ハーピーの雛とポーラ
ハーピーの雛とポーラ
一村には現在、ジャックを中心とした移住者カップルが九組十八人。
それにニュニュダフネたちが二十人ぐらいと、ハーピーたちが四十二人、住んでいる。
総勢で百人に満たないぐらい。
あとたくさんの豚。
そう認識していたのだけど、違った。
思ったよりハーピーが増えていた。
毎年、二十個ぐらいの卵を出産しては 孵 ( かえ ) していたらしい。
ハーピーたちが村に来てから四年が経過している。
もうすぐ五年目だ。
なので、ハーピーたちだけで百人を超える。
報告は受けていたが、認識を更新できていなかったようだ。
反省。
ただ、認識を更新できなかった理由もわかっている。
ハーピーの子供を見ていないからだ。
子供を見せて欲しいと考えたことはあったが、天使族のキアービットから止めておくように言われた。
なんでも、卵や雛を抱えたハーピーは凶暴らしい。
ドラゴンの時も同じようなことを聞いたな。
子を持つ母は強しということなのかな?
まあ、下手にちょっかいを掛けて困らせるのもよろしくないと、遠慮していた。
俺が一村に行った時も、ハーピー小屋には近付かなかった。
それが認識を更新できなかった理由。
……
言いわけではない。
認識を改めることができたのは、ハーピーたちの懇願がきっかけ。
ハーピーたちにとって、フェニックスは憧れの存在らしい。
大樹の村にフェニックスの卵が飾られた時も、ハーピーたちは遠巻きに見にきていた。
別にそんな遠くからじゃなくてもと思ったのだが、なんでも恐れ多いとのこと。
そんなものかと当時は放置していた。
フェニックスの卵が孵った後は、遠巻きではなく隠れて見守っていた。
隠れなくてもと思ったが、神聖な存在なのだそうだ。
……
中庭に水を撒いて作った泥の多い水溜りで転がりまわるアイギスが神聖なのか?
ああ、そのまま屋敷に入ったらアンが怒るぞ。
屋敷に入る前に綺麗な水で洗うように。
あと、一緒になって泥まみれになったウルザ、グラル、ナート。
それにアルフレート。
お風呂に行くように。
ティゼルは、ティアが捕まえてブロックした。
そのティアが俺を見ている。
笑顔だ。
……
たしかに中庭に水を撒いたのは俺だ。
アイギスがどうしてもって言うから……ごめんなさい。
話が脱線した。
俺はフェニックスの雛であるアイギスと、ハーピーたちの関係を観察していて気付いた。
恐れ多いとか、神聖とか言っているが、要はあれだ。
アイドルと、その追っかけ。
そんな感じ。
追っかけのマナーが超良いから、気付くのに遅れた。
遅れても問題ない。
マナーが超良いから。
そして俺はそんな両者の関係を温かく見守っていたのだが、ハーピーたちから懇願がやってきた。
一村にあるハーピーの家に、アイギスを招待したいと。
マナーの良い追っかけが、急に接近したなと思ったが、事情はシンプル。
まだ飛べない雛たちに、アイギスを見せたいらしい。
いや、まだ飛べない雛たちがアイギスを見たいと騒がしいらしい。
なるほど。
まあ、断るような内容でもない。
時間を見つけ、アイギスと共に馬に乗って一村に向かった。
ハーピーのまだ飛べない雛たちは、一言でいうなら強烈な追っかけだった。
アイギスを見て大興奮。
物理的にアイギスを追いかけている。
アイギスも捕まったらまずいと感じているのか、必死に逃げている。
脚力的には……うーん、互角。
ハーピーのまだ飛べない雛たちは、俺の感覚で幼稚園児ぐらい。
小さくて可愛らしい。
ただ、雛でも翼には爪があるし、単独で動き回れるパワーがある。
大人のハーピーが雛たちを制止しようとしたが、駄目だった。
雛によって蹴散らされた。
……
大丈夫か?
