イースリー 頑張る
イースリー 頑張る
目を覚まして最初に思ったのは、生きているということです。
殺されなかったのでしょう。
向こうがどういうつもりかは知りませんが、ありがたいことです。
ふかふかのベッド、心地いいです。
……
あれ?
天井の 梁 ( はり ) からこちらを見ている視線は……
蜘蛛ですね。
手のひらサイズの蜘蛛です。
この蜘蛛、ただの蜘蛛ではありませんね。
種類はわかりませんが、魔物です。
そして、相当な戦闘力を有しています。
私では勝てません。
私を鍛えてくれた教官でも無理じゃないかな。
つまり、私は気を失います。
目を覚ますと、目の前にさきほどの蜘蛛の魔物。
ここは地獄でしょうか?
私はもう一度、気を失いました。
気を失っても救いはありません。
知りました。
目の前にいる蜘蛛が片足を上げているのは威嚇でしょうか?
ふふ。
もう、慣れました。
それぐらいでは怯えたりしません。
頑張ってベッドから体を起こすと、ベッドの周囲に蜘蛛がたくさんいました。
……
私は静かにベッドに体を寝かせ、眠るように気を失いました。
この地獄から抜け出せるのでしょうか。
私は何度かの気絶を乗り越え、ベッドの下に逃げ込むことに成功しました。
直後にメイドさんたちによって引きずり出され、着替えさせられましたが。
ベッドの下に戻してくれたので問題ありません。
あ、すみません。
下着まで洗わせてしまって。
ところでメイドさん、そこらにいる蜘蛛たちはなんとかなりませんか?
いえ、蜘蛛が嫌いとかそういうレベルの話ではなく……
なんとかなる?
ありがとうございます、ありがとうございます!
みなさんはご存じでしょうか?
インフェルノウルフなる魔獣を。
街ぐらい簡単に廃墟にしちゃうすごい魔獣です。
これはもう魔獣ではなく、災害ですね。
そんな災害が、蜘蛛と交代で私の部屋にやってきました。
ベッドの下から出られません。
見慣れた顔というのは、心が休まります。
部屋から出てこない私の様子を見に来てくれたティゼルさん。
実家では飛んでいるのですね。
ちゃんと天使族と確認できてよかったです。
え?
ティゼルさんのお父さまとの挨拶をやり直し?
私の挨拶は聞かなかったことにするから?
……
これはどういうことでしょう?
情報統括部 ( ドレ・ビオルネ ) と敵対したくないから、聞かなかったことにするということでしょうか。
なるほど、ありえますね。
わかりました。
挨拶をやり直しましょう。
なので、まずは私をお風呂まで案内してもらえますか?
ええ、人間は慣れる生き物ですが、汚れには慣れてはいけないのです。
病気になってしまいますからね。
あと、私と一緒に移動しようとしているインフェルノウルフに、この部屋に残るように言ってもらえると嬉しいです。
え?
あまり意味がない?
それはどういう意味で……
ああ、なるほど。
屋敷の中、いたるところにインフェルノウルフがいるのですね。
あははははは……
ベッドの下に戻らせてください。
違った。
学園に帰らせて。
人間は慣れる生き物です。
ふふふ。
死を覚悟したら、インフェルノウルフのお腹を 撫 ( な ) でることだって怖くはありません。
あ、もうちょっと上のほうですか。
ここですか?
違う。
このあたり?
よかった。
……
私が撫でているのです。
撫でさせられているわけではありませんよ。
おっと、ウルザさんに呼ばれました。
今日はこれから雪合戦だそうです。
雪合戦がどんなものかよく知りませんが、雪玉を投げあう 和気藹々 ( わきあいあい ) とした遊びだと聞いています。
そういった遊びを楽しみにできる程度には、余裕を持つことができていると思います。
「敵、直上!
太陽に隠れてやがった!」
「ちいっ!
こっちの雪玉は届くか?」
「無理だ。
かなり高度がある!
って、避けろ!
雪玉を落としてきたぞ!」
……
「重装歩兵隊、 雪槍 ( ゆきやり ) を構え!」
「雪槍というか 氷槍 ( こおりやり ) になってないか?」
「ルール上、問題ない!
行くぞー!」
……
「南にルーさまを発見!
……大規模魔法の詠唱中です!
こっちの対抗魔法、どうなってるの!」
「さっきの攻撃でやられた。
直接、潰しに行くしかない!
決死隊を 募 ( つの ) る!」
……
和気藹々とした遊びは、どこに行ったのでしょう?
私は魔王……魔王さまの側近として近づく敵に雪玉をぶつけていきます。
体じゃなく、顔か手を狙えと?
りょ、了解。
細かいことは考えず、全力を尽くします。
「イースリーだったか。
活躍、見事であった」
魔王さまからお褒めの言葉を頂きました。
最後、身を投げ出して魔王さまの盾になったことがよかったのでしょう。
……
私は暗殺者。
魔王国の敵なのですが……
私は、なにをやっているのでしょう?
頭部が二つある犬、オルトロス。
狂暴な魔獣ですが、インフェルノウルフに比べれば弱いです。
しかも、子供。
恐 ( おそ ) れる必要はありません。
とか思いましたが、めっちゃ強い。
誰か助けてー!
よく知らない女性が助けてくれました。
オルトロスは、その女性にすごく懐いているようです。
戦っては駄目ですよと注意されると、素直に従っています。
ありがとうございます。
グーロンデさまですか。
ほんとうに助かりました。
この屋敷にも、温和な人がいるんだ。
よかった。
その温和な人の手をさらに 煩 ( わずら ) わせてすみませんが、動けません。
誰か治癒魔法を使える人をお願いします。
この屋敷で出される料理は絶品です。
さすがは、ウルザさん、アルフレートくんたちの実家というべきでしょう。
学園でも、彼女たちが作る料理は美味しいですからね。
ただ、私の座る位置というか……お客扱いなので、ウルザさんたちのお父さまのすぐ 傍 ( そば ) なのですよね。
目の前には、吸血姫と殲滅天使。
横に魔王さま。
……
心が休まりません。
なので食べることに集中します。
本来なら、周囲に合わせた速度で食べるべきなのでしょうが……周囲を見る余裕がありません。
周囲をじっくりみたら、食欲がなくなります。
ドラゴンとかいますし。
しかし、私はミスをしました。
私は昔から、食事が早く終わるように教育されていたので、かなり早いのです。
かなり目立ってしまいました。
反省。
え?
あ、いえ、別に大家族で育ったわけでは……
おかわり、ありがとうございます。
好き嫌いはありません!
魔王さまから、料理の一部を譲ってもらいました。
私はなにをやっているのでしょうか。
イースリー、この話で終わらなかった。