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赤鉄騎士の従者 五村報告 後編

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赤鉄騎士の従者 五村報告 後編

五村 ( ごのむら ) の南の 麓 ( ふもと ) にオープンしたお店の名前は、麺屋ブリトア。

ラーメンと呼ばれるパスタ料理一品だけのお店です。

ラーメンは知っています。

シャシャートの街で食べたことがあります。

美味しかった。

初めてこのお店に来たときはその味を期待して食べたのですが、このブリトアで食べたラーメンはシャシャートのラーメンとは別物でした。

いや、深い器にスープとパスタを入れ、上に具を乗せている料理のスタイルは同じなのですが、味が全然違うのです。

これを同じラーメンと言っていいのでしょうか?

駄目だと思う。

私はたまらずに従業員にそう伝えたのですが、従業員は慌てずに丁寧に説明してくれました。

このお店で出しているのは間違いなくラーメン。

ただ、シャシャートの街で出しているラーメンは醤油味、この麺屋ブリトアで出しているラーメンは塩味なのだそうです。

パスタ料理でも、味が違うパスタはいくらでもあります。

それと同じだと。

なるほど。

ラーメンはラーメン料理であって、味付けが違うと。

であるなら、塩味ラーメンと名乗るべきではないかと言ったのを聞いてくれたのか、翌日からはブリトアラーメンと名前が変わっていました。

ちょっと嬉しかったです。

そのブリトアラーメンを求めて、私はお店に入ります。

先ほど食べたミニパンケーキは、すでに消化済み。

いけます。

ブリトアラーメンは、シンプルに大サイズと小サイズがあるだけ。

他のメニューがないので、席に座ったら注文をしなくてもブリトアラーメンが出てきます。

大サイズはミノタウロス族などの大型種族用なので、私の前には小サイズが置かれます。

お店にはフォークが置かれていますが、私は 箸 ( はし ) を使います。

シャシャートの街で箸を知ったときは、こんな棒で食べられるのかと思いましたが、使ってみると便利。

特にラーメンを食べるには適していると言えます。

箸使いを勉強していてよかった。

ブリトアラーメン、美味しい。

麺屋ブリトアを出てもまだ日が高く、西側にオープンしたお店に行くには早い時間帯です。

となれば……

せっかく麓にきたのですから、あそこに行きましょう。

今、この 五村 ( ごのむら ) で人気の場所。

野球場。

野球と呼ばれるスポーツをしている場所で、少々ルールが難解ですが見ているだけでも楽しいものです。

観客席に座り、売り子のお姉さんから麦酒を買います。

くー。

これでもかと冷やしてあります。

夏場には嬉しいですね。

氷系の魔法が使える者を、何人も雇っているのでしょう。

贅沢なことです。

そして、直前にブリトアラーメンを食べていなければ、豚の腸詰を挟んだパンを注文していたところでしょう。

……

注文してもいいかな?

