品揃え
品揃え
私はブラックリバー伯爵の妻。
ブラックリバー伯爵夫人と呼ばれています。
さて、私はお隣に住むゴドレイク伯爵夫人のマテちゃんからお話のあった、アルフレートさまの美容品を取り扱う店の立ち上げに 奔走 ( ほんそう ) しています。
ほんとうに奔走です。
ですが、これも効能のいい美容品を手にするため。
手は抜きません。
そして日が進み。
アルフレートさまの美容品を取り扱う店が完成しました。
アルフレートさまから店は一軒だけとの条件だったので、できるだけ大きくした感じです。
ただ、庶民も利用できるとのお話でしたが、どう見ても貴族用の豪華な店構え。
内装も 絢爛 ( けんらん ) です。
店内では、揃いの制服に身を包んだ従業員が、販売時の練習をしています。
見た感じ、商品さえ納品されれば、いつでも店を開けられるように思えます。
ああっと、正式な店名がまだ決まっていませんでした。
これは王家に頼んでいます。
さっさと決めてほしいのですが、王家と言ってもレイワイト王国は三つもありますから、意見をまとめるのが大変なのでしょう。
とりあえず、正式な店名ではありませんが、私たちはアルフレート美容品店と呼んでいます。
開店が楽しみです。
しかし、事件が起きました。
ゴドレイク伯爵夫人が倒れたらしいのです。
重体ではないらしいので一安心ですが、ゴドレイク伯爵夫人はアルフレートさまの代理人となったコーリン教のフーシュさんと、アルフレート美容品店で扱う商品を相談している最中でした。
私は慌ててゴドレイク伯爵邸にお見舞いに行きました。
倒れている相手に、さすがに塀越しは無理ですからね。
私のお見舞いは快く受け入れられ、ベッドで横になっているゴドレイク伯爵夫人に面会。
うなされているから寝ているかと思ったら、起きてました。
マテちゃん、なにやってるのよ。
過労?
忙しかったのはわかるけど……違う?
マテちゃんは私に手紙を渡して、読むようにと勧めてきました。
それはわかるけど、なぜメイドたちは、私の周囲をクッションで囲っているの?
気にしないで手紙を読め?
ま、まあ、読むけど……
手紙はシンプルなもので、アルフレート美容品店で取り扱う品の候補とその効能、販売希望価格のリストですね。
最終的に販売する値段はこちらで決めていいのですか。
ありがたいことです。
私は手紙を読み進めます。
《メイク落とし》
《洗顔料》
《化粧水》
《美容液》
《保湿クリーム》
《日焼け止め》
おおっ、これこれ。
これがほしかった。
効能の強さべつに何種類かあって、販売希望価格が違うと。
桁が違うのはうーん、悩ましい。
それでも、私は高いのを買いますけど。
ふふふ。
これでも私はいくつかの事業を領民にさせており、安定した収入があるのです。
これぐらいは、問題なく買えます。
そして、これらがあればアルフレート美容品店の成功は間違いないでしょう。
喜ばしいことです。
ですが、まだまだ品がありますね。
《 髪用の液体石鹸 ( シャンプー ) 》
《 髪のコーティング液 ( リンス ) 》
これは……髪のお手入れ用ですか。
これも売れそうですね。
販売されたら、私も使ってみましょう。
《洗顔用タオル》
《 髪を乾かす魔道具 ( ドライヤー ) 》
《 髪を整える魔道具 ( ヘアアイロン ) 》
お手入れ道具も扱うと。
魔道具はさすがに、ちょっとお高いですね。
魔道具を扱うとなると、魔石の補充もアルフレート美容品店の業務に加えるべきでしょうか。
それよりも冒険者ギルドと提携して、安定して魔石を入手できるようにしないといけませんね。
《髪の 艶 ( つや ) 出し液》
《美顔クリーム》
《美肌クリーム》
これらは……美しくなった髪や肌を維持するためのものですね。
絶対に買いましょう。
《髪荒れ対策の薬》
《肌荒れ対策の薬》
髪や肌にトラブルがあったときの対策品ですか。
ですが、こういったのがあるのは嬉しいですね。
万が一を恐れなくて済みます。
あー、この肌荒れ対策の薬は、手荒れにも効くのですか。
水仕事をするメイドたちの手は荒れていますから、これで治るかもしれませんね。
あまり値段は高くないようですし、販売されたら配ってみましょう。
《若返り肌の薬》
んんん?
