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大樹の村の村長

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大樹の村の村長

「すみません。

ヒラクと申します。

マイケルさんは 居 ( お ) られますか?」

俺は丁寧に頭を下げて、お店の者に尋ねた。

「すまないが、ちょっと待っててくれ。

聞いてくる」

お店の者は奥へと向かった。

俺は横にいるガルフに聞く。

「ここでいいんだよな?」

「ああ。

前に来た時、ここに案内された」

今のガルフは、頭に布を巻き、マントで身を隠している。

なんでも前にこの街に来た時に武闘会で優勝。

かなり有名になっているそうだ。

その辺りを警戒していなかったので、街に入った瞬間にガルフは住民に取り囲まれて揉みくちゃにされ、一時の撤退を余儀なくされた。

凄い人気だったな。

まあ、勝負しろだ、良い商売がありますよだの勧誘も多かったが……

改めて街に入る時、ガルフは今の格好になった。

怪しさ満点だが、先ほどのような騒ぎにはなっていない。

なぜだろうと思っていたら、似たような格好の者がそれなりにいた。

冒険者らしい。

なるほど。

「おーい。

すまないが、やっぱりいないみたいだ」

お店の人は、探してくれたようだがいないとのこと。

マイケルさん、商売を手広くやっているらしいから別の店にいるのかな?

仕方が無い。

時間を改めるか。

俺は大樹の村から離れ、シャシャートの街に来ていた。

目的はマルコスとポーラに任せたお店に、追加の食材を運ぶためだ。

少し前、始祖さんがお店の話を聞いて、シャシャートの街に行ったそうだ。

マルコスもポーラも元気でやっているらしい。

ただ、様子を教えてもらったのだけど、俺の想定と大きく違っていたので困惑した。

お店が繁盛しているのは良い話だけど、凄い数の従業員って……

俺が考えているよりもお店をやるのが大変なのだろうか。

まあ、機械化されていないからな。

魔法がある世界だけど、誰でも使えるワケじゃない。

なにをするにも手動、人力と思えば人数が必要になるか。

シャシャートの街に行った始祖さんはマルコスからの手紙を預かっており、内容は追加の食材を送ってほしいとのことだった。

前々から様子を見に行かなきゃいけないと思っていたので、ちょうど良いタイミングと俺はお出掛けの準備。

始祖さんが送ってくれるので、旅の準備よりも追加の食材の準備のほうが大変だった。

同行者は不要と思ったのだが、ルーたちが絶対に必要と言うので受け入れる。

しかし、シャシャートの街は普通の港町だろ?

安全じゃないのか?

あ、周囲には魔物が出るのね。

なるほど。

同行者を決める。

転移魔法で送ってくれる始祖さんは当然ながら参加。

荷物運搬要員として……二村のミノタウロスたちが六人。

荷車を三台、引っ張ったり押したりしてもらう。

その護衛と荷物の積み下ろしの手伝いに、リザードマンが六人。

これで良いかと思ったら、俺の護衛がいないと指摘された。

必要ないと言いかけたが、考えてみれば俺はこの世界に来て他の街や村に行ったことはない。

行ったことがあるとすれば……北のダンジョンと太陽城ぐらいか?

