死霊王
死霊王
我は死霊王。
我がなぜ存在し、なにをすべきかは知らぬ。
ただ、眠っていた。
それだけだ。
だが、何者かが我を目覚めさせた。
迷惑な。
さらに、その何者かは我に命じた。
かの地の封印を解けと。
抗えぬ命令が我を縛る。
苛立たしい。
同時に、どうせ目的がないのだから丁度良いとも思った。
我は部下を集める。
眠りにつく前は数万の軍勢を持っていた気がするが……
よく覚えていない。
何、部下はそこらにいる。
一つ命じれば、土が人の形に……
うん、弱そう。
戦力にならん。
やはり、部下は強くなくては。
そういった部下の揃え方はなぜか知っている。
死体だ。
死体を 素 ( もと ) にすれば、土で作ったものよりも圧倒的な力を持つ。
その死体が、生前に強い力を持っていればなお良い。
となると死体集めから始めねばならぬが……
なんだろう。
我は王だぞ。
死体を求めてウロウロするのって恥ずかしくない?
恥ずかしいよな。
うん、間違いなく恥ずかしい。
……
困った。
誰も見ていないからと、捨てられぬプライドが疎ましい。
だが、死んでも王。
腐っても王だ。
プライドを持たずして王は名乗れん。
……
一瞬だけ王を辞めて、その間に集め、新たに王に就任するのは……
駄目だ。
それは、やっちゃいけない気がする。
ともかくだ。
部下を集めねば、封印をどうこうすることはできない。
……
できないか?
一人でやれるんじゃないか?
だって我、王だぞ。
……
「ふはははははははははっ」
……
駄目だった。
土、硬い。
魔法で掘ってみるが、効率が悪い。
我の魔法って、対生物特化だからなぁ。
もう限界。
……ああっ!
我は馬鹿か!
最初に命じた土の部下の周辺を見る。
土が人の形になった分だけ土がなくなっている。
残った魔力で、土を人の形にする。
やはり弱そうだが、人の形になった分だけ土がなくなっている。
これだ。
よーし、魔力を回復させた片っ端から土の部下を作っていくぞ。
弱そうな土の部下だが、数が揃えばそれなりに見える。
二百体。
うん、悪くない。
そして、その土の部下たちは少しずつだが穴を掘っていく。
うんうん。
なかなか働き者。
無口ゆえに、我が少し寂しいのが欠点だな。
ともかく、そうして我は穴を下に向けて掘り続けた。
我を含めて食料や睡眠が不要なのが利点。
常に堀り続けた。
それでも何年も掛かった。
途中、染み出した地下水で部下の何体かが溶けてしまったのは悲しかった。
硬い岩を、我の魔法と共に砕いた時の一体感、忘れられん。
大雨が続き、穴の側面が崩れてきた時は、もう駄目だと思った。
だが、穴は目的の深さまで掘れた。
うん、どうしてこの深さだと解ったのだろう?
……
考えてもわからないことは考えない。
次は横に掘っていく。
方向は……こっちだな。
なぜか解る。
また何年も掛かった。
だが、大きな黒い岩のある場所に到達した。
これが封印の一角だ。
これと同じのが……あといくつだ?
複数あるのは感じられる。
なんにせよ、これを壊していけば良いのだが……
今、これを壊すのはマズイ気がする。
壊すなら一斉にだ。
でないと邪魔者がやってきそうな気がする。
なぜ、こんなことを考えるのだろう。
我に命じた者の意思だろうか?
