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路地裏の娘 ポッテ

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路地裏の娘 ポッテ

私の名はポッテ。

路地裏で生活をしている女の一人。

まあ、まだ十二歳ぐらいだけどね。

身体は……これから大きくなっていく予定。

きっと胸も大きくなるわ。(願望)

私とポーラさんとの出会いは、偶然。

薬草を潰す日雇いの仕事が午前中に終わったので、一旦、寝床に帰ろうとしている時に声を掛けられたの。

この辺りの案内をしてくれないかって。

やった、仕事だ。

でも、飛びつかない。

案内だけさせられてタダ働きはゴメンよ。

さあ、交渉だと思ったけど、ポーラさんは色々と話が早かったわ。

路地裏で生活する私たちのことを知っているのかしら?

前金として渡された硬貨を握りながら、私は街を案内を始めたわ。

ポーラさんが知りたがったのは、表通りの有名なお店じゃなくて裏通りのお店や縄張り。

簡単に言えばこの街の裏道の歩き方。

なるほど。

みすぼらしい格好をしている私に同情したわけじゃなく、私が答えられると見込んでくれたのね。

答えられる範囲でなら答えるわ。

さすがに私の身が危なくなる相手のことは喋れないけどね。

三時間ほど付き合って、仕事終了。

後払いの硬貨を貰い、ついでに屋台の串肉を 奢 ( おご ) ってもらった。

良い人だ。

今日は臨時収入もあったし、本当に今日はラッキーと思った。

寝床に帰るまでは。

何が起きているか、理解できなかったわ。

私の寝床は街の公営資材置き場で、ここ数年は資材が出入りしていない所。

だから私と同じように路地裏で生活する者たちが多く住んでいる。

この辺りを取り仕切っているゴールディさんが、資材置き場を女性専用にしてくれたから安心して寝ることができた。

そんな場所だった。

そこに見知らぬ作業員が大勢いて、資材を運び出している。

街の警備をする人もいる。

つまり、目の前で起きているのは暴動や資材泥棒ではなく、ちゃんとした仕事だ。

資材が運び出される度に、住んでいた子たちが追い出される。

もうすぐ日が暮れるってのに。

いけない。

ボーっとしている場合じゃない。

まずはゴールディさんに連絡しないと。

ゴールディさんに連絡しても、どうしようもなかった。

街の代官様の指示だそうだ。

誰も逆らえない。

はぁ。

しかし、代官様も資材置き場は私たちの寝床になっているのは知っていたらしい。

テントだけど臨時の寝床と、美味しくはないけど朝と晩に食事を用意してくれた。

でも、さすがにずっと用意してくれるわけじゃない。

寝床と食事の提供は一ヶ月だけ。

それまでになんとかしないといけない。

ゴールディさんも、新しい寝床となる場所を探してくれるらしいけど……すぐには無理みたい。

追い出されたのが真冬じゃなくて良かったと思うべきかしら。

明日、頑張って仕事と新しい寝床になる場所を探さないと。

ポーラさんとはあれっきりだと思っていたのに、そうじゃなかった。

商店で物色しているポーラさんを見つけた私は、この偶然を逃すまいと声を掛けた。

何か仕事をもらえないかと思ったのだ。

荷物持ちでも構わない。

女だけど、それなりに力はあると思う。

これが運命の分かれ道だったのかもしれない。

仕事を貰うために今の境遇を少し大袈裟に語ったら、ポーラさんは真面目な顔で私に聞いてきた。

「仕事は今日だけで良いの?

それともずっと欲しい?」

もちろん、ずっと欲しいに決まっている。

「そう。

じゃあ、接客業……お店でお客様に料理を渡したりする仕事よ。

やれる?

大変よ」

大変?

大変でもなんでも仕事をずっともらえるなら、構わない。

もちろん、お給料はちゃんともらえるのよね?

ポーラさんは当然だと頷いてくれる。

ただ、当面は見習いだから多くは払えないと。

それはそうね。

頑張って働くつもりだけど、いきなり一人前分はもらえないのは普通だ。

これはポーラさんがケチなんじゃなくて、一般常識というヤツだ。

なにせ仕事を教えてもらっている立場。

仕事をキッチリとこなしている人と同じお給料なワケがない。

でも、仕事中の食事を出してくれるって。

やっぱりポーラさんは良い人だ。

私だけがこんな幸運を独り占めして良いのだろうか。

同じ境遇の女の子たちのことを考えると、少し後ろ暗い気持ちになってしまう。

いや、これは間違い。

私が頑張って働くことで、他の娘たちが雇われやすい環境を作れば良いのよ。

この決意は無駄に終わった。

「お仲間もいるんでしょ。

連れてきなさい」

ポーラさんは女神様なのだろうか。

私が声を掛けたのは資材置き場を寝床にしていた女の子たち。

男の子たちは、なんだかんだと仕事を見つけやすいからね。

悪いけど、この話は女の子優先。

私を含めて、全員で十人。

少し多いだろうか?

