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妖精女王

異世界のんびり農家 — ncode.syosetu.com · All chapters

妖精女王

秋の収穫を行う。

忙しい。

だが、心地良い忙しさだ。

「どうして 我 ( われ ) がこのようなことを……」

俺の心地良さを壊すようなことを言うのは、妖精女王。

反省が足りないらしい。

「ルー、風呂の用意を」

「わ、悪かった。

ここからここまでを収穫すればよいのだな。

わかっておるぞ。

さあ、頑張って労働の汗を流そうではないか!」

妖精女王は慌てて、ニンジンの収穫を行う。

ニンジンは葉をまとめて持って真上に引き抜けばいいのだが、妖精女王は慣れていないからニンジンの 畝 ( うね ) を先に崩している。

あとはニンジンを回収するだけなのだから、文句を言わずに頑張ってもらいたい。

昨日の朝。

俺は畑にイタズラをした妖精女王を捕まえた。

自供はないが、目撃者の証言が多数。

誰が証言したって?

妖精女王以外の妖精だ。

妖精たちは進んで妖精女王の罪を教えてくれた。

スムーズな証言だった。

妖精たちの前に出したプリンが無駄にならなくてよかった。

ああ、食べて良いぞ。

プリンはそれだけだが、サトウキビならもう少し用意しよう。

一応、妖精女王の弁明を聞く。

「どうして畑にイタズラを?」

「 我 ( われ ) の分のプリンはないのか?」

「……話が終わったらな」

「約束じゃぞ。

ごほん。

畑の絵は、我がここに来たという証。

なかなかよく出来たと自負している。

特にあの曲線は……」

弁明を聞いている途中だが判決、有罪。

許さん。

俺の中ではワイバーンと同じぐらいの罪。

しかし、さすがに人の姿をした者に槍を突き刺すのは心が苦しい。

どうしてやろうか。

……

そういえば、ルーが妖精を漬けたがっていた。

成長しているが大丈夫だろうか?

ルーに相談する。

「妖精の女王を溶液に漬け込むって……やったことないけど、どうなるんだろ?」

わからないのか?

「妖精の女王を捕まえた人っていないから。

興味はあるわ」

なかなか怖い笑みだ。

頼もしい。

「あ、先に言っておくけど、妖精の羽を漬け込んでも殺すわけじゃないのよ。

漬け込んでおくと、しばらくしたら消えちゃって別の場所に現れるの」

消える時に出る物質が、薬になるそうだ。

別の場所に現れるというが、どこに出るかは不明。

すぐそばに出ることもあれば、別の大陸に出ることもある。

「妖精の女王もそうなるのかしら?

そうなると、消える時に出る物質は……ふふふ」

「待て。

別の場所に出るのか?

それは困るな。

逃がすことになる」

「ここまで私の好奇心を 煽 ( あお ) っておいて、今更中止は無しよ」

「いやいや、こいつには罰を与えなければいけない」

俺はこっそり逃げようとしていた妖精女王の頭を掴む。

「あ、駄目、止めて」

「選べ、風呂か労働か」

「どっちもお断り……うぎゃぁぁぁぁっ」

妖精女王は、神出鬼没。

どこにでもいて、どこにもいない。

そんな存在らしい。

だが、弱点がある。

他者に触れられていると、普通の人とかわらない。

それは俺の手だけでなく、ザブトンの子供たちの糸でも同じ。

俺が妖精女王を発見する前に、ザブトンの子供の一人が糸を放っていた。

現在、妖精女王が逃げられないのは手足にザブトンの糸を括りつけているから。

ちなみに、妖精女王の髪の中にも一本仕込んでいる。

勝手に手足の糸を解いても逃がさない。

ふふふ。

とりあえず、汁が出るかどうか風呂に入れてみよう。

漬け込むわけではない。

ルーもまずはこれでどうだろう?

専用の風呂を用意して、最初は水でいくか?

それとも熱湯?

「待った。

我 ( われ ) が悪かった」

……

妖精女王が偉そうに謝罪する。

これで謝罪のつもりなのだろうか?

「倒した麦は、我の力で回復させよう。

なに、それぐらいのことは造作も……え?

