LNCrawler

ドワーフのフアノ

異世界のんびり農家 — ncode.syosetu.com · All chapters

ドワーフのフアノ

ワシの名はフアノ。

二百人からなるドワーフの一団を率いる長だ。

といっても、十数年前に長になったばかりで指導力を問われている最中。

少し前まで、気ままに鍛冶が出来ていたのに、長になった後は面倒事ばかり。

先代の長がいつも不機嫌そうな顔をしていた理由がよくわかる。

そんな中、はねっかえり連中のグループがとある村に迷惑を掛け、牢屋に入れられたと知らされた。

教えてくれたのは、近くの森に住むエルフ。

おかしい、ワシらを嫌っている凶暴なエルフがどうして情報をくれるのだ?

いや、情報は素直に助かる。

引き取りに行けば牢屋に入れられたドワーフたちを解放してくれるのだな。

ありがたいが、あの連中にはワシも頭を悩ませていた。

そのまま放り込んでいてもらいたいので放置したいのだが……

迷惑をかけた村は、あの 五村 ( ごのむら ) だそうだ。

最近になって出来たばかりだが、魔王国の有力者が集まっているという。

放置は無理。

長として迷惑を掛けた事を謝罪せねばならん。

ワシは情報をもたらしてくれたエルフに礼を言い、旅の準備を始める。

……え?

情報を受け取ったサインが欲しい?

必要なのか?

いや、サインぐらいするが……うむ、大事なのだな。

わかった。

ワシは、比較的温厚な者数人と五村に向かった。

乱暴者を連れて行っては、揉め事が増えるかもしれんからな。

旅立前に情報を収集したが、牢屋に入れられた連中の目的は、五村で売り出されていた武具。

正確には、その武具に含まれている 魔鉄粉 ( まてつこ ) 。

連中のことだから、タダで寄越せとか言ったのだろう。

まったく。

それが通用するのはドワーフの社会でだけだ。

他では通用せん。

余所では、素直に 魔鉄粉 ( まてつこ ) を使わせてくださいと言うべきなのだ。

その辺りを理解しようとせん。

だから、長候補にもなれんのだ。

五村に到着した。

ワシの口は大きく開いていたと思う。

五村は大きな村だと話には聞いていた。

だが、これのどこが村だ。

巨大な街、いや都市ではないか!

あの馬鹿者共め!

こんな場所を相手に迷惑を掛けたのか!

くっ……胃が痛い。

幸いにも、五村の代表……村長代行殿はとても温和な方だった。

あっさりとこちらの謝罪を受け入れてくれた。

一安心。

この様子なら、牢屋に入ったドワーフたちを無闇に殺したりはしないだろう。

ならば無理に解放を願ったりはしない。

そのまま、ここの法に従って処罰して欲しい。

連中にも良い薬になる。

迷惑を掛けた分、この村で働いて謝罪するがよい。

おお、そうだ。

忘れておった。

ワシは斧を村長代行殿に差し出す。

「見事な業物だな」

ワシが打ったものだが、そう言ってくれるか。

嬉しいものだ。

手間を掛けてすまないが、これを 魔鉄粉 ( まてつこ ) を使った武器を打った者に見せて欲しい。

それで理解してくれるだろう。

ワシらは連絡を待つ。

南側の宿……名はなんだったかな?

似たような名の宿が多くてややこしい。

村長代行殿よ、その辺りはもう少しなんとかした方がいいと思うぞ。

鍛冶勝負になった。

あれ?

なぜだ?

ワシはなにを間違えた?

この村の鍛冶師に、ワシの斧を見せれば理解してもらえると思った。

ワシは、魔王国で有数の鍛冶集団の技術を取り入れた鍛冶師であると。

魔鉄粉 ( まてつこ ) を取り扱うに、不足はなかろうと証明したつもりだった。

ひょっとして、ワシの実力を試す為の場か?

それなら断れんが……

対戦相手をみて、ワシは吹いた。

……ガット殿?

ハウリン村の村長の息子さんの?

え?

この村の鍛冶師って、まさかガット殿なのか?

……

や、やばい。

完全に失敗した。

ワシの技術は、ハウリン村の技術。

ハウリン村で数年間、修行したこともある。

そのワシの斧……

ハウリン村の鍛冶師に、ハウリン村の技術を取り入れた斧を見せるって、挑発と一緒じゃん!

やばい。

睨まれている。

違うんです。

本当に違うんです。

えー、えっと。

「そっちのドワーフ。

俺達が勝ったら、腕が足りないとは言わせないぞ」

んー……ガット殿、睨みながらも口の端が笑ってる。

これはひょっとして、ワシのこと、覚えてる?

ワシと会った時、まだ鍛冶場にも入れなかった子供だったのに……

いやいや、懐かしさは横に置いておいてだ。

ワシは後ろにいるドワーフたちの視線を気にする。

今のワシは長だ。

その長であるワシが、誤解が元とはいえ勝負を挑まれているのだ。

ええい、仕方がない。

「そこの獣人族の鍛冶師より、優れた武器にしてやろう」

ワシだって、遊んでいたわけじゃない。

鍛冶師としての腕、見せてくれよう!

鍛冶勝負は一週間の長丁場。

その間、五村はお祭りをするらしい。

くっ、楽しそうな音楽。

美味そうな匂い。

料理や酒は差し入れられるが、この匂いじゃない。

もっと、美味そうな匂いの料理があるだろう。

酒も。

そう、特に酒も。

いや、いかん。

鍛冶に集中。

ワシの一世一代の剣鉈を打つのだ!

