なんでもない日に事件は起きる
なんでもない日に事件は起きる
大樹の村には、様々な種族がいる。
なんだかんだと長い付き合いなのだが、 未 ( いま ) だに驚くこともある。
鬼人族。
屋敷というか村全体のメイドとして活躍してくれる彼女たちなのだが……
その二人が顔を近付け、頭の角を擦り合わせている。
「あれはなにをやっているんだ?」
アンに解説を求めた。
「喧嘩です」
喧嘩?
二人共、笑顔だけど?
「喧嘩です。
あの状態から、先に目を逸らした方が負けになります」
へー。
喧嘩を推奨する気にはならないが、溜め込むよりはいいか。
殴りあったりじゃないし、スッパリ決着がつくスタイルみたいだし。
「ちなみにですが、長い時はあの状態が三日ほど続きます」
……
「続きそうか?」
「今の雰囲気では……すぐには終わらないでしょう」
うーむ。
場所が食堂でなければ放置なのだが、さすがに迷惑。
子供たちに見せるのもなんだしな。
アンにお願いして仲裁してもらった。
アンの仲裁方法はストレート。
笑顔で睨み合う二人の間を突っ切り、吹き飛ばして強制的に終了。
抗議する二人に対し、一人ずつ角を付き合わせる。
一人、五秒ももたなかった。
これで終わり。
二人とも、仕事に戻ったが……
モヤモヤしないのだろうか?
「モヤモヤ?
したことがありませんね。
負けたことがないので」
あ、うん、アンだと参考にならない。
あとで二人のケアをしておこう。
子猫たちと、アイギス、ヒトエが一塊になって寝ていた。
可愛らしい。
ただ、場所が横になっているクロのお腹の上。
クロから、助けてという雰囲気を感じる。
俺も助けてやりたいと思う。
だが、どうやって?
クロがその気になれば、例えば俺が上で寝ていても立ち上がれるだろう。
そのクロが起き上がらないのは、寝ている子猫たちやアイギス、ヒトエを起こさない為だ。
上の者たちを起こさず、クロを助けることができるだろうか?
どうすれば……
俺が悩んでいると、ザブトンの子供がお尻から糸を出しながら降りてきた。
俺の目の前の高さで止り、片足をあげて任せろとサイン。
どうするんだ?
見ていると、ザブトンの子供は一度、天井の梁に戻った。
そして、クロの真上に移動。
そこから先ほどと同じように糸を出しながら降下。
まさかっ!
ザブトンの子供は、そっとアイギスを捕まえた。
ナイスポジション!
だが、それを持って上がれるのか?
おおっ。
も、持ち上がった!
さすが力持ち!
アイギスは……寝たまま!
いいぞ!
アイギスをクロの横のクッションの上に移動させ、もう一度降下。
今度の狙いは……ヒトエ。
ザブトンの子供がヒトエの上に着地……した瞬間、ヒトエが目を覚ました。
そして寝ぼけ眼でザブトンの子供をみる。
……
ザブトンの子供は撤収した。
うん、仕方がない。
アイギスだけでも頑張った。
残りは俺がなんとかしようじゃないか。
俺は子猫のミエルから移動させようとしたが、横からユキがやってきて一吠え。
子猫たちとヒトエはそれに驚いて目を覚まし、クロのお腹の上から逃げた。
おいおい。
乱暴なと思ったら、空いたクロのお腹の上にユキが頭を乗せた。
……
そこはお前の場所だもんな。
引き続き、クロから助けてという雰囲気を感じるが……
トイレにでも行きたいのだろうか?
まあ、もう少し我慢しないとユキが怒るぞ。
ちなみにだが、一足先に避難させられていたアイギスは、ユキの吠えで目を覚ましたけど、その場でまた寝た。
大物だなと思った。
妖精たちは、なんだかんだと活動範囲が広い。
村の北側の花畑で寝ているのに、昼間は屋敷の中や居住エリアに顔を出している。
お気に入りは牧場エリアなのかな?
牛の尻尾にじゃれている。
まあ、その尻尾で叩かれているのだが……
平気か?
うん、タフだな。
現状、無害なので放置するが……プライベート空間には入らないように。
トイレとかお風呂とかだ。
あと、俺の屋敷はともかく、他の家の中はやめておけ。
でもって、食料庫は立ち入り禁止。
なぜって?
お前たちが悪いわけじゃないんだ。
ただ、ルーから妖精のイタズラについて色々と聞いてな。
イモを石に変えたり、小麦粉の中に砂を入れたり……
いや、全てが妖精の仕業とは思わない。
だが、俺は畑と食い物へのイタズラはシャレで済ます気はない。
理解したか?
押すな押すなじゃないぞ。
絶対にするなよ。
頼むからな。
翌日。
そろそろ収穫かなぁと思っている畑に異変があった。
ミステリーサークルというのだろうか?
麦が倒され、絵が描かれていた。
下手くそな絵だ。
……
人って…… 怒 ( おこ ) り過ぎると笑うんだな。
畑を見張っているクロの子供たちやザブトンの子供たちの目を盗んで、あんなことが出来るのは限られている。
すまないが容疑者は妖精!
俺は花畑に向かった。
そこには、五十匹ぐらいの妖精と、小さな人型をした妖精が十匹ほど集まっていた。
その中心に、綺麗な女性。
背は高そうだ。
背中には羽がある。
天使族のような翼ではなく、光の羽。
直感した。
妖精の王、いや女王だ。
そして、犯人だ。
だが、万が一を考えて確認する。
「畑にイタズラしたのはお前か?」
「ん?
なんぞ、我に無礼ではないか?」
俺の手が妖精の女王の頭部を掴む。
「畑にイタズラしたのはお前か?」
「ちょ、い、いた、痛い痛い痛いぃっ!」
「畑にイタズラしたのはお前か?」
強引な取調べだろうか?
いや、畑の気持ちを考えると、こんなものではすまさん。
ん?
前からここにいる妖精か。
どうした?
ああ、お前たちは止めたんだな?
ありがとう。
お前たちを疑ってすまない。
そして、犯人はこいつであってるんだな?
よかった。
「だ、だめ、むり、割れる、頭が割れちゃうからぁっ」