でも、その時はその時。

ポーラさんに、顔を覚えてもらえるだけでも良い。

なので全員、顔を洗ってから行くわよ。

……

ポーラさんは私たちを見ても嫌な顔をせず、全員を雇ってくれた。

ありがとうございます。

その後で、ポーラさんの旦那様に挨拶。

優しそうな人だけど……あれ?

横にいるのって、ゴロウン商会のお偉いさん?

まさかね。

私たちがポーラさんに最初に命じられたのが身体を洗うこと。

そんなに汚いかな?

駄目?

三回ぐらい、身体を濡れたタオルで拭かされた。

髪の毛を洗ったのなんて、いつ振りだろうか。

次に今まで着ていた服の洗濯。

タオルを身体に巻きながら洗う。

うん、汚い。

洗っても洗っても汚れが出てくる。

これ以上、洗うと破けてしまうのでどうしようかとポーラさんに相談したら、着替えを用意してくれた。

こんな綺麗な服、良いのかな?

あれ?

こんなに着れないよ?

明日の服?

明日の服って何?

……

驚いた。

服って毎日着替えるんだ。

その日は色々とやった。

働いたわけじゃなく、私たちの能力チェックかな。

文字が読めるか、文字が書けるか、計算ができるか、挨拶はできるか、買い物ができるか。

私は三十個ぐらいの文字を読めるけど、書いたり計算は無理。

できないことだらけで、ポーラさんに見捨てられないか私たちは不安になってしまった。

でも、ポーラさんはそんな私たちに美味しい食事を用意してくれた。

しかも、ちゃんとしたお店で。

裏口に近づいたことはあっても、お客としてお店に入ったことはないから凄く緊張した。

メニューがあるけど、読めない字ばかりでポーラさんに任せた。

文字は読めないけど、凄い値段が横に書かれてたし。

他の子たちも私に 倣 ( なら ) った。

美味しかった。

世の中にこんな美味しい物があるのかと驚いた。

気付いたらお皿が 空 ( から ) だった。

誰か私の食べた?

違うわよね。

私が夢中で食べちゃっただけ。

もっとゆっくり、味わって食べればよかった。

食事の後はポーラさんに言われてお勉強。

私たちは色々と覚えないといけないらしい。

その日に覚えたのは、お金に関して。

教えてくれたのはポーラさんの知り合い?

この人もゴロウン商会の偉い人みたいだけど……

そんな人が私たちの相手なんかするわけないよね。

金貨、銀貨、銅貨。

金貨を初めて見た。

ピカピカしてて綺麗。

銀貨はゴールディさんの所で見たことがある。

触ったことはないけど。

銅貨はよく知ってる。

銅貨は他の硬貨と違って、大銅貨、中銅貨、小銅貨に分かれてる。

一般に銅貨って言われた時は、中銅貨のことを指してる。

小銅貨は税金銅貨とも言われてて、使う人はお役人ぐらいかな。

私たちも手に入れた時は、十枚集めて中銅貨に交換してもらう。

小銅貨と中銅貨の交換は手数料が要らないんだけど、他の硬貨の時は交換料が必要になるから両替屋さんってズルいよね。

交換料無しでだと……

小銅貨十枚で、中銅貨一枚。

中銅貨十枚で、大銅貨一枚。

中銅貨一枚で、大きめのパンが一つ買えるかな。

私ならそれで一食分……いや、二食分。

大金だ。

街の屋台なんかは中銅貨一枚から三枚ぐらいをよく見かける。

お酒も一杯一枚からって感じ。

買ったことはないけど。

このぐらいは私でも知っていたけど、大銅貨百枚で銀貨一枚になるのは知らなかった。

銀貨百枚で金貨が一枚。

つまり金貨が一枚で中銅貨が……えっと……たくさん。

横で一緒に聞いていたポーラさんが、十万枚と教えてくれた。

さすがはポーラさん。

計算もできるんだ。

え?

私たちもできるようになる?

