まったりとした夜
まったりとした夜
夕食後。
女性陣はなんだかんだと大半が、用事で不在。
主 ( おも ) に温泉に行っている。
久しぶりに一人だ。
いや、一人にしてくれたのだろう。
ありがとう。
なので、俺は自分の部屋のコタツに入る。
テーブルに布団を被せただけのコタツだが、それだけで十分に温かい。
ぬくぬく。
コタツのテーブルには、ミカンと干し芋、あとお酒を小樽で一つ。
TVがあればバラエティ番組でも観ているのだろうが、ここにはない。
ちょっと残念。
だが、問題ない。
退屈はしないのだから。
まず、やってきたのは子猫たち。
今年の春に生まれているから、九ヶ月ぐらいか?
さすがにでっかくなる。
後からコタツの中に潜り込んでおきながら、俺の足が邪魔だとペシペシ攻撃するぐらいは甘えん坊だ。
はいはい、これでいいか?
四匹とも大きくなったなぁ。
すみませんと、頭を下げるように鳴いたのが子猫たちの父親。
気にするな。
お前はコタツの中には入らないのか?
遠慮しなくて良いんだぞ。
俺がコタツの一部をめくって誘うと、中の子猫たちが一斉に鳴いた。
寒いからか、それとも父親が入って来るのを嫌がったのか。
……
父親はつらいな。
ほれ、俺の膝の上に来い。
次にやってきたのはクロ。
当然のように俺の傍で伏せるので背中を撫でてやる。
わかっている。
もう少し強くだな。
クロが伏せの体勢から、横に倒れる。
背中の次は脇腹か。
甘えん坊め。
おっと、いつの間にか酒スライムが来ていた。
コタツの上で、俺の酒を狙っている。
こらこら、直接、飲むな。
そのコップは俺のだ。
欲しければ、自分のコップを持って来い。
……あ、持って来てるのね。
用意の良いことで。
はいはい、ちゃんと注いでやろう。
酒を注いでいると、テーブルの上に置いてある干し芋が空中に浮かぶ。
よく見ると、糸が。
俺が上をみると、屋根の梁にザブトンの子供たち。
各自、保温石を持っている。
干し芋を狙ったのではなく、存在をアピールしたかったのだろう。
わかっている。
俺がお前達を忘れるわけがないだろ。
だから、そこでダンスしなくて良いぞ。
ほら、端のヤツが落ちそうに……おわっ!
糸でセーフ。
イエーイ、じゃない。
コントみたいな真似を。
危ない事はしちゃ駄目だぞ。
干し芋は持っていってもいいけど、仲良く分けるように。
俺はミカンで……あれ?
ドライムが俺の向かい側に入り、ミカンを食べていた。
コタツの中で、子猫たちに攻撃されても微動だにしない。
その為か、子猫たちが俺の方を攻撃してきたのだが?
はいはい、足の位置を変えますよ。
「それで、どうしたんだ、お 義父 ( とう ) さん」
「孫を見にいったら、娘に邪険にされただけだ」
「……ミカン、もう一つどうだ」
「すまんな」
ラナノーンが可愛いのはわかるが、まだまだ子供。
あまり構いすぎない方が良いぞ。
ラスティにすれば初めての子だしな。
ヒイチロウに構うライメイレンは良いのかって?
あれは半分、母親代わりだろ。
ハクレンも気にしていないみたいだし。
ヒイチロウを狙っているグラルには手強い母親が二人だ。
大変だな。
ははは。
ヒイチロウは心配していないが、ラナノーンは心配だな。
嫁にやる時……あ、やめよう。
嫁にはやらん。
おっと、気付けばヨウコが来ていた。
遠慮なくコタツに入り、中の子猫たちを追い出す。
かわいそうなことをするなよ。
俺が文句を言う前に、追加の酒樽とツマミがコタツの上に置かれた。
……
文句はない。
すまない、子猫たち。
抗議の鳴き声は俺が受け止めよう。
コタツの中を追い出された子猫たちは、横になっているクロの上でくつろぎ始めた。
大丈夫か?
四匹は重くないか?
よしよし、クロは優しいな。
ヨウコは軽く 五村 ( ごのむら ) の報告をしてくれる。
特に問題はなし。
前に相談した文官の話は、五村に書類業務を処理する機関を作る方向で進んでいる。
機関ができれば文官娘衆の仕事も楽になるだろう。
フラウの方も、五村なら遠慮なく呼べる知り合いがいると喜んでいる。
五村は魔王国領の村だからかな。
重要なポジションになりそうな気がする。
ヨウコの持って来たツマミは、茹でたホワイトアスパラにマヨネーズをかけた物とモチ。
ホワイトアスパラは大樹のダンジョンで作っているから、こっちに戻ってくる時に収穫したものだろう。
うむ、美味い。
餅は、冬になった直後に搗いたものだ。
小分けにしていたのを適当に持って来たな。
焼いてない。
はいはい。
俺が焼きますよ。
膝の上の猫をどかし、コタツから立ち上がる。
と、俺のいた場所目掛けてクロの上で寝ていた子猫たちがダッシュ。
俺が戻れる場所はなさそうだ。
餅を火鉢の上の網で焼きながら、外を見ると夜なのに大きな灰色の物体が走っていた……
フェンリルだ。
あの小さかった子が、大きくなったものだ。
三メートル超えだもんな。
インフェルノウルフとの違いはサイズと頭の角の有無かな?
そして、そのフェンリルが今年の夏の終わりに子供を産んでいる。
二頭。
母親似のフェンリル。
色は二頭とも真っ白。
生まれてから三ヶ月ほど経過したが、まだ小さい。
猫ぐらいのサイズだ。
その子フェンリルたちの世話をするのが、クロの子供の一頭。
父親だ。
前々から仲を噂されていたが、無事に種族の差を乗り越えたようだ。
まあ、それを言ったら俺とルーやティアとかリアとかアンとか……あれ?
同じ種族というか、人間というか、人族との間に子をなしていない。
……
問題なし。
子供の数はもう十分。
いや、まだまだ求められているのはわかるけど。
子供は神様からの授かりもの。
運に任せよう。
話を戻して。
子フェンリルは、クロの子供たちの小屋の一角で育てられている。
寒さには強いらしく、冬でも元気に外を駆け回るので父親は苦労してそうだ。
ああ、今走っていたのは子供の一頭を追いかけていたのね。
子フェンリルを口に咥えて小屋に戻っている。
母親も苦労してそうだ。
俺はチラリと、ドライムと酒を飲んでいるヨウコをみる。
こっちは楽そうだな。
いや、今だけか。
きっと見えないところで苦労しているに違いない。
うん、そうだ。
焼きあがった餅をコタツのテーブルの上に置くと、ヨウコは遠慮なく手を伸ばして食べた。
一気に二つ。
……
美味そうに食っているから、まあ良いか。
さて、次の餅をと思っていると、ドタドタと賑やかな足音が近付いてくる。
部屋に入って来たのは、ウルザ、アルフレート、ティゼル、グラル、ヒトエ。
女性陣と一緒に温泉に行っていたはずだが、一足先に帰って来たのかな。
ヒトエはヨウコを見つけると、駆け寄った。
尻尾が面白いほど振れている。
それを見て、アルフレートとティゼルが俺のもとに。
ははは。
よしよし。
ウルザとグラルは迷わずコタツに入る。
子猫たちが再度、コタツの中から追い出された。
抗議の鳴き声が大きい。
ははは。
まったりとした夜だった。