ヨウコ
ヨウコ
我は九尾狐。
この世に生れ落ちてから何百年。
自由に生きている。
我を繋ぐものはない。
そう思っていた。
百年ほど前、戯れに子を作ってみた。
子は我の半身であるはずなのだが、それほど大事とは思えなかった。
されど、その場に捨てるほど冷酷にもなれず、近くの人間の村に世話を任せた。
代価は我の加護。
過分すぎる報酬であろう。
それから年に一回ぐらいの間隔で我が子に会うのが習慣になった。
面倒ではあったが、悪い気分ではない。
世話を任せた村が、我と子を崇めるようになっていたのもあるかもしれない。
状況が変わったのは今年。
世話を任せた村が滅んでいた。
たった一年で?
ありえぬ。
我の加護はどうなった?
打ち破られたというのか。
そして、我が子はどうなった!
そう思った時の心の底から 滲 ( にじ ) み出る黒い感情。
気付けば不死人の王と殴り合っていた。
不死人の王と休戦。
知った顔であったからの。
向こうは我を忘れているようであるが……
ああ、我を忘れていたのは我か。
はははっ。
おもしろくない。
我が子を攫った者がおることが判明。
不死人の王が奪還を約束したので、我は村のあった場所に戻って留まる。
……
あれほど栄えていた村が、こうもあっけなく……
不死人の話では、勇者の仕業とか。
まったく、碌なことをせん。
そして、許せぬ。
世を騒がすだけなら見逃すが、我が加護を破り、我が庇護下にあった者に被害を及ぼすとは……
八つ裂きにしても気がすまぬ。
永遠の煉獄にて苦しませてやる。
ああ、いかんいかん。
また黒い感情に心を持っていかれそうになった。
早 ( はよ ) うせい不死人の王。
我はいつまで自分を保てるかわからぬぞ。
不死人の王は約束を守った。
うむ。
見事なり。
我が子、ヒトエよ。
無事であったか?
怖い思いはせなんだか?
そうかそうか。
世話になった者達がおるのだな。
うむ、我からも礼をしよう。
すぐに?
そうしたいが……不死人の王が死にかけておる。
不死人だから死なぬだろうが、これ以上無理をさせると復活に時間が掛かる。
不死人の王。
明日まで休め。
それまで我が守ってやろう。
「我が娘を保護していただき、感謝する」
不死人の王に案内されたのは、とある村。
ここは……死の森か。
恐ろしい場所に 居 ( きょ ) を構える者がいたものだ。
住人は……不死人、羽付き、角付き、耳長にトカゲ、なかなかの猛者揃い。
角狼や蜘蛛も飼っておるのか。
酔狂なことだ。
なれど、恐ろしきは竜族。
門番竜に……災厄か。
災厄とは何度か殴り合ったな。
ん?
懐かしき顔がおる。
古き悪魔族の者達。
一緒に暴れたことを覚えておるか?
ははは。
あの時は一国を滅ぼしたな。
いや、大陸を沈めたのだったか?
盛り過ぎか?
沈めたのは半分ぐらいだったな。
いかんいかん。
久しぶりの宴に浮かれておる。
この美味い酒がいかん。
もう一杯。
食い物も美味いが、酒がいい。
おおっと、我が子は……
なんじゃ、子猫と戯れておるのか?
よかろう。
好きにするがよい。
すまぬが酒をもう一杯。
あの大きな器で貰おうか。
宴が続いたが、いつかは終わりがくるもの。
不死人の王が目を覚ましたので、別れの時が訪れた。
なれど、我はまだ帰れん。
このまま帰れば、我はもてなされただけではないか。
我が子が世話になった礼をせねばならぬ。
ここに来てから何をやるかを決めればよいと思っていたのだが、村はそれなりに充実しておる。
となれば、我の加護か?
いや、我の加護は勇者によって破られた。
勇者に対するために……
我がここに住み、守ってやるのはどうだ。
おお、悪くない考えではなかろうか。
そう伝えると、不死人の王に連れ出された。
なんぞ?