いや、うーん。

一つだけにしよう。

野球は四回裏。

三対三で点差はなし。

おっと、ここで守備側の猛虎魔王軍がピッチャーを交代するようです。

ああ、なるほど。

今までのピッチャーは新人だったのですね。

交代したピッチャーの投げる球は、先ほどまでと違って速いです。

キャッチャーミットにおさまる音が、ズバンッとここまで響いてきます。

当然のようにその球を 空 ( から ) 振るバッター陣。

あっという間にチェンジです。

五回表。

流れが変わったのでしょうか、猛虎魔王軍が気持ちがいいぐらいに打ちます。

しかし、相手をしている五村カーペンターズも一方的にやられているわけではありません。

いい守備を見せます。

攻撃、守備に限らず、いいプレイには拍手。

これが野球観戦。

あ、売り子のお姉さん、麦酒をもう一杯。

野球は猛虎魔王軍の勝利で終わりました。

終わったあとに、猛虎魔王軍の選手と握手できるので参加します。

女性ながらも代打でホームランを打った選手に握手してもらいます。

これからも頑張ってください。

監督が寂しそうにしていたので監督とも握手をします。

八回の代打攻勢、痺れました。

勝っていても手を抜いてはいけませんよね。

そう伝えたら、監督にフレンドリーに肩を叩かれました。

野球場ではグラウンドの整備が手早く行われ、別のチームの試合が始まります。

そのまま見ていてもいいのですが、私は野球場をあとにします。

西側にオープンしたお店に行く前に、お腹を減らしておかなければ。

少し運動をします。

私が目指したのは野球場の隣にある施設。

野球場の四倍ぐらいの広さがある場所で、高い塀に囲まれています。

この塀の中のフィールドには建物が密集しており、さながら小さな街のようです。

ですが、このフィールド内にある建物には誰も住んでいません。

では、なぜ建物があるのかというと五村の警備隊の訓練のためです。

そう、ここは警備隊が街中で適切に戦えるように訓練するための施設なのです。

普通はそんな訓練をしません。

行き当たりばったりでなんとかするものですし、やるとしても街の中で強制的にやります。

しかし、五村では訓練をするために街を作りました。

発想が違い過ぎます。

そして、経済力を見せつけられた気がします。

施設には入り口が二箇所あり、片方はフィールド内を高い場所から見られる観客席にいけます。

私はもう片方の入り口から、フィールド内を目指します。

少し歩けば待機場があり、そこには私以外に何人かの若い者たちが待機しています。

どうみても戦うような人ではない人もいます。

それも当然。

この施設は五村の警備隊の訓練に使う施設ですが、常時使われているわけではありません。

なので、施設が 空 ( あ ) いているときは一般に開放されており、何かしらのイベントというかゲームが行われています。

これまで行われたゲームで私が知っているものとしては……

“死神遊戯”

フィールド内を舞台に、死神に扮した者たちから逃げ回るゲームです。

一定時間、逃げ切ったら勝利。

捕まったとしても、逃げた時間に応じて賞品がもらえたりします。

死神に扮した人、足がすごく速いので見つかったらほぼ捕まってしまいます。

隠れて時間経過を待つ者、常に走り回る者と色々な戦略がみられて楽しいです。

“宝探し”

一定時間内にフィールド内に隠された宝箱を探すゲームです。

宝箱によって賞品が変化するのでギャンブル要素が強いです。

この宝探しは、子供限定回なども用意されていますので、お子様でも楽しめます。

大人限定回では、街中や宝箱に参加者が怪我しない程度の罠がしかけられているので、ちょっと危険だったりします。

“盗賊密偵”

これは死神遊戯とは逆で、用意された盗賊を参加者全員で追いかけるゲームです。

盗賊は建物の屋根を飛び回ったり、変装したりとあの手、この手で逃げ回ります。

参加者の数が多ければなんとかなりそうですが、参加者の中に盗賊側の密偵が紛れており妨害してきます。

盗賊を捕まえたら、参加者全員が賞品をもらえるのですが、密偵を見つけて捕まえた場合、捕まえた人個人に賞品がもらえます。

“争奪戦”

