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助けて

異世界のんびり農家 — ncode.syosetu.com · All chapters

助けて

前略。

助けて。

後略。

追記。

シャシャートの街でも冬の寒さが厳しくなってきました。

みなさん、如何お過ごしでしょうか?

私は仕事に埋もれています。

さて、このたび筆を 執 ( と ) ったのは、とある出来事に関して訴えたかったからです。

さっそくですが、私が一生懸命育てた部下四人、イフルス学園の名誉学長に引き抜かれたんですけど!

どういうことですかねぇ!

どれだけ援軍を求めても無視されて、仕方がないから見込みのある子を一から育ててやっと使い物になるかなって思った瞬間、引き抜かれた私の気持ちがわかりますか!

わかりますよね!

この件に関し、 厳然 ( げんぜん ) たる態度で抗議いたします。

四人を私のもとに返還し、それ相応の 賠償 ( ばいしょう ) をいただけるものと心から信じています。

「という怒りに満ちた手紙が届いたのだが?」

俺はコタツに一緒に入っているルーに手紙を見せる。

このイフルス学園の名誉学園長ってルーのことだよな?

シャシャートの街に行ってた時に、何かやったのか?

「あはははは」

笑って誤魔化された。

手紙の送り主はマーキュリー種のミヨ。

見た目は幼女メイドだが、なかなか優秀。

マルーラとビッグルーフ・シャシャートの会計の援軍として送ったのだが……

その後、確かに扱いが悪かった。

しかし、無視していたわけじゃないんだぞ。

新しい文官娘衆の何人かを次の春には送るつもりだったし、マイケルさんやヨウコに頼んで優秀な人を手配もした。

ちゃんと援軍は送っているはずだし、子供が生まれてから定期的に往復するようになったポーラからは、特に問題がないと聞いているのだが?

とりあえず、笑っているルーの頬を引っ張ろう。

「いひゃい、いひゃい」

「で、どういうことだ?

引き抜いたのか?」

「えーっとね。

簡単に言えば、シャシャートの街の経済力が上がっちゃって、会計できる人が全然足りないのよ」

「それで」

「イフルス学園の会計、グチャグチャだったの。

私が行った時にある程度は建て直したけど、いなくなると危ないかなって……」

「引き抜いたと?」

「ビッグルーフ・シャシャートには会計できるのが二十七人もいたのよ。

数人ぐらいならいいかなぁって。

でも、引き抜きじゃないわ。

ミヨが寝ている時に、こそっと話をしただけ……いひゃい、いひゃい」

ミヨには全面的に謝罪しておこう。

「四人、返せるか?」

「厳しいかな。

たぶん、返すとイフルス学園がつぶれちゃう」

「そんなにまずいのか?

学園だろ?」

「その道の第一人者ばっかりが集まっちゃってるから。

知識と経済概念と会計能力は別というか……

夢中になると会計関連は後回しになっちゃって。

ゴロウン商会からも会計士を三人ほど借りているんだけど、ゴロウン商会も会計士が足りなくて返してほしい的な要望が出てたり……」

……

マイケルさんにも謝っておこう。

とりあえず、話をまとめると……

うん、文官娘衆の移動を早めるように手配するか。

冬だから屋敷に篭ってゴロゴロしているしな。

春になったらって言ってるから、文句が出るかもしれないがなんとかお願いしよう。

あと、四村のベルに確認だな。

新しいマーキュリー種が目覚めていればそれで解決だ。

あ、でも会計能力がないと厳しいか?

太陽城を管理していた種族なのだから、期待してもいいよな。

「会計関連?

ガーレット王国の人でよかったら紹介しますよ」

キアービットの母親、マルビットがコタツから頭を出して提案してくれる。

「コタツに潜り込むのは…… 半纏 ( はんてん ) を着ながらだとさすがに暑いでしょう?

