王国を心配するミケル
王国を心配するミケル
ポーズを決めるには腰が大事。
あと、ポーズを維持する体力も。
それを知った僕の名はミケル。
アルフレートくんの案内役さ。
仕事は溜めない。
やれる仕事はやる。
事件は起きる前につぶす。
そういう方針の母は、武力を使って動こうとする貴族を調査した。
母の独自調査とゴドレイク伯爵からの情報で、相手はほぼ特定。
漏れがないかのチェックは二度、行なわれた。
ここは時間をかけてしっかりやらないと、余計に時間がかかるから。
そして、まずは自前の兵を使って動こうとする貴族。
これはアルフレートくんへの 恫喝 ( どうかつ ) が目的なので、兵たちは本気ではない。
向こうは駆け出しの商人を脅すぐらいの気持ちだろう。
人数も二十人から三十人ぐらい。
多くても五十人ぐらいだった。
気楽に出発した兵たちの側面に、母の兵が突撃する。
こっちは本気だ。
しかも五百人以上。
こちらに損害がでない、一方的な戦いが四回ほど行なわれた。
そして、捕まえた兵を証拠に、指示を出した貴族を捕らえる。
二人ほど、兵にまぎれて貴族の当主がいたのは……その、なんだ。
いままでよく当主ができたなと感心した。
いや、当主がでないといけないほど 困窮 ( こんきゅう ) したから、武力に訴えるのかな?
次に、シルバーシルク伯爵家を害そうとする動き。
こちらは、貴族は前面に出ない。
前面に出ると、伯爵家と全面戦争になるから。
嫌がらせが目的なのだし、裏で動く者を使う。
だけど、実は裏で動く者の大元には母の息がかかっている。
レイワイト王国でコーリン教に……いや、母に知られず、裏で動くのは不可能。
貴族からの依頼が入った段階ですみやかに母の部下に報告され、依頼した貴族が捕らえられていく。
さすが母だと僕は感心する。
捕らえられた貴族の当主は引退、代替わりの処分。
当主以外が首謀者であっても、管理不足として当主に引退を勧告。
謝罪を申し出た貴族もあったけど、母は許さなかった。
許してやっても、どうせ時間がたてば恨むから、無駄なことはしないと母は言っていた。
勉強になる。
あ、ゴドレイク伯爵が手加減してほしいと言ったところは?
「安心なさい。
そういったところの代替わりは私が手伝いましたから、混乱はありません」
あ、安心できるかなぁ。
続いて、貴族を煽っていた商人たち。
こちらには母は兵を使わなかった。
ただ、問題の商人たちが港を使用することと、荷を持って関所を通行することを禁止した。
母にそんなことをする権限があるのか?
ない。
だけど、母がそうしたいと言えば、権限を持つ者が従う。
禁止を言った五日後に、商人たちが頭を下げてきた。
商人たちのこういった判断の早さは、見習うところかな。
五日は遅い?
地方の商人たちだから、急いでやってきたほうだと思うよ。
転移魔法が使えるわけじゃないしね。
その商人たちに、母は賠償金の支払いを命じた。
賠償金が払えないところは、物納を許した。
そして集められた賠償金の半分はシルバーシルク伯爵家に。
残り半分はコーリン教に配分された。
アルフレートくんへの配分は、コーリン教の取り分から渡される。
直接渡さないのは、アルフレートくんを目立たせないためだね。
これで問題は解決。
そう思ったけど、小さな問題が残った。
騒動の発端となった生地だ。
物納した商人たちのほとんどが、生地を持ってきた。
これらの生地。
大量にあるから値がつきにくい。
外に持ち出して売ろうにも、輸送費のほうが高くなる。
母はコーリン教が深く関わるマルデ商会に現金化を依頼したみたいだけど、マルデ商会も在庫の処理に苦労しそうだ。
でもまあ、僕が心配することではない。
僕がすべき心配はこっち。
カトウさん。
彼はアルフレートくんの護衛だ。
だから護衛として仕事をした。
アルフレートくんを襲おうとした者たちの撃退。
そこは問題ない。
襲撃されたことも、想定内。
今回の件で逆恨みした貴族家の残党が襲ってくるから、できるだけ外に出ないようにって母が言ったけど、アルフレートくんは守られるより自身が囮になって戦うことを選んだ。
そのうえで襲われたのだから、なにも問題はない。
覚悟はしていた。
襲ってきたのは軽装の男が四十人。
だけど、母が手配した護衛も近くにいたし、アルフレートくんも万全の態勢だった。
正直、よく四十人で襲ってこれたなというのが本音。
僕はこの四十人が囮で、本命がどこかから毒のナイフでも投げてくるかもしれないと警戒したぐらい。
この四十人が本命だったのだけど。
撃退は、カトウさんが一人で終わらせた。
まず、襲ってきた四十人の前に、カトウさんはバイクに乗って登場。
直後、カトウさんはバイクに立って腕組み。
襲ってくる四十人に向かって、低い声で「舞え」と言ったら、四十人は糸に操られたかのように踊り出した。
手や足を曲がってはいけない方向に曲げ、悲鳴をあげながら。
そしてカトウさんが指を鳴らし、「散れ」と言った直後、踊っていた四十人は糸が切れたように倒れた。
倒れた者の手足の関節は外れており、捕縛は簡単だった。
このカトウさんが問題だった。
やりすぎが問題?
違う。
襲ってきて、全員が生きているのだからかなり優しい。
では、なにが問題なのか?
それはカトウさんの戦闘スタイル。
後ろで見ていたけど、スマートでよかった。
かっこいい。
護衛の人たちも、ポーズとか真似したぐらい。
だから、アルフレートくんが嫉妬した。
カトウさんは「フローラ監修」と書かれた看板を持ってアルフレートくんをなだめていた。
僕も手伝った。
戦闘と捕縛時間の合計よりも、なだめる時間のほうが圧倒的に長かった。
翌日まで引きずったから。
大変だった。
あ、フローラさんて誰だろ?
ルールーシーさまの 従姉妹 ( いとこ ) ?
妹みたいな立場?
アルフレートくんのポーズとかも一緒に考えてくれたんだー。
へー。
捕まえた四十人を調査した結果、母の言っていた逆恨みした貴族家の残党で間違いなかった。
急な代替わりで不利益を被った者たちが、生活が苦しくなったからと襲ってきたらしい。
もうね。
なんと言っていいか。
ま、まあ、野に放たず、捕まえられてよかったと思っておこう。
だけど母は、まだ襲撃があると予想。
次は逆恨みした貴族家の残党ではなく、力を落とした貴族や商人の縄張りを狙う者が、力を見せつけるために襲ってくるそうだ。
……
なぜ力を落としたのか考えないのかな?
考えないんだろうな。
僕はレイワイト王国の国民の教育に疑問を持った。
「要望書としてまとめて、王子たちにでも投げておきなさい」
母にそう言われたので、そうした。
そうそう。
二回目の襲撃はアルフレートくんがカトウさんの真似ができて、かなりご満悦だった。
「真似じゃない。
ちゃんとアレンジを加えた!」
そういうことにしておこう。
「ほんとうにアレンジしたから!」