五村の珍客
五村の珍客
サクラが散った頃、ウメの木を育てるのもありだなぁと思い出した。
梅干、梅酒。
うん、完全に忘れてた。
今から育てても、収穫は数年先になる。
もっと早く育てればよかったと思いつつ、数年後の楽しみが出来たと切り替える。
五村 ( ごのむら ) に珍客が続いたらしい。
一組目は、コーリン教の神官一行。
ずいぶんと偉そうな格好の神官たちだったそうだ。
対応したのはヨウコ。
修飾語がいっぱいだったが、神官一行の話は五村で教会を建設する許可が欲しいというもの。
教会はすでにあるが、宗教関係は自由にしていいと俺が伝えていたので、ヨウコは許可を出した。
問題はここから。
神官一行は、いつの間にか建設ではなく、現在ある五村の教会を譲渡するように求めてきた。
ヨウコはこれらに対して拒絶。
「我が村では信仰は自由。
その方らが教会を建てたいなら好きにせよ。
ただし、それはその方らの金でだ」
神官一行はこの言動に怒り、コーリン教を敵に回すのかと恫喝。
俺としては誰を相手に恫喝しているのかと腹が立ったが、ヨウコはニッコリと笑顔で対応。
「これは失礼した。
我は宗教のことには疎くてな。
申し訳ない。
教会のことは、そうだな。
今、教会にいる者と話し合って解決するのがよかろう。
我はどのような結果が出ても、受け取ろう」
この言葉を教会譲渡に賛成したと受け取った神官一行は、意気込んで教会に押しかけた。
そこに待っていたのは聖女のセレスとフーシュ。
フーシュは、自分の推薦した神官たちがちゃんとやっているかの視察中。
知ってる。
始祖さんと一緒に大樹の村に来て挨拶してたから。
転移門を使って、セレスに案内されて五村に移動していた。
うん、ヨウコはフーシュが来ているのを知っていたよな。
二人の後を追いかけて、五村に移動したんだから。
教会でどのような話し合いが行われたかは知らないが、やってきた神官一行は五村から出て行った。
全員、なぜか脇腹を抱えて苦しそうだったらしいが……
「フーシュが殴ったのか?」
「神に誓って、私は殴っていませんし、それに類する暴行を働いておりません」
嘘じゃありませんと、堂々としている。
本当っぽい。
じゃあ、なにがあったのか?
……
聖女のセレスは、酒スライムと酒を飲んでいる。
まさかな?
うん、きっと腹でも壊したのだろう。
神罰だな。
そういうことにしておこう。
状況をここまで詳しく知れたのは、夕食の時に文官娘衆やマーキュリー種のロク、ナナが再現劇としてやってくれたからだ。
なかなか見事だった。
そして、文官娘衆に余裕が出来てよかった。
五村で文官を集めたのが上手く機能し始めているようだ。
任せるのは五村関係だけだけど、それだけでも担当してもらえると楽になるらしい。
マーキュリー種のフタ、ミヨの目にも活力が戻ってきている。
良かった。
しかし、コーリン教にも色々あるんだな。
「コーリン教は、信仰の在り方を定めたものではなく、宗教の在り方を管理する組織ですから。
コーリン教と 一括 ( ひとくく ) りにしても、中は多数の宗教、宗派があります」
一緒に夕食をとっているフーシュが教えてくれる。
「自分と他者の信仰を大事に。
という理念に賛同していれば、どんな神を信仰していてもコーリン教を名乗れます」
確かにそんな感じのことを、前に始祖さんから説明された覚えがある。
「ただ、今回の教会を明け渡せ的な内容はコーリン教としてはアウトです。
顔と名前は覚えました。
彼らの未来は暗いでしょう」
フーシュの顔が怖い。
始祖さん、助けて……まだ温泉地から帰って来てないみたいだ。
お疲れなのかな?
次の珍客はドワーフの一団。
五村にもドワーフがいるが、彼らとは毛色が明らかに違ったらしい。
数は三十人ほどで、全員が上質の武具を身にまとっていた。
対応したのは今回もヨウコ。
ドワーフの一団は、ヨウコに会うなりこう宣言。
「この村では貴重な 魔鉄粉 ( まてつこ ) を使った武具を作っていると聞いた。
その魔鉄粉、我等に譲られたし」
魔鉄粉 ( まてつこ ) は、太陽城の下にくっついていた岩部分から採取している貴重な鉱物。
一部を大樹の村で武器にして、五村で販売している。
「購入希望ということか?」
「否!
