元四天王の一人
元四天王の一人
我の名はゲーテグルー……どうでもいい。
どうせ誰も覚えてくれない。
我は誰からもこう呼ばれる。
四天王の一人。
四天王を辞してからは、元四天王の一人や、先代四天王の一人と。
それもこれも四天王なる役職についてしまったが失策。
内政しか才のなかった我を見出してもらったのは感謝するが、その激務は酷いの一言では表現できない。
魔王様、政務関係がまるっきりだったからなぁ。
まあ、それも今ではいい思い出。
仕えていた魔王様が倒れた事で、四天王も解散。
新たな魔王様と新たな四天王の元に魔王国はまとまり、力をつけている。
我は元四天王の名と共に、まったりと領地経営をしつつ今後の魔王国を見守ればいい。
そう願っていた。
ここ数年。
魔王国の上層部では特号案件が飛び交っている。
特号案件は魔王と四天王のみが関われる案件の事だ。
我が四天王であった頃は、勇者の暗殺関連がそれだった。
今代の魔王も、勇者に苦労させられているらしい。
ひょっとすれば、昔の話でも聞きに来るかもしれないな。
昔の話をまとめておいてやろうか。
などと考えていたのだが、どうも様子がおかしい。
……
魔王や四天王が特号案件で利を得ている様子が 窺 ( うかが ) える。
まさか、勇者と組んだのか?
それは裏切りだぞ。
魔王国は人間とは手を組んでも、勇者とは手を組まぬ。
あんな理不尽な存在を許してはならんのだ。
怒鳴りに行くべきか?
いや、慌てるな。
我の思い込みかもしれん。
ちゃんと調べてからだ。
調べても何も出てこない。
さすがは現役組。
我も衰えてしまったという事だろうか……
ちょっとショック。
特号案件で、シャシャートの街に何かがあるのがわかった。
我が密偵部隊では、それが精一杯。
仕方なく、我も自らシャシャートの街に出向き、調査した。
……
わからん。
全然、わからん。
ここで何かやっているのか?
代官は口を割らん。
いや、元から期待はしていない。
ここの代官は優秀だからな。
ヤツから情報を取れるとは思っていない。
しかし、隙がありそうなヤツの息子も……駄目とは。
勇者はまだこの街に来ていないようだし……
裏社会の昔馴染みと話をしても、情報らしい情報は手に入らなかった。
ふーむ。
ともかく、今日は切り上げて少し早いが夕食にしよう。
この時間ならまだカレーは残っているだろう。
昨日は品切れで悔しい思いをした。
ここのカレーはマジ美味い。
あ、そっちの香草に包まれた羊肉も良いな。
酒も美味いし、繁盛するのも良くわかる。
街一つを屋根の下に収める事で、天候に左右されずに商売ができるのも良いな。
我が四天王の時に気付いていれば……
悔しい。
夕食後はボウリングを少し楽しみ、宿に戻った。
体を動かした後は、よく寝られる。
特号案件に関して、心配していたのは我だけでなかった。
昔の仲間、元四天王の一人、パルアネンが我を訪ねてきた。
パルアネンの用件はシンプルで、調べてもわからないなら魔王に聞きに行こうというもの。
素直に教えてくれるかどうかわからんが、我らが心配している事を伝えるだけでも意味があると。
なるほどと思ったので、一緒に行く事になった。
我とパルアネンはなぜか死の森のど真ん中にある村にいた。
説明するより見た方が早いと言われたからだ。
なんでも、我とパルアネンが来たのは凄くタイミングが良かったらしい。
そうか。
そうかもしれないが……もう少し先達に遠慮というか配慮をすべきではないかな?
着替えを用意する気配りが出来るなら、もっと他の気配りができたんじゃないかな?
よーし、落ち着け、落ち着こう。
一点ずついこう。
まず……あれインフェルノウルフだよな?
一頭で街を滅ぼせる?
四~五頭ぐらい揃ったら、大陸災害とか言われる……
何頭いるの?
軽く数えても百を超えているんだけど?
それがなんで犬のように従順なの?
腹を見せて撫でられているけど?
でもって、あっちはデーモンスパイダーだよな。
ずいぶんと子沢山で……
それがなぜ隊列を組んで行進しているんだ?
さらに、あそこにいるのは人間の格好をしているけど竜族だよな?
暗黒竜のギラルって紹介されたんだけど?
でもって、ドースって北の大陸の竜王だよな。
ライメイレンって、南の大陸の台風竜?
傍にいる悪魔族って、グッチ様じゃない?
昔、一回だけあった事があるよ。
ブルガ、スティファノまでいるし……
世界征服の相談でもする予定なのかな?
吸血姫と殲滅天使が仲良くお茶をしていて、皆殺し天使の三人組が上空を飛び回っている……
コーリン教の宗主や悪辣フーシュがいるのが可愛いレベルだ。
あ、横にいるのは聖女?
ここに初めて来たと……一緒ですね。
着替えは何回しました?
二回?
ははは、我は四回ですよ。
あと二回、頑張ってください。
ガーレット王国の巫女、キアービットがなぜいる?
巫女は辞めた?
マジで?
今、巫女は誰がやってる?
……聞いた事がない無名天使だ。
ガーレット王国、大丈夫か?
ノーマークだった。
ハイエルフ、エルダードワーフ、リザードマン、鬼人族……
うん、凶暴なヤツらだよな。
ミノタウロス族とかケンタウロス族、獣人族など見知った種族は良いなぁ。
え?
彼がシャシャートの街で武神とか言われてる戦士?
じゃあ、ここで一番強い……違うんですね。
下から数えた方が早い……頑張ってください。
巨人族……おおう、もう。
ラミア族……はぁ。
スライム……癒される。
ずっと抱きしめていたい。
馬、いいなぁ。
あー……落ち着く。
この村の中心人物、村長。
この死の森のど真ん中に、たった一人で村を作った男。
インフェルノウルフの腹を撫で、デーモンスパイダーを肩に乗せて平然としている。
竜族との間に子まで儲けたらしい。
あ、子供は可愛いなー。
何人か、英雄の才を隠そうともしないのがいるけど……
ここで考えをまとめながら、我は昔に読んだ古い文献を思い出す。
太古、この死の森に魔神が封じられたと。
その死の森のど真ん中に村を作った男。
周囲の状況。
……
わかった。
彼は神だ。
魔神だ。
だから、こうまで皆が従っているのだ。
魔神は魔族の神でもある。
つまり、我らが神。
そう思えば、この村はなんだか神域っぽい感じもする。
近くで神の息吹を感じられるような。
あ、猫ちゃん。
ちょっと向こうに行ってね。
今、考えをまとめているから。
……
この村には幸いな事に、我とパルアネンの孫娘が働いている。
しかも、この村の支配者の寵愛を受けられる可能性があると……
ビーゼルの娘はすでにだと?
先を越されたか!
いや、そうじゃない。
めでたい。
魔族との間に子を儲けられたのだ。
おおっ。
孫娘よ。
我に出来る支援ならなんでもする!
頑張るのだぞ。
我の名はゲーテグルーテラーテセポネスト。
どうせ覚えてもらえないだろうが、本日より魔神の信奉者の一人である。