色々やってみた
色々やってみた
一村 ( いちのむら ) の移住者たちは、元々は街で生活していた。
しかし、特定の職についていたワケではないので、何ができて何ができないかわからない。
なので色々とやってもらった。
まず、狩り。
全員が完全武装しても、牙の生えた兎一匹に勝てなかった。
これには俺も驚いたが、村の防御を担当しているクロの子供たちが一番驚いた。
衝撃を受けたと言ってもいい。
こんな弱い生物が今までどうやって生きてきたんだと、俺に目で聞いてきた。
いやいや、俺も似たようなものだから。
すぐに一村を守るクロの子供たちの数が倍に増えた。
牙の生えた兎が一匹でも村に侵入すれば全滅もありえるからだ。
心持ち、真剣な顔になってたように思える。
負担を掛けて申し訳ない。
同時にザブトンの子供たちも増員された。
マクラと同じサイズに成長した個体が四体。
村の四方を守るように寝床を作っている。
よろしく頼む。
戦闘の指導者というか、防御の面の強化としてリザードマンが二人、しばらく常駐することにもなった。
移住者たちの安全のためにも頑張ってほしい。
次に建設関連。
これまでそういったことに関わったことがなく、まるっきりの素人。
そのうえ、格段の力持ちというワケではないので、苦労している。
料理を教えに来ているハイエルフたちが丁寧に教えているが、なかなか成果は上がらない。
俺が加工済みの建材を用意し、後は組み立てるだけの状態にしても時間が掛かっている。
ちなみに、初作品は一日持たずに倒壊した。
酒造り。
ドワーフたちの熱心な指導に、全員がギブアップ。
ドワーフのイメージ通り、頑固一徹な感じだったからなぁ。
怖いし。
酒を一滴も無駄にしないという鋼の覚悟を持っていなければ、作業に加われないと思った。
砂糖絞り、油絞り。
パワー不足。
獣人族の男の子たちに負けるパワーって……
いや、搾り機を改良するから。
大丈夫。
落ち込むな。
小物作り。
これは何人かが才能を見せた。
まだまだ荒削りだが、鍛えればものになるだろう。
醗酵食品作り。
これは全員が作業できた。
臭いには強いらしい。
最初に完成品を味わったのも大きかったのかもしれない。
鍛冶。
鍛冶には鉄を 融 ( と ) かす 窯 ( かま ) が必要。
窯を作るのに時間が……ハイエルフや獣人族のガットが嬉々として作り上げた。
それだと移住者たちが成長しないぞ。
でもって、鍛冶は……移住者たちは早々に脱落し、ハイエルフと獣人族のガットが占有状態。
大樹の村の窯じゃ駄目なのか?
大樹の村だと、夜の作業ができない?
騒音問題で俺は遠慮しろと言ったな……
同じ理由で、夜の作業はここでも止めてやれ。
火の温度を見るのは夜じゃないと駄目?
そういうものなの?
むう。
大樹の村の離れに大きな鍛冶場を作ることで決着した。
現在、一村の窯は移住者たちの手によって焼き物に利用されている。
焼き物ができるようにも窯を作っていたことから、元から占有する気はなかったのだろう。
焼き物。
小物作りと同じく、何人かが才能を見せた。
今回の移住者はパワーはないが、器用なようだ。
農業。
全員、農業は素人。
知識的レベルも、種を撒けば勝手に育つんじゃないのか? だった。
なので現在は俺が畑を作り、その世話をしてもらっている。
畑はそれほど大きくせず、彼らで無理なく作業ができるサイズに。
そして、各家の裏に家庭菜園的な物を作る。
こちらの作物は、できるだけ各家の希望に従う。
まずは育てる楽しさ、そして収穫の楽しさを覚えてもらわないと。
厳しいのは後回し。
他にも色々とやってもらった。
どの作業も頑張っていたが、まだまだ経験不足。
そりゃそうだろう。
俺だって、なんでもかんでも最初からできたわけじゃない。
逆に、来たばかりで上手くやられると、こっちがへこむ。
目的は上手くやることではなく、何ができて何ができないかを知ること。
そして、色々とやった中でやりたいことが見つかれば良いなぁ程度。
考え込まないように。