魔鉄粉 ( まてつこ ) は未熟な者には扱えぬ。
優れた素材は、優れた者の手にあるべきだ」
「寄越せ……という事か?」
「うむ」
ヨウコはドワーフの一団を叩きのめし、牢屋に叩き込んだ。
話にならないぐらい、弱かったらしい。
「武器をこれでもかと自慢していたから、目の前で一つずつ砕いてやった」
ヨウコがドワーフの一団を叩きのめすシーンは、再現してくれなかったので、ヨウコがカラカラと笑いながら説明してくれる。
ヨウコなら大丈夫だろうけど、無茶はしないようにな。
それと……牢屋なんてあったのか?
「作らせた」
日当たりの悪い北側斜面にあるらしい。
なんでも、五村では軽犯罪が一定数、あるそうだ。
暴力、破壊行為、恫喝、タカリ……
その処罰用だそうだ。
大樹の村では考えられないが、五村は人が多いからな。
どうしてもそういった犯罪は起きてしまう。
まだ重大な犯罪が発生していないのが救いだな。
そして、ドワーフの一団を放り込む場所があってよかったと思うべきか。
いや、勝手に牢屋に放り込んでいいのか?
問題ないか。
五村の徴税権だけでなく、警察権、裁判権は、五村にあるんだった。
「それで、いつ出すんだ?」
「我は千日ぐらい放り込みたいが、五村の者たちの目もある。
十日ぐらいと考えている。
それに関連して、インフェルノウルフか、デーモンスパイダーを借りたい」
「何をする気だ?」
「何もせん。
ただ、牢屋の前で待機してもらうだけだ。
見張りだな」
なるほど。
もちろん、貸さない。
牢屋の前なんかにいて、クロの子供やザブトンの子供が嫌な目にあったらどうするんだ。
それに、魔王とビーゼルから、五村にクロの子供やザブトンの子供を連れ込まないようにとお願いされている。
命に関わるとかの内容でないなら、駄目だ。
「むう、つれないの」
「見張りが不足しているわけじゃないんだろ?」
「うむ。
ただ、牢屋の見張りにおる者は、どうも過激でな」
「過激?」
「五村に恩を感じているのか、牢屋にいる者に対して厳しい」
「……行き過ぎているのか?」
「そこまでではない。
が……自分が正しいと思っている者の行動は油断ができんからな」
「あー……」
五村を大事に思ってくれるのは嬉しいが、そう思わない者に対して攻撃的になるのは困る。
「なんだったら、俺が牢屋の見張りに声をかけようか?」
逆効果だと笑われた。
えー、笑うところかな?
とりあえず、ドワーフの一団に反省が見えたら、早めに解放する予定らしい。
三組目は、エルフの一行だった。
数は十人。
軽装なれど全員が武装し、その代表は男。
これも対応したのはヨウコ。
エルフの一行の話は簡単。
五村周辺では、冒険者たちが大々的に魔物や魔獣を退治している。
それによって、魔物や魔獣が余所に移動。
移動した魔物の一部がエルフの里を襲って迷惑している。
責任を取れということらしい。
「なるほど。
話はわかった」
「そうか。
では、どう責任を取ってもらうかだが……」
「待て。
その前に、確認をさせてもらおう。
お主らの里を襲った魔物と、五村の関係を証明する証拠は?」
「証拠?」
「そうだ。
証拠だ」
「そんなもの、あるはずがないだろう」
「では、我が村が原因であるとは言えまい。
他のことが原因かもしれん。
そのような話では、我が村は何もできん」
「証拠はなくとも、この村の行為が我が里に迷惑を掛けたのは明白だろう!」
「証拠もないのに?
お主らの思い込みであろう」
「貴様。
エルフ族を 侮 ( あなど ) るか」
「侮っているのはどちらだ?
大勢で押しかけて、証拠もない言いがかり。
舐めるのもほどほどにせんと怪我をするぞ」
「一戦、 交 ( まじ ) えることになるぞ」
「お主らが仕掛けてくるなら、いつでも受けてたとう」
「……どうあっても、責任は取らないと言うのか?」
「現状では、お主らの言いがかりに過ぎん」
「言いがかりではない。
この村が魔物退治を行った。
それゆえに、我が里に魔物が来たのだ」
「昨日、村の鶏が卵を産まなかった。
それはエルフの里で、誰かが乱暴に歩いたからだ。
責任を取れ。
証拠はないが、関係性は明白だ。
そう言われて、お主らの里は謝ってくれるのか?」
「なにを馬鹿なことを。
それこそ、言いがかりであろう」
「そうか?