ちょ、どうして頭を、い、いた……こ、声が出ないぐらい痛い!」

倒された麦を回復させた。

見事なものだ。

蘇っていく。

よかった。

涙が出る。

だが、怒りが消えたわけではない。

しかし、怒りが半減したのは確かだ。

考えてみると、風呂はちょっと可哀想かな。

「ふははははっ!

馬鹿め!

油断したな!」

妖精女王は手足に結ばれていたザブトンの子供の糸を解いていた。

「さらばだっ!

愚か者よ!」

……

俺を馬鹿にしたポーズの妖精女王が、そのままいる。

うん。

こちらこそ言わせてもらおう。

「さらばだ、愚か者よ」

半日水風呂のあと、半日熱湯風呂に入ってもらった。

そして現在。

収穫の手伝いをすれば許してやるとの俺の話に、妖精女王が賛同して労働してもらっている。

「そういえば、我の分のプリンはどうなった?

あれは見ただけでわかる。

甘くて美味いに違いない!」

「そういったことはキッチリと働いてから言うように」

「働いておるではないか!

この我が!

手を土で汚しながら!」

「収穫したニンジンの数、言ってみろ」

「えっと……二十本を超えておる」

「ははは。

あそこを見てみろ」

ハイエルフたちがジャガイモやトマト、ナス、カボチャなどを収穫している。

もうすぐ終わりそうだ。

「連中は数が多い!

我は一人ぞ」

「お前の担当する畑は一面の半分。

ハイエルフたちは十人で二十面。

わかるな?」

「難しい計算はできん!」

「……わかった。

黙って決められた作業をするように。

食事はちゃんと用意してやる」

「昼食にはプリンを!」

「さっきの俺の言葉をもう忘れたか?

もう一度、言うぞ。

そういったことはキッチリと働いてから言うように」

「むう!」

今年の収穫は賑やかだった。

そして、疲れた。

収穫が終わると、武闘会の準備が始まる。

「もう帰っていいぞ」

「プリン!」

「毎日作るのは無理だって言ってるだろう」

「じゃあ、サトウキビで構わぬ」

「偉そうだな」

「我は偉いのだ!

偉い者が偉そうにして何の問題があろうか」

「別に構わないけどな。

あ、次、畑に変なことをしたら……」

「わ、わかっておる。

もうせん。

お主、しつこいぞ」

「しつこくて結構。

言っておくが、ここの畑だけの話じゃないからな」

「え?」

「畑にイタズラ、よくない。

理解したか?」

「り、理解した」

「よし。

他の妖精にも伝えておくように。

偉いのだろ?」

「う、うむ。

我は偉いからな。

任せよ。

ははははは」

「ははは。

任せたぞ」

これで、世界中の農家のみなさんの苦労が減れば嬉しい。

「あ、いた」

ルーが俺と妖精女王を見つけてやってくる。

「例のお風呂の残り湯。

色々と効能があることがわかったの!

温度を変えて実験したいんだけどいいかな?」

「構わないぞ」

妖精女王が何かの役に立つなら、存分に調べるべきだ。

「待て、勝手に決めるな!

我はもうあの風呂は嫌だ」

「前ほど極端な温度にしないから。

今回は気持ち良い温度よ」

「絶対に嫌だ!」

ルーが説得するが、妖精女王は拒絶の姿勢を崩さない。

まあ、そりゃそうか。

一回目が酷かったからな。

それに、謝罪は労働で終えた立場だ。

妖精女王が協力する必要はない。

なので、対価を提示しよう。

「風呂一回で、プリン一つ。

どうだ?」

「……三つで」

「卵は貴重なんだ。

プリンは一つ。

その代わり、生クリームとフルーツでデコレーションしてやろう」

「!」

話はまとまった。

以後、村ではしばらくの間、妖精女王を煮込むルーの姿をみることに。

「魔女みたいだな」

「みたいじゃなくて、ちゃんとした魔女よ」

そうだった。

でもって、ルーの実験がない時も妖精女王は村に来て甘味を求める。

「働けば渡す」

「子供をあやすのは得意だぞ」

……

本当なのかもしれないが、ちょっと怖いのでまだ頼んでない。