今日は俺が手料理を用意しよう。
移住者たちの代表が改めて選出された。
これまでリーダーだった男、ジャックだ。
なんとなくリーダーだったのが、はっきりとリーダーになったというところだろうか。
そして一村での生活もかなり安定してきた。
同じ村で生活するニュニュダフネたちとも仲良くやっている。
トラブルらしいトラブルは……
ニュニュダフネがうっかり全裸で歩き、それを見てしまった男が妻に責められるとか些細なことばかりだ。
村内で収まるし、マムが対処している。
最近では、二村のミノタウロス族、三村のケンタウロス族とも交流を始めている。
最初の頃は会話も怪しかったが、今では自分たちから積極的に話しかけているそうだ。
良いことだ。
俺は俺で仕事がある。
残念だが、一村ばかりに関わっていることもできない。
後はマムやニュニュダフネたちに任せ、大樹の村に戻る。
ハクレンの妊娠を祝いに来たドラゴンたちは帰っている。
ドースが最後まで粘ったが、ライメイレンに引き摺られていった。
俺も娘……ティゼルが結婚したりすると……
駄目だ。
涙が出てくる。
考えないようにしよう。
畑の収穫はまだ少し先。
俺はそれまでに細かい作業を行う。
まずは、リヤカーに板バネを搭載……すでに山エルフたちが終わらせていた。
たぶん、俺が作るより高性能。
なのでハイエルフやガットが望んだ鍛冶場を作る。
場所はすでに選定されており、居住区の南側に作ることになった。
大きな窯がまず一つ。
これがメインではなく、これから作るメインの窯のためのレンガ作り用の窯。
魔法を多用し、大量のレンガを作っては乾燥。
その間に、燃料となる炭焼き用の窯を作り、炭を焼いていく。
なんだかんだで三基の大きな窯が出来上がった。
これまでの窯と違い、鉄を 融 ( と ) かすことに特化した窯。
窯じゃなく 炉 ( ろ ) だな。
しかし、なぜ三基も?
温度と扱う素材を変化させるため?
あ、うん。
必要なら仕方がないな。
褒賞メダルも出しているし。
でもって火入れ。
ガットが一番喜んでいるように見える。
ガットはハウリン村の村長の息子。
ハウリン村は採掘だけでなく鍛冶もそれなりに盛んな村だからな。
たぶん、ここの責任者にガットがなるだろう。
いや、すでにそうなっているな。
「村長。
まずは火の神を作ります」
火の神は、鉄で作った炎を象ったもの。
ハウリン村の 慣習 ( かんしゅう ) で、鍛冶場の安全祈願に一番に作らないといけない物らしい。
ガットはハウリン村から仕入れた鉄塊を融かし、あっと言う間に作り上げた。
見た目はシンプル。
縦に長い鉄の板の真ん中をグルグルっとねじったような感じ。
立たせるため、板の先を曲げると。
現代アートみたいだな。
「村長。
次に作る物が、初作品になります。
なにが良いですか?」
自由にしていいと思ったが、ガットの目が真剣だったので考える。
俺が鍛冶場で、連想するのが刀鍛冶。
「じゃあ、刀……剣で」
「剣ですか?」
「ん?
駄目だったか?」
「いえ。
村長からそういった物が出るとは想像していなかったので。
わかりました。
剣を打たせてもらいます」
剣。
鍛冶場のシンボルとしては悪くないだろう。
……武器屋って思われるかな?
個人的には剣よりも刀を打ってほしいが、返しとか軟鉄とか鋼鉄とかよくわからん。
知っている理屈を、今度やんわりと話してみよう。
後は任せた。
これまで小さな鍛冶場はあったが、今回できた大きな鍛冶場によって鉄製品が手に入れやすくなった。
修理や補修もしやすくなる。
なんだかんだで鉄製品は必要とされるからな。
ただ、採掘した鉄鉱石の買い取りは増えるだろうが、ハウリン村から購入していた鉄製品が減る。
ハウリン村に何か補填してやらないと向こうの生活が困るだろう。
当面、馬車用のスプリングはハウリン村に発注を続けるが……
今度、ガットと相談しよう。
なんだかんだで一回目の収穫の時期。
今年も豊作だ。
それを喜びながら、暑くなったと実感。
そろそろ祭りの季節だ。
今年は何をするんだろう。