結婚式
結婚式
ガルフの息子の結婚式が行われることになった。
結婚式に関わる者の中で、立場が一番上の者が取り仕切るのが通例らしい。
これは面子だなんだの問題もあるが、結婚式の費用の負担が大きい。
取り仕切る者が、結婚式の費用の半額を出すのだそうだ。
ガルフの息子の結婚式の場合、立場が一番上なのは俺。
村長だからな。
喜んで引き受けよう。
だが、俺が直接結婚式を取り仕切る必要はない。
というか、普通は俺ではなく、正妻が取り仕切るらしい。
正妻?
じゃあ、ルー。
なのだが、結婚式を取り仕切る者に妊婦は歓迎されない。
なぜ歓迎されないかは諸説ある。
妊婦に結婚式の取り仕切りなどハードなことをさせないため。
これから結婚する二人より、妊婦の方を気遣ってしまうため。
などなど。
まあ、そういう文化と言われたら、従うしかない。
ルーは辞退。
ティアも駄目だな。
じゃあ誰が取り仕切るのかと話し合われた結果。
フラウが担当することになった。
そのフラウが、まず結婚する二人に挨拶。
結婚式の相談をするためだ。
そこでフラウは三つの案を提案した。
●豪華な結婚式
五村の教会で式を挙げ、その後に大樹の村で披露宴を一週間。
●派手な結婚式
四村に新しく教会を建て、そこで式。
その後、大樹の村で披露宴を三日。
●質素な結婚式
村長宅で式と披露宴を半日。
ちなみに、二人は結婚式と披露宴に掛かる費用を褒賞メダルで支払う。
規模によらず、二人の担当分は固定で三十枚。
ガルフの息子本人が貯めていた分に、ガルフの両親からの支援、あとは周囲から借りて支払う。
結婚式や披露宴の為にする借金は、信用の証なので悪いイメージはないそうだ。
でもって、褒賞メダルで支払われるということは、結婚式の費用は全部俺が出すのと同じ。
なのでフラウは俺と相談し、金銭的にはあまり考慮していないプランを固めた。
重視したのは式の場所と規模、そして披露宴の日数。
「どれがいいですか?」
二人は質素な結婚式を選んだ。
遠慮したのだろうか?
いや、一週間も披露宴を続けるのは大変と思ったのかな?
俺としては派手な結婚式を 推 ( お ) したい。
が、結婚式の主役の意見だ。
周囲が盛り上がり過ぎるのもよろしくないからな。
二人が希望する式と披露宴にしよう。
そして、色々と文化の違いを感じる準備を終え、あっという間に結婚式当日。
俺の屋敷の中庭、 社 ( やしろ ) の前が式場になった。
参列者は……いっぱい。
主役の新郎は真っ白なスーツ系の服。
新婦も真っ白なウェディングドレスだ。
両方とも、ザブトンとザブトンの子供たちが製作。
ありがとう。
聖女のセレスが結婚する二人の前で、式を進めている。
……
え?
俺もセレスの横に並ぶの?
いや、そういう段取りだって言われても。
わ、わかった。
じっとしていればいいんだな?
よし。
……
俺から祝福の言葉?
じっとしていればいいって言ってたのに!
い、いや、慌てるな。
これまでの自分の人生を振り返り、そこから 紡 ( つむ ) ぎ出される言葉でいいんだ。
……
…………
紡ぐのは無理だな。
絞り出すのだ、俺!
「これから先、二人には幾多の困難が待ち受けているだろう!
だが、二人が手と手を取り合って歩む限り、困難は困難でなくなる!
それが結婚だ。
今日、ここに一組の夫婦が生まれ……ん?
どうしたセレス?
まだ俺が喋り終わっていないぞ?
え?
そういったのは教会側のセリフ?
じゃあ、俺は何を言えば良いんだ?