え?
なにこれ?
若返り?
肌が若返るの?
三年ぐらい?
本物?
一回使うと、しばらく効果がないのは残念ですが、十分です。
さすがにお値段は凄いですが、絶対に手にいれます。
《風邪薬》
《頭痛緩和の薬》
《打ち身の薬》
《切り傷の薬》
《 疫病 ( えきびょう ) 予防の薬》
《 滋養強壮 ( じようきょうそう ) の薬》
《目薬》
《眼精疲労の薬》
これらは……美容品というよりは、普通に薬ですね。
健康が一番の美容という考えでしょう。
なるほど、納得です。
病気を患っては、美しさなど意味がありません。
打ち身や切り傷も、騎士などであれば美になるかもしれませんが、普通の令嬢であれば美を損ねますしね。
《 虱 ( しらみ ) 退治の薬》
虱。
髪に住む面倒な虫を退治できるのですか?
これは欲しいですね。
いえ、私の髪に虱はいませんが、虱に困る者を何人か知っていますので。
ええ、知人が困っているのです。
《水虫の治療薬》
これは……殿方向けですね。
水虫に悩む殿方は多いと聞きますから。
女性?
女性は水虫になどならないのです。
ですが、用心のために購入しておきましょう。
《毛生えの薬》
毛生え?
……どれほど効果があるのでしょうか?
使えばすぐにフサフサというわけではないでしょうが、少しでも効果があるのであれば求める者は多いでしょう。
これは殿方だけでなく、女性もです。
実は、ストレスでハゲてしまうのはよくある話なのです。
カツラやつけ毛でごまかしますが、治療できるならしたいものです。
《性病の治療薬》
これは庶民向けですね。
定期的に街や村で流行しますから。
ですが、庶民で購入できる者は限られるでしょう。
領主が購入して、無理やりにでも治療させたほうがいいでしょうか。
夫に相談しないといけない案件ですね。
《 痩 ( や ) せ薬》
…………
一部の国では、ふくよかな体形が好まれます。
ふくよかな体形は財を持っている証ですから。
ですが、レイワイト王国ではスラっとした体形が好まれます。
働き者の証として。
ああ、私は必要ありません。
十分にスラっとしています。
ですが、一つ二つは手元に置いておきたい薬ですね。
《長寿の薬》
十年ぐらい寿命が延びると。
えーっと………………………………………………
王室に献上したほうがいい薬でしょうか?
い、いえ、寿命が延びる薬というのは 詐欺 ( さぎ ) の代名詞。
なにせ、本来の寿命で長生きしたのか、薬の効果で長生きしたのか確かめる術がありませんから。
しかし、なぜこういったものがリストに載っているのでしょうか?
アルフレートさまや、コーリン教のフーシュさまが詐欺を働くとは思えないのですが……
まさか、本物?
マテちゃんが倒れたのって、これを見たから?
私もクラっとしましたから、そうなのでしょう。
ふふ。
ですが私は倒れませんでしたよ。
周囲のクッションは無駄になりましたね。
手紙はこれで最後。
私は手紙を畳み、マテちゃんに返そうとしました。
「まだ最後まで読んでませんよ」
え?