まさか。

その日は本当に色々あった。

日が暮れたから帰ろうと思ったけど、ポーラさんが宿を用意してくれた。

綺麗な格好で帰ったら、危ないでしょうと。

確かにそうだ。

前の寝床なら男は近寄らなかったけど、今は違う。

悪い人はいないと思うけど、ちゃんと身は守らないと。

え?

そうじゃなくて……自分の容姿?

なんのことかしら?

問答無用で宿に押し込まれた。

部屋は二人で一部屋。

信じられない。

この広さなら十人全員が入ってもおかしくないのに。

このベッド……使っていいのかしら?

色々あったから私はウッカリしていたのだ。

ゴールディさんへの連絡。

心配させちゃったよね。

本当にごめんなさい。

だから、急に現れるのは止めて。

ゴールディさんは良い人だけど、顔が怖いのが弱点。

泣いてる子が泣き止むレベル。

慣れたと思ったけど、不意打ちは駄目。

特に寝ているのを起こすのは。

そのまま永遠に寝るかと思っちゃった。

同室の子は……グーグー寝てる。

あっちは起こさないの?

私だけで十分。

なるほど。

私はゴールディさんにポーラさんとのことを説明する。

ゴールディさんが私たちを心配して、宿にまで忍び込んでくれたそうだ。

ありがとう。

本当に忘れてて、ごめんなさい。

次の日から、私たちの勉強が本格的に開始された。

昨日のは本格的じゃなかったんだ。

知らないことを次々に教えられ、驚く暇がない。

数日もすれば文字の読み書きはできなくても、簡単な単語を読めるようにはなった。

計算も簡単な足し算、引き算は大丈夫。

ポーラさんにガッカリされないように、頑張ったんだから。

これで勉強も終わりかなと思ったら、まだまだ続いた。

うん、頑張ります。

でもって、追加でやることも増えてきた。

私たちの仕事はお客様に料理を運ぶ仕事。

だから色々と……あれ?

運ぶ練習はしなくていいの?

学んだのは、お客様から注文を聞いて後ろに伝え、代金のやり取り。

私たちがお金に触っていいの?

「小銭を盗んで追い出されたい人がいるの?」

いるわけがない。

勉強は厳しいけど、ポーラさんのところにいれば食事と寝床の心配は無いのだ。

お給金も十分に貰っている。

私たちが不安だろうと、ポーラさんが日払いにしてくれた。

十日も過ぎると、持ってるのが怖くなってポーラさんに預かってもらうことになったけど。

私たちの働く場所に案内してもらった。

驚いた。

まず、場所。

私たちが寝床にしていた資材置き場だった場所。

そこに大きな建物……屋根があると言ったほうが良いのかな?

男の子たちが大きな建設に関わっているって話を聞いたけど、ここのことだったかな。

そこが全部、ポーラさんの旦那様のお店。

私たち、ここで働くの?

そうみたい。

建物の中に入っても、暗くない。

明かり取り窓もあるけど……窓が無い所が明るい。

あれって魔法の光なのかな?

内装が運び込まれている。

できたばかりのテーブルに椅子。

大量の食器。

この板は?

あ、この板に料理を載せて運ぶのね。

運ぶ練習はしてないけど、大丈夫かな。

……

お客様が自分で運ぶの?

お揃いのエプロンを付けて、私たちは働く。

カウンターに並び、お客様の注文を聞いて後ろに伝え、代金をやり取りする。

練習通りに。

失敗はまだしていない。

しかし、驚いた。

お客様がカウンターに注文しに来て、そのまま料理を持って席に座るなんて。

こんなお店あったの?

