冬の五村
冬の五村
俺は工房で一体の創造神像を彫り上げた。
サイズは人間よりちょっと大きめの二メートル超。
五村 ( ごのむら ) の教会に飾る為、少し大きめにとの発注だったからだ。
自分でも良い出来と満足。
少し失敗したと思ったのは、彫った場所。
始祖さんが羨ましそうな目で見ている。
いやいや、始祖さんには前に注文された分を渡しただろ?
「全て集めたくなるのが人の悲しい 性 ( さが ) 」
アンタ、吸血鬼だろう。
輸送するのを手伝ってくれるなら、彫るけど?
即決だった。
ありがたいが、まったく同じとはいかないぞ。
木が求めた形になるからな。
おっと、芸術家みたいなことを言ってしまった。
ふふふ。
「ところで村長。
この横にあるのは?」
「クロとユキとザブトンと猫と酒スライムのミニチュア」
「どれも躍動感があるね。
お土産として作るのかい?」
「まさか。
五村の聖女……じゃなくて、セレスが欲しがったからな」
聖女と呼ばず、セレスと呼んで欲しいと本人から言われたので注意している。
考えてみれば役職呼びだからな。
ちょっと反省。
始祖さんの転移魔法と、リザードマンたちの協力で五村の教会のホールに創造神像を設置。
良い場所に置いてもらえるみたいだが、大丈夫なのだろうか?
始祖さんが問題ないと言ってくれるが、ここの責任者はセレスだからな。
創造神像の背中に、後光を表現する棒を何本も背負わせる。
それ用の穴をちゃんと作っておいた。
漫画の集中線を立体にしたような感じだ。
余計かなと思ったけど、こっちの方が判りやすいだろう。
始祖さんが驚いているが、見た事のない技法なのだろうか?
神様の像の表現としては古くからあると思うのだけど?
クロたちのミニチュアは、ホールではなく奥のセレスの私室に。
植木鉢の根元に設置される。
なるほど。
良い場所だ。
その後、五村を少し見学。
ユニコーンを運んだ時は、のんびりできなかったからな。
五村は前よりかなり発展している。
小山の上はハイエルフたちが頑張ったので、立派な村になっている。
目立つのは北寄りに建てられた村長屋敷と、その隣の教会。
少し離れて村議会場、後は広いグラウンドと小さな牧場。
牧場の横に、交易所がある。
五村の代表、村長代行をヨウコに任せているので、村長屋敷はヨウコ屋敷と呼ばれているらしい。
その地下に転移門があり、大樹のダンジョンに繋がっている。
ヨウコ屋敷は村長代行のプライベート空間とされており、普通の家扱い。
現在、ヨウコが選んだ使用人たちが二十人ほど生活している。
一応、彼らには転移門のことは秘密。
フタが秘密を守っているが、使用人たちが調べにきたことはないらしい。
それと、マーキュリー種が新しく三人。
ヨウコの補佐として働いている。
ヒー=フォーグマ。
中年のベテラン戦士のような風貌の男。
考えるよりも剣で斬る方が得意そうだが、意外にも頭脳派。
万が一の時、村で編成する軍の中心になる予定だ。
五村の未亡人から人気があるらしく、昼には多くの差し入れが渡されている。
「それがしの腹はそれほど大きくはないのだが……うぷっ」
律儀に全部食べている。
ロク=フォーグマ。
若い文官青年。
メガネを着用し、いかにも頭が良いですよという雰囲気。
出会った当初はクールに気取っていたが、文官娘衆から引き継いだ仕事量を前に早くも崩壊。
熱血キャラになっている。
「ミヨをこっちにまわしてくださいよ。
さすがに私一人じゃどうにもなりませんって!」
すまん、頑張ってくれ。
ナナ=フォーグマ。
一見、普通の村娘。
失礼だが、どこにでもいそうな感じ。
だが、その実力は凄い。
多くの情報から必要な情報を取り出す処理能力、大事な情報を見落とさない勘。
五村を拠点に、情報収集の取り纏めをやってくれることになっている。
各地での作物の値段やニュースは大事だからな。
現在は、情報収集をする人材の選定、訓練中だそうだ。
……
情報収集する者が、どうしてナイフの扱い方を訓練しているのだろう?
護身用かな?