……
結婚、おめでとう。
祝福する!」
多少のトラブルはあったものの、式はつつがなく進行。
式場にテーブルと椅子が並べられ、披露宴になった。
中庭だけでなく、屋敷のホールなども使用される。
そして、待機していた鬼人族メイドやハイエルフたちが料理を並べていった。
昨日の晩から仕込みをやっていたので、手の込んだ料理が多い。
だが、メインはシンプルに巨大な猪の丸焼き。
そのまま丸焼きにすると外側だけ焼けて、内部が 生 ( ナマ ) 焼けになるのだが、それが良いらしい。
「結婚がゴールではないことを示すための未完成品ですので」
フラウの説明に、なるほどと納得。
だが、それだけだと寂しいのでウェディングケーキを作った。
三段重ねとかを考えたが、ケーキの土台部分を焼くオーブンのサイズから中止。
四十センチサイズの丸いホールケーキを五つ、作った。
食べきれるか少し不安だが……
子供たちが思いっきり見ているから大丈夫かな。
式が終わった段階で、俺やセレスの役目は終わり。
気楽な参加者の身分で披露宴を楽しめば良いのだが、新郎と新婦の二人は不動。
決められた場所から動かず、挨拶を受ける。
大変そうだ。
だが、笑顔だ。
特にガルフの息子は嬉しくて仕方がないという様子。
それに釣られて、参加者の顔も笑顔……一人、拗ねているのがガルフ。
不在時に息子の結婚が決まったことに、不満らしい。
だが、その件に関してはガルフとガルフの妻との間で話し合いが行われ、解決したと報告された。
……
解決したんだよな?
一応、ガルフをフォローしておこ……俺が行く前にドワーフたちがガルフを取り囲んだ。
「こやつが結婚式に似合わない顔をしているのはなぜだ!」
ドノバンが叫ぶ。
そしてそれに答える他のドワーフ。
「酒が足りないからであります!」
「なるほど、ならば酒だ!」
「酒です!」
……
ガルフの相手はドワーフたちに任せよう。
後日に引きずるようなら、俺に言うように。
ところで、この結婚式。
新婦側の親族が参加していないが問題ないのか?
大丈夫?
新郎が新婦を迎えに行った場合は、不参加が基本。
新婦も特に参加を希望していなかったから、呼んでないと。
なるほど。
新婦と家族の仲が悪いわけじゃないよな?
不参加が一般的なんだな。
了解した。
日が暮れ始めると、新郎と新婦は退席するのだが、ここで一つのイベントがある。
それは定められた道を、新郎と新婦が退席するもの。
道はまっすぐだが左右に男性が並び、新婦を触ろうと手を伸ばす。
新郎はその手を払いのけながら、新婦と共に進むのだが……
まあ、これはセレモニーだ。
本気で新婦に触るのはマナー違反。
余計な恨みを買ってもよくないので、酔っていない人が並ぶ。
まあ、俺も並んで 賑 ( にぎ ) やかそうと思う。
うん、賑やかしだ。
ルールも理解している。
なのに、ハイエルフたちはどうして俺をブロックするのかな?
「トラブル回避の為です」
……
仕方がない。
食事を楽しもう。
新郎新婦が退席しても披露宴は翌朝まで続けられる予定だ。
ん?
ケーキの追加?
ああ、妖精女王が来たのか。
わかった。
準備はしているからオーブンさえ空いていたら……
不意に大きな歓声が起こった。
歓声が起きた場所は、新郎と新婦が進んでいた道。
何かあったのかと近付いたら、道の中央にガルフが立っていた。
そして、新郎と新婦の行く手を 遮 ( さえぎ ) っている。
「息子よ。
結婚をするというなら、その覚悟を俺に示すがいい!」
ガルフの言葉に、ガルフの息子は遠慮なく拳で返した。
「俺は幸せになる!」
ガルフの息子の拳が、ガルフの顔にヒット。
だが、ガルフは倒れない。
ニヤリと笑う。
あ、ガルフのやつ、あそこで親子の殴り合いをする気か?
そう俺を含めた周囲が思った時、ガルフの息子の許婚者……いや、妻が追撃した。
「私も幸せになります!」
ガルフの息子の妻が一気に距離を詰め、腰を回してのフック。
ガルフの横腹に突き刺さった。
あれ?
ガルフの身体が横にズレたぞ?
そして、膝から崩れ落ちるガルフ。
……
あ、ああ、なるほど。
息子夫婦に花を持たせたのね。
やるじゃないかガルフ。
倒れたガルフは、周囲にいた者が持ち上げて道から排除。
もう手を伸ばす男もいない。
万雷の拍手の中、ガルフの息子と妻は退席した。
幸せになって欲しい。
おっと、ケーキの追加だったな。
わかったわかった。
すぐに作るよ。
読んで頂き、ありがとうございます。
明日の更新はお休みします。
すみません。
一部 わかりにくかった部分を追記修正しました。