後は全部、自分で作った場所だ。

これまで行こうとも思わなかったからな。

ある意味、人里初心者。

護衛はいらないけど、案内人は欲しい。

そこで条件、シャシャートの街に行ったことがある人。

フラウ、ラスティ、ガルフ、リザードマンが二人と文官娘衆が四人。

ルーやティアが行ったことがあると思っていたが、無いそうだ。

「行ったことがあるかもしれないけど、街の名前とか気にしたことがないから」

「そうですね。

たぶん……一回ぐらいは行ったことがあるかもしれませんが……自信がありません」

フラウとラスティ、リザードマンの二人は、マイケルさんに作物を売りに行った時だな。

他にもリザードマンが同行していたはずだが……ミノタウロスたちの護衛役のほうにいるのね。

よろしく。

ガルフは一人で、冒険者登録をしに行ったらしい。

文官娘衆の四人は、小さい時にシャシャートの街に買い物に行ったことが何度かあるそうだ。

この中で、シャシャートの街を自力で案内できる者がガルフだけだったので、自動的にガルフが俺の護衛に決定。

手間を掛けさせて申し訳ない。

俺、ガルフ、始祖さん、ミノタウロス族六人、リザードマン六人で移動を開始。

護衛が少ないとの声もあったが、人の住む街に行くのだ。

あまり子供扱いしないでほしい。

始祖さんの転移魔法でシャシャートの街の近くに移動し、俺とガルフはマイケルさんに挨拶に向かい。

他の者は始祖さんの案内でお店のほうに荷物を運んでもらっているのだが……

しまった。

マイケルさんに会えると思っていたので、お店の場所を始祖さんから聞いていない。

……

子供以下か、俺は。

「とりあえず、ガルフが案内できる場所をうろついてみるか」

出発。

その前に。

「マイケルさんに手紙を渡してください」

「え?」

驚かれた。

「ガルフ、手紙を預けるのは普通だよな」

「普通のことだと思う」

よかった。

何か失敗したのかと思った。

でも、一応は確認しておくか。

「ここってゴロウン商会ですよね」

「ええ、そうです」

「では、間違いないのでこの手紙をお願いします」

手紙は来る前にルーやティアたちが頭を寄せて書いたものだ。

内容は知らないが、まあマルコスとポーラのお店をよろしくってことかな。

俺は戸惑っているお店の人に手紙を渡し、街を散策した。

思ったより発展している。

それが俺の感想。

道には石畳が敷かれ、そこを結構な頻度で馬車や荷車が走っている。

港町なので物流の拠点になっているのだろう。

人も多く、活気もある。

家は基本的には石造り、レンガ作りで二階建て、三階建て。

四階建てが一番高いかな。

ガルフに言わせると、高い場所の部屋は安いらしい。

なぜかと思ったら、トイレや水場が一階にしかないからだ。

なるほど。

エレベーターとかもないから、階段での移動も大変か。

前に来ていただけあって、ガルフの案内は的確だ。

ただ、実務一辺倒過ぎる気もする。

宿、安い飯屋、高い飯屋、武器屋、防具屋、道具屋、訓練場……

この辺りはわからないでもないが、俺を冒険者ギルドに連れていってどうする気だ?

剣と魔法で冒険生活に憧れがないわけではないが、自分にできるとは思わない。

なんだかんだと畑を耕してきたが、俺は農業が向いていると思う。

ただ、冒険者への依頼の仕方などがちょっと勉強できた。

ところでガルフ。

俺が受付のお兄さんから説明を受けている間に、何回試合をやっているんだ?

俺の案内……護衛の仕事、忘れてないよな。

「向こうが仕掛けてくるんだよ。

俺は悪くない」

俺はガルフとぶらぶら街を練り歩いた。

それなりに歩いたつもりだが、マルコスとポーラの店は見つからないし、見てない場所も多い。

「市場がどこの辺りにあるかわかるか?

値段とかを知りたい」

「あー、それなら五~六箇所ぐらいあるかな。

南にあるのが一番大きいけど、小売はしてないかな」

「じゃあ、次に大きいのは?」

「北。

ここから見えるだろ。

あのでっかい建物」

「あれが市場か?」

「あれは闘技場。

その手前にあったハズだ」

「よし、そこに行ってみよう。

これを食べ終わったらな」

「おう」

俺とガルフは、屋台を見つけては買って食べていた。

市場調査だ。

マルコスとポーラたちもやっていると思うが、何事も自分で確認しないといけない。

価格は低額……量は屋台によって千差万別だな。

味に関してはノーコメント。

マルコスとポーラの店が流行っている理由が少しわかった。

さて、次の屋台だと思ったところで声を掛けられた。

何かの売り込みかと思ったら違った。

見覚えのある顔。

マイケルさんへの手紙を預けたゴロウン商会のお店の人だ。

「み、見つけた、良かった」

「え?」

お店の人は、いきなり首に掛けていた笛を吹いた後、俺の前で頭を下げた。

「大変失礼しました。

ヒラク様ですね。

会頭が今、こちらに向かっております」

は?

手紙がマイケルさんに渡ったのかな?

それは良いとして、こちらに向かって?

