養殖池とプール
養殖池とプール
エビの養殖池を整備しながら魔法の練習をしてみる。
子猫やエビだって使えるのだ。
俺にだって出来るはず。
前にルーに教わって、才能がないと評されたけど……
要はやる気だ!
……
決して、魔法が使える子猫やエビに嫉妬したわけではない。
周囲に誰もいないことを確認した後、精神を集中。
ん?
……おおっ!
ち、力を感じる。
これは、いけそうな気がする!
俺はルーに教わった魔法の呪文を唱えた。
「我が前に 顕現 ( けんげん ) し、敵を射よ! 炎の矢 ( ファイヤーアロー ) !」
……
…………
呪文、間違えたかな?
久しぶりだったし。
ははは。
木陰から、数頭のクロの子供たちがこっちを見ているのに気付いた。
いつの間にって……まあ、俺が養殖池を整備する為に森に入ったのだから、何頭か一緒に来ているか。
俺が視線を送ると、さっと顔を横に向けてくれる。
……
心が痛いから、今日の魔法の練習はここまでにしよう。
養殖池のほうをしっかりしないとな。
ため池から水を引くが、引くだけでは 溢 ( あふ ) れてしまう。
川への排水を考える。
竹を並べた柵を三重に作り、エビの逃走を防ぐ。
超ちっちゃいのは逃げてしまうかもしれないけど、その辺りは許容範囲。
池の外周部に丸太を横にした柵を並べ……完成。
当面はこれで様子をみよう。
水とエビを入れる前に……
自分で入ってみる。
池の広さは二十五メートル四方。
深さは色々と悩んだけど、一メートルぐらいにした。
浅すぎると、子猫みたいにちょっかいをかけるのが出てくるからな。
エビにストレスを与えないことからも、これぐらいの深さはいるだろう。
ただ、池の底は五十センチぐらいの仕切りがあり、それで一メートル四方の升目を作っている。
池の水を半分抜けば、一メートル四方の小さな池の集まりになるという工夫。
しかし、その工夫で歩きにくい。
足を打つ。
だから無理して入らないように。
丸太柵の上にいるクロの子供たちに注意。
そう寂しそうな顔をしないでくれ。
わかった。
すぐに出るよ。
そして水門を開放したら、プールに行こう。
暑いしな。
今年もプールは大盛況だ。
鬼人族メイドたちの屋台にも行列が出来ている。
カキ氷と……肉煮込み?
アツアツだな。
プールに入った後でもらおう。
……
流れるプールに、ティアのゴーレムが入っているのはなんだ?
二メートルぐらいのゴーレムが五体……泳がず、並んで歩いているだけだが……
ああ、流れを作っているのか。
人数が多いと、どうしても流れが 澱 ( よど ) むからな。
しかし、流れるプールに入っている者を追い立てているようにも見える。
まあ、見えるだけだから問題はないか。
俺の水着はオーソドックスなトランクスタイプ。
ザブトンが作ってくれた。
水着といっても、 撥水 ( はっすい ) 性が多少ある服という感じで、メインの機能は水に入っても透けないことと、身体にピッタリとくっつかないこと。
大事な部分が見えてしまうのは恥ずかしいからな。
プール近くの小屋で、そんな水着に着替える。
そしてプール近くの小さなプールに入る。
小さなプールは二つあり、一つ目は泳ぐプールではなく、身体の汚れを落とすためのプール。
二つ目は、消毒プール。
ルーに相談し、消毒液っぽいものを作ってもらって投入している。
万が一、感染症とかが流行ると怖いからな。
まあ、こんなものがなくても、各自の持つ魔力で身を守っているから大丈夫だそうだ。
そうなのか。
まあ、魔力の小さな子供たちもいるだろうから……それって誰ですかって顔をしないで欲しい。
例えば……ガットの娘は?
あ、問題ないレベルの魔力を持っているのね。
侮 ( あなど ) ってごめんなさい。
俺の気持ちを落ち着かせる消毒プールだと思ってください。
プールに入る前には、準備運動。
身体がほぐれた後、ゆっくりと入水。
間違っても飛び込んではいけない。
……
ふう。
「村長、すみません。
流れるプールではできるだけ動いてもらえますか?」
そうだった。
まったり水中ウォーキング。
俺の横を、板に乗った酒スライムが通り過ぎていく。
優雅なことだ。
それを追いかけるように、程よいサイズにカットした丸太を抱えた聖女。
カットした丸太は……浮き輪代わりか。
それと、かなり大胆な水着だが……大丈夫か?
聖女という名に相応しい水着とは思えないが……
いかんいかん、変な目で見たとか思われる。
無心無心。
さらに大胆な水着を着たヨウコがプールサイドにいた。
無心無心……あれ?
「今日は人間の姿か?」
「それなりに魔力が回復してきたので」
水着は似合っているが、長い髪をタオルで纏めるのはどうなんだろう?
