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税とトラブル

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税とトラブル

シャシャートの街の税金は、大きく三つ。

人頭税と土地税、入港税。

人頭税は、この街に住む者全てに掛かる税金で、年齢に関係なく一人いくらの税金になる。

この税金の対象はシャシャートの街に家を持っている者で、旅人は対象外。

路上生活者は……対象外というか見逃されている。

去年の人頭税は、一人大銅貨六枚。

これを払うことで、シャシャートの街から様々なサービスを受けることができる。

そのサービス目当てで、人頭税を出し渋る者は少ない。

土地税は、土地の売買をする際に掛かる税で、購入者が支払うことになっている。

税率は時と場合によって変化するが、土地代の一割~二割というところ。

土地の所有者が代わったことを連絡する際に納めるのが慣例となっている。

最後に入港税。

これはシャシャートの街の港に寄航した船が支払う。

船の種類や大小に応じて細かく定められている。

以上となるのだが、気付いただろうか?

シャシャートの街では土地の売買や船を持っていない限りは、人頭税だけなのだ。

つまり、商売による儲けに税金は掛からない。

そんなことがあるのだろうか?

あるのだ。

大元の問題は、この世界の識字率の低さにある。

文字を読んだり書いたりするのは偉い人がすることで、他の者は別に読んだり書いたりする必要はない。

商人なら読み書きはできそうだが、それは必要に迫られる交易商人や大きなお店の店長、店員だけであって、小さな店の店長や店員、屋台の店主が読み書きできないのは普通だ。

そう、珍しくないのだ。

でもって、読み書きができない者が、毎日の売り上げの帳簿を作るだろうか?

答えは作らない。

帳簿を作っていないと、どれだけ儲けたか損したかわからない。

そんな状態のお店から税金をどのように取るというのだ。

土地税と入港税で街の運営費に問題ないので、役人も熱心に取ろうとは考えない。

だったら大きなお店は稼ぎ放題?