ヨウコ屋敷はプライベート空間にしているので、ヨウコは村長代行としての公務を村議会場で行っている。
村議会場は、大きな会議室と小さな個室で構成されている。
ヨウコは小さな個室の一つを、村長代行の公務室にしている。
こちらには五村で選ばれた秘書が男女数人、ヨウコの仕事を手伝っている。
この秘書たち。
どこかで秘書の経験があるのか、テキパキしていて凄い。
そしてヨウコが思った以上にしっかりと村長代行をやっていた。
今度、ヨウコの好きな料理を作ってやろう。
大きな会議室には円形に椅子とテーブルが並べられており、一つだけ一段高い椅子がある。
俺はそれを見てヨウコの席かなと思ったけど、違った。
俺の席だそうだ。
……
その右側が村長代行の席と、俺を案内している秘書が説明してくれた。
そうですか。
ところで相談ですが、あの一段高い椅子を普通にするのは……駄目?
駄目だった。
五村の村議会場に出席する機会がない事を祈ろう。
村議会場には食堂がある。
ここの食堂長は、ビッグルーフ・シャシャートのマルーラで働いていた者。
「まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」
出されたカレーは、十分に美味かった。
教会はセレスと神官が運営している。
五村の冠婚葬祭は全てここでやる事になったそうだ。
結婚式、葬式はわかるが……ああ、成人の儀みたいなのをするのか。
あとは新年のお祭りとか、収穫祭ね。
ヨウコと相談しながらやっていくらしい。
大変だろうが、頑張ってほしい。
グラウンドは、イベントを開催する際の場所だが……
普段は子供たちの遊び場として開放している。
側面では広いスペースは厳しいからな。
小さな牧場は、馬車や連絡用の馬の飼育場所。
一時預かりのような場所で、 麓 ( ふもと ) に大きな牧場を作る予定に……もう完成していると。
なるほど。
それだったら、ユニコーンはこっちに預けた方が良かったかな?
え?
違う?
ユニコーンを預けた牧場が、協力して作ってくれた?
馬の大半も、その牧場の馬と。
そうなのか。
また挨拶に行かないとな。
交易所は、馬車で運ばれる荷物の一時預かりと販売場所。
本格的な交易所は小山の 麓 ( ふもと ) にあるので、こちらは小さい。
最初に出来たのは上の交易所なのだけど、やはり馬に坂道は厳しいとの意見が出たので 麓 ( ふもと ) にも作ることになったらしい。
これは冒険者たちの活躍で、 麓 ( ふもと ) がそれなりに安全になったお陰だな。
上の交易所は、主に 麓 ( ふもと ) の交易所の荷物を預かる場所として活用されている。
こんな感じの小山の上に対し、側面部分の建設速度も凄い。
人の数は力か。
一応、冬なので無理しない程度に抑えているらしいが……
それでも、上から見れば何箇所も建設中の場所があって活気がある。
現在の人の数は……
気にしないでおこう。
ヨウコ、任せたぞ。
冬なので寒いが、大樹の村のような積雪は見当たらない。
この辺りは降っていないそうだ。
だが寒くないワケじゃない。
また、どうしても小山なので風が強い。
各家には、その風対策が施されているらしい。
扉や窓が 蝶番 ( ちょうつがい ) を使った開き戸ではなく、横にスライドさせる引き戸が多いのはその為かな?
窓はそうだけど、扉は道を塞がない為ね。
小山の側面だから、道幅も広いとは言い難いからな。
なるほど。
地域の特色だなぁ。
一番目立つのは転落防止の柵と、転落した時を考えて、各地に設置された網だけど。
家の上に網を張っているのがあるのは、誰かが上から落ちてきたからだろうか?
屋根の色が一部違うから、そうなんだろうな。
死者の話は聞いていないから、怪我か。
重傷じゃなければいいけど。
馬車の一団が、南側の大きな道を登ってきた。
馬車の 幌 ( ほろ ) には、ゴロウン商会の紋章。
馬車は交易所に入らず、ヨウコ屋敷に向かう。
ゴロウン商会から海産物が運ばれる時期だったか。
今晩は新鮮な海産物を楽しめるな。
うん、寒いし鍋にしよう。
俺は五村見学を切り上げ、ゴロウン商会の馬車を追い掛けた。
ヨウコ屋敷の新人門番に、不審者として止められた。
……顔を覚えられていない。
ちょっとショック。
五村案内回。
新キャラ三人が、今後どう目立つかが課題。