物凄い勢いの馬車が駆けてきたと思ったら急停車。

その馬車からマイケルさんが転がるように出てきた。

「そ、村長さん。

良かった。

本当に良かった」

「なにかあったのか?」

あまりの慌て方に、不測の事態でも起きたのかと心配になる。

「あ、いえ、ごほん。

まずは謝罪を」

マイケルさんが合図を送ると、俺を呼び止めたお店の人が再び頭を下げた。

「ヒラク様とは存じ上げず、大変無礼な真似。

まことに申し訳ありません」

その横で、マイケルさんも頭を下げる。

いやいや、無礼な真似って?

俺はガルフにどういうことって視線を送ったが、俺も知らないと返された。

「実は、来ていただいた店に私はずっといまして」

マイケルさんの説明に、頭を下げているお店の人が続ける。

「言い訳になりますが、会頭のことをマイケルさんと呼ぶ方は親族ぐらいでして……」

ここでようやく俺は理解した。

お店の人は会頭のマイケルさんではなく、従業員のマイケルを訪ねたと思ったのだ。

そこでマイケルなる人物がいれば、そこで勘違いに気付けたのだが、そんな名前の従業員はいないので、いないと伝えてしまった。

マイケルさんとしては、居留守を使った形になる。

なるほど。

無礼な真似だ。

だが……

「こちらも、連絡もせずに訪ねましたので」

アポイントメントを取らずに訪ねたこっちの落ち度のほうが酷いと思う。

なので気にしないでほしい。

そこのお店の人も、気にしなくていいから。

「あ、ありがとうございます」

「マイケルさん。

彼は勘違いしたけど、ちゃんと対応してくれたからあまり怒らないでやってほしい」

「わかりました」

これでこの件は終わり。

俺はマイケルさんにお店に案内してほしいと伝えた。

「馬車で移動します?」

「遠いのか?」

「いえ、もう少し先ですが……」

「なら街を見て歩きたい」

「わかりました」

マイケルさんは御者に指示して馬車を帰し、俺を案内してくれる。

先ほどのお店の人は帰ったけど、別の四人が同行した。

マイケルさんが紹介してくれる。

「息子のマーロンです」

「ヒラク様の噂は父より聞いております。

今後とも、ゴロウン商会をよろしくお願いします」

真面目な三十代後半ぐらいの男性で、活動力に溢れている感じがする。

ゴロウン商会の次期会頭らしい。

他に会計担当のティト。

仕入れ担当のランディ。

両方共、マイケルさんの甥にあたる人物らしい。

マーロンの従兄弟だな。

もう一人がミルフォード。

商会の戦闘隊長らしい。

外を出歩けば魔物や魔獣に襲われるのだから、護衛は必須。

普通の商会はその度に冒険者を雇うのだが、ゴロウン商会では永続雇用しているらしい。

その雇用された護衛をまとめている仕事だそうだ。

この四人も、俺を探して街中を歩いてくれたらしい。

お手数をお掛けして申し訳ない。

ミルフォードを先頭に、マイケルさん、俺、ガルフ、マーロン、ティト、ランディと続く。

それなりの年齢の男が一列で歩くのは少し恥ずかしい。

列を崩そうかと提案しようとしたところで、到着を告げられた。

……

でかい。

うん、でかい。

建物の最初の印象は、屋根のお化け?

二階建てぐらいの高さの屋根だが、内部は一階建て……広い。

なんだこの広さは?

凄いな。

奥も明るいから……明かり取り窓と、魔法の光か。

そしてその中央は人の山……

混雑している。

うん、パニック状態?

