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魔王の妻の来訪

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魔王の妻の来訪

私の名はアネ=ロシュール。

ガルガルド貴族学園の学園長をしております。

そして、魔王の妻です。

魔王の妻であることは、夫には申し訳ないと思いながらも不満です。

結婚した相手がいつの間にか魔王になっていただけで、魔王と結婚したつもりはなかったのです。

なのに名前まで変わっちゃって。

ですが、なってしまったものは仕方がありません。

愛する夫のために、できることはします。

夫とは数え切れないほど話し合いました。

結果、夫とは別居気味な生活を送ることになってしまいましたが、受け入れています。

夫は頻繁に会いに来てくれますし、会おうと思えばいつでも会えるので寂しくはありません。

寂しいといえば、一人娘のユーリ。

まだまだ子供だと思っていたのに、あっという間に学園を卒業して働きに出てしまいました。

娘の成長を喜びたいですが、寂しいのは隠せません。

ある日、夫が私を旅に誘ってきました。

旅と言っても日帰り。

クローム伯の転移魔法で送り迎えしてもらえるそうです。

とても魅力的な提案ですが、タイミングが悪かったです。

今は夏。

学園は建国祭への参加を本格化したので、準備でかなり忙しいのです。

ですが、無理すれば一日ぐらいは休めます。

いえ、休みます。

そう夫に伝えたのですが、日帰りなのだけどその後に二日ぐらいの休みがなければ厳しいとのこと。

……

夫は、私をどこに連れて行く気なのでしょうか?

なんにせよ、休みは三日必要。

さすがに厳しいです。

秋は秋で学園を卒業する者を見送る仕事があり、これまた忙しいです。

基本、生徒はだいたい決まった時期に卒業するのですが、突発的に卒業しなければいけない生徒が出た場合、呼ばれます。

最悪の場合でも、生徒を三日待たせるだけなのですが……

突発的に卒業しなければいけない生徒というのは、爵位を継がなければいけなくなった生徒や、結婚しなければいけない生徒などです。

一日の卒業の遅れで人生が変わったりします。

待たせるのはできるだけ避けたいです。

というわけで、私が学園に張り付いています。

夫の誘いを断るのは、ほんとうに心苦しい。

ですが、突発的な卒業を望む者が十数人も出たので、学園に残って正解でした。

そして驚きが一つ。

まさか貴女が卒業するとは……ほんとうにお相手が見つかったのですか?

詐欺 ( さぎ ) とか、そういうのじゃないですよね?

焦 ( あせ ) ると、そういうのに引っ掛かりやすいと聞きますよ。

お相手の身元は大丈夫ですか?

ニヤニヤしない。

こっちは真剣に心配しているのですから。

古い友人が、泣きながら帰ってくるかもしれないと考えると……不安です。

あと、学園の教師が問題を起こして二回、呼び出されました。

あの三人組です。

不本意ですが、これも学園に残って正解でした。

冬。

やっと三日の休みがとれました。

ふふふ。

準備を始めます。

着ていく服と、着替え。

日帰りとはいえ、何があるかわかりませんからね。

夫の話では、知り合いのいる村に行くということでした。

わざわざ私を誘うのですから、景色が素敵なのでしょうか?

それとも、美味しい食べ物があるとか?

楽しみです。

ですが、油断は禁物です。

魔王の妻という立場は、狙われることもあります。

夫の足手まといになるなど、耐えられません。

万全の準備をしておかなければ。

出発当日。

なぜか夫は私の着替えを追加で持ってきました。

そんなに汚れる場所なのでしょうか?

そして見慣れた獣人族が三人。

一緒に行くのですか?

少し嫌な予感がします。

ですが、いまさら行かないとは言えません。

送迎してくれるクローム伯に挨拶し、移動開始。

相変わらず見事な転移魔法です。

転移場所は村の外。

夫やクローム伯は村の中に直接転移してもいいぐらいの関係を築いているそうですが、初めて 訪 ( おとず ) れる私と獣人族の三人がいるので、村の中に転移するのはマナー違反です。

村は……なかなか大きい村ですね。

畑も広いようですし、今が冬でなければと思わずにはいられません。

……

ところでアナタ。

この村に到着したと同時に、私の所持していた 護符 ( アミュレット ) が全滅したのですが?

七つ、全部。

注意するの忘れてたって顔をしない。

護符は意味がないから、所持するだけ無駄?

どういうことですか?

あと、村の中や外から、尋常ならざる気配を感じます。

夫が私に危害を加えるとは思えません。

となるとクローム伯が裏切った?

一緒に来た獣人族の三人は、クローム伯とも知り合いだったはず。

これは完全にしてやられ……獣人族の三人は村に走っていきました。

……

えっと……

獣人族の三人を出迎えたのは、一人の男性と数人の女性。

女性のなかに見覚えがある顔というか、娘のユーリと、クローム伯の娘のフラウレムがいます。

ここで私は思い出します。

昔、あの獣人族の三人が生徒として学園にやってきた日を。

彼らが持ってきた手紙の差出人は、ユーリとフラウレム。

ユーリは確か、 五村 ( ごのむら ) で管理員として働いているはず。

フラウレムもどこかの村の代官に就任したと聞いています。

つまり、ここは五村?

……

どう考えても違いますよね。

五村は、小山にできた村というか街だと聞いています。

ここはどうみても村。

小山もありません。

山は遥か遠方にぐるりと取り囲むように……あれ?

空に浮かんでいるのは太陽城?

昔の姿?

私はいったい、どこに連れてこられたのでしょう。

とりあえず、クローム伯。

私を罠に 嵌 ( は ) めたわけではないのですね?

よかった。

となると……アナタ。

私に説明していないことがありますね?

ええ、説明を求めます。

色々と聞きたい事がありますが、まずは一点。

少し遠くでドラゴン二頭が争っていますが……あれは大丈夫なのですか?

それとも、あれは私にだけ見える幻覚でしょうか?

誰も気にしていませんが?