手紙は最後まで目を通しましたよ。
リストの最後は、長寿の薬です。
裏面になにか書いてるようでもありませんし。
ですが、マテちゃんは首を横に振ります。
私はもう一度、手紙を広げました。
やはり、リストの最後は長寿の薬です。
「文末」
文末は……薬効保証人のサインですね。
薬は詐欺の道具になりやすいので、薬の効果を保証する者をつける場合があります。
見落としていました。
…………
……………………………………………………
薬効責任者のサインは、ルールーシー=ルー。
三回ぐらい見直しました。
伝説の薬師です。
その者が作った薬は、ほかの者が作った薬の何倍もの効果があると。
リストにあるものを作ったとは書かれていませんが……
効果を保証しています。
これは大きい。
大きすぎる。
開店すれば、誰もがルールーシーさまが保証した薬を求めるでしょう。
大混乱が予想されます。
もっとも有効な対策は、店を増やすこと。
ですが、アルフレート美容品店は一軒だけとの約束です。
納品できる品数に限界があるからとの理由です。
ぐぬっ。
で、では、ルールーシーさまの名を出さないで販売する。
……不可能ですね。
薬の大半が高額商品。
薬効責任者がいるなら、聞きたがるはず。
黙っていても、薬の効果がいいのですから、いずれ 辿 ( たど ) りつくでしょう。
隠しきれません。
どれだけ隠しても、商品のパッケージにルールーシーさまの名が書かれてたら、それで終わりですし。
では、開店を中止にする?
無理ですね。
関係者を増やしすぎました。
いまさらに開店の中止は無理です。
中止を強行しても、絶対に理由を聞かれますし、そこでルールーシーさまの名がバレたら貴族が薬を独占します。
そういった動きが庶民にバレないはずがなく……
美容品だけならともかく、若返り肌や水虫、性病、長寿の薬を独占すると反発が大きいでしょう。
場合によっては暴動が起きます。
で、では、庶民が求めそうなものは扱わないのはどうでしょう。
リストにあるものを、すべて扱うと決まったわけではありません。
美容関係の無難な品。
庶民が求めない品だけを扱うのです。
若返り肌や水虫、性病、長寿の薬は惜しいですが、そこを諦めたらいけそうな気がします。
アルフレートさまや代理人のフーシュさんに説明する必要はありますが、国に混乱を起こさないためなら、それぐらいします。
そこで、納品数を相談し、一軒だけの約束をなんとかできれば最上です。
……
駄目です。
民が求めない品だけを扱うにしても、ルールーシーさまの名が出たら、美容品に関係なく周辺国から人が殺到します。
ルールーシーさまに取り次げと。
求める薬をなんとかしろと。
ルールーシーさまの名は出せません。
ルールーシーさまの名さえ隠しておけば、なんとかなる?
マテちゃん。
このリストの内容は、誰が知っているの?
アルフレートさまとフーシュさんは当然として、ほかにこの手紙を見た人は?
「私とあなただけよ」
……いける。
隠し通せる。
急いで、フーシュさまとアルフレートさまに連絡を。
マテちゃんもそれぐらいわかっているでしょ。
倒れている場合じゃないわよ!
「そうなんだけど……フーシュさまから、ちょっと変なことを聞いちゃって」
変なこと?
「アルフレートさまの母が、ルールーシーさまだそうです」(訳 がっつり関わってるから、どう頑張っても隠せない)
……
私はあらためてマテちゃんを見ました。
マテちゃんは、ようこそこちら側にと微笑みました。
殴りたい、その笑顔。
そう思いながら、私は気を失い倒れました。
クッション、助かりました。
メイドA「手紙、私たちも見てるんだけどね」
メイドB「しー」
メイドA「男の子は外で母のことを言わないから大丈夫なんじゃない?」
メイドB「アルフレートさまってコーリン教の客人でしょ。フーシュさまだけが知ってると思う?」
メイドA「若い私たちは、ルールーシーさまの功績を知らないのよねー」
メイドB「知ってるのは年配の方だけですよねー」
伯爵夫人「……暇がほしいのかしら?」