やはり、考えても解らない。
解らないことは考えない。
我は王。
余計なことに悩まされたりはしないのだ。
次の封印の岩を目指し、掘っていると死体を発見した。
地下のかなり深い場所に空洞があり、そこに大量の人間の死体があった。
この空洞はなんだろうとも思うが、それよりも死体の方が大事だ。
時間は経っている。
百年、二百年ではない。
千年ぐらい昔の骨だろう。
だが、力を感じる。
我は迷わず、その死体に命じた。
死霊騎士。
おおっ。
凄いぞ。
力を感じる。
我の苦手な肉弾戦とかやれそう。
いける。
我は次々と死体に命じていく。
十七の死霊騎士と、八十ほどの死霊戦士ができた。
うん、いい。
並べて行進とかさせてみる。
思わず、頬が……頬はないけどニヤける。
……土の部下たちよ。
対抗して行進しようとしなくてもいいぞ。
我は、お前たちを捨てたりはしない。
これまで苦労を分かち合っていたじゃないか。
死霊騎士や死霊戦士たちにもキッチリと命じておこう。
お前たちの方が上だと。
ははは。
よし、今日も頑張って掘っていこう。
死霊騎士、死霊戦士。
お前たちは、この空洞の調査を頼む。
大丈夫だとは思うが、変な者がいたら困るからな。
土の部下は穴を掘り進めた。
死霊騎士たちの死体があった空洞は、どこかのダンジョンだったらしい。
上への道を見つけたので、そっちは任せた。
我も穴を掘るが、最近は効率の良い作業方法などを考え、記す。
羊皮紙やインクなどないから、岩を掘って記す。
ふはははは。
無理。
面倒。
紙プリーズ!
死霊騎士たちが入手してきた。
おお、やるな。
どこで手に入れたんだ?
ダンジョンを制覇し、地上に出たら滅んでいた村があった?
そこで獲得したのか。
なかなか綺麗な紙だ。
滅んだのは最近かな?
どうして滅んだのだろう?
……
考えても解らないことは考えない。
最優先は封印を解くことだ。
そうして、我らは穴を掘り続けた。
途中、穴を掘る魔獣に遭遇したのは幸運だった。
我の催眠術で支配下に置き、穴を掘らせることに成功。
何匹か倒してしまったのは申し訳ない。
死体は……働かさずに、弔ってやろう。
うんうん。
とか思ったら、支配下に置けてない魔獣が攻撃してきた。
……
死霊騎士。
任せた。
死霊戦士の一人が、地上に出た時にはぐれたことがあった。
道に迷ったらしい。
無事に合流できて良かった。
ただ、その時に骨の部下を従えていたのは驚いた。
我と同じようなことができるのか。
優秀だな。
だが、我に無断で増やすのは良くないぞ。
めっと怒っておく。
その横で何人かの死霊騎士や死霊戦士が、そっと我から目は無いけど目を逸らした。
……
細かいことは気にしないでおこう。
我は王だからな。
支配下に置いた魔獣が、第二の封印の岩を発見した。
よしよし。
順調。
後は次の方向は……こっちだな。
ん?
騒がしい?
珍しいな。
無口なのが売りなのに……
何かあったのか?
様子を見に行った我が見たのは、怖い顔をした女の足の裏だった。
えーっとねー、私はねー、誰だろー?
うーん、色々あった気がしたけど……よくわかんなーい。
でも、あのお姉ちゃん、きらい。
「ハクレン様はすっかり嫌われましたね」
「貴女もそれなりに暴れたのにね。
なぜかしら」
頭にちっちゃい角のあるお姉ちゃんはすきー。
「やったことを考えれば、当然だと思いますが……
あら?
何か持ってますね」
これはねー、大事なのー。
「始祖様。
解りますか?」
こっちの疲れてるお兄ちゃんもすきー。
でも、渡せないよー。
「ん?
あー……大したものじゃないな」
「なんなのです?」
「土兵の核だ」
「ああ。
彼女を守って戦っていた」
「そのようだ。
取り上げる必要もなかろう」
「ですね。
では、この辺りは……」
「これ以上はどうしようもない。
一旦、村長のもとに行こう。
子蜘蛛たち、集合だ」
蜘蛛たちもすきー。
ちょっと困っているお兄ちゃんもすきー。
ワンワンもすきー。
温泉もすきー。
大事なのが溶けないように、色々してくれたちっちゃい角のあるお姉ちゃん、やっぱりすきー。
ご飯、美味しい?
なんだか凄く懐かしい。
よくわかんない気持ち。
よくわかんないことは考えない。
私は誰だろ?
「ウルブラーザ様?
まさか?」
「でも、時代的には……それ以外は」
「特徴的な髪の色ですし。
私も間違いないと思います。
彼女は英雄女王。
ウルブラーザ様よ」
翼のあるお姉ちゃんたちが、悩みながら言ってた。
どうやら、私の名前はウルブラーザらしい。
なぜかわからないけど、ウルザと呼んでほしい気がした。
私の名はウルザ。
大事なのは手に持っている一つの土の塊。
それ以外は……よくわかんない。