やめてください。

それで、紹介って?」

「温かいから、つい。

えっと、ガーレット王国にある、学問を中心にやっている学園、卒業生が就職先に困っている状況なの」

「その卒業生が会計をできると」

「ええ。

魔王国への移動になるから、嫌がる人もでるだろうけど……シャシャートの街には人間も多くいるから、大丈夫かな。

少なくても二十人は紹介できるわよ。

もちろん、それなりにお金を用意してもらわないといけないけど」

「最大だと?」

「え?」

「最大だと何人紹介できますか?」

「ひゃ、百人ぐらいは……」

「全員、お願いします」

「で、でも、お金が……」

「前金で用意します」

お金で解決できるなら、お金で解決する。

こんなことを考える日がくるとは思わなかった。

マルビットには天使族の里宛に手紙を書いてもらう。

今からでも会計をできる者を集めてほしいからだ。

マルビットが戻れば早いのだが……

「そういえば、マルビットはいつまでここに?」

「春まで」

「ガーレット王国の巫女なんじゃないのか?」

「大丈夫大丈夫。

あれはゴービットが担当だから」

「ゴービット?」

「母の偽名です。

長が巫女を兼ねているのは 外聞 ( がいぶん ) が悪いので」

キアービットがお盆に温かい飲み物の入ったコップを載せてやってきた。

自分のぶんとコタツに入っているマルビットと、あ、俺やルーのもあるのね。

ありがとう。

「巫女は大事ですが、不在でもなんとかなります。

問題なのは補佐長の不在のほうで……」

補佐長こと、ティアの母親であるルィンシァもまだ村にいる。

ティゼルとオーロラを可愛がりながら、優雅に生活している。

少なくとも、目の前のマルビットのように半纏を着てコタツに入ったりはしていない。

「私だって孫がいればちゃんと可愛がります」

マルビットはコタツに入ったキアービットをつつく。

キアービットが困っているが、下手に庇うとこっちにくるからなぁ。

とりあえず、放置。

ルィンシァが不在でガーレット王国が困るそうだが……

「ルィンシァに帰る話題を振っても、流されるからな」

「それなんだけど、ちょっと前に移住に関して相談されたけど?」

ルーの言葉。

うーむ。

ティアの母親だし、移住なら歓迎するけどガーレット王国に問題が出ないようにしてからにしてほしい。

「ルィンシァがこっちに移住するなら、私もするー」

「ちょ、お母さま、何を馬鹿なことを!

天使族の長でしょう!」

「今日、この日をもって長の地位をキーちゃんに譲ります。

頑張ってね」

「ルィンシァのいなくなった天使族の里をどうしろと!

ふざけないでください!」

「ふざけてないわよー」

「余計に 性質 ( たち ) が悪い!

お母さまは補佐長を引き止め、里を守るのです!」

「えー、そうしている間にキーちゃんは村でのんびり過ごすの?」

「別にのんびりしているわけではありません。

今日だって見回りに出ましたし、ちゃんと仕事はしています。

コタツで寝ているだけのお母さまとは違います」

「私だって寝ているだけじゃありません。

ちゃんと仕事してますよ」

「仕事?

まさか?」

キアービットが俺を見るが、俺は何も知らない。

まさか、今書いている手紙の件?

あ、書き終わったのね。

預かります。

「さすがにこの手紙を仕事とは言わないわよ」

マルビットがそう言うと、クロヨンがやってきた。

「あ、待ってたわよ」

それをマルビットが歓迎する。

あれ?

クロヨン、超気合が入ってる。

どういうこと?

「ふふふ。

ついに昨日、チェスで勝ち越したのです」

……

嘘だろ?

「といっても、六勝四敗で昨日だけですけどね。

ですが、チェスチャンピオンの地位は私にあるのです。

これが私の仕事です」

マルビットがどうだと得意気に胸を張る。

いや、それを仕事と言われても困るのだが。

ほら、キアービットも困ってる。

困っていないのはクロヨン。

今日は負け越さないと軽く吠えた。

「はいはい。

では、勝負といきましょう」

マルビットはコタツから出て、クロヨンとチェス盤を囲んだ。

「長の件は大丈夫か?」

残ったキアービットに聞く。

「冗談だから大丈夫だと思いますが……本気だった場合は助けてください」

「いや、そう言われても」

「あと、補佐長の件。

移住はどこまで本気なのか……あとで確認しておきます」

「家を建てるなら相場はどれぐらいだとか、ここで生活するならどんな仕事をするべきかって相談をされたけど?」

ルーが申し訳なさそうに報告した。

「かなり本気だ。

これはまずい」

「そう言いながらも、コタツからは出ないんだな?」

「……も、もうちょっと 温 ( ぬく ) もってから」

コミカライズのほうもよろしくお願いします。

詳細は活動報告にて。

一つ前の更新分に、図を追加しました。