しかし、美味そうな匂いの料理と酒は気になる。

交代で並びに行くか?

ええい、こうなるのだったらもう少し人数を連れてくるべきだった。

三日目。

村長代行殿にお願いしたら、美味そうな匂いの料理と酒を用意してくれた。

交代で食べる。

料理はカレー、ピッツァ、うどん、そして串カツというらしい。

うむ、どれも美味い。

特に串カツが気に入った。

ほほう、この串は鳥肉で、こっちは野菜と……なかなか楽しい。

酒。

驚いた。

こんな美味い酒は初めてだ。

しかも色々な種類がある。

その色々な種類の中で、特に輝くのが麦酒。

串カツにあう。

麦酒は串カツの為の酒ではないかと思うほど、あう。

ああ、いかん。

鍛冶を忘れてしまいそうになる。

宴会に突入してはいかん。

宴会は鍛冶勝負が終わってからだ。

最終日。

腰を抜かしそうになった。

ドワーフ族の王ですら気を使う男、エルダードワーフ族のドノバン様が見物に来ていた。

彼の目当ては鍛冶勝負。

え?

お酒じゃないの?

あ、この村のお酒はドノバン様が作っていると……

すごく美味かったです。

今が勝負前じゃなくてよかった。

さすがのワシでも、ドノバン様の前では緊張する。

鍛冶勝負の審査方法は、シンプル。

使ってみればわかると、審査員たちが鍛冶勝負で作られた剣鉈を手に、用意された細い木材を次々に切っていく。

うむ。

悪くない出来。

ガット殿の剣鉈もなかなか。

忌々しいのが、牢屋に入っていたドワーフたちの作った剣鉈。

良い出来だ。

あいつら、態度はあれだが、腕は良いんだよな。

五村チームと呼ばれている者たちの剣鉈も悪くない。

最近、冒険者たちの間で流行っている、剣をなかほどで少し曲げた形だな。

投擲にも適しているとか。

勉強になる。

しかし、先ほどから少し気になっているのだが……

審査員がなぜエルフ?

しかも、こんなところで審査員するようなエルフに見えないのだが?

ワシの記憶違いでなければ、ゴーンの森の樹王と、ガレツの森の弓王じゃなかったかなあの二人?

そっくりさんかな?

でもって……ハイエルフも混じってない?

見間違いかな?

審査の結果、鍛冶勝負の優勝は五村チームとなった。

牢屋に入れられた連中は 贔屓 ( ひいき ) だなんだとクレームを言っていたが、ワシは納得。

ワシの作った剣鉈は、見た目を重視し過ぎた。

それに対し、五村チームは実用重視。

冒険者相手に、注文を受けてきた経験が活かされているのだろう。

ガット殿は……普段から 魔鉄粉 ( まてつこ ) を使っている 弊害 ( へいがい ) だろうな。

今回の鍛冶勝負で用意された素材はそれなりに一流の素材だが、 魔鉄粉 ( まてつこ ) はない。

ガット殿は、 魔鉄粉 ( まてつこ ) なしで勝負することになったのだ。

魔鉄粉 ( まてつこ ) がある場合とない場合では、打ち方や扱う火の温度が違う。

今回は、その辺りを調整しながら打ったので実力を発揮しきれなかったという感じか。

勝負があと一週間長ければ、ガット殿が優勝していただろう。

勝負に負けて悔しくはあるが、この結果には満足だ。

さて、ガット殿に謝罪して誤解を解かねば。

斧は挑発のつもりで見せたのではないと……

あれ?

ガット殿の周囲に、見覚えのある方々が……

えーっと……右から、吸血姫に殲滅天使に皆殺し……

「ガットを挑発したのは貴方だったの?」

「あら、ルーさん。

フアノ氏をご存知でしたの?」

「ええ、気に入っていた短剣の砥ぎ仕事を頼んだことが何度か」

そう、何度か頼まれた。

覚えている。

夜中に叩き起こされて、今すぐ砥げという横暴な依頼主だった。

「その短剣は、貴女に折られちゃったけどね」

「あー、私の右腕を切り落とそうとした短剣?」

「そう、それ」

「あれはよく切れたわねー」

「もったいなかった。

で、そっちも名前を知ってるってことは?」

「ええ。

天使族の武具の一部をお願いしています」

数代前の長からの付き合いだ。

死ぬほど締め切りが厳しい。

また、細部の装飾に拘るからかなり面倒臭い……いや、難しい。

なぜ鎧の内側に彫り物を求める。

見えないだろう。

それがイキって意味がわからん。

耐久度が落ちるだけだろう?

打撃を喰らったら、肌に彫り物の痣が残るぞ。

いや、下に服を着ているからそんな事はありえないだろうけど。

ともかくだ。

彼女たちがこの村の関係者というのは雰囲気でわかった。

結論。

この村には関わらないでおこう。

魔鉄粉 ( まてつこ ) は扱ってみたかったが、それがいい。

それしかない。

ん?

おお、村長代行殿。

今回は色々と……え?

優秀な鍛冶師は何人いてもいい?

いや、ワシらは明日にもここを発って……

牢屋のドワーフを部下につけるから?

あの連中がワシのいうことを聞くわけがないから。

今から宴会?

それは嬉しいですが……ドノバン様の酒が他にも色々と?

おおっ。

翌日。

ワシの率いるドワーフの一団は、五村で鍛冶仕事をすることになっていた。

なぜだとはいわん。

酒が悪い。

串カツが悪い。

なんか新しい料理も美味しかった。

……

ワシの……いや、ワシらの未来が明るいといいな。

すみません。

明日はお休みします。