚えているのはラーメン。
そうラーメンのことだけ。
あと、箸の使い方。
箸はティゼル嬢たちが使っていたし、箸を使って食べる料理にも触れていたのでそれほど苦労はなかったが……
ラーメン修業は厳しかった。
厳しかったのに、そこで覚えたラーメンは本物ではないと聞かされたときの衝撃。
幸いにして、本物のラーメンは俺が目的としている地、五村にあるとのことですごく運命を感じた。
ちなみに、俺の同行者たちはラーメン修業をせずに普通に観光していた。
なぜ俺だけなんだろう?
いや、俺に才能を感じたとか言われても……その、困る。
そして、俺はラーメンを求めて船旅を続け……
六竜神国の港に到着。
そこで船の補給を済ませたら、次は魔王国のシャシャートの街に向けて出港だと思っていたのに、船は俺たちを乗せずに出発した。
理由は、六竜神国に魔王国の関係者がいたから。
その魔王国の関係者は、俺の素性を知っていた。
俺の目的も。
捕らえられるのは避けたいと腰の剣の柄を握ったが、そういったことはなかった。
ティゼル嬢が手紙で魔王国に俺のことを伝えていたからだ。
考えてみれば、ケイルランド地域連合王国の王都の近くに巣を持つ混代竜族のザハーザハー殿が、六竜神国の関係者。
もともとそのザハーザハー殿に乗って六竜神国まで行く話があったけど、さすがに怖いので船にしたのだった。
ティゼル嬢の手紙が先回りできるのは当然か。
そして、俺の目的はラーメン……じゃなくて、魔王国の王である魔王ですら敬意を払う、ティゼル嬢の父親に会うこと。
俺に敵意はないが、魔王国からすれば俺は敵対勢力を構成する国の王。
魔王国が俺のことを気にするのも、これまた当然だろう。
俺としては、敵対意思がないことをしっかりと伝えたい。
そう思って魔王国の関係者の案内に従ったのだが……
魔王国の王都で魔王と会うことは想定外。
ティゼル嬢の父親にこっそり会って、こっそり帰るつもりだったんだけどな。
それは駄目か?
魔王国としては、人間の国の王の一人である俺を見極めたいということか?
ふっ。
小国なれど俺は王。
存分に見極めてもらおうではないか。
……
ところで、謁見の間じゃないのは無礼だとか、そういうことは言わないが……
その、なぜ広場?
魔王も……えっと、 縦縞 ( たてじま ) の服装で、魔王でいいのかな?
いや、魔王だと自己紹介してもらったけど。
想像していた格好じゃなかったから。
ああ、うん。
俺も似たような服装だ。
これは、魔王国が用意した服。
旅の装いでは失礼かと、素直に着替えた。
俺のには縦縞はなく無地。
魔王の縦縞を見てからだと、俺のはちょっと寂しい。
ま、まあ、いいか。
うん、服装はいい。
それで、俺はここでどうすればいいんだ?
魔王国の礼儀は詳しくないが、広場で話し合いということはないだろう?
まずは準備運動?
体を温めるのか?
ふむ。
よくわからないが、魔王たちがやっていることを真似した。
準備運動が終わったら……ん?
棒を持て?
剣の腕を見たいのか?
まあ、それぐらいは見せてもいいだろう。
魔王国では力が 尊 ( とうと ) ばれるらしいからな。
断って、舐められるのはよくない。
それに、剣には自信がある。
相手は誰だ?
さすがに魔王が相手ということはないだろう。
つまり、あそこで待機している者か?
だが、あの者は棒を持ってないぞ。
……え?
対戦相手だけど、棒で殴り合うわけじゃない。
あの者が投げる球を棒で打つ?
これは……
気を使ってもらったのかな?
剣での勝負で、万が一にも俺が負けたら恥をかくし、俺が大怪我をしたら問題になる。
こういった対戦なら、俺の実力を見せつつも、大怪我もないだろう。
最悪、球がぶつかるだけ。
うん。
よし、こいっ!
戦場では降って来る矢を剣で弾いていたのだ!
投げられた球を棒で当てるなど、造作もない!
……俺に向かって投げるわけじゃないのね。
なるほど、受け手がいるから、球はこんな感じのコースを通ると。
でもって俺は、この四角く描かれた囲まれた場所から打つと。
打つとき、囲まれた場所から足を出しちゃ駄目なのね。
ああ、線を踏むのは大目に見てくれると。
承知した。
さっ、こいっ!
三十回ほど投げてもらった球を、半分ぐらい棒で当てたあとは、変な手袋を持たされた。
今度は棒で当てられた球を受け止めるらしい。
やっていることの意味はわからないが、問題はない。
球を受け止めたら、あっちの人に投げるのね。
よかろう。
理解した。
三十回ほど球を受け止め、投げていると、次は走るように指示された。
距離は長くない。
四角い目印から、四角い目印まで走るだけ。
線も描かれているから、迷うこともない。
簡単なものだ。
俺の瞬発力でも見たいのだろう。
ふっ、重い鎧を着て戦場を駆け回った俺だ。
鎧を着ていなければ、いくらでも走れるぞ。
五回ぐらい走ったら、球を持たされて受け手に投げるように指示された。
山なりに投げるんじゃなくて、棒で当てるときの相手が投げていた感じにだな。
大丈夫だ。
覚えている。
こうだろう。
……
うーん、少しずれたな。
受け手が取り損ねた。
すまない。
もう少し投げる速度を加減すれば、受け手が動かずとも……駄目?
全力で投げろ?
しかし、受け手が困る……いや、そうではない。
魔王は俺の力を見たいのだった。
その証拠に、受け手は防具で身を固めている。
……よかろう。
全力で投げる!
受け手よ!
死ぬんじゃないぞ!
最後に球をできるだけ遠くに投げるように言われた。
かなり遠くにまで人が配置されている。
ふっ。
もっとも遠くにいる者にまで届けと、俺は全力で投げた。
「ふむ。
打撃、フォームは粗いが期待できる。
守備、ボールを怖がらない。問題なし。
送球、やや不安。
投手向きではないな。
野手としては合格を出せる。
当面は二軍だが、早々に一軍入りを目指せる逸材。
期待しているぞ」
魔王からそう告げられた。
えーっと。
二軍とか一軍ってなんだ?
俺、魔王国の軍には入れないぞ。
さすがに。
野球?
なにそれ?
よくわからないまま、魔王と一緒に野球の練習をした。
運動したあとの食事は美味しい。
魔王の部下のクローム伯とプギャル伯が来るまで、俺は野球の知識と技術を学んだ。
ビーゼル「ティゼルからの手紙は確認したな?」
プギャル「相変わらず、私信は短いな」
ビーゼル「そう言ってやるな。報告書は完璧だ」
プギャル「そうだがな。あー、人間の国の王がこっちに来ているんだな」
ビーゼル「うむ。村長に会うのが目的だ」
プギャル「では、いろいろと教えんとな」
ビーゼル「ああ。それでその王だが……どこだ?」
プギャル「謁見の間ではないのか?」
ビーゼル「いない。控えの間にもだ」
プギャル「城に来た記録はある。どこにいったのだ?」
案内役 「客人なら、魔王さまが野球の入団テストを受けさせると言って連れていきましたよ」
ビーゼル「……(今日はいい天気だ)」
プギャル「現実逃避するな。行くぞ」