えーっと……まともに商売をしているように見えない。

怒号に悲鳴。

「マイケルさん、普段からここはこんな感じ?」

「いえ、普段はもっと静かなはずなのですが……」

……これはマズイな。

うちの店が原因じゃなかったら良いんだけど……

状況を把握したいが、把握できない。

「何か手があるのかな?」

「ん?」

始祖さんがいた。

そうか、先にここに来ていたのなら事情を知っているかも。

「原因は?」

「えーっと……切っ掛けは品切れかな」

「品切れ?」

「うん。

カレーが品切れちゃってね。

そこに私たちが追加の食材を運び込んで、作るから待ってほしいと宣言したら、こうなっちゃって」

うちの店が原因かぁ。

頭を抱えたいが、それどころじゃない。

うちが原因なら、なんとかしなきゃいけない。

「とりあえず……始祖さん、大きな音を立てられる?」

「大きな音?」

「爆発音みたいなヤツ。

本当に爆発させないでよ」

「あはは。

大丈夫、音だけね。

できるよ」

「俺の声を大きくするのは?」

「それも大丈夫」

「じゃあ、頼む」

「ここで?」

「うん。

マイケルさんたち、耳を塞いで後ろのほうに隠れてて。

ガルフ、俺が移動する時、道を作ってくれ。

武器は駄目だぞ。

暴力も。

相手はお客様だ」

俺の合図で、始祖さんが大きな爆発音を立てた。

ビリビリと建物が震える。

「動かないでその場にしゃがんでくださーい。

動くと怪我しますよー。

こちらの指示に従ってください」

始祖さんの魔法で大きくなった声が響く。

音にビックリしたのか、俺の近くの人から、ゆっくりとしゃがんでいってくれる。

ありがたい。

「はい、そのままそのまま。

ゆっくりとしゃがんでください。

慌てなくて良いですよー。

実は皆様に良い話があります。

聞かずに帰ると損しますよー」

しゃがむのに戸惑っている人もいるが、俺は声を掛け続ける。

そしてカウンター付近にいるミノタウロス族とリザードマン族を見つける。

お客がカウンターを飛び越えて中に入らないようにディフェンスしていたようだ。

ありがとう。

その後ろに多くの従業員とマルコスとポーラを見つけた。

無事なようだ。

俺は始祖さんとガルフに合図を送り、そのままマルコスたちの場所へ移動する。

しゃがんでいる人が邪魔だが、下手に立たせて移動させるとまた混乱が始まるので諦めて進む。

到着。

始祖さんに魔法を切ってもらい、全員の安否を確認する。

「村長、申し訳ありません」

「詳細は後で聞く。

とりあえず、俺の言ったことを立って復唱しろ」

俺は始祖さんにマルコスの声を大きくしてもらう。

「まず、自己紹……あ、店長代理のマルコスです」

復唱しろとは言ったけど……テンパっていたんだな。

「今回の混雑、混乱、大変申し訳ありません。

まずは周囲に怪我をされている方はいませんでしょうか?

いたら手を上げてお知らせください」

幸いなことにお客に怪我人はいないようだ。

良かった。

「現在、食材が切れてカレーの提供ができません。

しかし、先ほど追加の食材が届きました。

急いで作りますので、少々お待ちください。

そして……今回の騒動のお詫びに、本日提供するカレーはこれより全て無料と致します」

無料の宣言に、座っていた観客の一部が歓声を上げる。

「ただ、今回の混雑の対策もしなければなりません。

申し訳ありませんが、現在の列は全て解消いたします」

一旦、解散。

一時間後にお店を再開させる。

「本日は、ここにいない方が来られても無料に致します。

お友達をお誘いの上、改めてお越しください。

よろしくお願いします。

本日の混雑、誠に申し訳ありませんでした」

マルコスに頭を下げさせた後、従業員一同で頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

……

「では、後ろの方から順にお立ちください。

慌てずにゆっくりと……」

後は集団を 解 ( ほぐ ) していけば、混乱はなんとかなるだろう。

……

その間にしなければならないことは多い。

俺はリザードマン、ミノタウロスたちに指示を出す。

「悪いがお客様たちの誘導を頼む。

それと怪我をしている人がいたら捕まえてくれ」

さっき聞いたが、周囲の人が教えてくれるのは気絶している人や倒れている人だ。

腕が痛いや足が痛いは、個人が我慢していればわからない。

そういった人をそのまま帰しちゃいけない。

「ポーラ。

この辺りで治癒魔法が使える者はいるか?」

「村長。

それなら私がやろう」

始祖さんが手を挙げてくれた。

「悪い。

頼む」

今は遠慮している場合じゃない。

「それじゃあ、ポーラは従業員たちのほうを。

怪我しているのはいないな?」

従業員たちは、俺が想像しているよりも小さい女の子や男の子だった。

小学生や中学生ぐらいかな?

怪我はない。

我慢もしていないな?

よろしい。

ところで……ここってうちの店だけ?

他の店は?

ない。

そうなのか。

えーっと……

周辺のお店への謝罪をしなきゃと思ったがしなくて良いと。

では……

「清掃!

この騒動で色々と汚れた!

動ける者は清掃道具を持って、清掃を開始!」

現在、昼を少し過ぎたところ。

忙しい一日が始まったばかりだった。