お主らの論法通りだぞ」
「我らをからかっているのか?」
「いや、話に付き合っているだけだ。
お主らの里を襲った魔物の名前は?」
「なんだ、急に?」
「質問だ。
お主らの里を襲った魔物の名前は?」
「……名は知らぬ。
大きな甲羅を持つ亀のような魔物だ」
「なるほど。
我も知らぬな。
強いのか?」
「強い」
「歩くのは速いのか?」
「足は遅い」
「なにを食べていた?」
「木だ。
エルフ族が大事にしている木を何本も食い荒らされた」
「数は?」
「一頭だ」
「なるほど。
お主らの里を襲った魔物は、その一頭だけか?」
「うむ」
「もう倒したのか?」
「う、うむ」
「そうか。
では、最後だ。
我が村と、お主らの里の距離は?
お主らの足で、何日掛かる?」
「五日だ」
「そうか。
七日ぐらいかと聞いていたが、思ったより速いな」
「里の位置を知っているなら聞くな」
「お主らの言葉で聞きたかっただけだ。
さて、やはりお主らの言い分は、言いがかりだぞ。
我らのせいで魔物が移動したなら、その一頭のわけがなかろう。
それに冒険者たちには肉食の魔物や魔獣を中心に退治してもらっている。
木を食べる魔物なら、放置だ。
わざわざ危険を冒してまで追い払わん」
「いや、しかしだな」
「魔物は倒しているのであろう。
我らに文句を言うなら一人か二人で十分だ。
なぜ十人で来た?
暇なのか?
そうではなかろう。
お主らは魔物を倒す為に集まった者たちだ。
その者たちが、そのままここに来て、くだらぬ言いがかりをしている。
……つまり、まだ魔物を倒せていない。
助けが欲しいなら、素直に頭を下げよ」
「……」
「それと、小僧。
もう少し感情を抑えよ。
焦っていることが相手に伝われば、交渉にならんぞ」
「小僧ではない。
見た目は若くとも、これでも二百年は生きている」
「では、少しは賢くなれ。
無駄に年を重ねるな。
まあ、これは我も耳が痛いがな」
その後、態度を改めたエルフの一団から正式に魔物退治の要請が入ったと。
なるほど。
「連中は、五村の戦力を借りたかったのであろう。
だが、対価を惜しんだ」
五村が自主的に討伐に出るように、言いがかりを始めたと。
なら、倒したと言ったのは間違いだな。
素直に迷惑しているから倒しに来てくれというべきだった。
それで、五村から討伐隊を出したのか?
「五村に来ていたリザードマンと獣人族が、喜んで指揮していたぞ」
あー……ダガとガルフか。
「それにピリカとその弟子たち、冒険者たちが続いた。
それなりの戦力になった。
そう負けはせんだろう」
「負けはせんって、相手は未知の魔物なのだろう?」
「いや知っている。
グータートルと呼ばれる魔物だ。
防御力は高いが、攻撃力はそれほどでもない。
少し変わった攻撃をしてくるが、用心すれば問題ない。
ピリカには伝えてある」
「……エルフに知らないふりをしたのは?」
「下手に知っているなどと言えば、ほらみろと言われてしまうではないか」
確かに。
「そのエルフたちはどうしたんだ?」
「半数は道案内。
もう半数には、対価として遠方に走ってもらった」
「対価?」
「うむ。
タダ働きはよくないからな」
牢屋に入れたドワーフたちを引き取りにくるよう、ドワーフたちの居住地に向かってもらったそうだ。
なるほど。
しかし、本当に珍客が続いたな。
そして驚くことに、その珍客三組が来たのが、同じ日とは……
五村は、ヨウコに任せておけば大丈夫そうだ。
見事に捌いてくれた。
「昔、統治者っぽいことをした経験があるからな」
頼もしい。
これからもよろしくお願いする。
ああ、ロク、ナナも頼りにしている。
ヒーは……五村の戦力が低下しているから留守番ね。
頑張ってくれと伝言を頼んだ。
いつもは数行で終わらせる部分を、ヨウコの活躍をみせる為にクローズアップして書いてみました。
ヨウコの対応。
右へ受け流す、殴る、説教。
……
活躍したのかな?
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よろしくお願いします。