そう思われるかもしれないが、さすがにそうはいかない。

公平に取るわけじゃないので税の名は冠していないが、税金に近いものがある。

水道代、防災費、ゴミ処理代、下水利用代。

水道代。

この街に井戸は少なく、水は川の上流から水道を引いている。

その水道の維持管理費。

防災費。

街で火事が起きた場合、街の者たちで火を消す。

その際、被災した者の救済や、防火に尽力した者の治療代として使われる。

ゴミ処理代。

人が生活すればゴミが出る。

そのゴミの回収、処分をする者たちを雇う代金。

下水処理代。

街には下水が張り巡らされ、特定の場所にスライムを溜めたプールがあり、そこで浄化される。

その下水の維持管理費。

ちなみに、お金持ちの家などは各家庭で浄化してから、下水に流すのが嗜みとなっている。

この四つは、利用者を対象に代金として集められる。

こういったのは、街の運営費から出すべきじゃないかと思うが、代官様の言葉は簡単だった。

「では、行政の都合でその四つを止めても良いのか?」

行政はその四つに関しては手を出さないので、自分たちでなんとかしろということだ。

街の者たちは、下手に介入されるよりはマシと承諾した。

それが数百年前。

現在、その代金に寄付を合わせた額の大小で、シャシャートの街の商業ギルドの運営に関われるようになったりする。

商業ギルドの人は、この四つの代金の支払いと寄付に関してだった。

店の中に店を構えたことで、少々ややこしくなるので、なんとかしてほしいと。

「水道代、ゴミ処理代の二つは、利用した量で額が決められますから一括で支払うとして……」

「この店のトイレには浄化プールがありますから、下水利用代は変動しませんよね」

「問題は防災費かな」

「ええ、店の大小に関係なく定額ですから、店の中の店をどう判断するかですね」

「屋台は元から払ってないのだろ。

店の中に屋台を置いたからと、防災費を払わないと駄目なのか?」

「一応、その辺りを考えて火を使う店からは多く場所代をもらう予定だが」

俺の周りで商業ギルドの人、マイケルさん、マーロン、ティト、ランディが話し合う。

わかる人に任せよう。

いや、俺もある程度はわかるが慣例とか慣習がわからない。

マイケルさんから話を聞いただけだからな。

マイケルさんに、不当に高額でなければちゃんと払う旨は伝え、俺はミルフォードと二人で静かに待つ。

あ、ミルフォードは射的に戻った。

山エルフたちに的の動きや絵柄に関して色々と意見しているようだ。

俺もそっちに参加したいが、ここから離れるのは……

さすがに駄目だよな。

責任者だし。

仕方が無い。

長くなりそうだから、空いているテーブルを使わせてもらおう。

「最後に寄付に関してです」

あらかた話が終わった後、商業ギルドの人がこれが本題ですと真面目な顔をして俺に言った。

寄付と名付けられているが、要は商業ギルドへの協賛金だ。

一口、銀貨一枚と定められており、ある程度の大きさのお店は支払うことになっている。

これに関しては、シャシャートの街に店を出す話の時に聞いているので、驚く話ではない。

それをマイケルさんがインターセプトする。

「待ちたまえ。

開店初年度の寄付は免除されるのが慣例だろう」

「そうなのですが、すでに大きな利益を上げているようですので……」

「そうかもしれんが、だからと慣例外とするのは性急だ。

こちらから払うと言ったならともかく、要求するのは間違いではないか?」

「私もそう思いますが……すみません。

上の意向です。

できれば千口ぐらいお願いできないかと」

千口……銀貨千枚だから、中銅貨で百万枚?

「私を前に……上の意向かね?」

「はい。

上の意向です」

「なるほど」

商業ギルドの人とマイケルさんの間でわかりあったようだが、俺にはわからない。

マーロンに助けを求めた。

「ええと、今の商業ギルドは、ゴロウン商会に逆らいません。

商業ギルドの上層は父が派遣した部下たちで占めていますから」

昔のゴロウン商会はシャシャートの街の有力商会の一つだったが、今はシャシャートの街を代表する商会と言われている。

そのゴロウン商会が関わっているだろう、この店を相手に上の意向となると、商業ギルドよりも上の立場となる。

「街の代表……イフルス代官だったか? 彼の意向ということか?」

「いえ、イフルス代官はとても優秀な方です。

このような真似はしません。

この場合の上は……貴族ということでしょう」

「貴族」

そう言えば、ここは貴族社会だった。

つまり、どこかの貴族がうちの店に中銅貨百万枚払わせようとしているってことか。

……

どう考えても好意的には考えられない。

この商業ギルドの人も片棒を担いでいるわけか?

「あ、そ、その、彼は大丈夫です。

たぶん、脅されているのかと」

マーロンが商業ギルドの人の手元を見てほしいと言った。

この商業ギルドの人は、左の袖を右手で引っ張っていた。

何度も。

それが、商業ギルド内で使われるサインで助けてほしいとの意味らしい。

「今、ミルフォードが人手を集めに行ってますので」

え?

ミルフォードは射的の様子を……いつの間にかいなくなっている。

なるほど。

自然に席を離れ、助けを求めに行ったのか。

俺もハイエルフや山エルフに助けを求めたほうが良いだろうか?

そういえばガルフはどこに行った?

……

ガルフは店内で、誰かを取り押さえていた。

「マーロン。

あそこでガルフが取り押さえている人に見覚えはあるか?」

「え?

あれは……見覚えはありませんが、服装から貴族ではないかと」

だよな。

俺もそう思う。

商業ギルドの人も気付いた。

「……あの方です」

あの男が敵か。

俺はガルフに手を振って、取り押さえていた貴族を連れてきてもらった。

貴族を縄で縛って床に座らせた。

「愚か者どもが!

この私にこの仕打ち、ただで済むと思うなよ!」

「マイケルさん。

この場合、俺は彼を攻撃できるのか?」

「厳しいですね」

「では、賠償を請求するのは?」

「悪意はありますが、現状は寄付を求められただけで、実害はありませんから……」

「気分を害したというのは?」

「残念ながら……」

俺が彼に反撃することはできないようだ。

「私を無視するな!」

貴族は若い青年であった。

俺の感覚で二十代前。

黒い服を好み、頭の左右に羊の角を生やしている。

あ、頭の角は取り外せるようなのでファッションだな。

「こら、角を返せっ!

この私に無礼な真似は許されんぞ!」

小物だ。

どう見ても小物だ。

というか、貴族であるかどうかも怪しいと俺は見ている。

ただ、商業ギルドの人が言うには由緒ある血統の貴族だそうだ。

「アルバトロス子爵家の嫡男ですね。

魔王国に貴族登録されていますので、ちゃんとした貴族です」

貴族か……

正直、対応に困る。

俺が何かやって怒られる分には構わないが、マイケルさんたちに被害が行くのは困る。

店も開いたばかりだしな。

また、大樹の村に影響があっても困る。

「この件、なかったことにするのはどうだろう?」

日本人的な決着を提案してみたが、一蹴された。

「ふざけるなっ!

貴様らはもう終わりだ。

この私に逆らったのだからな!」

いや、別に逆らった覚えはないのだが。

ガルフが彼を捕まえたのも、食事を楽しんでいるお客を無理やりに 退 ( の ) かせたからで……

「うるさいっ!

私は貴族だぞ!