え?
我が勘違いをしている?
どういうことぞ?
あの村長?
えーっと……おお、よく我が子と猫の子をあやしていた者か。
多少の神気は感じるが……
ただの人であろう。
「それが勘違い。
彼は君より強いよ」
「 戯言 ( ざれごと ) を」
「そうかい。
じゃあ、賭けをしよう」
「賭けとな?」
村長とやりあい、我が勝てば我の勝ち。
村長が勝てば、不死人の王の勝ち。
勝った者が、負けた者に一つ、なんでも命令できる。
愚かなことを。
目に見えた勝敗ではないか。
……
不死人の王は、なぜ哀れみの目で我をみる。
まさか、本当にあの村長が強いのか?
……油断はせぬ。
油断はせぬが、我の直感は大丈夫だと告げている。
ふっ。
児戯に付き合ってやろう。
村長と五十メートルほど離れて対峙した。
やはり、我の直感は何も反応せん。
我がその気なれば、この程度の距離は無いも同然。
即座に殺せる弱き者よ。
それに、村長は我を攻撃するのを嫌がっている。
そうであろうな。
自分の同種を殺せるタイプにみえん。
そのことを好ましく思うが、頼りなくもある。
なれど……このままでは賭けが成立せん。
我は獣の姿に戻る。
これで武器を向けやすくなったであろう。
……
なんぞ!
急に?
この場にいることに対する後悔。
恐怖。
逃げろと叫ぶ直感。
わ、我は何と対峙しておる。
ただの人間ではないのか。
この圧力は……
その槍はなんだ。
どこから出した。
ええい、 呆 ( ほう ) けるな!
守りを堅める!
槍ゆえに物理攻撃。
対物理障壁を十八層。
油断はせぬ。
魔法対策として各属性の最上位を二十二層。
合計四十層の多重障壁層。
我の持つ最強の盾。
この盾なれば、竜族のブレスすら防ぐ。
さらに、我自身は常に七層の万能障壁に包まれておる。
何を恐れることがあるか。
落ち着け。
そして攻勢に回るのだ。
我が最大の攻撃を……
我が見たのは、村長の視線が我の顔から足に移ったこと。
なぜと疑問に思う暇すらなかった。
村長が投擲した槍は、我の持つ最強の盾を打ち砕き、我の右足を吹き飛ばした。
なっ……
しかし、尻尾に溜めた魔力を使い、吹き飛ばされた右足を超再生。
その攻撃には驚いたが、唯一の武器を投げたのは愚かなりっ!
そして、我の顔を狙わなかったのを後悔すると良い!
我が見たのは、次の槍を構える村長。
……
ひょっとして、その槍って何本も出せるのかな?
我は頭を下げた。
生まれて初めてのことだと思う。
許しを請うのは。
いやいや、村に悪意なんてない。
あれは村のことを考えての提案。
子を助けてもらったのに、酷いことをしようとは思わぬ。
この通りだ。
言葉を間違えたことも謝る。
我の守りがいらぬほど強き者がおるとは、考えもしなかった。
我の無礼を許してほしい。
不死人の王、お主からも。
ほれ、我を庇うのだ。
賭けの支払い?
わかってる。
忘れてない。
だから頼む。
結論、村長は話のわかる男である。
ふう。
我は人の姿に戻り、不死人の王に案内されて村に戻る。
いやいや、本当に申し訳……あれ?
なんだ?
この我を封じる糸は?
切れぬ?
え?
まさか……
悲鳴を上げかけた。
ちょ、え、な、なんで?
蜘蛛の女王が……
しかも怒ってらっしゃる。
村にあるダンジョンに連れ込まれた後のことは語りたくない。
尻尾に蓄えた魔力の大半を使ってしまったことと、しばらく動けないことだけ報告しておく。
あと、群れた角狼。
あれ、ダメ。
反則。