リグネ
リグネ
私の名はリグネ。
ハイエルフの戦士だ。
私は戦っていた。
一対一なら負けることはない。
一対多数でも森の中に引き込めば負けはない。
その上、私の周囲には頼りになるハイエルフの戦士たち。
私たちは百人にも満たなかったが、万人で攻められても押し勝てる。
そう信じていた。
それが 驕 ( おご ) りだった。
相手は黙って射られる矢の的ではなかった。
知恵を持つ敵だった。
私たちの支配下にあったエルフ族を懐柔し、切り崩し、私たちが守るべき物の場所を調べ上げた。
私たちが森の中で強いのは、自由に動けるから。
守るべきものを森の奥に隠し、敵を翻弄するから。
だが、守るべき物の位置がバレては自由に動けない。
仲間は次々に討たれるか捕まった。
だが、時間は稼いだ。
守るべき物、幼い子供たちが逃げる時間を。
私は残っている子供がいないことを確認したあと、敵に向かって突撃した。
あの時は死んでもいいと思っていた。
生き残ったのは幸運だったのか、不幸だったのか。
幸運だったのだろう。
「お婆様?」
孫をこの手に抱けるのだから。
おおっ。
こんなに大きい。
五歳か。
うむうむ。
よくやったぞリア。
散っていたハイエルフを纏め上げたその手腕も。
よしよし。
ん?
なにを心配しているのだ?
村を襲った人間や裏切ったエルフに復讐?
ははは。
安心せよ。
今さら復讐など考えておらぬ。
最初の十年、二十年は考えていたけどな。
百年、二百年と過ぎるとどうしても……
日々を暮らすので精一杯だったし。
目立つ相手にはもう復讐したし、大丈夫だ。
ははは。
そうそう、あの裏切り者のエルフの生き残り。
聞いたか?
なんでもドラゴンの怒りを買って、滅んだらしいぞ。
私を恐れて島に隠れておったのに、エルフ帝国などと偉そうな名を名乗りおって。
いい気味だ。
ん?
どうした?
そんな遠慮した顔をして?
愉快な話だ。
一緒に笑おうではないか。
ははは。
うん。
落ち着いた。
私は今、リアの案内によってリリウスを紹介され、三人で村長の屋敷に向かっている。
村長への挨拶は当然だな。
だが、その前に確認なのだが……
「私を一方的にボコボコにしたあのインフェルノウルフの群れはなんだ?」
何もできなかった。
その上、手加減されているのも理解できた。
インフェルノウルフは一頭でも凶悪だというのに、なぜ十頭もいる?
ずるいぞ。
「彼らは村の警備隊です。
お母さまが村に来た時に殺気を飛ばしたので、反応したのでしょう」
「お前たちだけの村ではないと聞いたからな。
つまりは、他の者の下についたということであろう」
娘や同胞が屈辱的な生活を送らされているかもしれんと思えば、殺気の一つもでる。
「私たちはこの村の一員として暮らしております。
お母さまの想像するような屈辱的な生活を強いられたわけではありません」
「それは嬉しい話だ。
それで、この子の父親はどこだ?
子が五歳ならまだ生きているのであろう?
お前に逆らわんように 躾 ( しつ ) け……言っておかねばな」
「お母さま。
リリウスの父は、このインフェルノウルフたちの 長 ( おさ ) です」
「……………………リア。
お前、獣と……」
「お母さまでなければ、蹴り飛ばしていますよ」
「そうか、違うか。
よかった。
しかし、インフェルノウルフの長なのだろう?」
「リリウスの父は、あちらにおられる村長。
ヒラクさまです」
村長の屋敷に到着し、客間に案内してくれたリアの示す先には数人いたが、男は一人だ。
「………………人間ではないか?」
「人間ですよ。
その上で、インフェルノウルフたちの長です。
そういうことです」
「……なるほど。
逆らっちゃいけない存在と。
その横にいる女性はなんだ?
お前が妻ではないのか?」
「ルールーシーさまとティアさまです」
「…………その名前?
まさか、吸血姫と殲滅天使?」
「そうです。
二人とも私より先にヒラクさまの妻となっております」
「な、なるほど。
あっちの怖いのは?」
「ハクレンさまとラスティスムーンさまです。
二人はドラゴンです。
共にヒラクさまの妻です」
……
ちょっと落ち着こう。
いや、確認はしておこう。
村長の一団とは反対側。
「あそこに魔王に似た男がいるのだが?」
「魔王です。
ヒラクさまのご友人です。
数日おきに来ています」
「……」
「その横にいるのが竜王ドースさまで、その奥で子供を抱えているのがライメイレンさまですね。
ドースさまの妻で、ハクレンさまの母親になります。
先ほど、話にでたエルフ帝国を滅ぼしたドラゴンで、その原因は村長とハクレンさまの 間 ( あいだ ) の子であるヒイチロウさまの船を沈めたことです。
今、抱えられている子供がヒイチロウさまです」
…………
ここはどういう場所だ?
死の森のど真ん中にある村?
冗談だと思っていたが、本当にあった。
私にこの場所の話をしてくれた獣人族の子供も、私をここに運んでくれた魔族の男も、繰り返し言っていたな。
村長は凄いと。
なるほど。
ここは私の常識とは違うようだ。
えーっと……
とりあえずだ。
「リア。
先ほどの殺気に関しては謝罪する。
私はこの村に対して一切の悪意がないことを村長に伝えてほしい」
「お任せください」
「それと、先ほど聞いた者以外で注意すべき人物は?」
「全員です」
「え?」
「誰が傷付いても、村長の機嫌を害します。
ご注意を」
……
「獣人族の子供でブロンとかいうのがこの村の出身と聞いたが、それも含まれるのか?」
「そうなります。
あ、そうそう。
インフェルノウルフはあそこにいたので全部じゃありませんので。
他にもたくさんいますので驚かないでくださいね。
あ、驚くといえば上を見てください。
デーモンスパイダーの子供です。
手を振ってあげてください」
……
ブロンを捕まえた件も、謝っておいたほうがいいな。
これは。
「色々と理解できたなら幸いです。
では、村長がお待ちです。
挨拶にいきましょう。
リリウスは解放してくださいね。
盾じゃありませんから」
うむ。
覚悟を決めた。
私はこの先、どうなるかわからないが、娘のリアが凶悪な一団に溶け込んでいることを素直に喜ぼう。
でもって、さっきから私をみてニヤニヤしている懐かしい顔。
マルビット。
お前までここにいるのか?
今だけ?
それでもかまわない。
恥を忍んで頼む。
擁護 ( ようご ) して。
友達だろ。
五百年前に陰険天使と言ったのは謝るから。
更新が乱れております。
すみません。