偉いんだぞ!」

彼の言い分にため息を 吐 ( つ ) きそうになる。

あ、マイケルさんたちは隠しもせずにため息を吐いている。

とりあえず、どうしたものかと誰か意見がありそうな人を捜す。

……

手を挙げていたのは始祖さん。

「連れてこようか?」

今までどこにいたのか。

「あの、連れてくるとは?」

商業ギルドの人が、始祖さんを誰か知らないだろうけど話を続けた。

態度から関係者と思ったんだろうな。

「立場が一番上の人」

「この場を収められる方ですか?

あ、代官様で?」

「彼より偉い人。

きっちりこの場を収めてくれるんじゃないかな」

誰のことだ?

大樹の村の者じゃないよな?

「おおっ。

それでは、お手数ですがよろしくお願いします」

「実はもう連れてきているんだ。

はい、後ろ」

「え?」

魔王が商業ギルドの人の後ろに立っていた。

「仕事中だったんだが……」

交渉とかチャチなものじゃない。

権威による暴力だった。

アルバトロス家嫡男の全面降伏。

彼の目的は、お金。

商業ギルドの職員を脅し、お金を儲けていそうなお店に寄付を強要。

お店が困った所に現れ、寄付を小額にさせることで謝礼を貰う手口だった。

「初めてやりました。

すみません。

出来心です。

許してください」

アルバトロス家嫡男は全力で謝罪するも、魔王は拒否。

「悪いがそうもいかん。

この店に関して、手出し無用の通達を出している。

手を出した者を無事に済ませれば、通達が甘く見られる」

俺の知らない所で、魔王に店は守られていたようだ。

「アルバトロス子爵にも罪を問う。

謝罪の言葉を考えておけ」

「ひっ、そ、そんなっ」

俺は口出しできない。

実は口を出そうとしたのだが、マイケルさんに止められた。

「魔王国の国民が多く見ている場で、魔王様に意見するのはマズいです」

確かにその通りだ。

俺の店が当事者ではあるが、ここは魔王の国だ。

「声を掛ける時は、陛下って呼んだほうが良いかな?」

「ははは。

魔王国では、魔王様で大丈夫ですよ」

それが敬称だそうだ。

その魔王様は、アルバトロス家嫡男の周囲を歩きながら罰を列挙している。

列挙しているけど、その一つでも十分な罰じゃないかな?

耐えられないと思うぞ。

魔王は何をやっているんだ?

いや、待っているのか。

時々、視線が始祖さんに送られている。

その視線を受け取る度、始祖さんはどうしようかなーって笑っている。

あ、俺の視線に気付いた。

「お待ちください」

始祖さんが手を挙げ、前に進んだ。

「むっ。

貴様はコーリン教の……」

「ははっ。

罪を犯した者を罰するのは当然。

なれどあまりに苛烈な罰では、苦しまずに死者の国に逃げてしまいます。

罰なれば、長く苦しめてこそではないでしょうか?」

「確かにな。

なにか手があるのか?」

「はい。

彼をシャシャートの街のコーリン教神殿にお預けください。

それが彼にとって長く苦しむ罰になると思います」

「ふむ……なるほど。

逃がすでないぞ」

「ははーっ」

始祖さんが頭を下げると、周囲で見ていた者たちが拍手した。

なんだろう。

演劇を観せられた気分だ。

原因は、始祖さんの大根芝居だろう。

魔王は良かったぞ。

威厳があった。

まあ、一件落着なのかな。

一番の被害者は、アルバトロス家嫡男に目を付けられた商業ギルドの人かな。

「隙があるから付け込まれるのです。

普段からしっかりしていれば、多少の脅しに屈しない者として滅多に手出しはされません」

マイケルさんは厳しい。

未遂とはいえ、商業ギルドの人にもなんらかのペナルティが科せられるらしい。

商業ギルドの人が一番の被害者じゃないとすると……

次はミルフォードによって集められた警備の者かな。

わざわざ走ってきたのにすでに終わっていた。

そのうえ、魔王がいてビックリと。

ご苦労様です。

無駄骨だったが、せっかく来てもらったのでカレーをご馳走する。

今後も何かお世話になるかもしれないしな。

ああ、魔王にも出そう。

今回は巻き込んで悪かった。

巻き込んだのは始祖さんだけど。

「ところで始祖さん。

彼をどうするんだ?」

「さあ、どうしようかな」

「え?」

「正直なところ、魔王も困っていたんだ。

許すわけにはいかない。

でも、厳しく罰するとアルバトロス家から恨まれる」

「そんなに影響力のある家なのか?」

「領地を持たない貴族だけど、各地に血縁だけはあってね」

面倒臭そうだ。

「まあ、半分コーリン教に預けることでこの件をウヤムヤにってことさ。

適当な時期に放り出すよ」

「それで良いのか?」

「当代の魔王の判断だからね。

逆らえないよ」

始祖さんは笑いながら言った。

一番の被害者は、ひょっとしたら彼を預かることになるシャシャートの街のコーリン教神殿なのかもしれない。