お風呂に入るみたいな感じになっているぞ。
まあ、他にも似たような人がいっぱいいるから指摘はしない。
指摘するのは、手に持っているお酒に関して。
「それを持ったまま、プールに入るなよ」
「これぐらいでは酔わぬ」
「お前がそうでも、他が真似したら困る」
「……ふむ。
なるほど、わかった」
ヨウコは意外と素直。
ちゃんと理由を伝えれば、従ってくれる。
ヨウコを通り過ぎ、次は……グランマリアが、水着姿で水面をホバリングしていた。
水面を歩いているように見せる練習でもしているのだろうか?
前進、後退、スキップ。
器用なことだ。
しかし、そこでそうやっていると普通にプールに入っている人に迷惑が……
あー、障害物として楽しまれているのね。
なるほど。
……
よくよく周囲を見れば、プールに入っているのは女性と子供たち、そしてクロの子供たちが中心。
だからこそできるグランマリアの障害物なのだろう。
……
ドワーフはどうした?
リザードマンは?
え、夕方ぐらいに来てプールサイドで飲むから、今は頑張って仕事中。
なるほど。
……
俺はグランマリアの障害物を大回りで避ける。
避けたのだから、近付いてくるんじゃない。
障害物が移動するのはズルイぞ。
空中で何につまずいたのかな?
周囲の視線があるのに露骨に甘えてくるとは。
ええい、これがプールの解放感か。
だが、俺の無心の前には……
あ、駄目だ。
抱きつかれたままだと、他の女性陣もよってくる。
は、離れ……うおっ、凄いパワーだ。
引き離せない。
そして柔らかい。
こ、こうなれば……子供、子供はどこだ!
子供バリアーをプリーズ!
流れるプールを一周し、妙に疲れたので上がる。
ちなみに、クロの子供たち用のぷるぷるゾーンなる場所があり、水しぶきを盛大に飛ばされることは滅多にない。
あー……
鬼人族メイドの屋台から、アツアツの肉煮込みをもらいゆっくりと食べる。
うん、アツアツだが良い感じだ。
もっと食べたくなるが、夕食のことを考えると我慢。
クロの子供たちにガードされながら、もう一周してプールを後にした。
やはりプールの後は眠くなるな。
夕食まで寝ていようか。
俺が屋敷の自室に戻ると、そこにはルー、ティア、猫、宝石猫のジュエル、子猫四匹、九尾狐のヒトエ、クロ、ユキが寝ていた。
天井にはザブトンの子供たちがみっしり。
おかしい。
冷たい風が出る装置は他の場所にも設置が始まっただろ?
なぜ俺の部屋に?
しかも、俺の部屋の装置にもオンオフ機能が搭載されたはずだ。
誰がスイッチをいれた?
一応、ここは俺のプライベート空間。
そう思っていると、後ろから声を掛けられた。
「みなさーん、冷やした果実をもらってきましたよー」
鬼人族メイドの一人。
前に俺の部屋で居眠りをして怒られてた子だな。
そして手には様々な果実が切って盛られたお皿。
彼女は部屋に俺がいるのを見て、動きを止めた。
えーっと……
俺がどう言おうか困っていると、動きを止めたメイドの足に子猫たちが群がっていた。
いつの間に起きたのやら。
そして、早く寄越せという態度。
ああ、ヒトエも起きたみたいだ。
スイカが欲しいのね。
あー……俺のことは気にせず、配ってやれ。
猫たちは総じて柑橘系は駄目で、スイカやイチゴを中心に食べている。
ヒトエもそうみたいだな。
クロとユキ、ザブトンの子供たちはなんでもOK。
ルーは……冷やしたトマトね。
そのままガブリと。
ティアは、冷やしたキュウリか。
塩で揉んで食べると……
ここで寝ながらプールのゴーレムを操っていたのか?
自動操縦だから、大丈夫?
万が一の見張りにグランマリアが傍にいると。
ああ、だからグランマリアがいたのか。
だが、見張りの役目を忘れてないか?
楽しく遊んでいたぞ?
あと、お前達。
食欲旺盛だが、もうすぐ夕食だからな。
ふう。
プールの眠気は吹き飛んだ。
俺はベッドに座り、猫を膝の上に乗せてアゴの下を撫でる。
部屋は先客のお陰で冷えているので気持ち良いといえば気持ち良いが……
ジュエルが私もやれと、膝の上に乗ってきた。
猫よりも手前に。
はいはい。
ジュエルもアゴの下……違う?
そこじゃない?
じゃあ、耳の裏?
よし、正解だったようだ。
クロとユキも後で撫でてやるからな。
え?
寝てたから遠慮する?
ははは。
遠慮するな。
だが、ルーとティアは遠慮してほしい。
涼んでいるんだから、くっつかないで。
いや、愛が冷めたとかそういう理由じゃなくて、普通に暑いから。
鬼人族メイドは……いや、別に叱ったりしないから。
ただ、君の背後に立つアンを止めることはできない。
すまない。
夕食に呼ばれるまで、まったり過ごした。