よかった。
ああ、雛相手だから力押しはできないからな。
安静に。
そして、俺は少し悩んだ後、逃げるアイギスを抱えてダッシュした。
アイギスの走りより、まだ俺の方が速い。
その時、俺とアイギスを追いかけている雛の数をみて、自分の一村住人の数の認識を改めた。
という話。
ちなみに、アイギスに怪我はなかったが、あれ以後は一村の名を聞くとビクッとするようになった。
心のケアには時間が必要らしい。
救出が遅れてすまなかった。
俺も怖かったんだ。
しばらくは俺の頭の上に乗ってていいから。
子猫のミエルが、そこは私の場所だと俺の足を攻撃してくる。
痛い。
さて、その一村なのだが、シャシャートの街でお店をやっているマルコスとポーラが戻って来ている。
一時的な里帰り。
理由は、移住者カップルの三組が妊娠したからだ。
そこには一村代表のジャックの奥さん、モルテも含まれている。
めでたい。
移住当初、子供は負担になるからと遠慮していた彼らだったが、そろそろ……となったようだ。
出産はまだ先だが、助産婦の経験があるハイエルフ数人に交代で一村に常駐をお願いしている。
万が一は怖い。
ちなみにだが、マルコスとポーラの里帰りを一番喜んだのは、二人の家を守っていたクロの子供だろう。
二人はクリッキーと呼んでいたな。
そんなに喜ぶならシャシャートの街に一緒に行ったらどうだと言いたいが、魔王やビーゼルに止めてくれと言われている。
申し訳ない。
マルコスとポーラが滞在中は存分に甘えて……あー、うん、プライドはわかるが、尻尾は全力で振れているぞ。
でもって事件。
ポーラがシャシャートの街に帰ろうとしたタイミングで、体調不良。
ハイエルフたちの診断により、妊娠発覚。
一村の三人よりも、出産が近いとのこと。
あと一ヶ月から二ヶ月。
……
祝いに来ている場合じゃないだろう!
妊娠に気付かないことってあるのだろうか?
あるらしい。
ポーラがいうには、最近少し太ってきたなぁと思っていた程度だそうだ。
これまで無事で良かった。
ポーラの希望で、出産は一村でとなり、そのまま滞在することになった。
妊婦を馬車に乗せて戻すのも怖いので、俺も賛成。
マルコスはシャシャートのお店があるので、シャシャートに戻るが出産時期にはまたこちらに帰ってくるそうだ。
ポーラの抜けた穴を埋める為、マーキュリー種のミヨがシャシャートの街に向かうのだが……
「私では不満ですか?」
「いや、見た目が幼女メイドだから……」
「今日からはウェイトレスに転職です。
まあ、給仕をするわけではありません」
ポーラの穴を埋めるといっても、給仕や調理をするのではなく、書類仕事が中心なので大丈夫とのことだ。
「鍛えられましたからね。
多少の書類量ではへこたれませんよ。
それに、向こうには書類仕事や会計を専門にするチームもいるとのことですし。
お任せください」
ミヨは胸を張るが、見た目が幼女だから可愛らしい。
うん、少し前に書類仕事で死んだような目をさせてしまったのはすまなかった。
頑張ってくれ。
ということでマルコス。
本人も自信タップリだ。
大丈夫だ。
そう心配するな。
……わかった。
では、ミヨ。
これをプレゼントだ。
「これは、紙……魔道具ですか?」
「そうだ。
そっちの紙に書いた内容が、こちらの紙にも書かれる」
俺はもう一枚の紙を見せて説明する。
片方に書いた内容が、もう片方の紙に表示される。
古い時代の魔道具で、ドースからもらった一品だ。
俺の感覚では、魔法の FAX ( ファックス ) だ。
この魔道具の欠点は、一方通行であること。
送信、受信が固定で、こちらの紙に書いても何も起こらない。
書いた側に内容が残らないこと。
なので書き間違いとかはできない。
現れた文字を消さないでおくと、次々に書かれて読めなくなること。
魔法で一気に消すので、古い文字だけを消すとかはできない。
これだけの欠点があっても、これがたくさんあれば、手紙を運んでいる小型ワイバーンたちは失業するだろう。
だが、残念ながらこれ一組だけ。
ドースも他にもっていないらしい。
一時期、ルーが複製できないかと必死に解析していたが、現在は中断中。
中断の理由を聞かないでおくのが優しさである。
「こっちの紙を目立つ場所に張っておく。
万が一、何かあったらこれで連絡をくれ」
「心配しすぎです。
ですが、ありがとうございます」
後日。
受信用の紙は、ホラーの様相を見せた。
「あの、村長。
助けてって書かれてますけど……」
シャシャートの街の店、文官を増やしたはずなんだけどなぁ。
「誰か手の空いている……」
少しの間、俺の視界に文官娘衆は入ってこなかった。
受信用の紙を張る場所が悪かったようだ。
……
すまないミヨ。
ポーラが出産するまで頑張って……出産後、子育てがあるよな。
文官をもっと増やせるように頑張るから。
そっちも頑張ってくれ。
予想された結末。