イースリー 村へ
イースリー 村へ
私はたった一人を殺すために鍛えられた暗殺者。
まだターゲットは決まっていませんが、狙う可能性の高い重要人物の情報は頭に入っています。
魔王国の魔王ガルガルド。
転移魔法の使い手であり、外交の 要 ( かなめ ) 、クローム伯。
無敗の指揮官、ブリトア将軍。
財政の支配者、レグ嬢。
魔王国の内政を一手に支える四天王筆頭、ランダン。
……
魔王国の根幹を支える重要人物とは、挨拶するぐらいには顔見知りです。
なぜかウルザさんたちに会いに来ていますから。
いま、狙えとの指示が来たらやれる自信があります。
実力は相手のほうが格上ですが、相手は私が作った料理を食べています。
ふふふ。
つまり………………
毒は駄目ですね。
私のナスを悪役にはできません。
殺すときは正々堂々、背後から刺すことにしたいと思います。
まあ、指示がきたらですけど。
ただ、その指示が来る気配がないのですよね。
どうしたのか、ここ最近、組織からの連絡も途絶えていますし。
無用の連絡は困りますが、怪しまれない程度の連絡はしてもいいんじゃないでしょうか?
さて、ウルザさんに誘われてウルザさんの実家に行く日。
私はクローム伯の転移魔法を体験しました。
なるほど、これは恐ろしい。
少人数とはいえ、誰にも察知されずに運ぶことができるのですから。
すっごく暗殺向き。
誘拐とかかなり楽になる。
ほしい。
私も転移魔法が使えるようになりたい。
などと考えながら、ウルザさんの実家……村の前ですね。
なかなか人の多そうな村ですが……なんでしょう?
似合わない豪華な屋敷がありますね。
魔王……失礼、魔王様の別荘でしょうか?
違いました。
ウルザさんの実家でした。
私はその屋敷に到着するまでに、なぜか気絶していました。
なぜでしょう?
あ、お風呂が気持ちいい。
クローム伯のアドバイスで、着替えをたくさん用意しておいてよかった。
お風呂上り。
さてさて。
私はたった一人を殺すために鍛えられた暗殺者。
まだターゲットは決まっていませんが、狙う可能性の高い重要人物の情報は頭に入っています。
それ以外にも、重要人物の情報は頭に入っています。
吸血姫、ルールーシー=ルー。
人間の各国で最重要警戒人物としてマークされている吸血鬼です。
本来なら討伐対象なのですが、彼女の持つ医療知識と技術は惜しいと見逃されている人物です。
決して、討伐できないわけではないのですよ。
たぶん。
そのルールーシー、失礼しました。
ルールーシーさまは、アルフレートくんのお母さまでしたか。
そうですか。
……
吸血鬼って子供を産めるのですか?
いや、実際に目の前に実例があるのですから 愚 ( おろ ) かな質問でした。
吸血鬼の生態が崩れているような気がしますが、気にしないでおきます。
ただ、吸血姫に息子がいるというのは重要情報。
これまで聞いたことがありませんよ。
吸血姫も宣伝はしないでしょうが、知っておかなければいけない情報のはずです。
各国の情報機関は何をしていたのでしょうか。
まあ、たしかに私はその息子のアルフレートくんと半年ぐらい一緒に学園にいましたけど……
この話題はやめておきましょう。
次です。
天使族の天翼巫女、マルビット。
天使族の補佐長、ルィンシァ。
天使族の過激派、スアルロウ。
殲滅天使、ティア。
皆殺し天使、グランマリア、クーデル、コローネ。
……
天使族の重要人物が勢揃い?
ここは天使族の里があるガーレット王国なのでしょうか?
違うようです。
あ、ティアさまはティゼルさんのお母さまなのですね。
…………
ティゼルさんって、天使族だったの?
飛んでるところ、見たことがありませんが?
いや、そうじゃない。
えーっと、殲滅天使ティアに娘がいるって情報も、これまで聞いたことがありません。
極秘にするかもしれませんが、あの殲滅天使に関することですよ。
最優先で調べ、共有されるべき情報じゃないですか。
各国の情報機関は本当になにをやっているのでしょうか。
これは私が報告しなければ。
そう思うのですが……
たしか、吸血姫と殲滅天使は永遠のライバルのはずですよね?
距離、近くありません?
この屋敷で一緒に生活している?
同じ男性を夫にしているから?
なるほどなるほど。
……………………………………
すみません、ちょっと理解に時間がかかりました。
人間の国で最重要警戒対象である吸血姫ルールーシーと殲滅天使ティアが、同じ男性を夫にして子供を産んでいると。
………………
ごめんなさい。
やっぱり、ちょっと理解できていません。
横に置いておきます。
それでですね、これまでのパターンからウルザさんのお母さまは、どこの重要人物でしょうか?
妊娠中のようですが……
ドラゴン?
冗談はやめてくださいよー。
ええ、窓の外で暴れているドラゴンの姿は目に入っていますが、脳が処理を拒否しているので見えません。
見えないったら見えないのです。
たぶん、私が吸血姫や殲滅天使のことを報告しても、誰も信じてくれないでしょう。
私が聞いても笑って誤情報に分類し、報告してきた人の評価を下げます。
なので報告はやめておきます。
評価は大事ですから。
ところで、そちらで貫録を出されている天使族はどちらさまでしょう?
無名な方には見えませんが?
あ、天使族の長老ですか。
レギンレイヴ……さま?
古い文献にあった名のような…………その方が頭を下げているのは……ウルザさん、アルフレートくん、ティゼルさんのお父さまですか。
……………………
普通ですね。
彼のどこに惹かれて吸血姫や殲滅天使、ドラゴンは夫としたのでしょうか?
強そうでもありませんし、隙だらけです。
殺そうと思えばいつでも……
…………
あれ?
私、いま死んでた?
なに?
なにがあったの?
……ひっ。
ウルザさんのお父さまの横に額に角のある大きなオオカミが二頭。
ウルザさんのお父さまに懐いているようですが、その目は私を見ています。
あの目を私は知っています。
いつでも殺せるという上位者の目。
しまった。
私はその目をウルザさんのお父さまにしてしまったのです。
失敗でした。
反省します。
そして降伏です。
「私はイースリー=イレブンエイト。
ゴールゼン王国、 情報統括部 ( ドレ・ビオルネ ) 所属、潜伏暗殺者です!」
全てをさらけ出し、私は気を失います。
ええ、私の胸を 貫 ( つらぬ ) いた槍の感覚が消えないのです。
限界です。
全てをさらけ出した理由?
私だけ死ぬのって、腹が立つじゃないですか。
ゴールゼン王国 始祖さん、ヘルゼたちによってクーデターが起き、つぶれた国。