すごく変に思ったけど、ポーラさんに屋台が大きくなっただけよって言われて納得した。

大きいお店だけど、確かにやっていることは屋台と同じだ。

なるほど。

凄いことを考えるな。

でも、そうでもしなきゃ対応できないか。

なにせお客様が凄い数だ。

街中から人が来たみたいだ。

少し前に、私たちだけじゃ人数が足りないかもって追加で二十人ほどが雇われた。

その時はさすがに多すぎじゃないって思ったけど、それじゃ足りなかった。

追加でさらに雇われ、今では二百人ぐらいになってる。

私たちのお世話をしていたゴールディさんも、手伝いに呼ばれたぐらいだ。

まあ、その混雑も理解できる。

なにせポーラさんと旦那様の作っている料理。

カレー。

お店がオープンする前に何度か食べさせてもらったけど、本当に美味しい。

最初に食べた時は辛いって思ったけど、なぜか次の一口が欲しくなった。

ライスっていう変わった食べ物も凄く美味しい。

でも、このライスは貴重らしく、特別なお客様用になっちゃった。

一般のお客様はパンと一緒に食べてもらう。

それでも十分に美味しいし、一杯がなんと中銅貨五枚という値段。

お客様がひっきりなしにやってきている。

おっと、いけない。

私も頑張らないと。

私を含めた二百人は、雇われた時期がちょっとずつだけど違うので、全員がまだ同じことはできない。

ポーラさんは、全員が同じことができるようになってもらうって言ってた。

でも今はまだ固定で仕事を回している。

仕事は、カウンターで注文を受ける係、厨房から料理をカウンターに運ぶ係、テーブルの上の食器を回収する係、回収した食器を洗う係、注文の列を整理する係と分かれている。

お揃いのエプロンはお客様と区別するために全員が付けているけど、実はカウンターで注文を受ける係はお揃いの制服を着ることになっている。

貴族様のお屋敷で働くメイド服をちょっと可愛くアレンジしたような服。

みんなは、それを着たくて頑張っている。

カウンターで注文を受ける係である私は、それを着てちょっと優越感。

でも、その優越感は七日に一度、無くなる。

ポーラさんとその旦那様は、なぜか私たちに連続で七日以上働かせない。

六日働いたら一日休むように言われている。

でも、休んだ日でもお給料をくれる。

どうしてなんだろうって思ったら、村長の命令らしい。

村長はポーラさんや旦那様の雇い主。

偉い人。

村長の命令なら仕方が無い。

私は嫌々、その日を休んでいた。

でも、解決した。

お店の中にある遊戯エリアを見張る仕事ができたからだ。

遊戯エリアにあるミニボウリングは無料。

だからここでの仕事はお金にならない。

つまり、働いていないのと一緒という理屈だ。

ちょっと強引だけど、私はそう言ってポーラさんと旦那様を説得した。

私が説得したというより、私以外にも休むのが嫌な子が多かったからだろう。

私たちは六日、飲食エリアで働き、一日を遊戯エリアで働……遊ぶ。

「ミニボウリングのやり方を説明しますね。

まず、力任せに投げるのは駄目ですよ」

本当に良い職場だ。

ただ、まったく不満が無いワケでもない。

それは朝の朝礼。

「おはようございます。

まず報告ですが、昨日は店内で二件の喧嘩がありました。

ゴールディさんが早急に対処してくれましたが、貴方たちは決して自分たちだけで解決しようとしないように。

街から派遣されている警備の方々を頼ってください。

怪我は絶対に駄目です」

「はい」

「それと今日は二人、風邪でお休みです。

シフトが調整されているので、各自再確認をお願いします」

「はい」

「体調が悪い状態で仕事をするのは、ありがたいですが駄目です。

素直に申告してください」

「……」

「返事は?」

「は、はい」

「では、本日の声出し!

カウンター係、一番。

前に!」

「はい!

……いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいませ!」

「かしこまりました!」

「かしこまりました!」

整列し、旦那様の挨拶と報告を聞き、声を出すことに不満はない。

不満があるのは旦那様の最後の締めの言葉。

「では、今日も一日、村長のために働くぞっ!」

私はポーラさんのために働きたい。

後日。

村長が来て、その凄さを知った。

うん、色々と納得した。

●通貨

小銅貨100枚=中銅貨10枚=大銅貨1枚

大銅貨100枚=銀貨1枚

銀貨100枚=金貨1枚

●日本通貨換算イメージ(厳密には物価が違います)

小銅貨 =        10円/十円

中銅貨 =       100円/百円

大銅貨 =     1,000円/千円

銀貨  =   100,000円/十万円

金貨  =10,000,000円/一千万円

●シャシャートの街の物価

パン/食パンみたいなの     =中銅貨1枚   =100円

屋台の食事 串一本など     =中銅貨1~3枚 =100~300円ぐらい

お酒/水で薄めたヤツ      =中銅貨1枚   =100円から

一般人の外での昼食/ランチ代  =中銅貨3~7枚 =300~700円ぐらい

一般人の外での夕食/ディナー代 =中銅貨5~10枚=500~1000円ぐらい

裏路地生活者の日収       =中銅貨0~2枚

一般人/男性労働者 の日収   =中銅貨5~30枚

カレー/基本料金        =中銅貨5枚

ミニボウリング代        =無料

武闘会の優勝賞金/年一の大会  =金貨10枚/一億円

武闘会の優勝賞金/月一の大会  =銀貨20枚/二百万円

武闘会の参加費/年一、月一同じ =大銅貨10枚/一万円

武闘会の見学料/年一、月一同じ =無料

武闘会のギャンブル/一口    =大銅貨1枚