これは参加者が二つのグループに 分 ( わ ) かれ、自陣の宝を守りながら、相手の宝を奪うゲームです。

武器の使用が禁止なだけなので、怪我人が続出します。

しかし、人気があるのですよね。

五村の住人同士の揉め事の解決に使われたりもします。

他にも、謎と宝が用意された“名推理”や、参加者全員が敵となる“最後の一人”などがありますが、こんな感じでしょうか。

基本、どれも参加費は無料なので私も何回か参加しています。

“死神遊戯”では、本当に死神が怖かった。

あれは心臓に悪いです。

今回のイベントは“怪しい男”。

これはフィールド内に怪しい男が何人いるかを当てるゲーム。

怪しい男は、怪しい男マントを装着しているので誰がみてもすぐわかる。

しかし、怪しい男は一箇所でじっとしているわけではないので、マント以外の特徴を覚えないと数え間違えてしまったりする。

なかなか難しいゲームです。

しかし、制限時間全部を使って動くのでお腹をすかせたい私としてはちょうどいい。

実は朝、宿の掲示板に書かれていたのでチェックしていました。

少しすると、私たちの前のグループは戻ってきました。

少数の笑顔の人と、大勢の悔しそうな人がいます。

参加するからには笑顔で終わりたいですね。

私はいま、悔しい顔をしていると思います。

フィールド内にいた怪しい男の数は、七人。

私は八人と答えたのです。

数え間違えたのは、一人が途中で変装をするという罠にやられてしまったのです。

ずるい。

しかし、フィールド内の各所に変装道具が置かれていたので、気付くべきでした。

悔しかったのでもう一回参加するために待機場に向かいます。

ちなみに、その変装した怪しい男をやっていたのは白銀騎士。

今日は訓練に参加しなくていいのかな?

あ、こういったイベントに参加するのも警備隊の仕事と。

なるほど。

そうそう。

参加費が無料な理由ですが、それはフィールド内の建物に秘密があります。

いや、まあ、秘密と言うほどでもないんですが、いくつかの建物に看板が掲げられており、五村にあるお店の宣伝を兼ねているのです。

私たち参加者は「クロトユキの建物の裏に怪しい男がいたぞ!」とか「青銅茶屋の前にいる人はマントをしてない。フェイクだ!」と建物を使って情報交換をしたりするので、自然と店の名前を覚えていきます。

あと、用意されている賞品の大半が、五村にあるお店の商品交換札だったりします。

私も一つ、商品交換札を持っていますが……鍋との交換なのですよね。

ドワーフが打ったいい鍋のようですが、今は交換しても邪魔になるので、カイザン王国に戻るときに交換しようと思います。

ほどよく日が傾いています。

そろそろ西側にオープンしたお店に向かいます。

西側にオープンしたお店の名前は酒肉ニーズ。

お酒と焼肉料理をメインにしたお店です。

お店の雰囲気はちょっと特殊で……たぶん、魔王国の東方の文化なのでしょう。

店長らしき女性も、東方の服を着ています。

お客はまだ少ないようで、スムーズに席に座れます。

タイミングがよかったです。

このお店、料理を頼まないとお酒の注文ができないルールがあるので、料理はほぼ強制です。

テーブルごとに用意された火鉢の上に網を置き、その網で肉を焼き、タレをつけて食べます。

このタレがまた絶品。

何度も食べたくなる味で、私を魅了しています。

肉は牛と豚、羊、鶏が中心。

肉の種類の指定はできますが、部位の指定はできません。

なので量で注文するだけになります。

「牛肉、四人前お願いします」

一人前で子供が一人で食べられる量の肉が出てきます。

大人なら二人前~三人前が無難な量です。

私は四人前いきますけどね。

付け合せの野菜はセットでついてきます。

「お酒は……麦酒で」

昼にも飲みましたが、構わないでしょう。

外で飲む麦酒と、店内で飲む麦酒は別物です。

きっと。

ちなみに、私の注文を取ってくれたのは私の主人である赤鉄騎士さま。

赤鉄騎士さまは、昼は警備隊の訓練に参加し、夜はここで働いています。

東方の服、似合っていますよ。

なんでも、ピリカさまを剣聖と認めて、鍛えてほしいと頭を下げたそうです。

五村での滞在費はカイザン王国から頂いているのですが、個人的な理由での滞在なのでそれは使わず、労働で滞在費を稼いでいるそうです。

カイザン王国にいたときには考えられない行動です。

ですが立派です。

ちなみに、私は実家がそれなりに裕福なので滞在費に困っていません。

主人に貸しましょうかと何回か言ったのですが、なぜかお金の貸し借りには厳しいので断られています。

昔、お金で嫌な目にでもあったのでしょうか。

まあ、私の主人の数少ない美点なので無理には貸しません。

私は陰ながら、主人を応援したいと思います。

「すみませーん。

豚肉一人前追加。

あと、麦酒の追加もお願いします」

前話

コーリン堂 → 甘味堂コーリン に変更します。